(注) 性的描写、暴力的表現があります。ご承知の上、お読みください。

<< 麻里子の秘密 >>

                   フローズン  作
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《 1.麻里子 》

朝のラッシュアワー。

ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン・・・。

秋空の下、街並みを颯爽と電車が駆け抜けてゆく。

車内に詰め込まれた乗客が、レールの傾きに合わせて右へ左へと波打つ。

サラリーマン、OL、学生、高齢者・・・、様々な人々で身動きするのも困難な状況で、九月半ばだというのに、密集した集団もあってか、車内はじっとりと蒸し暑い。

そんな中、周囲から一際目を惹く派手な女性が乗り込んできた。

センス良く染められたサラサラの髪に、少し生意気そうな端正な顔立ち、そして、グラビアアイドルですら到底かなわないと思えるほどの発育しきった身体つき。

セーラー服には胸当てがなく、そこからは見てくれといわんばかりにムッチリとした谷間が露出していて、周囲の男性からは興味本位な視線が注がれている。

高級そうなハート型のペンダントが谷間に埋もれるように身に着けられ、キラキラとした輝きは彼女の魅力を更に増大させている。

制服を着ているので学生だということは分かるが、彼女のあまりに大人びた雰囲気からはその事自体がミスマッチに感じられるほど、彼女は妖しく悩ましいフェロモンを充満させていた。

彼女の名は上村麻里子、今時のギャルを感じさせる17才の女子高生である。

麻里子はいつものように昇降口のすぐ横に乗り込むと、周囲の目を気にすることもなく静かに目を閉じ、目的の駅へ到着を待った。

そんな彼女は、いたって普通の通学中の学生に見える・・・。

しかし麻里子には、決して誰にも言えない特別な秘密を持っていたのである。



《 2.通学中の出来事 》

(はあ〜、眠いなぁ・・・。)

昨日は夜遅くまで遊んでいたのか、思わず大あくびをしてしまう麻里子。

その表情はいたって冴えない。

熟睡こそしていないものの、少し意識が遠のいている様子で、傍目には半分眠っているようにも見える。

その時だった!不意に自分の胸にグリグリと何かが当たるような感触がした。

瞬間的に意識が戻り、麻里子は慌てて目を開ける。

そして最初に目に飛び込んできたのが、灰色のスーツの肘が胸にめり込んでいるという光景だった。

(やだ、また痴漢?ここのとこ毎日だもん、嫌になっちゃう・・・。)

麻里子はため息をつきながらも、

(でも、こうなるのもしょうがないのかな?私って自分でもイケてると思うし・・・。それに、いざとなったら・・・。)

そんな事を一人考えていた。

実際に麻里子は、17才とは思えない完璧なまでのスタイルの持ち主だった。

薄手のゆったりとしたセーラー服の胸元を、色だけでなくブラのデザインまでもが透けてしまうほどに生地を押し広げ、前方に20p近くも突き出した特大サイズのバスト。

それは中にバレーボールでも入っているのかと錯覚してしまうほどの大きさで、彼女が女であるということを凄まじいまでに自己主張をしている。

ウエスト付近は折れそうなほどに細くくびれ、その破壊的にまでに突き出した胸に制服が浮いてしまい、その部分は完全にへそ出しルックになってしまっている。

そして、少し屈むだけで見えてしまいそうな勢いに折り込まれた超ミニのスカートからは、身長の半分はあろうかと思えるほどの長くシミ一つない白い脚が伸び、ヒップラインに向けての悩ましい曲線は素晴らしいとしか言いようのない脚線美を描いている。

また、175pというモデルのような長身を誇り、その完璧すぎるプロポーションには、男女問わず誰しもが羨望と嫉妬の眼差しを向けてしまうほどだった。

そんな麻里子ゆえに、痴漢などは彼女にとっては日常茶飯事だった。

麻里子はしばらく痴漢の様子を伺っていたが、彼の行動は一向に収まる気配がない。

むしろ、先ほどよりも強く肘を押し付けてきているようにすら感じた。

(もう、いい加減にしてよね!!)

麻里子の表情に苛立ちが見える・・・。

意を決した麻里子は、両手で痴漢の肘を掴んだ。

その瞬間、隣にいた30代前半くらいの男性がすまなさそうに麻里子に何度もお辞儀をした。

乗客に包まれた彼は身動きが取れない様子で、なんとか麻里子の胸から肘を離そうとしていたのだった。

(ふーん、わざとじゃないんだ?だけど演技をしてるだけかもしれないし・・・。)

麻里子は彼のほうに顔を向け耳元で囁いた。

「私、次の駅で降りますから、一緒に降りてもらえますか?じゃないと、大声出すわよ?」

痴漢などにされたらたまったものじゃない・・・、彼は麻里子の言うとおりに頷いた。

ほどなくして、目的の駅に到着した。

麻里子は彼の手を引き、駅のホームへと降りる。

そしてほとんど人目につかない場所まで彼を連れて行くと、周囲を見渡した後に急に立ち止まり、振り向き様に声を上げる。

「まったく・・・、なんて最低な人なの!訴えてやるから!!」

麻里子の怒りは頂点に達しているようだった。

彼は必死になって弁明をした。

後から乗ってきた乗客に押され、たまたま当たってしまったのだと・・・。

しかし、麻里子はいっさい聞き入れない。

そんな麻里子の様子に彼も少しムカついてきた様子で、次第に声のトーンが上がっていく。

「たまたまだって言ってるだろーが!それに学生がそんなエロい格好をしてたら、痴漢されても文句言えねーよな。」

麻里子を睨みつけ、履き捨てるように彼は怒鳴った。

この瞬間、自分の人生が終わった事を彼はまだ知らなかった・・・。



《 3.痴漢への裁き 》

彼の怒声に萎縮したのか、麻里子は胸のハート型のペンダントを触りながら固まっている様子だった。

彼はせいせいした顔つきで、その場を離れようとした。

その時である!ペンダントが光ったかと思うと、彼は眩いばかりの光に包まれた。

少し頭が痛い・・・。

そして、空に浮いているようなふわっとした感覚が彼を襲う。

しばらくして、うっすらと目が見えるようになった彼は、眼前に広がる光景に違和感を覚えた。

何やら巨大な茶色い物が目の前にあり、そこから白っぽい塔のような物がそびえ立っている・・・。

しかしそれが、麻里子の靴と足であるという事実を、彼は未だに認識していない。

何がなんだか分からなく、もうろうする彼の頭上から聞き覚えのある声が聞こえる。

「うふふ、アリさんになった気分はどう?」

頭を抱えながら声のするほうを見上げると、そこには巨大な彼女の姿があった。

腰に両手を当て見下したような態度で、彼女は冷ややかな目つきで自分を睨みつけている。

先ほど茶色く見えたものは彼女の靴であり、そして、塔のように見えたものは彼女の足だったのだ。

(こんなことって!!ありえるのか?)

彼はその事実に愕然とし、また圧倒的に巨大すぎる彼女に対して強い畏怖を抱いた・・・。

「貴方があまりにも非を認めないから、100分の1に縮小してあげたわ。どう?これでもやってないって言うのかしら?」

麻里子は脅える彼のすぐ真上に足をかざした。

女子高生が履いているとは思えない、あまりにも巨大な靴底が彼の視界を完全に塞ぐ・・・。

(まっ、まさか・・・!!このまま踏み潰す気なのか?)

その恐怖に彼は腰を抜かしてしまい、その場から動きたくても動けなくなってしまった。

「何とか言いなさいよ!このまま踏むわよ?」

麻里子の苛立ちを感じ取った彼は、這うようにして必死の思いで足下の影から抜け出す。

「すいません、私がやりました・・・。」

彼は土下座をして、麻里子に謝っている様子だった。

しかし麻里子は、

「あはは、小さすぎて何を言ってるのか全然聞こえないんですけど・・・。もっと大きな声で言わないと潰しちゃうわよ?」

馬鹿にした笑い声を上げ、再び土下座をする彼の頭上に足をかざす。

「ほ、本当にすいません!!!私が痴漢をしました、どうか許してください!!!」

彼は声が枯れてしまうほどの大きな声で叫んだ。

どうやら今度は、その声が麻里子にもちゃんと届いたようだった。

「やっぱりそう。だけど私のバストを触るなんて、許せないちび虫だと思わない?そーゆー女性の敵は、ちゃんと駆除しないといけませんねー。」

麻里子は冷たく言い放つと、そのままゆっくりと足を踏み下ろし始めた。

死を告げる巨大な靴底が、徐々に彼を襲う・・・。

彼はかすれかけた声で、先ほどよりも更に大きい声で叫んだ。

「ほほっ、本当はやって、やってないんです!!!しゃ、車内でで・・・動けなくって偶然に・・・。ねぇ、聞いてくれてますか?お、お願いですから、たす・・・・・・・・。」

彼は最後まで話すことも許されずに、靴底の下でその生涯の幕を閉じた・・・。

もちろん麻里子には、彼の声が聞こえていた。

だが、故意であろうが偶然だろうが、麻里子にはどうでもいい話だった。

ただ彼が自分の胸に触った・・・、それだけは疑いようのない事実である・・・。

その罰として彼は今、麻里子によって裁かれたのだ。

麻里子には彼を同情する気持ちなどさらさらない。

痴漢を退治し、むしろ良い事をしたとさえ思っているのに違いなかった。

麻里子は彼を踏み潰したまま足を手前にすっと動かし、そしてゆっくりと持ち上げた。

白い石畳のそこには、5pほどの赤い一本線が出来上がっていた。

それは紛れもなく彼の生命の軌跡だった。

(うふふ、いい気味・・・。あっ!いけない、こんな時間!!)

踏み潰した彼の事などまったく無関心に、慌てて構内を駆け出す麻里子。

これまでも数多くの男が麻里子によって駆除されてきたという真実を知る者は、彼女以外に誰もいない・・・。



《 4.水沼有紀 》

時間を気にしながら、急ぎ足で学校へ向かう麻里子。

いつしか、靴底にへばりついていた彼の遺体も消えてなくなっていた。

何分間歩いただろうか、ようやく学校の正門が見えてくる。

(ふぅ〜、なんとか間に合ったわ。)

麻里子は歩くペースを少し落とすと、校門の前をのろのろと歩く一人の女性を見かけた。

(あれ?有紀ちゃんかな?)

彼女は水沼有紀、麻里子とは小中高と同じ学校で、大の親友でもあった。

清楚でお嬢様っぽい雰囲気、すらっとしたスレンダーな体型、ルックス的には対照的な二人である。

「おはよう!有紀!!」

「・・・・・・・・・、あっ、おはよう・・・。」

麻里子の挨拶に有紀の反応は鈍い・・・。

「どうしたの?有紀。今日はなんかヘンだよ?」

麻里子の問いかけにも、有紀の様子は変わらない。

しばらくの沈黙の後、

「・・・・・・あのね、実は今朝・・・、痴漢に遭っちゃったのよ。もぉ最悪・・・。」

有希は重そうに口を開く。

話によるとその痴漢は、通学中の電車の中で30分近くも有紀の大切な部分を撫で回したというのだ。

その行為に、有希は抵抗もせずに、ただひたすらに耐えていたのだと言う。

麻里子のような扇情的な女性が痴漢に遭うのはある程度は仕方のない事なのかもしれないが、有紀のように大人しい女性が狙われやすいのも事実だ。

有紀の話に強い憤りを感じた麻里子は、

「そんな奴、後で踏み潰しちゃえばいいのよ!!」

自分だけの秘密を、思わず有紀に喋ってしまったのだった。

「えっ?麻里子、何を言ってるの?だけどもし本当に出来るんだったら、私だってそうしたいわよ、あんなヤツ・・・。」

有希はため息交じりで力なく呟いた。

麻里子は更に続ける。

「もし・・・じゃなくって、本当に出来るんだから。私だって今朝、来るときに痴漢に遭ったんだよ。そいつ超生意気だったから、小さくして踏み潰してやったけど。」

麻里子の話に有希はきょとんとしている。

麻里子はそんな様子をまったく気にもせず、

「そうだ!有紀ちゃん、今日家に遊びにおいでよ。楽しい事でもして、嫌な事は忘れちゃおーよ。じゃ、待ってるからね。」

麻里子は一方的に話を進めると、自分のクラスへと消えていった・・・。



《 5.有紀の初体験 》

キーン、コーン、カーン、コーン・・・。

放課後・・・、学校の終業時間を告げる鐘の音が校内に響く。

そんな中、有希は麻里子の家へと向かう。

正直そんな気分ではなかったのだが、自分を元気づけようとしてくれている麻里子のお誘いを無下に断る訳にもいかなかった。

「準備があるから。」

それだけ言い残し先に帰ってしまった、麻里子。

道中、有希の頭の中では、今朝の出来事の事、そして麻里子の不可解な話・・・、その事だけが何度もぐるぐると回っていた。

麻里子の家に到着した有希は、門にあるインターホンを押す。

「がちゃ」という玄関の戸が開く音がして、制服姿のままの麻里子が姿を現す。

「いらっしゃ〜い。」

麻里子は有紀を家に入れると、自分の部屋へと案内する。

部屋の座卓には紅茶の入ったカップが二つ用意してあり、その横には、とても麻里子が所有しているとは思えない箱の入れ物が置いてあった。

「えっ?何これ?」

有希は思わず麻里子に問いただす。

透明なプラスティックのケースに緑色の蓋、それは明らかに虫籠であった。

「へぇ〜、麻里子ってそんな趣味があったんだー?」

有紀が意外そうに麻里子を見つめる。

「違うって。もっと良く見てみてよ。朝に話したでしょう・・・。」

麻里子の言葉に、有希はケースの中を覗き込んだ。

そこには、小さい人のような何かが存在していた。

その2cm足らずの小さな生物は、覗き込む有希にびっくりした様子でケースの中で蜘蛛の子を散らすように動いていた。

「でも、これってほんとに人間なの?私、まだ信じられないわ。」

有希は、あまりに小さい彼らの存在が未だによく理解出来ないままでいた。

そんな有希の様子に麻里子は、

「試しに何か話してみたら人間って分かるわよ。このちび虫クンたちは、私たちの言葉がちゃんと分かるんだから。」

「ホントにぃ?」

有希は疑いながらも、

「えっとぉ・・・、私の言葉が分かりますか?う〜んと、そうね・・・、お名前なんていうの?」

ケースの中の生物を見つめ、少し戸惑いながらも話しかけた。

しかしその生物は、まったく反応をしない。

ケースの中の彼らは、これまでに麻里子の残酷な行為をまざまざと見せつけられ、それでもなんとか生き延びてきた男ばかりだった。

その巨大な彼女への恐怖と戦慄は、小さくされた者でない限りは決して分からない例えようのないものだった。

しばらく様子を伺っていた有紀だが、彼らからの反応は相変わらず何もない。

「無視されちゃった。だけどそもそも人間が小さくされちゃうなんて、そんなことはありえないもの。」

有希は呆れたような顔つきで麻里子を見た。

すると麻里子は不機嫌そうに、ケースの中の彼らに命令する。

「もう!さぁ早く有希に挨拶しなさいって!!昨日のお友達のようになりたくなければね・・・。」

慌てて一人の男が、

「・・・あ・・あ・あのぅ、こ・・・こ、殺さないでください。お、おねがいし・・しま・す・・・。」

かすれるような小さな声だったが、その生物が確かにそう話したのが、聞き耳を立てる有紀に聞こえた。

有希は信じられないといった顔つきで、横にいる麻里子に顔を向ける。

麻里子が話してくれたことは、嘘ではなく本当の事だったのだ。

「嘘でしょ、こんな事って・・・。だって、そんなのってありえないでしょ?」

有希は目を丸くして彼らを見つめる。

「ねぇ、有希。今から楽しい事を見せてあげるわ。うふふ・・・。」

ケースの中をまじまじと観察する有紀の視界に、不意に麻里子の指が入ってきた。

そして一人を慎重に摘み上げると、飲みかけの紅茶が置いてある机の上にそっと置いた。

有希は麻里子の行為を追うように、ただじっと麻里子の指先に視線を送る。

男は40代のサラリーマンといった感じで、紺色のスーツを着ているようだった。

机の上の彼は、有希に必死で何かを叫んでいるように見えた。

しかし、麻里子は気にも留めない素振りで足を彼の頭上に高々と持ち上げ、静かに笑みを浮かべていた。

麻里子の思いも寄らない行動に、有希がはっとした瞬間、

「じゃあね、バイバーイ。」

麻里子は彼がいる場所に、そのまま足を踏み下ろしたのだった。

そして強く踏みしめた後、更にそこを踏みにじっている・・・。

それは、あたかも害虫が駆除されているかのような光景だった。

「ねぇ、有希。あの男の人はどうなったと思う?」

有希には、麻里子の真意がまったく分からない・・・。

「ねぇ、どういうことなの?あの男の人はいったい?それに・・・。」

しかし麻里子は有希の声を制するように、

「うーん、分からないかなぁ?じゃあ、答え合わせね。」

麻里子が足を上げたそこには、なにやらベトっとした赤黒いものだけが残っていた。

「フフン、こんなになっちゃうなんて。ちび虫はほんとに惨めね・・・。」

麻里子はケースの中をニヤニヤして見つめながら、勝ち誇ったように彼らに言葉を浴びせる。

一方の有希は、麻里子の一連の行為を呆然として見つめていた。

麻里子が踏み潰したのは、小さくとも人間であることは確かなようだった。

だとすると、これは間違いなく殺人である。

麻里子にはこれが犯罪だという意識がないのだろうか・・・。

人を殺してしまったという事実に、罪悪を感じないのであろうか・・・。

麻里子によって殺された彼は害虫のように扱われ、しかもその遺体は、もはや原型すらとどめていないのだから・・・。

しかし、有希は心のどこかで熱くなるものを感じていた。

何故だか分からないが、麻里子の彼らに対する絶対的な存在感がたまらなく思えたのだった。

それを見てとったのか、

「うふふ、有希もやってみなよ。」

と、さっきと同じように、麻里子はまた一人を机の上に置いた。

今度は高校生ぐらいの男だった。

「あなたは幸せ者よ。だって、有希に踏み潰される記念すべき第1号なんだから。」

麻里子は有希の顔を見て、笑いながらそう言った。

有希は机の彼を見てあることに気がついた。

彼はなんと、クラスメートの清水だった。

一週間ほど前から行方不明となっていた彼は、麻里子の玩具になっていたのだった。

「助けてくれー!俺だ、清水だ!!あいつは狂ってる!人間じゃない、悪魔だ!早く俺達を助けてくれー!!」

清水は必死になって叫んだ。

有希ならばきっと助けてくれる。

その期待が麻里子への恐怖を打ち消し、清水に大きな勇気を与えていたのだった。

しかしその思いは、いとも簡単に崩れ去った・・・。

既に有希は、彼の頭上に悠然と足をかざしていたのだった。

今朝の事もあったのだろう、有紀の痴漢へ対する怒りは清水に向けられていたのだった。

有希はその巨大な足を、ゆっくりと彼の身体に近づける・・・。

泣き叫ぶ彼の周囲に、ツンとした汗が蒸れたようなソックスの臭いが漂った。

そして彼は断末魔の悲鳴をあげながら、そのまま彼女の足裏と一体になっていった・・・。

「わぁ、何か弾けてる感じがするぅ〜。」

有希はその感触に、思わず麻里子に話しかけた。

「ねっ!小人を踏むのって楽しいでしょう。しかもそれって、虫とかじゃなくって知性ある人間の男なんだから。生きたまま踏み潰されるのって、きっと想像を絶する恐怖だと思うわ。でもちび虫がどんなに抵抗しても、こんなに大きい私には勝てるわけないの。それって最高の快感だと思わない?そう、私は彼らの女神様なの。だから、ちび虫には何をやっても許されるわけ。」

麻里子は有希に諭すように話す。

「そうそう、有希。こういうのも、すっごく気持ちいいんだから。」

麻里子はまた新たな犠牲者を箱の中から取り出した。

しかし今度は机の上には置かずに、わざと机の上10pくらいの所で彼を離した。

麻里子からすればたったの10pではあるが、彼からするとそれは10mにも及ぶ。

机の上に落下した彼は、まるでコンクリートの床に激突したかのような衝撃を受けた。

そのため両足が骨折したのであろうか、落下した彼はその場でうずくまって動けないでいた。

麻里子は悶える彼の目の前で、オッケーマークを作るようにして指を曲げた。

ネイルアートが施された綺麗な爪先が、彼の眼前で妖しく光っている・・・。

麻里子はそのままゴミでも弾くように、彼をピンッと弾いたのだった。

彼にしてみれば抱えきれないほどの太い丸太が、目にも留まらぬ勢いでぶつかってきた様な衝撃だったに違いない。

彼は絶叫にも似た悲鳴を上げ、机の隅まで飛んでいった。

そして彼の全身には今、とてつもない激痛が走っていることだろう・・・。

そう考えると、麻里子の興奮は更に高まっていった。

麻里子は、激痛で動けなくなっている彼の身体を爪で器用に大の字に広げ、次に両足の上だけに静かに指を置いた。

「お、お願いだか・・・・やめ、て、てて・・・」

彼の必死の願いも空しく、麻里子はボタンを押すように指を机に押しつけていった。

指先から微かにミチミチと足が潰れていく音がし、彼の悲鳴が麻里子にも聞き取れるくらい大きくなった。

「ぎぃやぁぁぁあああああ!!!!!!」

しかし麻里子はその声を無視し、更に強く押しつけた。

麻里子が指を離すと、彼の下半身は骨も砕かれるほどに平たく圧縮されていた・・・。

そして次は同じようにして、丁寧に右手、左手と順番にすり潰した。

そのとき、麻里子はあることに気づいた。

いつの間にか、彼の叫び声が聞こえなくなっていたのだ。

「あれ?死んじゃったのかなぁ・・・?」

麻里子は少しがっかりしたような表情を見せ、そして最後に意識がまだかろうじて残っていると思われる彼の頭部へと指先を運び、そのままゆっくりと机に押しつけていった。

程なくして麻里子の指先は、完全に机と密着した。

結果、彼は胴体だけが残されるという凄惨な姿に変わり果てたのだった。

「うふふ、ちょっと残酷すぎちゃったかなぁ・・・。」

麻里子は満足そうな様子で、

「ね?楽しいでしょう。ちび虫クンと遊ぶのって。」

有紀に同意を求めると、また新たな獲物をケースから摘みあげた。



《 6.バストクラッシュ 》

次に選ばれた犠牲者は、20才前後のイケメンの男だった。

彼には先日、麻里子をナンパしようとしつこく追い回し、断られた腹いせに襲いかかろうとした経緯があった。

「あら?あなたは私をしつこくナンパしようとした人ですよね?それに、嫌がる私に随分なことをしてくれましたよね?どんなお仕置きが必要かしら?うふふ。」

麻里子の言葉に、彼はそれまでの己の行為に絶望した。

この巨大な彼女は、決して自分を許してはくれないだろう・・・。

さっきの彼のように、いや、今まで以上に悲惨な最期が待っているに違いない・・・。

自分がどんな惨い殺され方をするのかを考えると、もうそれだけで頭がおかしくなりそうだった。

そんな彼をよそに、麻里子は続ける。

「そういえば、無理矢理に私を犯そうとしましたよね?うふふ、いいでしょう・・・。その望みを叶えさせてあげるわ。」

麻里子は静かに微笑むと、その驚異的な膨らみに今にも張り裂けそうになっている制服を脱いだ。

その様子を見ていた有紀が、思わず驚嘆の声を上げる。

「うわぁ!麻里子ってば、やっぱりおっきいよねぇ〜。なんか前よりもでかくなってない?いったい何カップあるの?」

麻里子は自慢そうに、

「Iカップのブラでも超きついんだよね〜。発育がヤバすぎちゃうから、私って。」

ブラだけとなった上半身を誇らしげに有紀に見せつけ、そしてぐいっと胸を張る。

その瞬間、ブラいっぱいに押し込められた胸が上部から段になって溢れ出る。

肩紐の部分はその膨らみを支えるために限界まで伸びきって、今にも切れてしまいそうなほどにピンッと張り詰めていた。

麻里子は、自分でもその女性としての武器を良く理解していた。

ゆえに麻里子の私服は、制服を着ているときとは比較にならないほどに露出度が極めて高い、刺激的で過激な服装がほとんどだった。

麻里子が外に出歩くと、まるで誘蛾灯にでも集まる虫のように、男は麻里子に引き寄せられていく・・・。

彼もまたそんな男の一人だった。

「さぁ、ちび虫クン・・・、いっぱい触っていいわよ。」

麻里子は机の上に、ドンと自分の胸を置いた。

これだけの大きさである、その重さも相当なものなのだろう・・・。

机の上の彼はその衝撃で、思わず倒れこんでしまった。

起き上がった彼は、改めてその大きさを認識する事になった。

自分の質量の何十倍、いや何百倍もあろうかという二つの巨大な乳房が目の前にある。

机の上で変形させられた胸は、逃げ場が無くなりとてつもなく深い谷間を形成し、麻里子が少し動くだけでぷるぷると揺れている。

それは挟まれただけでも潰されてしまいそうなほどパンパンに盛り上がり、凄まじいまでの重量感と圧迫感が直に伝わってくる。

彼はそのガスタンクのように巨大な胸に、自らの死の恐怖を実感じた。

「早くしなさいよ!」

麻里子は明らかに機嫌が悪くなっているようだ・・・。

彼は慌てて麻里子の胸に近づき、恐怖に震えながらもブラの上から触り始めた。

もし自分が彼女達と同じ大きさならば、この行為にどれほど興奮し、その身体を堪能しただろうか・・・。

「あはは、有紀、見て見てー。こんなに小さな男が一生懸命に私のバストを触ろうとしてるわ。だけど、全然気持ちよくないんですけど。ほらぁ、触りたかったんでしょ?だったら、もっと頑張りなさいよー。じゃないと、潰しちゃうわよ?」

麻里子はブラの近くで這い回る彼に、容赦のない言葉を浴びせる。

「だけど麻里子、いくらなんでも無理なんじゃないの?普通にHしたとしても男の人が大変そうだもの。」

有紀が半ば呆れ顔で笑う。

「もぉ〜有紀ったら。でも、そうかもしれないね。それに、これだけ大きいとすっごく重いから、「手がだるい」って言われたりするし・・・。」

少し照れた様子の麻里子だったが、そんな折、麻里子にふとアイデアが浮かんだ。

「そうだ・・・、いいこと思いついちゃった。」

そう言ったかと思うと胸を机から離した。

いきなりの麻里子の行為に、彼はブラから跳ね飛ばされる。

そして麻里子は、そのままブラを脱ぎ始めたのだった。

「ちょっと麻里子、急に何やってんの?」

有紀が不思議そうに麻里子のほうを見る。

「うふふ、内緒・・・。」

麻里子は小悪魔っぽく笑みを見せ、自信満々にブラを脱ぎ捨てた。

その瞬間、重量感に満ち溢れ、型崩れのないバストがずっしりと零れ落ちる。

「はぁ・・・、何を食べたらそんなにおっきくなるわけ?大きいのにも限度があるわよ、まったく。でも羨ましいなぁ、半分でいいから分けて欲しいよぉ・・・。」

有紀は少々いじけた様子で麻里子の胸を見つめる。

そんな有紀を横目に、

「さてさて、ちび虫クン。あなたはおっぱいが大好きそうだから、特別に私のおっぱいの重さを体感させてあげますね。」

その言葉に、彼の全身に悪寒が走る・・・。

麻里子は自分の胸を両手で抱え上げて、そして彼の頭上を包み込むように前屈みの姿勢になった。

巨大すぎる麻里子の手と、抱えるにはあまりに大きすぎて手から溢れ出た胸が彼の視界いっぱいに広がる。

「や、やめてくれーーー!!!」

しかし彼の願いは、麻里子には聞き入れられなかった。

「直接おっぱいを乗せてあげますから、全身でしっかり受け止めとめなさいよ。」

麻里子は女王様のような口調でそう言うと、胸からパッと手を離した。

次の瞬間、ドスッという音が聞こえ彼の姿は見えなくなってしまった。

「こうしてると楽なのよね〜。」

麻里子は机に胸を乗せるという姿勢のままで、一人浸っている様子だった。

「んー、そろそろいいかな?ちび虫はどうなったかしら?」

麻里子は胸を机から離し机の上を見渡した。

「あれぇ?いないしー。何処に行っちゃったのかしら?」

麻里子が不思議そうにしていると、

「あはは、麻里子ってば。そこにいるわよ。ほら、胸の下の方にくっついてるじゃない。」

有紀が笑いながら麻里子に注意を促す。

実際に麻里子からは、その豊かな胸のせいで自分からは真下を見てもまず見えない。

特に下乳付近などはまったく見えない箇所であり、麻里子が気づかなくとも当然の事なのである。

「え?どこ?あ!いたいた。こんなところで潰れちゃってる〜。」

麻里子はそっと自分の胸を持ち上げ、谷間近くで押し花のようにぺちゃっと潰れている彼を発見した。

勢い良く落下してきた胸の重みと衝撃のせいであろう、彼は全身で愛撫をしているかのようにして、そこにへばりついていた。

「うふふ、どうでしたかぁ?私のおっぱいは。本当に重かったでしょう・・・。だけど潰れてるのにまだくっついてるなんて、よっぽどおっぱいが好きなのね。」

麻里子は笑みを浮かべると、貼りついた彼をそのままに両手で自分の胸を寄せた。

またしても深すぎる谷間が形成され、潰された彼が谷間の奥深くまでめり込んでいく・・・。

そして麻里子はパイズリでもするかのように、交互に手を動かし始めた。

しばらくすると麻里子は手を止め、再び胸を持ち上げて先ほど彼が潰れていた場所を再確認した。

しかし今度は、彼の姿が完全に無くなっていた。

そこにはただ赤いシミだけが残り、肉片の欠片すら見当たらない。

麻里子の凄まじい乳圧の中で擦り続けられた彼の遺体は、肉眼では確認できないほどにペーストされていたのだった。

「全身パイズリまでしてもらえるなんて、あなたは本当に幸せ者ですねー。」

麻里子は誇らしげに赤いシミ部分を指でなぞり、その部分を有紀に見せつけた。

「いいなぁ、麻里子は・・・。私も胸がおっきかったら、そうやって潰せるのにぃ・・・。それに、さっきから麻里子ばっかりでずるいよぉ。私もしたいのに・・・。」

「ごめん、ごめん。次は有紀にもさせてあげるから。ちび虫は、まだたくさんいるし・・・ねっ。」

「たくさんって、もう少ししかいないじゃない。じゃあ、残りを全部踏み潰させてくれたら許してあげる。」

「それはダメ!私だって潰したいもの。」

「いつもそうやって遊んでたんでしょ?今回くらいはいいじゃない!」

有紀と麻里子の問答は続いた。

ケースの中の彼らは、二人の会話に精神が極限状態に達していた。

彼女達にとっては、自分達などは虫と同じ存在価値になっているのだ・・・。

決して彼女達は、自分達を助けてくれるために言い争っているわけではない。

自分達をどっちが潰すのかで口論しているのだ。

ただ踏み潰されるだけの存在・・・、こんなに悲惨で酷く、そして無慈悲な事はない・・・。

彼らは深い絶望の中で、ただただその事実を受け入れ、そしてその時を迎えるしかなかった・・・。



《 7.麻里子のゲーム 》

そんな中しばらくして、

「じゃあ、有紀も楽しめるようなゲームをしましょう。それだったらいいでしょ?」

と、麻里子が提案を持ちかけた。

「楽しいんだったらいいけど・・・。でも、何をするの?」

と、有紀。

「じゃあ、キマリね!ちょっと待ってて、準備するから。」

麻里子は急いで上着を着ると、有紀を傍らに戸棚にあるトランプを持ってきた。

そして次に1〜13までのトランプを一枚ずつ取り出して繰った後、裏返しにして綺麗に並べた。

「それでは、楽しいゲームの始まりでーす。今から、私たちとあなたたちとで勝負をします。最初に自分が好きなカードを選んでください。

ルールは、2が一番弱くてエースが一番強いの。私たちの数字よりもあなたたちの数字が大きかったら、あなたたちの勝ち。ね?簡単で

しょ。勝った人は今回は助けてあげます。ただ負けた人は・・・、うふふ、言わなくても分かってますよね?」

説明はそれだけでじゅうぶんだった。

「じゃあ、始めましょう。まずは有希ちゃんが相手をします。」

彼らには選択の余地はなかった。

もし逆らえば、今すぐに彼女に潰されてしまうだろう・・・。

今はただこのゲームで勝ち残り、彼女の気まぐれを信じるしかない。

この中には少なくとも、今までにそうやってかろうじて生き延びてきた者もいるのだから・・・。

己の人生を賭け、彼らはそのゲームに参加することを決めた。

「それじゃあ、まずはこの五人から。」

麻里子の声と同時に、高校生ぐらいの男が五人選ばれた。

「じゃあ早速、選んでくださいねぇ。」

有希は優しい口調で彼らを促した。

五人の男は、恐怖に慄きながらも自分の希望するカードの上に立った。

それを見て最後に有希が、自分のカードを決めた。

そして残ったカードは束にして、隣にいる麻里子に手渡した。

次に有希は、皆に見えるようにカードを裏返した。

有希の数字は「9」。

どちらかといえば、強いカードである。

有希に勝つためには、「10」以上の数字でなくてはならない。

確率的にはかなり厳しい。

しかし、なにがなんでも勝たなければ自分達の未来は無い。

それぞれのトランプの上にいる五人の男は、自分の幸運を心から祈った。

そしてついに、左から順に一枚目のカードが捲られることになった。

男はカードの横へと移動し、自分の強運を信じた。

一人目の男の数字は「10」。

この瞬間、この男の生き残りは確定した。

「もぉ〜、悔しい!!」

有希は少しムッとした表情を見せながらも、彼を摘み上げ机の角のほうに置いた。

ゲームのルールである以上、これは守らなければならない。

「じゃあ、次!」

有希は急かすように、二枚目のカードを捲った。

二人目の男の数字は「5」。

「あらあら、残念ねぇ〜。」

有希は薄ら笑いを浮かべながら、これからの自分の運命にカードの横でガタガタと震えている彼をゆっくりと踏み潰した。

「はーい。一人目がぺちゃんこになりましたぁ。」

それは、まるで悪ふざけでもしているかのような可愛いらしい口調だった。

しかしそんな口調とは裏腹に、有紀の足はぐりぐりと彼を踏みにじっていた。

「うふふ、これぐらいで許してあげるわ。」

有希は足を持ち上げ、潰れた彼を見て満足そうに微笑む。

彼は肉体を轢きちぎられ、机の上の赤い模様となっていたのだった・・・。

その仕打ちに、残された男たちはもう錯乱状態だった。

特に隣にいた彼などは、仲間が踏み潰される瞬間を間近で見てしまい、その残像がしっかりと頭に記憶にされてしまっていた。

机と巨大な足の隙間が徐々に狭くなっていき、次第に彼を押し潰す・・・。

断末魔の叫び声とともに身体が不規則な方向に捻じ曲がり、そして彼と机との隙間がなくなった瞬間、赤い液体と内臓が皮膚から噴出して周囲に飛び散り、彼は見えなくなってしまった・・・。

そして、信じられないほどの重量で潰され踏みにじられ、ただのシミとして彼は再び現れたのだ。

そんな凄惨な光景を目の前で見せつけられ、平静を保てるほど人間は強くない。

男はもう泣きじゃくって、その場で狂ったように何かを叫んでいた。

そんなことはお構いなしに、有希はその男のカードを捲った。

男の数字は「8」。

その残酷な運命に、彼は思わず息を呑んだ。

「うふふ、また勝っちゃった。」

有希は嬉しそうに泣きじゃくる彼の頭上に足をかざす。

黒く大きな影が、絶望に打ちひしがれる彼の周囲を覆った。

それに気づいた彼は、必死になってそこから逃げようとした。

自分もああなると思うと、もう気が狂いそうだった。

とにかくそこから、いや、彼女から逃げ出したかった。

しかし、彼女がそれを許すはずもなかった・・・。

「あはは、逃げても無駄ですってばー。それに逃げるんだったらもっと速く走らないと。そうじゃないと踏んじゃいますよぉ。」

有希は高笑いしながら、逃げる彼の前方にわざと足を踏み下ろした。

慌てて反転をし、逆方向へと走る彼。

そして今度は、また逃げる彼の進路を塞ぐ様に、目の前に足を踏み下ろす。

すると彼はまた方向を変え、必死で逃げようとする・・・。

有希はまるで小さな虫でもいたぶるかのように、何度も何度も同じことを繰り返した。

いくら必死になって逃げても、次の瞬間には巨大な足が降ってくる・・・。

彼は絶望的ともいえる有紀の残酷な仕打ちを、ただ受けるのみだった。

「もう、有希ったら・・・。そんな事したら、彼が可哀想じゃない。」

麻里子が心にも無い事を言う。

「だって、さっきからすっごく踏み潰しかったんだもん。ちょっとくらい遊ばせてよね。だけど楽しかったね。じゃあねー。」

有希は逃げる彼に狙いをつけると、目にも留まらぬ速さで勢いよく彼を踏み潰した。

彼は悲鳴を上げる時間すらも無いまま、ただ惨めに踏まれるだけだった・・・。

「もっと必死になって逃げないから踏まれちゃうんです。まだの人も分かりましたか?さぁ、麻里子も待ってるし、どんどん続けましょう!」

有希は、残った二人のカードを一気に捲りその数字に注目した。

数字はそれぞれ「12」と「1」だった。

「もぉ〜、もっと踏み潰したかったのにぃ・・・。」

有希は不服そうに、勝ち残った最初の彼と同じ場所に移動するように彼らを促した。

「あはは。有希、残念だったわね。でも、これがルールなんだから。」

麻里子の言葉を聞いて、彼らは安堵に満ちた表情で机の片隅に寄り添っていた。

「じゃあ、次は私。うふふ、何人生き残れるかしら?」

麻里子は嬉々としてカードを並べる。

その様子を、このゲームに参加せざるえない彼らは、ただただ暗い表情で眺めていた。

たった今、何人かの人間がこの巨大な彼女たちによって惨殺されたのだ。

しかも彼女達は悪びれた様子もなく、むしろその事を楽しんでいる・・・。

もう、何も考えられなかった。

これから自分に襲いかかる計り知れない死の恐怖と、ただ「生きたい」という強い思いだけが彼らの頭の中を支配していた。

「さ、早く選びなさい!」

麻里子の声が頭上に響く。

彼らは覚悟を決め、祈るような思いで自分のカードを選んだ。

そして先ほどと同じ様に最後に麻里子がカードを選び、ゲームが開始された・・・。

「あ〜あ、最悪・・・。これじゃ踏み潰せないよぉ。」

麻里子が選んだカードは「3」。

それを聞いた彼らは思わずその場に崩れ、自分の幸福を心から噛みしめた。

(これならまず負けないだろう・・・)

誰もがそう思っていたのである。

「も〜、ムカツクから全員一緒に捲るから。有希、手伝って。」

そして、二人の手によっていっぺんに捲られた。

左から、「8」、「1」、「11」、「4」、「2」。

全員生き残りかと思われたが、最後の彼の数字だけが麻里子を下回っていた。

それを見た麻里子は、

「うふふ。あなたはなんて強運の持ち主なんでしょう。それに、一人だけだから特に念入りに踏み潰してあげますから・・・ね。」

と、彼の不幸を嘲笑った。

そして、残った四人を机の隅の勝者がいる場所に移動させ、

「ちょっとそこで待ってて。ねぇ有紀、悪いんだけど彼が逃げないように見張っててくれる?」

そう言い残して、自分の部屋から出て行った。

しばらくして戻ってきた麻里子の手には、白いニーハイブーツが握られていた。

「見て見て、有希。これこの前に買ったんだー。可愛いでしょ?でもまだ履いたことがなくって。ちょっと今から履いてみるね。」

麻里子は嬉しそうにブーツを履く。

「うん!可愛いんじゃない?似合ってるよ、すっごく。」

有希の言葉に、麻里子は思わずポーズをとる。

「じゃあ、そろそろ罰ゲームしちゃおっか。」

その言葉に、犠牲者となる彼はその場でなにやらブツブツと呟いているように見えた。

自分のあまりの運のなさに、既に人格が崩壊していたのだった。

生き残った彼らも、彼のそのあまりに痛々しい姿をただ見守ることしか出来なかった。

「うふ。いいでしょ、このブーツ。あなたはこれで念入りに踏んであげますから。」

麻里子は笑いながら、彼のすぐ真横にブーツに包まれた足を下ろした。

女の子らしい可愛いデザイン、きらきらと白く輝くエナメル質の表面、そして、60mほどある高層ビルのような大きさ。

彼にとっては、そのすべてが死の対象にしかならなかった。

すると、彼が急に走り始めた。

机の角にいる勝ち残った仲間達の所に、助けを求めにいったのだった。

「もう、ほんとに往生際が悪いちび虫ですねー。」

麻里子は呆れた様子で彼の様子を伺う。

「ま、いいか。私はちび虫がどこにいてもいいけど。でもそこだと、せっかく勝った人に迷惑がかかるんじゃないかしら?」

麻里子はそう言うと、彼らの真上に高々とブーツをかざしたのだった。

ギザギザとした靴底の幾学模様が、彼らの頭上に覆い被さる・・・。

生き残った彼らは、麻里子の思いもよらない行動に驚いた。

そうしてなにやら、彼ともみ合いになっていった。

必死になって彼を引き離そうとする勝者達・・・。

人間とはなんと浅ましい生物なのだろうか・・・。

麻里子は楽しそうにその成り行きを見つめている。

「あらあら、喧嘩しちゃって。もう、仲良くしなくちゃダメですよー。早く仲直りが出来るように3秒だけ待ってあげますから・・・うふふ。」

しかし、死に物狂いで食らいつく人間を引き離すのはそうそう容易なことではない。

「さーん、にぃー、いーち・・・。」

頭上で、彼らの終焉を告げるカウントダウンが始まった。

そして・・・、

「ハイ、時間切れー。せっかく待ってあげたのに・・・。ほんと、何をさせてもちび虫はのろいんだから」

次の瞬間、巨大なブーツが彼らを襲った。

「うわぁぁっぁぁぁぁ!!!!!!」」

「ななななんんでえぇえー!!!!!!!!!」

「たったすけ・・・」

様々な悲鳴が聞こえる中、麻里子は無慈悲にも彼ら全員を踏み潰したのだった。

新しいブーツの靴底に彼らの存在を感じながら、力を入れて踏みつける。

「あ、麻里子ずるーい。」

思わず有希からも非難の声が上がった。

「だって仕方がないでしょう。彼が皆のところに逃げちゃうから。でも、きっとこれで仲良くなれるはずだから。」

麻里子は悪びれた様子もなく、ブーツの靴底にいる彼らを何度も何度も踏みにじった。

そして足を上げると、そこには同じようにして出来上がったミンチがあった。

「ほーら、見て有希。みんな同じ形になっちゃったわ。これで仲良しさんよね?うふふ。」

麻里子は微笑みながら赤い塊を見つめていた。

「さぁて、今日はもうこれぐらいにしようかな・・・。」

その言葉にケースの中の彼らから、安堵のため息が漏れる。

ようやくこの悪夢のような時間が過ぎ去ったのだ・・・。

いや、そうではない。

続けざまに、麻里子はケースの中で僅か3人だけとなった彼らに命令をする。

「じゃあ、後はいつものようにするのよ。ちょっと片付けてくるから、ちゃんとしておくように。」

麻里子はケースを机の上に横に倒すと、有希と一緒に部屋から出て行った。

これが麻里子のやり口だった。

麻里子は、捕まえてすぐの男は絶対に殺したりはしない。

仲間達が踏み潰されるのを何度も見せつけ、そしてその遺体を片付けさせる事によって、自分への畏怖と絶対性を記憶に強烈に刻みつける・・・。

そして精神を深い絶望の淵へと追い込み、小さいという事の無力さと惨めさを味わわせながら、自分のストレス発散のためだけの道具にしてしまう・・・。

それこそが、麻里子の最大の愉悦であったのだ。

彼らはその惨たらしい遺体の姿に嘔吐しながらも、仲間達のちぎれた手や足、そして潰れた頭などを一ヶ所に集めた。

しばらくして、麻里子が戻って来た。

そしてティッシュを手に取り、彼らが集めた遺体を拭き取った後、それを指先できゅっと絞るような仕草をしてゴミ箱に捨ててしまった。

「はい、良く出来ましたね。じゃあケースの中に戻りましょう・・・。」

麻里子の声に、彼らはのろのろと自分の家へと戻っていった。

そして全員が入った後、麻里子は蓋を閉めてケースをもとの場所に戻す。

二人の悪魔のような遊戯は、今度こそ本当に終わったのだ・・・。

しかし彼らの表情は虚ろで、その瞳に希望の光は失われていた。

そんな中、麻里子と有紀の会話が聞こえてくる・・・。

「ねぇ、今から昆虫採集に行こうよ〜。」

「昆虫って?あっ、そうか、そーゆーコトね。うん行く行く。麻里子だったら、いくらでも捕まえそうだし・・・。」

「じゃあ、こんな服にしよーかな?」

「うわぁ、それって谷間見えすぎだよー。でも、捕まえるのに効果ありそう。あはは。」

二人の会話は楽しそうに続いている。

明日にはまたきっと、何も知らない多くの仲間が増えている事だろう・・・。

そして、この巨大な彼女との恐ろしい日々を味わうのだ。

そうなると次は間違いなく、今生きている自分達が死ぬ番になるのだろう・・・。

誰に知られることも無く、何の抵抗も出来ないまま、虫のようにただ彼女に踏みにじられるだけの運命なのだ・・・。

でもそれでもいい、この生き地獄から開放されるのであれば・・・。

二人が出かけた後のひっそりとした麻里子の部屋。

ケースの中で憔悴しきった彼らは、ただ自分の安らかな死を祈る事しか出来なかった・・・。




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