エンパイア・シリーズ コスモポリタン


ゲイター・作
笛地静恵・訳


第2章 ティファニー


5***

「ちょっと、入っていいですか?」

 ティファニーは、プリシラの声に驚いていた。椅子から飛び上がっていた。

その時の彼女は、鉛筆の先端を下にして、敵のキューブの中に落すという単純な遊びに熱中していた。最初は、あまり考えもなしに、始めたことだった。しかし、これが、意外に楽しいということに気がついたのだった。もっと、この中に、いろいろな物を落してやろうと決めていた。

書類を止めるためのクリップでもいい。髪留めのピンでもいいだろう。それらは、ちっぽけなこの世界の住民達にとっては、まるで巨大なミサイルのようなものだった。軟らかい地面に、深く突き刺さっていった。今も小さめのビルディングを、ピンの先端部分によって、屋上から真っ二つに貫いてやったところだった。

「驚かしてごめんなさい。ティファニー。でも、オフィスにも、モップをかけなさいといわれているから」

プリシラが、オフィスのドアの隙間から可愛らしい顔だけを出して、中を覗いていた。モップの柄の端を頬に押し当てていた。オフィスといっても、床は、店と同じ白いハード・タイルだった。そこに、朝の開店時と夕方の閉店時の二回、大きなモップをかけることになっていた。どうしても毛などの微細なゴミが飛んでくる。掃除が必要だった。白いソファーに張りついた毛の一本まで見落さないようにやる。それでも、すまない部分については、週一回の休みの日に、掃除のおばさんが、隅々まで徹底的にきれいにしてくれていた。

「ああ、今日はいいわ。気にしないで。帰宅していいわよ。速く、家族のところに帰ってあげなさいな。モップは、明日かけてくれればいいわ」

「了解しました。船長!」

 敬礼していた。プリシラは、何はともあれ大量虐殺の現場から、一刻も早く退散したかったのである。それに比べれば、いつもよりも、三十分速く退社できるということさえ、それほどの喜びをもたらさなかった。でも、時給も、勤めたと同じだけもらえる。うまい話だった。彼女もダフネも、ラッシュアワーの前に、家路をたどることができるだろう。

 しかし、ティファニーにとっては、彼女たちほど思い通りには、事態が進行しなかったのだ。

ドアにカチャリと閉る音がした。同時に、黒い椅子から立ち上がっていた。鍵をかけていた。

 ようやく一人きりになれた。

 いや、とうとう彼女の愛する敵のキューブと、二人きりになれたのだ。オフィスの自分のいつもの机に戻りながら、息をのんでいた。それは、まるで素裸で無防備にベッドに縛り付けられている恋人のように、机の上に乗っていた。

彼女がした最初のことは、体の線を出すために一回り小さいサイズを着ているブラウスと格闘しながら、脱ぎ捨てることだった。ブラも?ぎ取るようにして外していった。日頃は仕事に使用している部屋で、ヌードになることは、それだけで刺激的な行為だった。悪い女になった気分だ。特に、最近は、仕事に対して窮屈な閉塞感を抱き始めていただけに、大きな解放感があった。

都市の中には、この光景を盗み見ている数千人を超える観客がいる。そう思うとオフィスの中で、はしたないかっこうをしているという思いとあいまって、ティファニーは、自分が明らかに濡れて来るのを感じていた。

 この状況を十分に楽しんでいた。

 もっと楽しむためには、遊び道具が必要だった!

6***

 マックは、ケリーの眠りをまた覚ましてやらなければならなかった。可哀想に。いつもは、健康そのものの彼女が、疲れきっているのだ。

「彼女が、戻ってきたようだぜ。動けるかい?奴は、またペンで、「神様ごっこ」を始めるんじゃないかと思うんだ」

「あたしも、そう思うわ」

 ケリーは、芯がしっかりとした少女だった。きれいな花のような、か弱いだけの美少女ではなかった。痛みに耐えて立ち上がっていた。自分の二本の長い足で、体重を支えようとしていた。十代の頃から水泳で鍛えてきた、しなやかなアスレティックの身体は、女子大生になった今も、強靭なばねを秘めていた。

「思っていたより、足首を強くひねったみたい」

 重心が、ぐらりと傾いていた。捻挫していたのだ。

「どこかに隠れ場所を、探した方がいいと思うんだ。いますぐにね。彼女が帰ってきたようだぜ。見ろよ」

 彼が、窓の外を指差していた。

 二本の爪がそこにあった。

 指は、どちらも橋ぐらいの長さがあった。

 それが、下降してくる。




 すぐそばのビルを間に挟んでいた。

 彼らは、窓越しにすべての情景を目撃していた。

 ビルは基礎が埋っている地面ごと、轟音を上げながら引き抜かれていた。

 空中に持ち上げられていった。

 ケリーの大きな茶色の瞳が、さらに限界まで見開かれていた。背中まで伸ばした長い茶色の髪が、胸元にかかっていた。指先で無意識に梳くようにしていた。

「あれって、何……?」

 彼女は、自分の質問の言葉を飲みこんでいた。無意味だった。彼女が、気絶している間に、すでに世界は根本的に変化していた。ここは、異世界だった。何だって起るのだ。

マックは、冷静さを保とうとしていた。ケリーが見ていても、気の毒になるような自制心を、無理矢理に演じようとしていた。同じ大学で、二級上だった。彼女を守らなければならないという強い義務感を覚えているようだった。

「見ろよ。これで、みんなは、大きなビルの中にいるか、もっと小さなビルに隠れるか迷うだろうな。まあ、どっちにしても、僕達にとってのビルのサイズの相違なんて、彼女には何の意味もないようだ。一階に下りてビルから出よう。地下に潜んだ方が、いいような気がする」

 彼は、そう言いながらケリーの細い手を取っていた。体重を支えてやっていた。彼女は、彼の提案をもっともだと思った。こくんと頷いていた。

7***

 気持が良かった。

 いや、単に良いなんて言葉では、表現できない気分だった。

 ティファニーは、ちっぽけなビルディングを、おっぱいの上まで摘み上げていた。充血して固く勃起した乳首の上にそっと置いていた。まるで糊がついていたように、張りついていた。まっすぐに立った。女性らしい柔らかい肌の凝脂が、表面に貼り付くために必要な接着剤の役割を、果してくれているようだった。落ちる心配はなさそうだった。彼女の視点からは、ビルの底に張りついたままの土は、見ることもできなかった。

 乳首を、ゆっくりと左右に動かしていた。乳輪からぴんと盛りあがった乳首。美しいピンク色をしている。満足していた。いきなりだった。ぴくん。乳首が動いた。さらに一段と。むくり。むくり。乳輪から起き上がろうとしていた。感じているからだ。その動きによって、ビルの基礎の部分が、半分空中に浮いていた。もう半分の構造材が、ビル全体の重量を受けて崩れていた。片方に傾いていた。

「ふうう!」

 彼女は、息を吹きかけていた。呼吸の突風が、ビルの一方の窓を破って吹きこんでいた。反対側の窓から、小さな煙がぽっと噴出してきた。オフィスの机などの家具調度から書類まで、すべてが吹きとばされたものだった。数え切れない数の窓枠からカーテンまでが、その中には含まれていた。

 たった一回。ふうっ。吹いただけだ。それによって、ひき起された損害の大きさに満足していた。このちっぽけな世界に対して奮うことができる、自分の力の強大さに気がついていた。もう一度、乳首の上のビルディングに息を吹きかけていた。まるでタンポポの綿毛のようだ。ちりじり、ばらばらになっていく。そんな光景を眺めていた。楽しんでいた。

すぐに、それは、跡形もなくなっていた。後には、彼女のピンク色をした乳首の山頂だけが、まるで何事もなかったように誇らかに聳え立っていた。彼女は、その健闘を称えようと思った。口に含んでいた。ゆっくりと舐めてやっていた。残った湿気を、長い爪先で掬い取っていた。乳輪の周囲にまで入念に唾を擦りつけるようにしていた。優しく愛撫してやっていた。

彼女の両眼は、次の宝石の上に注がれていた。もし、敏感な乳首でさえ、普通のオフィス・ビルディング一個分の重量に絶えることができるのであれば、高層ビルはどうだろうか?試してみようと思っていた。さすがに乗るはずはない。試すのは、あそこだ!

8***

「こっちだ。急いで!」

 それが起ったとき、マックはケリーに肩を貸してやっていた。階段を下りているところだった。全ビルディングが、怒ったような唸り声を発した。いきなりの爆発が、それに続いた。階下の方向からだった。

すぐに、彼らは自分達が、急速に上昇していることに気がついていた。明らかに空中を飛んでいた。階下に生じた真空状態に、大量の空気が吹きこんでいた。笛のような甲高い音がしていた。予想通りだった。

マックは足下の壊れたコンクリートの建築材の向うに、空虚を見た。遥か遥か下に、都市の景観を見下ろすことができていた。急速に遠ざかっていく。彼らは、まるでロケットのような速度だった。急速に上昇していくのだった。

 突然だった。下降に転じていた。マックにも、まったく見当がつかない未知の場所に向かっていた。ともあれ、ケリーの薄い肩を片手で、きつく抱いてやっていた。身体が急速な下降で、ふわりと浮きあがるような感覚があったからだ。もう一方の手は、命がけで階段の手すりを握り締めていた。

 ビルディングの移動が急停止した。瞬間、物理的な暴力のような力さえ持つ臭気の襲来を受けていた。あまりにも濃厚だった。まるで目の前に、空気を染めるような凄い匂いを持った物質の壁が、いきなり立ふさがったようだった。そんな錯覚さえ抱いていた。

全ビルディングは、一方の側面を下にして倒れこむような格好になっていた。あちこちから、ビルそのものが崩壊していく轟音が響いていた。階段だった場所の全方向から、さまざまな物が降り注いでいた。コンクリートの壁面が壊れていた。窓ガラスは粉々に砕けていた。周囲からは、無数の人びとの悲鳴が聴こえていた。マックとケリーは恐怖のあまり、全身を震わせていた。

 ビルの基礎となる底部の部分は、すでに暗黒の内部に埋没していた。

 もっとも近くにあった窓から見上げる光景は、彼らには心臓さえ鼓動を停止させるような恐怖感をもたらしていた。

 明らかに、都市そのものよりも巨大な存在が、そこにいた。童話の中で、城を眠りの中に幽閉した茨の蔓のようなものが窓の外にあった。巨大な赤い毛だった。それが無数にビルの周囲の空間でもつれあい絡み合っていた。その向うにあるはずの光景は、彼らの小さな目には、あまりにも巨大だった。焦点を結ぶこともできなかった。視界の果ては、ぼんやりと霞んでいた。

この世界の限界を超えた、さらに天空に、二つの女性の乳房だとわかる形の山が聳えていた。目視でだが、あそこまでは5000メートル以上の距離があるように思えた。谷間の峡谷の幅だけでも、2000メートル以上あるだろう。

その間に、激しい快感のあまり、恍惚の表情を浮べた女の顔があった。彼らのちっぽけなビルディングを見下ろしていた。ようやく事態が飲みこめていた。女の膣に高層ビルディングの全体が、今にも、挿入されようとしているのだった。マックは、鋭い悲鳴を耳にした。ケリーが不思議な言葉を叫んでいるのだった。

「ティファニー!宇宙よ!ここは、ティファニーの宇宙なのよ!!!」

9***

ティファニーは、ゆっくりと舌なめずりをしていた。黒の革椅子の背もたれを倒していた。寝そべるような状態で座っていた。陰部を前に突出すようにしていた。小さなおもちゃが、彼女の濡れそぼってジュースを垂流しているセックスの内部に、詰っているという感覚に満足していた。

さらに高層ビルの何階分かを、ぬぷぬぷと挿入して行った。最近、手入れを怠っていたせいで、獰猛に繁茂している赤い陰毛の内部に、すっくりと、その硬度を誇るかのように立っていた。さらに希望を言えば、ビルの住人の顔の表情が、見えればいいのにな、と考えていた。さぞかし楽しい見ものだろう。

表情ですって!!

ひらめいたことがあった。電話機を取り上げていた。今の時間は、ポリス・ステーションで電話番の勤務をしているはずだ。デリラを呼びだしていた。数回、呼出のベルの音が鳴った。レスビアンの友だちが、受話器を持ち上げた気配がした。

「はい、もしもし?」

「こんにちは、リラ。あたしよ」

「ティファニー?どうした?」

デリラは、ティファニーに男言葉でタメ口を聞く。本当は、ハイスクールを卒業して、すぐに女性警察官になった彼女は、まだ二十歳にもなっていない。八歳も年下なのだ。それでも、二十七歳の彼女を、自由気ままに取り扱う。小さな悪魔だった。

「ああ、別に、大丈夫よ。事件じゃないから、安心してちょうだい。あなた、まだ腰に、あの物騒なポータサイザーをぶらさげているのかしら?」

「ポータサイザーが、どうしたって?いったい、何を言ってるんだ?」

デリラは、受話器を握り締めて、目を丸くしていた。いったい、いまどきこの帝国の惑星で、ポータサイザーを常備していない警察官などというものが、ありえるとでもいうのだろうか!?一丁が故障した時の用心に、二挺の縮小光線銃を腰だめにするというのが、最近の標準的な警官の装備だった。それだけ、凶悪犯罪が激化していた。長い戦争状態によって、帝国の治安は急速に悪化していたのである。犯罪者は容赦無く縮小して踏み潰したり、持ち帰って玩具にしたりする習慣だった。

「あたしねえ、あの『敵のピース』ってやつに当選しちゃったのよ……」

ティファニーは、甘えるような舌たらずの口調になっていた。

「あの。敵のキューブか!?何で、今まで黙ってたんだ!?なるほど。そういうことか!わかったぜ。ティフ。それを餌にして、俺を釣ろうって魂胆なんだろ?」

「あたし、ブティックにいるの。帰り道によってくれないかしら?裏口が開いてるわ」

「ああ、後から忍び寄るのは、俺の専門職としての得意技だからな。知ってるだろ?」

彼女は、声のトーンを低く曇った唸り声のような調子に落していた。いきなり電話が切れた。

ティファニーは、時折、夢想せずにはいられなかった。もう、もう少し優しい年上のレスビアンの友人がいてくれたら?彼女の人生は、いったいどう変っていたのだろうか?

デリラは、可愛らしい小柄で華奢な骨格を、なんとかタフな筋肉で鎧おうとして努力している十九歳の少女だった。もちろん、今のティファニーは、すでに興奮の極みにあったから、あの体力のある、しつこい責めをするショートカットのお下げ髪の少女が、仮に全身に刺青をして、髪を緑に染め、あるいは苦痛に耐える力があることを証明するために、乳首にリングをはめ込むというような趣味を持っていたとしても、セックスのパートナーとしては、理想的な存在に思えていた。

まだ大人になりきれない色黒の小さな少女に、思うままに大人の女の成熟した白い肉体を陵辱されるということに、倒錯した快感を覚えるようになっていた。ティファニーの指は、股間の喜びの源泉に触れていた。開きっぱなしのプッシー。その間に、ビルディングを粉砕しながら、さらに深く深く挿入していた。

10***

「気をつけるんだぜ!」

 マックは、ケリーのひきしまった柔らかい身体をビルディングの割れた窓の間から、外に押しだしていた。ジーンズの形の良いお尻を押し上げていた。すぐに、二人は横倒しになったビルの側面の上に居た。無数の煉瓦が、はめ込まれたような壁面を横断していた。あちこちに壊れた窓が黒く開いていた。暗黒の落とし穴のように見えていた。慎重に避けなければならなかった。もし落ちてしまえば、二度と這い上がって来られないだろう。

窓だけではなく、煉瓦をはめ込んだコンクリートの壁面の方も、安心はできなかった。あちらこちらに、深い割れ目が生じていた。その幅は、刻一刻と広がっているように見えた。ビルディング全体に崩壊の危機が迫っていた。彼らは、高層ビルの基底部とは、反対の方向に向かって走っていた。つまり、巨大な性器から逃げようとしていた。ケリーの足首の怪我が、たいしたことがなかったことに安堵していた。

二人とも、上空から垂れ下がってくる無数の赤毛を、まるで命綱のように掴んでいた。それらを、つたいながら足を動かしていた。一本が、マックの手首ぐらいの太さがあった。強度も、鋼鉄の線ぐらいはありそうだった。ただ掴もうとすると、表面が油に塗れているように指が滑ることがあった。愛液に濡れているのだ。しかし、安全のためには、これを使って、やや上方に傾斜しているビルの壁面を登っていくしか方法がなかった。恐怖の惨劇の中心部から、遠ざかる必要があった。

 いきなりだった。あたりの光が遮られていた。再び、豪華客船のサイズのある一本の指が、ビルの屋上部分にあてがわれていた。全体を、ピンク色をした裂け目の内部に、さらに押しこむようにしていた。ケリーは、また女巨人に対して悲痛な叫びを上げていた。二人は知り合いだったのだ。彼らが捕まっていた陰毛が、挿入されていくビルディングの方向に弛んで、ひっぱられていた。

「ティファニー!あたしよ!あたしは、ここにいるのよ!!」

ビルディングは、一階分の窓を単位として、ずぶずぶと急速に飲みこまれていった。すぐに彼らが立っている屋上に近い部分だけが、かろうじて視界に入るだけになっていた。彼らは、命がけで一本の陰毛にぶらさがっていた。頭上の光景が大きく変化していた。ティファニーが、態勢を変化させようとしているのだ。二人の存在を一顧だにしていないことは明らかだった。そのままの状態で、再び都市のキューブの内部に、注意を集中しようとしているのかもしれない。

 ケリーは、泣いていた。

「かかりつけの、ヘアースタイリストのあそこに、押し潰されて死ぬなんて!いや!」

 彼女は、すすり泣いていた。ヘアー・ドレッシング・サロン『眠れる美女たち』には、まだ世間が平和だった時代に、元気だった母親に、連れてこられたことが何回かあった。ティファニーの母親が、少女だったケリーの髪をカットしてくれたのだった。その頃のティファニーは、まだ見習いの助手に過ぎなかった。洗髪だけを担当していた。

マックは、ケリーの両方の足も陰毛に絡ませてやっていた。そのせいで、二人はいままでよりも楽な態勢で、人間の手首ぐらいの太さのある陰毛の上に跨っていられるようになっていた。明るくてらてらと光る、ライト・オイルのような液体で、彼らの衣服といわず、顔といわず、びっしょりと濡れていた。それでも、彼らは赤い馬の背に跨るように必死に、両手と両足を絡めていた。

11***

 ティファニーは、ビルディングの挿入を終わると、尻を前に突出して浅く座っていた姿勢から、背中を黒い革の背もたれにつけて、まっすぐに座りなおす態勢に身体を戻していた。高層ビルは、あそこの内部で、ジュース味のガム一箱分ぐらいの容積にしか感じられなくなっていた。物足りなかった。

しかし、高層ビル一個分に隠れていた敵のすべてのならず者どもを、自分のプッシーの内部に挿入しているのだという思いが、さらにさらに感じさせていた。濡らしていた。彼らは、自分達を、本当に糞のような無価値な存在になったと感じているのでは、ないだろうか?自業自得だった。

彼らの方が、今度の戦争をはじめたのだ。そのせいで、帝国の経済も破綻していた。ヘアー・ドレッシング・サロン『眠れる美女たち』に来るお客様の数も激減していた。昔は友好的な時代もあった。敵となった星からも、わざわざお店まで、宇宙船でやって来てくれる、熱心な客がついていたのだ。もし、彼らの爆弾が、ティファニーの済んでいる都市の上空で破裂していたとしたら、いったい、今ごろどんな事態になっていたのだろうか?昔の、お客様たちは、どうなってしまったのだろうか?

ティファニーは、深いため息をついていた。無意識に赤毛の陰毛を一房、くるくると指に巻きつけるようにしていた。彼女は、この勝利の時を単純に楽しみたいだけのことだった。もうすぐ、彼らに思い知らせてやるのだ。このようにして机の上の敵の都市の全景を一望にしていると、まるで自分が全知全能の神になったような気分になれた。もうすぐ、彼らの頭上に、女神の天罰が下るであろう。

まあ、神の究極の力と呼ぶには、語弊があるかもしれない。口で言うほどには、何だってできるということではないかもしれない。そうであっても、失望する気分にはとてもなれなかった。どちらであっても、大差はない。彼女は、指先を舐めていた。それを、下の方の唇の間に挿入していた。特製の鋼鉄とコンクリートのディルドの状況を確かめるようにしていた。それが、豊潤な愛液に溶けて崩れていることを、発見しただけのことだった。

「あ〜あ!!」

不満な時の癖で、口元を突出すようにしていた。この都市のビルディングは、楽しい遊び道具にするには、まったく強度と耐久性に不足していた。この調子では、もう後数時間で、すべてのビルディングを使い捨てにしてしまうことだろう。そうなったら、彼女は、いつ次の貴重な宝石を手に入れることができるのだろうか?見当もつかなかった。

コーヒーを煎れるために立ち上がっていた。デリラが来てくれるまでの長い退屈な時間を、好きなエスプレッソを飲みながら、ぼんやりと座って待っていることしかできなかった。

パンティを履こうと思った。大事なプレゼントは、包装の下に隠しておいた方が、開けたときの喜びは大きいだろう。椅子の上で両足を宙に上げていた。尻を持ち上げていた。小さなパンティの伸縮性のある生地を、左右に軽くひっぱっていた。小さなパンティは、すぐに丸々とした曲線を描く巨大なヒップに、パチンと音を立てて張りついていた。彼女は、超巨大な乳房については、剥き出しのままの状態にしていた。自分の美しい裸体を、オフィスの壁面を占領する広大な鏡の表面で鑑賞していた。

12***

あの橋脚のような長さのある指が、再び戻ってきた。マックとケリーがしがみついていた陰毛にも触れた。二人ともに絶叫していた。鋼鉄の硬度を持っていると信じていた強靭な物体が、数十本、一度に折れ曲っていた。無造作に巨人の指の周囲に、くるくると巻き取られていったのである。しかし、折れるということは、絶対になかった。さらに、数秒間というもの、安全な時間が続いた。

巨人女の膨大な重量を受けとめていた陰部の全体が、隆起していった。動く崖のような太腿が、左右から合体して来た。二人にとっては、まるで全惑星が上昇し、山脈がその高度を変化させ、大地がロケットの速度で、移動を開始したようなものだった。

ティファニーが、立ちあがったのである。

マックは、ケリーのTシャツから伸びた片腕を掴んでいた。彼らは、この光景を呆然と見つめていた。他にできることは何もなかった。

「お願い。彼女を止めて!」

ケリーは、域も絶え絶えになっていた。本人は叫んでいるつもりでも、囁くような声しか出せなくなっていた。マックにも、別に彼に頼みこんでいる訳ではないということは、分かっていた。このメガ・サイズの超巨人女がすることに、ひとつひとつ口を挟めるはずもなかった。

「気をつけるんだ!」

 マックが叫んでいた。

百個のパラシュートを縫い合わせたよりも、なお遥かに巨大な面積を持った白い布の天蓋が、途方もないスピードで彼らの方に、急速に接近してくるのだった。即座に、赤い陰毛のジャングルのすべてが、女の性器の濡れた皮膚に圧迫されて押しつけられていた。

今では、彼らは、この複雑に絡み合った陰毛の迷宮から何とか脱出しようとして苦闘していた。ケリーは、数本の鋼鉄の強度を持った陰毛が、自分の周囲をまるで人工の檻のように取り囲んでしまっていることに気がついていた。

逃げ出すことができなかった。マックの方は、その逞しいビジネス・スーツの身体を二本の陰毛の間に、なんとか差込んでいた。いつのまにか、ネクタイはなくなっていた。それによって作られた隙間から、ようやくケリーは這い出していた。脱出することができていた。もう泣くことはなかった。気丈に耐えていた。

二人は、周囲の異様な空間を、ぐるりと見渡していた。パンティの白い生地を透かして、部屋の照明が透過していた。黄昏程度の光が確保されていた。女性性器の巨大な割れ目が赤黒い峡谷のように、視界のすべてを占領して雄大に君臨していた。高層ビルディング一個分を飲みこんで、何事もなかったように、左右の複雑な岩肌のような壁を合わせていた。密閉された空間の空気には、女性の性器の匂いが、濃厚に立ち込めていた。

「もっと高い場所まで、移動しておいた方が良いと思うんだ」

 それだけが、彼が言えたことのすべてだった。顔を上げて周囲を見渡していた。彼らの尺度でも、頭上ほんの十五メートルほどのところに、彼女のクリトリスの肉の丘が、鎮座ましましているのが見えた。もし、その丘の上に登っていれば、そんなにすぐには、陰毛の森にも殺されることもなさそうに思えた。

彼らの存在を彼女が痒みと感じて、掻き毟るようなことがないとしてだが。ティファニーという女性は、そんなに敏感なようには見えなかったというのが、ケリーの辛辣な意見だった。しかし、彼女の人間観察は、いつも正確で参考になった。マックは、ケリーを信じた。この場所の異様な雰囲気に、若い二人の肉体も影響を受けていた。抱きあっていた。長い間、キスをしていた。

 二人の恋人達は、頭上の丘に向かって複雑な襞を作る山肌の登攀を開始していた。皮膚の皺は、手足をかけて体重を支えるために、十分な深さがあった。岩肌のように堅固だった。

13***

 ティファニーは、店の裏口を開けていた。

「ああ、デリラ!来てくれて嬉しいわ!」

「お邪魔するぜ。俺様は、裏口が好きな女だからな。知ってるだろ?」

 この女性警察官は、いつも情熱的だった。それは、出会いの最初の日から変化することはなかった。その時に、ティファニーは、「お尻の処女」を捧げたのだった。

「見たところ、もう恋の邪魔者は、ほとんど片付けられてしまっているようじゃないか」

 ティファニーの官能的なパンティ一枚だけの半裸の、特に剥き出しのおっぱいを熱い瞳で見つめながら感想を述べていた。

 ティファニーは、小柄なデリラの緑の頭髪を見下ろしていた。

「する……?」

 デリラの方は、彼女の帝国警察の制服のパンツを脱ぎ捨てていた。陰毛が短く刈りこまれ、周囲に刺青を施したプッシーを見せびらかしていた。ティファニーは、何もかも心得ているというような表情で頷いていた。

「あなたが、あそこをきれいにしてくれって、お願いするのならばだけど?」

 ティファニーがからかっていた。

「ああ、俺のすべては、君のためにあるんだぜ」

 デリラは唇を、ティファニーのそれに重ねていた。舌を赤毛の、そこも大きな唇の内部に滑らせていた。尖らせた舌先で、ティファニーの舌の上をつつくようにしながら、回転させていた。今までに感じたことがない、奇妙な感覚を与えていた。少なくとも、今日のデリラのお口は、素敵な匂いがしている。男役のタチを熱心に演じようとするあまり、この女性警察官は、時に野蛮に過ぎることがあった。キスをすることにさえ、ためらいを感じる日もあるのだった。

14***

都市の住民達は、パニック状態で、右往左往していた。新たに、もう一人の巨大女が登場して来たからである。机の地平線の彼方から、その姿を現していた。まるで死を呼ぶ爆弾を満載した巨大戦闘機が、襲来するような光景だった。恐怖を覚えずにはいられなかった。巨人女達は、この都市には、まさに破滅の天使達だったのである。滅亡を宣告された都市のちっぽけな市民たちは、たましいまで震撼させられていた。

何人かが、通りに姿を見せていた。二つのビルディングが建っていた場所が、 今では深い穴の開いた空地になっていた。ビルごと拉致されてしまったのである。他の多くの者達は、より小さなビルの方が、注目されないので安全かもしれないという淡い期待を抱いていた。パニックは、何人かに自殺の道を選択させていた。緑色の髪の女が、顔を箱の切り開かれた天井の部分から、ぬうっと覗かせていたのである。

「小さな戦利品というところだな!」

 デリラは、蟻よりも小さなちっぽけな人間たちを、一望に見下ろしていた。体長は一ミリメートルほどしかないだろう。すぐに彼らが建っている道路の一部分を、アスファルトごと掬い上げていた。顔の高さにまで持ち上げていた。

落ちないように、その場所に必死にしがみついている光景を眺めていた。オリジナルの『キング・コング』の映画を思い出していた。丸木橋に必死に人間たちがしがみついている。あの光景にそっくりだったのだ。デイラは、彼らの苦闘を眺めながら笑っていた。ティファニーは、エスプレッソのコーヒーを煎れてやっていた。

 ティファニーは、彼女を家に招いたのは、ほんとうに良いアイデアだったのだろうかと、不安に思い始めていた。何かトラブルを招き寄せた上で、ティファニーを置きざりにして、どこかに勝手に逃げて行ってしまいそうな気がした。

「ねえ、彼らを、もう少しだけ大きくしてくれないかしら?あまりにも簡単に壊れてしまうのよ」

 彼女は自分のデミタス・カップには、たっぷりとした生クリームを入れていた。

デリラは、ポータサイザーを早撃ち競技のように腰のホルスターから弾き抜いていた。ちっぽけな点としか見えなかったものを、水玉のドレスを着ているということがわかるところまで、大きくしていた。

さらに大きく、さらに大きくなっていった。いきなりだった。小さかった女は、その巨大化する身体の下敷にして、道路の上の他の人間たちを、押し潰していった。今では、服の青い水玉は、男と女の身体であったものの赤い染みに変化していた。

「何て可愛いんだろう!可愛い赤ちゃん!そうだ。お前は、俺様の可愛い赤ちゃんなんだぞ!」

 デリラは、爪先で十センチメートルほどの背丈の女をくびれた腰の辺りを持って摘み上げていた。女は、必死にもがいていた。ひどく奇妙に見えた。まるで誰かがトカゲに人間の可愛いドレスを着せたようだった。怪獣映画の『ゴジラ』の着ぐるみの逆ヴァージョンだった。しばらくの間、新しいペットに夢中になっていた。宇宙でもっとも可愛いものに話しかけるような甘ったるい口調で語りかけていた。

「あたし、この箱の中のものを全部、あのう。そのう。もうちょっとだけ、強くしてもらいたいんだけど」

 ティファニーは、我慢できずに遮っていた。しかし、デリラは、赤毛にはまったく注意を向けていなかった。彼女の注意をひきつける唯一の方法は、やはり「あれ」しかなかった。

「ねえ、デリラ。もし、あたしたちが、この中の何かをディルドとして使ったら、面白くなると思わない?」

 彼女は、最後まで残しておいた下着のパンティを脱ぎ捨てていた。ストッキングとハイヒールだけの姿で、彼女の眼前に立ちはだかるようにしていた。

この作戦は、さすがにデリラの関心を引戻すことに成功していた。彼女も警官の制服を脱ぎ捨てていた。すぐに全裸になっていた。刺青に覆われた、数々のボディビルの大会で入賞の栄光に包まれた、筋肉質の全身を顕わにしていた。

「いいとも、お前の考えを聞かせてくれよ!」

彼女は新しいペットを、その掌の上に乗せていた。二人は、一緒に、ちっぽけな女を見ていた。微笑していた。

15***

 その頃、ケリーとマックは、巨大な岩山のようなクリトリスを、まだ越え切れていない状態だった。薄闇の世界に、まばゆい光が差込んできた。パンティが脱がされていったのだ。閉鎖されていた空間の峡谷に向かって、強い下降気流が発生していた。その力に押されて身体が流されていた。マックは危ないところで、谷底に飲みこまれるところだった。ケリーの手に助けられて、性器を取りまいている比較的に細めの毛に、全身を巻きつけるようにしていた。風の力に抵抗しようとしていた。ケリーが、絶叫していた。

「あれは、だれなの!?」

それもまた、修辞的な質問に過ぎなかっただろう。マックに答えがあるはずもない。すぐに新しい女巨人の巨大な顔が、天空を圧するように、さらにさらに急速に接近して来るのだった。そして、これもまたいきなりだった。二人は赤い茂みに、自分達にとっては身長十五メートルほどに感じられる赤い水玉模様のドレスの女が、一所懸命に、しがみついている光景を目撃していたのである。模様は血の染みだった。

二人のちっぽけな人間達は、そろって悲鳴を上げていた。十五メートルの女が着ていた、赤い水玉模様のドレスが乱暴に巨大な爪で引き裂かれていったのである。肌に赤い蚯蚓腫れのような痕を残していた。十五メートルの女は、血も凍るような恐怖に泣き叫んでいた。巨大な指は、素裸になるまで、情け容赦なく衣服を剥ぎ取っていった。彼女を二人にとっては、眼下にしてきた裂け目の内部に、足から順次、挿入しようとしているのだった。腰まで飲みこまれていた。

ほんのわずかな休止の間があった。十五メートルの女は、赤い絡み合った茂みの内部を透かす様にして見つめていた。二人のちっぽけな人間たちが脱出路を求めて、陰毛の森を、さらに高い場所に上ろうとしていることに、気がついたのである。

「助けて!助けてちょうだい!」

彼女は、自分よりも遥かに小さな男と女に命乞いをしていた。掴もうとして巨大な手さえのばしてきた。しかし、またしても、いきなりだった。底なしの洞窟のような膣の内部に、上半身の腰から肩までを、一気にずぶりと飲みこまれていた。巨大なレスビアンの舌が、彼女の巨大な頭部を割れ目の奥深くに、押し込んでいた。



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ゲイター・作

笛地静恵・訳

第2章 ティファニー 了




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