巨女ゲーム  第4章 摩天楼のディルド

ヘディン・作
笛地静恵・訳
 
 
−−−−−−−−−−
 

 最初はライアンにも、この奇妙な反応の原因が、自分の息の力によるものなの
か、単純に声の大きさか、それとも息が空気を振動させたからなのか、容易に判
別がつかなかった。いずれにしても、すべての小さな点どもの動きが、一瞬にし
て止まったのである。
 
 数秒間が経過した。だれも動かない。彼女は、微笑を浮かべた。声の威力だけ
で、彼ら全員をノックダウンしたことに、ようやくに気が付いたのだ。微笑しな
がら美しい顔を、さらに地面に近付けていった。
 
 舌を突き出した。その辺りで失神している、すべての人間達を、遠慮なく舐め
取っていった。靴の足音から、連想したことだった。ライアンは、食いはプレイ
ヤーから要求されなければ、お腹が空いていないかぎりは、普通はあまりしない
方だった。その味はといえば……。美味しくはなかった。埃臭いだけだった。
 
 
 ちょっとだけ、ブラの肩紐を引っ張っていた。しなやかな上半身を、くねらせ
るようにしながら、ついにブラをはずした。遠くに投げ捨てていった。片方のカ
ップの下だけで、都市の数ブロック分が簡単に覆い隠されていた。まだほとんど
、ダメージを受けていないような、彼女の正面の都市のブロックに向かって、こ
うアナウンスしていた。
 
 
「ああん、このブラ、わたしの巨乳には、本当にきつくなっちゃたわ。縫い目が
、肌に食い込んでる。赤い痕まで残しちゃった。誰か、私の柔らかい肌を、マッ
サージしてくれないかしら?」
 
 地面に、両膝と両肘をついていた。さらに、もう少し身を乗り出していった。
前方に、重心を移動していった。ブラから剥き出しになった乳房は、それ自体の
重量で、前に。後に。空中でゆっくりと。重い振り子のように揺れていた。
 
 ライアンは、ことさらにゆっくりと、胸から盛り上がった二つの重い物体を下
降させていった。都市のいくつもの区画が、一度にその下敷きになっていった。
はりはり。もろく砕けていく。微妙な感触がある。くすぐったい。何度も、歓声
を上げていた。
 
 重量感のある巨大な量のおっぱいの下で、都市は平べったい荒野へと簡単に、
姿を変えていった。巨乳の重さに、肩凝りやストレスさえ感じることがあるライ
アンには、絶好の欲求不満の解消の時だった。
 
 やがて、大きなため息をついていた。
 
「……ふうううう。これって快感ね。でも、わたしの身体は、あなたのすべてで
満たして欲しくて、もうたまらないのよ。わたしの方から、動いてみてもいいかしら?」
 
 淫らな文句をつぶやきながら、他の都市の部分までを、柔らかい乳肉の下敷き
にしていった。埋葬していった。繊細な動作だった。両肩を左右に動かしていた
。そによって乳房を揺らしていた。巨大隕石のようなサイズだった。都市を破砕
する目的のために作られた物体だった。天下無敵の究極の兵器のようだった。二
つの肌色の球体だった。先端部分を、ゆっくりと回転させるようにしていった。
動かしていった。快感の震えが、脊骨を下降して性器にまで走っていた。
 
 注意深く入念な動きだった。決して、焦らなかった。左右の乳首は、勃起して
固くなっていた。曲がりくねる死の谷間の軌跡を、都市の表面に深く造り出して
いった。
 
 快感の閃光が、下半身の性器までを、一直線に貫いていた。それに促されるま
まだった。この破壊活動を熱心に、また執拗に継続していった。
 
 淫乱な大量殺人の行為以外に、何も考えられなくなっていた。両手と両膝をつ
いた四つんばいの態勢で、この「バスト・ファック」を続行していった。
 
 ブロックからブロックへ。隣の地区から隣の地区へ。すべてを押し潰していっ
た。数千人の人間たちが、眼下を逃げ惑っていた。それらの凄惨な光景のすべて
を、快感のための餌にしていった。ライアンは自分のTバッグの下着の股間が、
もうぐっしょりと濡れていることに、気が付いていた。
 
 上半身を、柔らかいおっぱいのクッションの上に乗せていた。その態勢で、し
ばしの休憩を取ることにした。両手を、両頬に当てて支えていた。
 
 お尻を高く上げた。両手を使って、Tバッグの薄い生地を、左右に引き裂ける
ようになるまで、指先で延ばしていた。焦って、お尻から脱いでいった。生地は
、もうぐっしょりと濡れていた。形の良いすっきりとしなやかな両脚を、その穴
から引き抜いていった。もともと股関節は、柔軟な方だった。
 
 都市の向こうの端まで、Tバッグを無造作に放り投げていた。お尻をついた態
勢で座り込んでいた。両膝を曲げた。仏像の「座禅」を組むような姿勢になって
いた。
 
 「グシャ!」
 大きな尻の下になっていた。隣接した都市の複数の区画にまで、被害が一挙に
拡大していった。
 
 ライアンは、溶岩のように濃厚な彼女のラブジュースが、カントの谷間を滑り
落ちて、本物の雪崩のように都市を急襲する凄まじい光景を、股間に観察してい
た。折り曲げた両脚の間で、かろうじて最後まで生き残っていたビル群が大洪水
に沈んでいった。
 
                 *
 
 元々、彼は小さな町に住んでいた。大都市は苦手だった。あえて距離のある場
所に生活していた。見上げる摩天楼は、天に聳える巨大な建築物だった。自分の
方に倒れこんでくるような、恐怖感さえ覚えていた。圧迫感があった。
 
 あそこまでは、自動車という便利な交通手段がなくては、まだあまりにも遠か
った。彼は、走りに走った。すでに、十分間が経過していた。もう彼のように元
気に走っているような人影は、周囲に誰も見えなかった。いくつかの死体と、数
人の重傷者に出会っただけだった。助けを求めて、泣き叫んでいた。すべてを無
視した。彼には、関係のないことだった。
 
 さらに、十分間が必要だった。ようやく聖別された摩天楼の足元に辿り着いて
いた。しかし、それでも最初は、ビルの周囲に広がる破壊された地帯を、何とか
突破していかなければならなかった。
 
 彼女にとっては、指先の指紋に過ぎないような跡である。それすら彼にとって
は、地面が丘のようにいくつも波打った、ある種の石の混じった砂漠のように荒
廃した厄介な場所だった。踏破するには苦心惨憺した。登った。飛び降りた。登
る。飛び降りる。登る……。この果てしないような苦闘の繰り返しだった。
 
                 *
 
 ようやく摩天楼の周辺の、比較的に大きな瓦礫が、荒々しく重なった地帯に、
辿り着いていた。疲労のあまり、手足の筋肉が痙攣を起こしたように、震えてい
た。しかし、それでも、何とか、内部に入り込んでいた。
 
 幸運にも壁に入った大きな裂け目が、内部まで通じるような通路を作っていた
彼女の指の力が、ビルの基底部にまで達するような亀裂を創っていた。倒れた
壁が、四階の窓の高さにまで達するような、広大な斜面を作っていた。そこから
、ガラス越しに内部を覗き込んでいた。
 
 誰の姿も見えなかった。腕の筋肉に残った最後の力を振り絞るようにして、足
元の大きな岩を、両手で拾い上げた。それを、放り投げた。ガラス窓は、すでに
壁の歪みの影響を受けて、無数の亀裂を生じていた。この最後の攻撃によって、
ばらばらに砕け散っていた。数百万の、きらきらと輝くような断片に分解してい
た。
 
 事故車のフロント・ウインドウで、彼はこれと同じような現象をみたことがあ
った。地震の時などに、崩壊したガラスの破片が、刃のように大きな形のままで
真下の歩行者を襲わないように、このような性質を持たせているのだと、耳にし
たことがあった。
 
 彼は最後の気力を振り絞っていた。室内にジャンプをした。乱雑に机や椅子や
事務の書類や、コンピュータが散乱しているだけの無人のオフィスの中央に、た
たずんでいた。次の動作は、再び走り出すことだった。室内を探索していった。
階段を探していたのだ。
 
 ようやく、ひとつ見付けた。しかし、それは摩天楼の八階までしか続いていな
いものだった。
「上れれば、いいさ!」
 彼は、ともあれその階段を登っていった。
 
 いくつもの階段に、乗り換えていったような気がする。電動のエレベーターは
、とうに停止していた。使いものにならなかった。彼の目の中で、星のような光
が、チラチラとまたたいていた。しかし、とうとう階段の先端に辿り着いていた
 
 これだけの労苦の価値は、十分にあった。報われていた。ドアの向こうに、小
さなリフトのついたヘリコプターの専用発着場があった。管制塔の上には、通信
用の高いアンテナが立っていた。彼は、屋上のコンクリートの平原の上に、転ぶ
ようにして走り出ていた。
 
 その瞬間に、あのプラットフォームが大地を踏み潰す瞬間の、馴染みになった
動揺を、足元に感じることができた。
 
 そこに、彼はいた。風が強かった。あの女の匂いがした。摩天楼の屋上である
眺望が良い。全市を一望にできた。彼女の全裸の姿もだ。しかし、あまりにも
危険だった。彼は離着陸のための、赤い円形のマークの上を走った。管制塔の灰
色の金属のドアを目掛けて、一目散に走っていた。ドアは、すでに開いていた。
ビルの内部へと下降する、別な階段をみることができた。
 
 しかし、もう一度ビルの中に戻る前に、彼は振り返って都市の全景を一望にし
ていた。いくつもの摩天楼街の向こうに聳える、巨大な彼女のヌードの姿を眺め
ることができた。彼女は彼に、強力にして巨大なお尻を向けて、座り込んでいた
巨人のプラットフォームのミュールの、人間の血にどす黒く汚れた靴底が眺め
られた。彼女の声だけが、死に絶えた都市に反響していた。
 
                 *
 
「ああん。わたし濡れてるわ。もう、準備はできてるのよ!もう、まてない。あ
なたを犯してやる。『巨女ゲーム』の本当のプレイヤーさん。どこにいるのかし
ら?わかる?これらか、あなたをファックしてあげるのよ。でも、本当は、あな
たのよりも、もっと大きいのが欲しくてたまらないの!」
 
 そういいながら、彼女は大地から重い腰を上げていた。もう長い時間、大事な
おもちゃのようにして、都市の中央にある摩天楼街を、使わずに取っておいたの
である。ついに欲望の激しさが、彼女の忍耐力を上回っていた。もはや契約も仕
事も何もかも、気に病むこともなかった。足が、摩天楼のひとつに触れた。それ
だけで簡単に破壊していった。倒壊するビルの間を、回りながら踊るような歩調
で、通り過ぎていった。
 
 たったの三歩だった。プラットフォームのミュールは、この目的のために最後
まで残されていた摩天楼のひとつに、神の鉄槌のようにして襲来していた。欲望
の暴発に、促されるままに動いていた。時間を無駄にするような、まねはしなか
った。左手の指先を、重心を支持するようについた態勢から、両の踵までをつい
た状態で、すうっと流れるような一連の動作で、しゃがみこんでいった。
 
 それから、右手を、すでにどろどろと大量の液体を、内腿に垂れ流しているプ
ッシーに延ばしていった。あそこを、指で開くようにしていた。ラブジュースの
重量感のある体液の球体が、眼下のビルディングを打ち壊していった。指で触れ
る必要すらなく、破壊していった。
 
 足の爪先を、滑らせるように動かしていた。すぐに次の摩天楼を、ディルドに
するために跨いでいった。両膝が前についていた。同時に股間を下降させていっ
た。欲望の炎は、あまりにも熾烈に燃え盛っていた。すべての配慮を不可能にし
ていた。
 
 全ビルディングを、膣の内部にまで注意深く導く前に、下降するクリトリスの
部分で、びちゃびちゃと嫌らしい音をたてながら、押しつぶしていった。それが
、彼女の欲望の油に、さらに火を焚き付けるような効果をもたらしていた。
 
「ああああん。いいわア……。でも、もうあと二本しか、残っていないなんて!
 
 彼女の声は、雷鳴のように都市に轟いていった。一歩だけ前に出ていた。全身
を瘧にかかったように震わせていた。しかし、今度は注意深く巨大な尻を下降さ
せていった。誇り高い「大人の玩具」に対して、指で加勢するというような卑劣
な真似はしなかった。
 
 一階、また一階。ずぶり。ずぶずぶ。摩天楼は、彼女の力に屈して、飲み込ま
れていった。今度の摩天楼は、濡れた陰唇の間を、その基礎の部分まで飲み込ま
れていた。しかし、巨人族の女のカントの全部を満たすためには、これでも十分
ではなかった。
 
 とうとうライアンの二枚の大陰唇が、大地に着地していた。ビル全体を飲み込
んだ瞬間に、雷電のような喘ぎ声が、口から迸っていた。クリトリスは、そこだ
けで、足元で生き残っていた小さなビル一個を、押しつぶしていった。ライアン
は、『膣内処刑』という愛の行為の時に、膣に力をこめるために使うような繊細
な筋肉を、今回は意識的には全く用いてはいなかった。
 
 抑制をかなぐり捨てていた。淫乱な欲望の命じるままに振る舞っていた。ライ
アンのカントは、ビルを無造作に押しつぶしていくのだった。同時に彼女は、ク
リトリスを押しつけた状態で、ざらざらする地面に摩擦していった。
 
 彼女の欲望の小さな鐘が鳴る下で、何かの建築物が平らになってくれることか
らも、貪欲に快感を得ようとしていたのだった。それから、また立ち上がってい
た。
 
 最後に残った摩天楼を、貪欲な表情で跨いでいた。再び。彼女は武者震いをし
ていた。それから、腰を沈み込ませていった。しかし、今度はその過程を、逐一
、自分でも眺めていた。ずるずる。何かを食べて飲み込むような轟音とともに、
彼女の下半身の口は、摩天楼本体に大きな損傷を与えることもなく、すっぽりと
全体を食べ尽くしていた。日頃の『膣内処刑』の修練の成果を、体が覚えていた
 
                 *
 
 彼は恐怖と忿懣の入り交じった感情のあまり、絶望的な気持ちになっていた。
思わず、うなり声を発していた。涙で滲んだ視界を通して、彼女が性欲のはけ口
として、他のすべての摩天楼を次々に破壊する光景を眺めていた。
 
 今では、彼女のよだれをしたたらすオマンコが、彼の頭上の空を占領していた
。破壊された建造物の、今なお十分に大きな固まりが、雨のように地上に降り注
いでいた。プッシージュースの、ねばねばとした液体からなる球体が、そのなか
に交じっていた。彼女の性臭が、大気中に充満していた。
 
 
 いきなりのことだった。巨大な臀部が、下降して来たのだった。彼は恐怖のあ
まり絶叫していた。オマンコを注視していた。全天が、オマンコに占領されてい
た。女性自身が、摩天楼にタッチした。ぬるぬるとした粘着質に覆われたプッシ
ーのリップが、ビルディングの周囲の壁面を滑っていった。飢えたヴァギナが、
ビルを飲み込んでいた。
 
 
 巨大なカントの内部に、閉じこめられたのだ。気圧が上昇していた。鼓膜が、
ポンと音を立てていた。内側に凹んだ。鼓膜が、鋭い錐で刺されているように痛
んだ。どこかの部屋で、非常用の明かりが点灯していた。ビルに非常用の電源が
入ったのだろう。敏感なセンサーが、突然の暗黒の襲来に夜が来たと、判断して
しまったのかもしれない。
 
 それだけの光量でも、彼女の性器の内部の世界の光景を、一瞥するためには十
分だった。ピンク色の濡れたような壁面に大木のような赤や青の血管が、ジャッ
クの上っていった豆の木のように無数に走っていった。一本、一本が大木のよう
に太かった。脈動していた。ずずーん。ずずーん。ライアンの脈動が、規則正し
くビルを振動させていた。
 
 轟くような雷鳴と振動があった。プッシーのリップが、大地に着陸したという
ことが、見えなくてもはっきりと彼にはわかった。頭上の遥かな高処に、彼はプ
ッシーの行き止まりになる場所を眺めていた。あそこが、子宮孔だろうか。
 
 しかし、本当は、この摩天楼という都市では最大のサイズを誇るも高層ビルろ
持ってしても、彼女の内部を充満させるには、十分ではなかった。彼女自身も、
その事実に気が付いていた。
 
「ああああん。この摩天楼でも、わたしには小さすぎるわ。この中にも、多くの
男の人達が閉じこめられているのよね。でも、ごめんなさいね。あなたたちの、
どなたの持ち物でも、、わたしには小さすぎると思うわ。でも、でも……。どう
か、お願い。わたしを、中からでもいいから、好きにしてちょうだい」
 
 ずるずる。物を啜って飲み込むような音。ゴロゴロガラガラ。何かが壊れるよ
うな音。様々な物音が、多様に入り交じって聞こえていた。その根底には、いつ
も重低音のライアンの鼓動が、遠い大地の太鼓のようにして響いていた。
 
 カント全体が上昇していた。彼は彼女の濡れたような粘着力のある皮膚が、容
易にビルの屋上部分を、本体から引き剥がしていく凄まじい光景を、見ることが
できた。
 
 ビルの一面のの壁全体が、摩擦力に負けて倒壊を始めていた。急いで、彼は階
段を駈け下り始めていた。もう一度、ライアンのうめき声がした。それをきっか
けのようにして、膣全体が下降の動作を開始したのである。彼は一階下の部分の
床に達していた。
 
 一回のストロークごとに、速度は、どんどん早まっていった。
 
 彼のカウントでは、七回目のストロークの後のことだった。屋上から数えて、
五階下の場所にまでは到達していた。窓はどこにあるのだろうか。捜し回ってい
た。何枚ものドアを開けていった。
 
 いきなりだった。ある部屋の中に、転がりこんでいた。そこに、あの赤黒い巨
大な肉壁を見たのである。部屋の半分が、失われていた。ばっくりと食べられた
ような光景だった。カントの飢えた欲望の餌食になったのである。
 
 次のストロークでは、重量感のある木製の大きなデスクが、ぬるぬるとした液
体の流動に巻き込まれていた。床を滑っていた。社長の机でもあるだろうか。カ
ントと床の間にある、木の壁に激突していた。そこに、大きな穴を開けていた。
また、いきなりのようにして、非常灯がついた。
 
 匂い豊かなラブジュースが、天井の裂け目からボタリボタリと、何滴も滴り落
ちてきていた。ビルディング全体が、巨人女の震えに呼応して振動していた。
 
 外部から目撃している者がいたとしたら、濡れそぼって、凌辱されて、惨めに
破壊された摩天楼全体が、それでもほとんど原型を保ったままで、屋上まで完全
に、性器の外に出るまでの状態になっている光景を、見ることができたことだろ
う。
 
 それから、またしてもいきなりだった。ライアンが、巨大な尻を沈下させてい
ったのだった。プッシーのリップが、また別な部屋の大きな部分を、彼が立って
いるドアから、わずかの2メートル足らずの場所だけを残して、引き裂いて押し
潰していく物凄い光景を、直接に目撃していた。
 
「あああああああ!」
 
 ライアンの雷鳴のような歓喜の咆哮を耳にしていた。
 
 地獄の釜の蓋が開いた。上に下に。上に下に。前に後に。全ビルディングが揺
れ動いていた。彼女が、物凄い速度で尻を上下させているのだった。カントは、
ほとんど彼のいるドアに接触するような位置にまで、接近していた。
 
「イエス!イエス!イエ〜ス!行くう〜!ああおおおうううう!」
 
 彼はライアンの歓喜の言葉を耳にしていた。
 
 オーガズムを迎える、巨人の女性の肉体の喜びの声を、内部から鮮明にきいて
いた。自体の急変を悟っていた。ヴァギナの筋肉が、収縮を開始していた。周囲
のすべての壁に、無数のひび割れが入っていた。彼の体が、ラブジュースに覆わ
れていた。信じられないような強大な圧力を感じていた。
 
 「いやだ!」
 最後の思いは、ただそれだけだった。
「俺は自分で……」
 
 そして、彼女は彼の命を、オーガズムの渦中に磨り潰していったのである。
                 *
 
 
 ライアンは最高の気分だった。ビルディング全体が、ヴァギナの筋肉の力によ
って、平らに潰れていく感触を堪能していた。
 
 とうとう、無造作に背後に倒れこんでいた。自分に割り当てられた仕事の時間
が、あとどれくらい残っているのかということにも、すでに無頓着になっていた
 
 彼女の後頭部は頭蓋骨の形の通りに、粉々に崩れていく数区画分の都市の地面
に、柔らかく沈み込んでいった。ぼんやりと青い空を見上げていた。白い雲が流
れている。美しかった。人工の産物であるとは、とても信じられなかった。空の
高さまでが感じられた。
 
 ためいきをついていた。ライアンは、両手と両脚を爪先まで、長く長く伸ばし
ていった。巨体が、全市に広がっていった。ミュールの靴を、足を蹴りだすよう
にして、爪先から脱いでいった。ゆっくりと、素足の裏の感触だけで、都市を探
索していった。足の下で倒壊していく哀れなビル達は、本当にはどんな感触を与
えてくれるのか。敏感な素足の皮膚で、注意深く試していた。
 
 親指の固い皮膚の下で、都市の建築物が、どんなに脆く儚く壊れていくのか。
ほとんど、馬鹿馬鹿しいほどに思えた。あまりにも簡単なことだった。笑いだし
たいほどに、滑稽なことだった。一個のビルディングを破壊するのに必要な力は
、どれぐらいなのか?親指の、ほんのわずかな動きだけで十分だった。
 その力を、どんなに簡単に生み出すことができるのか?身長3マイルの巨大女
と、「巨女ゲーム」のプレイを楽しみたいという思いを抱いた男は、なんという
愚か者であったのだろうか?今、彼は、どこにいるのだろうか?そもそも、生き
ているのだろうか?この二時間で、あまりにも多くのことが、彼の身辺には生起
したはずだった。
 
 もしすると彼女は、最初の一歩で彼の命を、この世から抹殺してしまったとい
うことさえ、ありえたのではないだろうか?住民たちのなかで、彼こそが「巨女
ゲーム」の真のプレイヤーで、このすべての大量殺戮を命令した元凶であること
に、気が付いた者はいなかったのだろうか?それとも、彼はまだどこかで生きて
いて、彼女の山のような壮大なボディに、よじ登ろうと苦闘しているとでも、言
うのだろうか?
 
 しかし、都市全体を見渡してみても、この最後の可能性については、ライアン
としても、信じることはとてもできなかった。彼女が引き起こした破滅は、あま
りにも徹底的だった。大規模な破壊の跡が、そこにはあった。
 
 しばらくの間、無言で自問自答をしていた。あらかじめ要求されていた二時間
をもたずに、都市が終焉を迎えたとすれば、彼女は契約不履行で訴えられること
になるのだろうか?
 
 「死亡したお客さまは、待望のお客さま」
 
 縮小人間専用の娼婦の世界には、そんな格言があった。少なくとも、この仕事
においては、真理だわ。ライアンは、そう考えていた。彼が死んでいるかどうか
ということは、そうたいした問題ではなかったのだ。どうせ、あと二分以内で、
すべてけりがつけられる問題だった。
 
「みなさん!この都市の人々は、わたしに十分な快感を与えてくれました。でも
、もうお別れを言わなければなりません……」
 
 彼女は、そう宣言すると立ち上がっていた。
 
                 *
 
 もうほんの数個の、摩天楼しか残ってはいなかった。ほとんどの物は、彼女の
尻の下で、平らに押し潰されていたのだった。他の物も、彼女が快感のあまり無
意識に暴れた時に、巻き添えを食って倒壊していた。
 
 数個の、なお生き残っていた者達も、彼女のフットプレイの際に、終末を迎え
ていた。都市の郊外の部分は、最初のこの町の散策の際に、十分に平らな更地に
なるまで、地ならしをされていた。
 
 摩天楼外と郊外の中間地帯には、まだかろうじて数個のまっすぐに立っている
ビルが残されていた。彼女のミュールが、その部分の処理をしていった。
 
 それぞれの強大な足跡が、完全な安息が、その土地に訪れるまでに、破壊の痕
跡を明瞭に刻印していた。彼女は、さらに性的な満足を得るために、迅速で容易
な破壊の方法を求めたのである。
 
 一個の始末を始めた時から、経験豊かな彼女には、残りの十分間で十分である
ということの見当が、すぐについていた。さらに、数歩の狙いを定めた歩みによ
って、ミュールの方に近付いていった。わざとふらふらとして、不器用な調子の
歩みだった。足を靴に滑り込ませるまでに、一万を越える小さな家々を血祭りに
上げていったのである。
 
 彼女は、最後の中規模の摩天楼群と、正面から向かい合って立っていた。両方
の踵を持ち上げていた。しゃがみこんでいった。如何にして、男性の文明に屈辱
感を与えてやるか。マスターベーションの後の、生理的な欲求かあった。身体自
身が、適切な答えを教えてくれていた。
 
 オシッコである。さっきから、尿意を覚えていたのだ。オシッコ。なんと汚ら
しく、それ自体がアンモニアの臭気さえも発するような、下品な単語なのだろう
か。
 
 下界に蠢いている、取るに足らないダニかノミのような、この世界の人間達に
とっても、同じ意味の言葉なのだろう。もっとそれは同時に、今となっては死と
屈辱感という重々しい意味も、持ち得ていたのだが。
 
 放出していた。摩天楼が爆発していた。即座に、押し流されていった。力強い
ジェット水流の直撃を受けた人間は、誰も彼も、即座に、ずたずたに引き裂かれ
ていった。肉の固まりと化していった。たとえ間接的な噴流であっても、自動車
を平らに押し潰し、人々を粉砕するために十分な激烈な力を秘めていた。
 
 洪水は、都市にその痕跡を、鮮明に刻み込んでいった。ライアンのオシッコの
洪水に巻き込まれた人々は、泡立ち乱れる流れの中で溺死していった。死が跳梁
する、長い何秒間かが経過していった。ライアンは微笑していた。オシッコから
赤ワインの匂いが、ほんのりと立ち上っていたからだ。
 
 さしものジェット奔流の力も、ついてに衰えて途絶える時が来た。なお十分な
力を秘めた、数滴の巨大な水玉が、信じられないような惨劇の光景に、最後の印
象的な仕上げを施していた。
 
 ゆっくりと茶色の洪水は、都市の周縁部へと広がっていった。柔らかい地面に
、水分が染み込み始めていた。彼女の肉体からの廃棄物に交じっている毒素の成
分だけが、濃厚に地表に残ることだろう。
 
「今日は、プラットフォームのミュールを履いてきてよかったわ。いくら自分の
オシッコでも、薄い靴底や、ましてや素足で踏むなんて、絶対に嫌ですもの」
 
 この事態への唯一のコメントだった。
 
 さらに十歩ほどの物憂げな歩みで、残ったビルディングのすべてを、その体重
の下に踏み潰していった。
 
「おしまい!」
 
 そうつぶやきながら、ライアンは都市のあちこちにちらばった下着と、ガウン
を拾い集めていった。ついに自分のプレイグラウンドから、一歩を踏み出してい
った。
 
 同時にミュールも足元から脱ぎ捨てていった。最後の一歩で、そこに残してい
った。たとえオシッコの数滴であっても、汚れたプラットフォームのミュールを
、もう一度、履くような気分には、とてもなれなかった。
 
 おそらく、この星の別の都市が、汚染された地域の清掃の仕事を担ってくれる
ことだろう。ミュールという粗大ゴミの処理も、そちらに任せるつもりだった。
 
 コントロールのライフ・スキャン(残存生命数計測装置)が、「20」という
数字を点滅させていた。「巨女ゲーム」としても、異常に少ない人数だった。1
000万分の20名!しかし、一時間と十七分間という時間も、この仕事として
は、異常に長い条件であったのである。
 
 ライアンにとって、最も興味深い数値は、今回の「巨女ゲーム」のプレイヤー
」の死の時刻を示すデータだった。それが、もっとも快感の高いオーガズムを覚
えた時刻であることは、容易に見当がついたのである。
 
 都市の惨劇についての六つの方位からの、完全な映像と周囲の音声を記録した
データチップが、新たに彼女のアーカイブに加えられた。暇なときに鑑賞してみ
よう。
 
 ライアンは、緑のボタンを押した。セイフティ・チェックが、彼女がステージ
の外に出たことを確認していた。ささやくような「シュッ」という空気の音とと
もに、都市の全景が消失していた。元々の惑星の地表の位置に、転送されたので
ある。
 
                 *
 
 莫大な報酬を期待して心を弾ませながらも、ライアンは上の階へと全裸で上っ
ていった。彼女のメディア・システムは、今日のニュースのすべてを記録するよ
うに、プログラムされていた。どこかでは、この惑星以外の都市を、おもちゃに
するという行為についての、若干の退屈な議論が交わされることだろう。同胞で
はなくても、一千万の人間の命を二時間のゲームに費消してしまったのである。
普通は、騒ぎにならなければ、おかしいだろう。
 
 「巨女ゲーム」のプレイは、頽廃した銀河連邦の世界では、合法的な遊びであ
る。何をしても罰せられることはない。彼女の転送機械も、禁制品ではなかった
。ライアンは、ベッドに入った。力と快感の記憶を反芻しながら楽しい夢を見始
めていた。

 
4・摩天楼のディルド 了


 
全編 終わり
 
ヘディン・作
1999年9月
笛地静恵・訳
2005年6月
【訳者後記】
 これは、ヘディンの「ア・ゲーム・オブ・ライフ」の全訳です。邦題は一度は
「人生ゲーム」と、洒落てみようかと思いました。が、現在も日本で人気のある
ゲームのようです。遠慮することにしました。意訳して「巨女ゲーム」としまし
た。
 
                 *
 
 笛地は、この作品の遊び心が大好きです。好感が持てます。「巨女ゲーム」の
世界で想像を逞しくしました。ずいぶんと長い時間、遊ばせてもらいました。こ
の小説を翻訳中、笛地は二週間ほどニューヨークに滞在する機会がありました。
高層のホテルの窓からの展望を楽しんでいました。非人間的な冷たい金属とガラ
スの世界の中で、巨大娼婦の肌のぬくもりを妄想していました。
 
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 笛地にとってのヘディンの魅力は、この人が、いわゆる「小説」を読むことが
好きなGTS作家であるという点です。この作品に、SF小説の名作のいくつか
を連想することは容易でしょう。同様にして『エルリコンド村物語』の背後には
、ファンタジーの名作が横たわっています。『戦争ごっこ』に、アクション冒険
小説に、どっぷりと填まり込んで楽しんだだろう、ヘディンの読書経験の反映を
読むことは簡単です。
 
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 ヘディンの魅惑は、小説の世界に親しんできた来た人が、その創作技法をGT
Sというマイナーな分野にも、持ち込んでくれたことにあるでしょう。文章が密
度感を持っています。想像力の自由な展開に必要なだけの、十分なカロリーを与
えてくれます。おいしい写実的な書き込みを、満腹するまで提供してくれるので
す。SF小説の名作を楽しむのと同じ気分で、活字のみが作り出せる濃密な空想
の宇宙に、浸り切ることができます。
 
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 ライアンが、縮小された世界では、女神のような巨大な力を持ち得るのに、現
実には、やたらに金勘定に細かい女性であることも、娼婦にならざるを得なかっ
た人生の金銭の苦労を想像して斟酌してみれば、自ずと、しんみりとしてしまい
ます。彼女の自由奔放な破壊活動に、自然に感情移入して応援している自分に気
が付くのです。これも人間が書き込まれている、小説ゆえの効果でしょう。
お楽しみ頂ければ、幸甚です。(笛地静恵)
 



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