《 真夜中の体育倉庫 》 最終話 ---------------------------------- (健一の視点で) 俺の名は健一、ごく普通の男子高校生・・・のつもりだった。 しかし、俺は超能力一族のリーダー始祖の生まれ変わりだったらしい。 そのせいで同じ超能力一族の一員、愛花に襲われて小人にされて酷い目にあった。 だが俺は生きている。生きているんだ。 もちろん、小人サイズではない。普通の人間サイズに戻っている。 巨大化した愛花による都市破壊のあった日から1か月が過ぎていた。 人々はあの破壊から復興しようとしている。 俺の学校も家も破壊されなかった。日常を取り戻している。 あの時、俺は意識を失っていたのだが、何が起こったのか分かっている。 愛花と始祖は異次元に消えた。 戦闘ヘリの空爆から俺を守るために、愛花はああするしかなかったのだ。 巨大な愛花が消え失せたので、戦闘部隊は空爆をせずに基地に帰還した。 大勢の人たちが巨人愛花に潰された・・・。 大災害のようなモノだ。 心は痛むが俺にはどうしようもない。 もうこんな事が二度とないように願うしかない。 無事に自宅に戻った俺は、「何処に行っていた」と父親に怒られたが、 友人の川田が適当にごまかしてくれた。 やっぱり川田は俺の友人だ。 そして始祖が何らかの超能力を使ったのだろう。 不思議な事に、巨人となった愛花の姿は写真にもスマホにもビデオにも映っていなかった。 人々の記憶もあやふやで、正体不明の巨大モンスターが街で暴れて消えた。 ただそれだけの記録しか残っていない。 とにかく捜査の手が俺の所まで来なかったので、普通に生活してる。 俺が「始祖の生まれ変わり」だと人にばれたら、どうなるのか? 人類は「世界を支配しようとする始祖」である俺を許しはしない。 恐ろしい運命が俺を待っているだろう。 幸い、俺の秘密は誰にも知られていない。 この秘密は、誰にも言わずに墓場まで持っていくしかない。 とにかく俺は生きている。 ほとんど生存不可能な死線を乗り越えて生きている。 あの巨大娘の愛花に襲われる心配はないのだ。 ・・・・・・。 ・・・・・・。 平凡だが、平和な日常がかえってきた。 これを幸せと言わずして何というのだ。 そうだ、愛花はいない。始祖も俺の中からいなくなった。 後は俺が幸せに生きるだけだ。 しかし・・・どうしてこんなに寂しいのだ?? 夕焼けの光が差し込む放課後の教室。 誰もいない教室で、俺はたたずむ。 誰かが来るのを待っているのか俺は?? そうだ、俺は愛花を待っているんだ! ようやく思い出した。 放課後の教室で、いつも俺を見つめていた女の子がいた事を! 愛花は、ずっと俺を見つめて、恋をしていたんだ。 もっとはやくに俺が愛花に気がついて、愛花に声をかけていれば・・・ 普通の恋人として、踊って、歌って、ハッピーに生きていけたかもしれないのに。 もう・・・愛花はこの教室にいない! ここにはいないのだ! 常識で考えれば、あの巨大電波娘の愛花と、始祖の怨霊が消えうせて、 平凡だが普通の生活が取り戻せたのだから、俺にとっては万々歳だ。 しかし・・・俺の心は、ぽっかりと穴が空いたようだ。 何だ、この俺の心の中の空虚感は。 虚しい・・・寂しい。 何故だ、なんでこんなに悲しいのだ。 そうだ、俺は愛花を愛していたのだ!! 俺の人生で、ただ1人、俺が必要だと言ってくれた女の子! 愛花が巨人でもいい、小人にされてオモチャにされてもいい! 俺は愛花が好きだ!! お願いだ! 帰ってきてくれ!! 愛花!! @@@@@ 突然の事だった、俺の頭の中に青い光のイメージが広がる! 始祖だ! 始祖が生きていたのだ。 始祖の声が頭に響く。 {健一よ、お前の願い、かなえてやろう} 「お前、生きていたのか!」 驚愕のあまり大きな声を出す俺。 このバケモノは世界を支配しようとしているのだ。 {我はお前の意識下で存在する精神エネルギー体だ、 健一よ、お前が生きている以上、我も生きているに決まっているわ。 そんなに騒ぐな。我はお前の敵ではない} 始祖の言葉は何かふっきれたように温厚なものだった。 始祖の話によると、異次元空間へ愛花と行った始祖は、 そこで意識下の戦いを行い、見事に愛花に敗北したらしい。 「強い者が正義だ」という行動理論で生きている始祖は、 もう愛花の肉体を奪う事を諦めたらしい。 {むはっは、むははっははっは! まぁいい、数千年も待ったのだ。今さら数十年待っても平気だわい。 いずれ、我が完全に復活できる日が来るまで気長に待つさ} 凄い自信がありそうだ。始祖が、このまま何もしないとは考えにくい。 俺の知らない「切り札」を持っているのだろう。 こいつは、また悪さをするのは間違いない。 しかし、俺は始祖の言った言葉が気になった。 「始祖さんよ。俺の願いをかなえてくれるって言ったけど、それはどういう意味だ?」 {お前は愛花にもう一度会いたいと願ったのだろう。 愛花はお前を守るために、無理をして異次元空間に飛び込んでしまった。 ゆえに、現在、この地球に帰れなくなっている。 我はお前の意識と合体しているから、この場所に帰ってこれたのだがな。 さて、質問をしよう。お前は愛花に会いたいと言ったな。 それは真実なのか・・・心して答えよ、健一よ} 俺は愕然とする。この妖怪始祖は愛花を異次元から救出する事ができるのか!? {念のために言っておくが、愛花は自分勝手な娘だ。 この地に帰ってきたら、またお前を小人にしてオモチャにするだろう} 愛花にされた恥ずかしい行為が、俺の胸の去来する。 そうだ、あの娘は俺を小人にして、抵抗できない俺を好きなように弄んだ。 愛花が帰ってきたら、俺は絶対に抵抗できない。 |
{そして、最悪のパターンだが愛花がまた巨人となって街で暴れまくり、 人類の猛反撃をくらい、お前の身体が空爆で燃やし尽くされるかもしれない。 それを承知で、あの愛花をこの世界に呼び戻す勇気があるのか!} 俺の心は決まっていた。 愛花に会いたい! ただそれだけだった! 俺は心を決める。 「始祖よ、お前が何を考えているのか知らない。 お前は必ず、また何かの悪だくみを考えていると思う! だが、お前が愛花を助け出す力があるのなら・・・」 一瞬だけ躊躇する。 あの愛花が帰ってきたら、とんでもない事になるんじゃないのか。 それなら、このまま平和な日々を過ごすのが正しいのではないか!? だが俺は叫ぶ。間違いのない心からの叫び。 「俺は愛花を愛している! 愛花にもう一度、会いたい! 愛花と、いっしょに生きていきたい!」 {健一よ、よく言った! 汝の願い、我は聞きとどけた} 始祖の言葉が響く。 {我は始祖なり、かって別次元の宇宙を支配した! 健一よ、お前は我であり、我はお前なのだ。 共に生きるのだ! 健一! そして再び我らが、 この世界を支配するのだあああ! ぬはははっは、考えただけで楽しいではないか! ふん、それでも手駒は必要か。 異次元空間で彷徨う、お前の愛する愛花を、 この地に呼び戻してやるわあ!} 始祖の気配が消えうせる。 どうやら、俺の意識の中に沈みこんだようだ。 この邪悪な始祖は、いつか必ず復活する。しかし今はどうでもいい。 そんな事よりも、この波動は・・・! 愛花だ、愛花が帰ってきた! 夕方の放課後の教室から俺は飛び出す! 廊下を走り、校庭に行き、校舎を見上げる。 そこに愛花はいた!! |
万感の思いが胸に去来する。
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