《 いつまでもあなたと 》
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私と彼は愛しあっていた。
彼といっしょにいるだけで、私は幸せだった。
私は生まれつき病気がちで、体が弱かったのだが、
そんな私に、彼はいつも優しくしてくれた。
二人で幸せな家庭を築こう。 私達は結婚した。
夜空を見上げた時、月が私達を見守ってくれていた。
しかしそんな時に、あの戦争が起こった。
政府は国民に呼びかけた。
国のため、平和のため、戦争に参加しなさい。
この正義の戦いに、我が国は必ず勝利するでしょう。
彼は軍に入隊した。 私は泣いて反対した。
しかし、彼はこう言った。
「心配しないで、必ず帰ってくる。
国のために戦うんじゃない、君を守るために戦うのさ。
戦争はすぐに終わるよ。 僕は必ず君を幸せにしてあげるから」
それ以上、何も言えなかった、 私は知っていた。
私の病気を治すには、高額の医療費がかかることを。
そして彼が軍に入れば、家族の私は、陸軍病院で特別な治療をしてもらえることを。
そして彼は戦場に行った。
二年の月日が流れた。
その時、私は軍の病院に入院していた。
ある日、軍の将校と名乗る人物が私のところへやって来た。
将校は、「彼の戦死の報」 を私に伝えた。
世界が真っ暗になった。
・・・・・・。
そんな話を信じない。
だって、彼は 「きっと帰ってくる」 って、私に約束してくれたんだから。
私は、彼が必ず約束を守ると知っているの。
彼が帰ってきたら、優しく 「おかえりなさい」 と言ってあげるの。
私は知っていた、自分があと数ヶ月しか生きられない事を。
この病院の治療でさえ、私の難病の進行を止められなかったのだ。
私の目は、すでに物を見る力を失っていた。
親切な将校さんに頼んで、私の体をベッドから起こしてもらう。
今は夜、窓の方から、月の光が瞼に感じられる気がした。
いつか彼と見つめた月は、今も人々を見守ってくれている。
そう・・・、彼が死んだ、なんて嘘よ。
彼は今も、戦場で戦っているに違いないの。
平和のため、この国のため、そして私を守るために・・・。
ならば、私は天へ還る。
あの夜空に輝く月といっしよに、いつまでも、彼を見守ってあげる。
そして私は夜空(そら)にいる。
今も私は月を抱いて、見守っている。
彼と、私が愛した、この世界を。