《 彼は私だけのもの 》

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 優美子は、胸の谷間に入れた「小さな彼」を見つめていた。

 彼女は彼が起きるのを、じっと待っていた。

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 男は柔らかく暖かな肌色の壁に挟まれ、夢から目覚めた。
彼の名は勇二。 熱い視線を感じ、空を見上げる。
そこには、ある筈の無い
巨大な物が存在していた。



「う、うわ!!」 勇二は叫ぶ。

「落ち着いてください、私です」 巨人の優しい声が響く。

 勇二は、なんとか状況を把握した。。
恋人の優美子が、とんでもない巨人になっているのだ。

「なっ、なんで、君はそんなに・・・大きいの」
 彼は
巨大な優美子の胸の谷間に挟み込まれていた。

 彼女の優しい瞳が勇二を見下ろす。
「違うんです、勇二さん」

 彼女の目に涙が浮かぶ。
そして、彼女の腕が勇二を挟み込んだ豊かな胸を抱きしめたらしく、
ものすごい圧力が勇二の体に加わる。

 柔らかだった肌色の美肉が、
勇二を簡単に潰すことができる恐ろしい存在に変わっていた。

 息ができない。 勇二はもがく。

 優美子の瞳から、一滴の涙が頬を伝い顎から流れ落ち、
勇二の前を落ちていく。 腕の力が緩み、彼女が優しく語りかける。
「心配しないでください、私がお世話をしますから・・・」

 信じられない事だが、どうやら勇二が小さくなったらしい。
今の彼の身長は5cmくらいだろうか。
いったい、どうしてこんな事になったのか?

 呆然としながらも彼は答える。
「ああ、希望は捨てないよ。必ず元にもどれるさ」

 まず最初に、自分が小さくなった原因を知らなければならない。
優美子が協力してくれるだろう。

 だが、その時、勇二は壁にかけられた鏡に気がつく。
鏡には優美子の巨大な顔が映っていた。

 泣いている筈の優美子の口元が微笑んでいる。
彼女は勇二が小さいという、この状況を喜んでいる!

 彼は絶句する。すぐに真実を理解した。



「優美子・・・君が俺を小さくしたのか?」

 そう言ってから、勇二は(しまった)と思う。
この状況で、彼女にそれを言うべきではない。
 今の彼には何もできないからだ。
嘘であってくれ・・・彼は願う。



 しばらくの間、優美子は返事をしなかった。
その沈黙が全てを教えてくれた。

「・・・そうよ」
 やがて
巨大な彼女が悲しい声で言う。
「勇二がいけないのよ、私を捨てて他の女に心を奪われるから」

「何を言っているんだ、俺は優美子を裏切ってなんかいない!」
 これは何かの誤解だ、勇二はずっと彼女だけを愛していた。
必死で叫ぶが、彼女はその声を無視する。

 頭上に、金色の指輪をした巨大な手指が現れる。
「これを使ったの」

 指輪が勇二の頭上で美しく輝く。
そして、彼を捕らえる
肌色の乳房が、さらに巨大化する。

 いや、勇二がさらに小さくなっているのだ。
彼女の持つ指輪の魔力で・・・。

 頭上の優美子の顔が更に遠のき、拡大していく。
彼女は、もう100倍以上、身長170mを優に越す大巨人になっている。

 信じられない程大きい
彼女の胸の谷間に飲み込まれる。

 勇二はショックで気を失った。


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 悪夢にうなされて、勇二は目を覚ました。
彼は自分の寝室のベッドの上で寝ていた。
 明りをつけようと、ベッド脇の蛍光スタンドのスイッチを入れる。
しかし、何度押しても光はつかない。

 電気が通じていない・・・どういう事だ??
体中が痛む、優美子の巨大な胸に囚われたからか?
バカな、あれは夢の中の話だ。

 ゆっくりと重い体を動かし、窓のカーテンを開ける。
そこには空がなかった。 はるか彼方に壁のようなモノが見える。

 理解するのに、かなりの時間がかかった。
そう・・・彼は優美子の部屋にいた。
彼の住む30階建ての高層マンションごと・・・。

 巨人となった優美子の部屋は、東京ドームの何百倍もの大きさがあった。


**********


 優美子は、カゴの中に入れた都市の一角を眺めていた。
その高層マンションの一つが、彼女の恋人である勇二の住む家なのだ。

 そう、彼女が都市の1ブロックを縮めたのだ、
恋人の勇二を、自分だけのものにするために。

「これでもう、勇二は私だけのもの・・・」

 心配しないで、勇二、私は今もあなたを愛しているの。
この私だけの街で、あなたを幸せにしてあげる。 優美子は微笑む。


 優越感に満ちた彼女の笑いは、縮小された都市の上に轟き渡っていった。






(終わり)



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