《 雲は逃げた 》
CG画像 June Jukes
文 みどうれい
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通行人は逃げた。 サラリーマンは逃げた。 OLも逃げた。
巨大娘のあまりの恐怖に。
でも・・・僕は逃げない。 愛する人を巨大娘から守ってみせる。
車は逃げた。 警官は逃げた。 市役所職員も逃げた。
空にそびえる巨大な娘。 腰に手をあて、優越感に微笑んでいる。
ちっぽけな人間の力では、とうてい抵抗できない無敵の肉体。
彼女が、ちょっと足を上げただけで、僕はアブラムシのように踏み潰される。
八百屋の主人は逃げた。 料亭の調理師は逃げた。 散髪屋の親父も逃げた。
「今すぐお前も逃げろ!そうすれば巨大娘は見逃してくれるかもしれない」 僕の心の中で誰かがささやく。
分かっている。分かっているさ。 僕がここにいても何の役にも立たないコトを。
それでも僕の体は硬直したように動かない。
「あの恐ろしい言葉」が心にうかぶ。
「そして、踏み潰されて死んだ・・・」 まさか自分がその恐怖に怯えるとは思いもしなかった。
ふと見上げると、いつの間にか巨大娘が3人に増えている。
そ、そんな・・・ヒドイ・・・。 絶望という嵐が、僕の心を押し流す。
「つらい時でも努力すれば、きっと良くなる」と聞いたけど、あれは大嘘だ!!
一度、事態が悪化したら、どん底にまで転がり落ちる。 悲しいけれど、それが現実。
1人でも恐ろしいのに巨大娘が3人もいたら、もうダメだ。助からない。
鳥は逃げた。 猫は逃げた。 風は逃げた。 雲も逃げた。
それでも僕は逃げない。 自分が生きてきた証がほしいのだから。