!この作品中には過激な性描写、残酷な殺戮描写が多々含まれています。
御趣味に合わない方はお読みにならないことをお勧めします!
                           作者



  《 破壊神  友紀子 》 前編


                                 作  Pz



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「悪魔、それとも神様。どっちかしら。それに私、まだ人間っていえるのかしら。」

数十時間前までオフィスビルが林立していたその街は今や瓦礫の山と化していた。
あちこちで火災が発生し、黒煙が真っ青な空を覆い尽くしていった。破壊を免れた建物はほとんど
なかった。車道にあふれた瓦礫の山の上を炎と煙に巻かれながら埃まみれになり逃げまどう人々。そ
の恐怖に満ちた視線の先には信じられないほど巨大な全裸女性の姿があった。
身長300メートルはあろうその女性、昨日の朝までは佐藤友紀子という名前の平凡な女性だった。
大股を開き地上の惨禍を見つめて立ちつくす巨大な女性。
 暫くして友紀子は地響きをあげながら歩き始めた。人々の恐怖はまたかき立てられた。
無慈悲にもこの破壊から辛くも生き残り、必死で逃げまどう人間を友紀子は
踏みつぶし始めたのだ。
まるで害虫を退治しているように足をふりあげ、瓦礫もろとも人々を地面にめりこませた。
「ごめんなさい。でもこれがみなさんの運命なんです。」友紀子は小声でつぶやいた。

その数日前。

友紀子は都心の大手商社に入社して3年目のOLだ。今年25になる彼女は仕事以上に
彼氏作りに腰を入れていた。社内だけでなく出会いを求めて合コンにもよく足をはこんだ。
そこでカレと出会ってしまったのだ。

色白で丸顔、肩まである髪を少しだけ染め、155センチと少し低い背を
ブーツでカバーし、もともと大きな胸を強調するセーターを着込んだ彼女が目を
つけたのはカレ、木村信二だった。
 二次会で隣の席に座ることに成功した友紀子はそのまま信二と二人きりになることに
挑戦。そのもくろみもまた成功した。
長身で精悍な顔つき、話題も豊富なスポーツマンタイプの信二は以前から友紀子の
同僚の間で注目されていた男性だった。
メーカー営業、今年30才都内大学を卒業後、入社八年目、係長。それ以外カレのことを
友紀子は知らなかった。

「友紀子さん、あなたは僕と同じだね。」
そういわれた友紀子は何のことだかわからず、えへへ、とだけ笑った。
初デートの夜。夕食も終わり公園を歩いて時間をつぶし意を決して入った、お台場近くの
ホテルの中。
「探していたんだよ。友紀子さんのこと。いや、ユキのこと。」
真っ白な友紀子の胸をゆっくりともみし抱きながら信二は言った。
 「なにが同じなの?私のことをさがしていた?」
敏感な部分を攻められ、久しぶりの快感におぼれながらも友紀子はきく。
「僕たちの世界を作る破壊の女神・・・。」
信二がつぶやく。友紀子は声を上げて笑ってしまった。
「ねえ、それってプロポーズ?破壊の女神はないでしょう。」
信二の責め立てにあえぎながら友紀子はわらった。
 結婚と幸せな家庭、友紀子の頭の中にはそれしか浮かばなかった。
「とうとう幸福を手に入れたのかしら。」
絶頂を二回むかえ、子犬のように友紀子は信二にすり寄り寝入った。
夢のような一日が終わった。

「あら?」月曜の朝8時半。女子更衣室の中。会社の制服に着替えようとしていたとき
友紀子は気がついた。急に下着が窮屈になってきたのだ。
制服のブラウスのボタンが留まらない。さらにはスカートも入らなくなっている。
「ユキったら、今頃成長期?男にかわいがられてるんでしょう!」同僚の女性が冷やかす。
だが、友紀子は怖くなってきた。身長まで高くなっているのだ。
 更衣ロッカーの扉裏の鏡が自分の顔よりも低くなっているのだ。
同僚もそれにきがついた。「ユキ!大きくなってる!」
体の成長はそこで止まった。だが友紀子は恐ろしくなり医者にゆくことにした。
男性社員の作業服と作業靴を借り、保険証を取りにアパートまで帰ることにした。
ブルーの作業着上下に安全靴姿の友紀子は歩くたびに大きく揺れる胸を気にしながら
駅に向かう。きつくなったブラはとっくにはずしていた。すれ違う男性の好奇に満ちた視線を
かいくぐり、友紀子は自宅アパートに帰り着いた。

作業着を脱ぎ、鏡の前にたって友紀子は驚愕した。身長は180センチはあろうか。
自信のあった胸はさらに大きくハンドボール大に膨らんでいた。
あれだけフィットネス通いをしても落ちなかった脇の贅肉がきれいになくなっている。
きゅっとしまった腰の下にはまるい大きなお尻がパンパンに張っていた。
少し短かった足もまたした85センチほどにのびている。
友紀子はしばらく鏡にみとれてしまった。

大学生の弟に弟のジーンズとシャツ、ジャケットを持ってくるよう電話する。めんどくさそうな弟のこえ。
下着、洋服すべて買い換えと余計な支出が少し気にかかるがモデルなみのプロポーションを
突然手に入れたことにまずは驚喜した。
「あ、メールが着いている。」パソコンの着信表示に気がつき友紀子はパソコンを立ち上げた。
「信二からだ。」何か無性にうれしくなる友紀子。今の友紀子をみて信二はなんて言うんだろう。
これでベッドに誘ったら泣いて喜ぶんじゃないのかしら。
メールを開いた。
「ユキちゃんへ。僕たちの世界を作るときがやってきた。強く美しい肉体を手に入れて。
あとは無慈悲なユキの破壊願望を解放するだけだ。」
友紀子はむっとした。そして直後に背筋が寒くなった。
「なんて内容なんだろう。信二が私の体をこうしたのかしら?カレって何者?
それにまた破壊願望なんて書いている・・・。」
信二の携帯に電話をかける。留守電だった。すぐに電話するように少し怒った調子で
伝言を入れる。
弟が来るまで暫く横になった。

「あの、佐藤友紀子さんはこちらにいらっしゃいますか?」どぎまぎとしながら自分の姉と
信じられない様子の弟から着替えをひったくり、友紀子は買い物に出かけた。
平日の午前中に街に出かけるのは久しぶりだった。
下着、洋服を買い込み、午後から医者にゆくためいったんアパートに戻る。
予算の都合上あまり高価な服は買えず、そのサイズからしても男性用のカジュアルものの
ような服が多くなった。
「お給料がでたら都心にでて海外物でもさがすか!」
タイトスカートにハイネックのフランネルシャツ、ジーンズ生地のジャケット、ストッキングに
編み上げのハイカットシューズ。シンプルだが友紀子のプロポーションを引き立たせる
着こなしである。
「ホホホ。これで電車に乗っても大丈夫。」
メイクをし直し、デイバッグに保険証、財布を詰め込み病院にゆく準備をする。
そのとき友紀子の携帯がなった。信二からであった。

「なによあのメール!あなた何様!いえ、何者?破壊ってなによ!女の子に
失礼じゃない?」信二の挨拶も待たず、一気に怒鳴る友紀子。
「僕と一つになったときからユキは僕の一族になったんだよ。これから僕の一族が
この世界を作り替えるんだよ。ユキは破壊神なんだ。もう何千年も前から
この時のために僕たちはユキを探していたんだよ。」
信二はいつもの穏やかな声ですらすらと話し出した。
理路整然と訳の分からない話をされ、友紀子はとまどった。
「とにかく、今からお医者行くから。今晩あえる?ゆっくりとあなたの空想を
聞いてあげる。それと今週の日曜はやすみとれるの?まだネズミーランドに
つれていく、っていう約束おぼえている?」
とりあえず会ってゆっくり話そう、友紀子は思った。信二が何かを知っているのは
間違いない。
「うん、でももう時間がないよ。そろそろ始まるよ。」
それだけ言って信二は電話をきった。



「そろそろはじまる?女の子の日はまだ先だし・・・。」
会社の健康保険組合の指定病院に行くため駅から地元の私鉄に載った友紀子。
「あら!」
友紀子は体の異変に気がついた。まただ。朝に続きまた下着がきつくなってきた。
「いやだ。こんなトコで。」少し青くなる。
 電車が駅に着く。他の路線と接続駅なので、午後二時といっても乗降客は多かった。
きつくなっている靴を我慢し、スカートのファスナーがはずれないように左手で押さえ、
またはずれかかったブラジャーが外に落ちないように右手で押さえる。情けない格好だ。
駅の女性用洗面所に何とか飛び込んだ。
 個室に飛び込んだとたんスカートは裂けてしまった。真っ白なお尻がぷるんと震えながら現れた。
フランネルのシャツはストッキング並にのびていき、やがてこれもちぎれてしまった。窮屈に押さえ込ま
れていた巨大な二つの乳房が解放を喜ぶようにゆさゆさと揺れながら飛び出した。
見る見るうちに友紀子の体は個室の中をいっぱいにしていった。
恐怖で友紀子は声すら上げられなかった。
 やがて簡単な間仕切りで作られたトイレブースをめきめきと壊しながら友紀子は
洗面所いっぱいに膨らんでゆく。
「たすけてー!」初めて友紀子は叫んだ。その大音声に駅員が駆けつけたとき、友紀子はすでに
洗面所の天井を突き破り、駅舎を構成するモルタル構造体を押し破り始めていた。
「なんだこれは!」「警察をよべ!」
若い駅員が叫ぶ。そうしているうちに友紀子の体は洗面所の壁を押し倒して改札口に向かってのびて
ゆく。とうとう頭は鉄筋モルタル構造体を突き抜け、プラットホームを押しげ線路を持ち上げた。
「くるしー!」駅のホームは丈夫にできている。友紀子は体がつぶれてしまうかも、と思い
両腕でさらにモルタルの構造体を押し上げてしまった。
高架式の駅は大音響をたてながら半壊した。
友紀子はようやく背筋を伸ばすことができた。が、まだ巨大化は続いていた。
ホーム上の列車が脱線し、崩れかけたホームからは乗客が地上に転落していった。
さらに巨大化を続ける友紀子の真っ白な太股に駅の残った部分も押しつぶされてゆく。
「いや!どうなってんのよ。」泣きながら叫ぶ友紀子。
がらがらと駅の構造物が崩れ落ちる。停車中の列車は友紀子の巨大な乳房に押し出され乗客を乗せ
たまま地上に落下、火災を起こした。
必死に股間を隠そうとする友紀子は駅の構造物を巨大なお尻の下に埋め尽くし、さらに両足を
地面にぺったりと付け両方の太股をくっつけてしまった。
かろうじて息の合った乗客、乗務員はとてつもなく巨大な友紀子の真っ白な両足に
すりつぶされていった。
自分のお尻の下で人がうごめいているのを感じた友紀子は意を決して立ち上がった。
ねじ曲がった線路、高架線鉄塔、砂ツブ並に砕かれたコンクリートの瓦礫の中に
鮮やかなピンク色をしたシミがたくさん見えた。
友紀子が巨大化を初めて五分足らず。その間友紀子の太股とお尻によって人間の
死体とわからないほどに凄まじい圧力で圧死しすりつぶされてしまった
乗降客の変わり果てた姿だった。
 「ごめんなさい!しょうがないんです!」友紀子は足下を見下ろしてその惨状にまた泣き出した。
まるで足下の駅、駅前のバスターミナルがミニチュア模型のように見えるほどにまで友紀子は
巨大化してしまった。真っ赤な血の溜まりの中にピンク色の内蔵がはみ出し、足にはハイヒールを
履いたままの若い女性の死体が目に入った。スーツ姿がはっきりと分かる、まるで人間の干物のように
つぶれている会社員の死体を友紀子は泣きじゃくりながら指で地面の中から掘り出した。

駅周辺は大パニックとなった。消防、警察が駆けつけ消火、救援活動を始めようとした。
だが、あまりにも巨大な友紀子がその足の置き場所を少し変えるたびに地響きがおこり、電線がちぎれ、
商店街のガラスが割れてしまった。
救助どころか、この巨大な女性をどこかに誘導しなければ。
 一方友紀子は全裸で街の中に高層ビル並の大きさで立たされていることに気が狂う
寸前だった。鏡の前で驚喜したグラマラスな体も今はさらし者のような気分がしている。
「あの、上を見ないでください。」
足下をうろうろする人に友紀子は呼びかけた。
 あからさまに友紀子の真下にきて上を見上げるひとの多いこと。胸と秘部を隠す友紀子は
「もう、踏みつぶされても知らないから。」と、そういって右足で軽く地面を踏んだ。
地響きとともにアスファルト道路が陥没した。ものすごい砂埃が巻きあがった。
全長15メートルほどある友紀子の足は幸い一人も踏まずにすんだが、
足下をうろうろしていた男達はあっという間に姿を消した。
ようやく警察が野次馬を規制し始めた。

「あいつだ!あいつが私をこんなめに!」友紀子は正気を保とうと努力していた。
足下にロープを張り、野次馬を規制している3センチほどの大きさの警官に信二を
連行してもらおうと思いついた。
駅前のターミナルの中に立ちつくす友紀子は注意深く足の位置を考え、腰をかがめ、
包囲を続ける警官に声をかけた。
警官のほうも拡声器を使い友紀子に質問を始めた。
友紀子には人の声が聞き取れなかった。あまりにもその声が小さいのだ。拡声器も
音が割れてしまい聞き取れなかった。
気が動転している友紀子はつい三センチほどの大きさの警察官をつまみ上げてしまった。

悲劇はこのとき始まった。

いくら巨人になったからといって、鉄骨材や分厚い鉄筋コンクリートをいともたやすく
破壊した腕力に友紀子は気がついていなかった。さらに火災を発生させてしまった
高圧電線に直接触れても少しの痛みですんだことも。
つまみ上げられたのは屈強な警察官であったが、興奮した友紀子の右手人差し指と
親指につままれたその瞬間、熟れきったホオズキの実のようにぷちゅ、っとはじきつぶれて
しまったのだ。
 「きゃー!」雷鳴のような叫びをあげて友紀子は尻餅をついてしまった。
デスクの上の消しゴムをつまむ感じで小さな警官をつまむつもりだったのに。
指の先で鮮やかなピンク色の内蔵をはみ出して真っ赤な鮮血を濃紺色の制服に
滴らせた警官の死体を友紀子は信じられない面もちで見つめた。
さらに尻餅をついたとき、友紀子のお尻はバスターミナルに直径30メートルほどの
クレーターを作ってしまった。
 「私、怪獣になっちゃたのかしら。」
あわてふためくこびと警官達を足首周辺にみながらそう思った。
パン、パンと友紀子の耳に乾いた破裂音が届いたのはその直後だった。
その瞬間、両目に痛みを感じた。目に埃が入ったような感触だ。
友紀子はその音が何か瞬時に分かった。
こびと警官の中の何人かが拳銃を発砲したのだ。
しかも友紀子の目玉をねらって。
はっと思った友紀子が改めて駅の周囲を見回すと、手にライフル銃を持った機動隊員の
姿をみた。
「私を殺すつもりなのね!」
どう考えても今の友紀子に通用しない銃火器であるが、友紀子を興奮させるには十分だった。
「わ、私、怪獣じゃありません!」大声で怒鳴る友紀子。
足下も確かめずにたちあがった。バスターミナル周辺の商店街は友紀子が立ち上がろうと足をすりよ
せ、片膝ついた時におおかたツブされてしまった。
「わたし、人間の女の子です!」
こびとにあたる人々には冗談にしか聞こえない台詞だった。
警察用の四輪駆動車に積まれた大型拡声器によって、ようやく友紀子は警官の言っている
ことがわかった。
「それ以上うごくな!殺人の罪が重くなるだけだぞ!」
「誘導するので広い場所に移ってくれ!ゆっくりとついてきなさい!」
拳銃を発砲しといてなんて言いぐさだ。友紀子は思った。
「私は私のやり方で解決するわ!」
大股を開き腰に手をあて、こびと警官隊を見下ろして友紀子は言った。
都心に通じる線路をみやって、友紀子は歩き始めた。
「あいつを捕まえてやる!」
地響きをたて、モルタル二階建ての民家をたったの一歩でぺしゃんこにし、道路にあふれる渋滞中
の車両群を踏みつぶし蹴散らしながら友紀子は都心を目指した。
歩幅はおおよそ50メートル近い。二秒足らずで一歩を歩む友紀子は普通サイズの時速で
90キロ近い速度に換算された。
友紀子の理性が消し飛んだ瞬間だった。

惨劇の起きた駅周辺は数十秒間で静寂が訪れた。だが、友紀子の進む方角にいた人々は
考えもしなかった惨事にみまわれたのだ。
線路と平行して走る街道を友紀子はあるいてきた。
二秒に一回地響きとドシンという振動が近づいてきた。
何事かと人々が街道の音のする方角を見つめた。
そのとき人々は街路樹とマンション群の向こうに、信じられないほど巨大な女性の姿を確認した。
 丸顔でぽっちゃりとした顔は黒い瞳がよく映えている。少し染めている髪は栗色に光っていた。
歩くたびにゆさゆさと揺れる大きな乳房は丸く張りつめ、挑発的に飛び出している。
細くきゅうとしまったウエストの下には黒々としたアンダーヘアーがしげっていた。
真っ白い巨大建築物にも匹敵する大きさのその二本の足はよく鍛えられた筋肉の上に
女性らしい脂肪をつけて代わる代わる前後に動く。
グラビアアイドルにも滅多にいないぐらいのかわいらしさと抜群なプロポーションを持った全裸の
女性。
遠目に見てる分美しい、またたまらなく女を感じるのであったが、地鳴りとともに自分の近くに進んでくる
のが分かると人々の興味は恐怖にかわっていった。

その瞬間も、片側三車線の街道は路上駐車をする車と、商店に配達をするトラック、
その間を縫って走る公共バス、右折待ちの車によって相変わらず渋滞していた。
地響きをあげ、街道に足を踏み入れた友紀子はもはや足下を気にすることもなく一路都心に向かった。
 「霜柱の上を歩いてるみたい。」友紀子は思った。堅いアスファルト道路のはずなのだが
友紀子の膨大な体重を支える足首が踏みおろされるたびに、アスファルト面は二メートル近く陥没した。
メキメキ、とした何か薄く堅い物が足の下で割れていくような感触を歩くたびに感じる。
一方、その足の下では信じられない惨劇が繰り広げられていたのだ。
 
地鳴りと大きな爆発音、クラクションが鳴り響き、渋滞中の車からドライバーはその音のする方を
怪訝な顔つきで見やった。そこでようやく高層ビル並の大きさの巨大な女性が全裸で街道を歩いてくる
のを認めたのだ。
悪夢のような光景であった。
女性らしい丸みを帯びた真っ白い巨大な足。だがその足は二十階建ての
マンションと同じ高さだった。
途中、歩道橋を紙細工のようにちぎりとばし、大音響とともに渋滞中の貨物車、乗用車を踏みつぶして
友紀子は歩く。
十トン積みの大型トラックが足のつま先に蹴り上げられ数十メートル空を飛び車列につっこんだ。
道路上に車を乗り捨て歩道に逃げようとした人々を16トンもある大型貨物の
車体は巻き込み押しつぶし燃え上がりだした。
 さらに辛くも車から脱出できたドライバーの一人の目の前に幅六メートルはあろう巨大な足が
降りてきたのだ。一瞬のうちに足の下のワゴン車、二トントラック、セダンタイプの乗用車は
爆発音に似た音を立てつぶれ始め、次の瞬間地面の中に埋まっていった。
腰を抜かし路上に座り込んだドライバーは呆然とその足の行方を見つめた。
足の重心が変わり深い足跡からその白い足がまた振り上げられようとしたときに
足の裏に黒く人の形をしたシミを認めた。車から逃げた物の踏みつぶされたドライバー達であろう。
巨大な建築物のようにそびえたつ白い足。その付け根には歩くたびにぷるぷると揺れるよく張りつめた
まあるいお尻。巨大な乳房のおかげで真下からは女性の顔を見ることはできなかった。
彼は街道上の惨劇から生きて帰れた希有なドライバーであった。

 「あら。下品な車ね。」
友紀子がたまたま足下を見下ろしたとき、その不幸な車は友紀子の足下を走り抜けようとしていた。
道路上を避難する人をはねとばしながら反対車線を走る車・・・。
車高を落とし、金色のアルミホイールをとりつけ、全面スモークウインドにしたセダンタイプの
3ナンバー車を友紀子は何か腹立たしい思いで見つめた.
少し腰をかがめ、右手をまるでミニカーのようなセダン車にのばした。
いとも簡単にセダン車をつかみあげ、友紀子は顔の前に車を近づけた。
金色の文字でよく聞いたことのある暴力団の名前がリアウインドに張ってあった。
友紀子は何か毒虫をつまみ上げてしまった気持ちになった。
セダン車を左手の手のひらに置き直した。
車のドアが開き、中からはまだ幼さを顔立ちに残したやくざ風の男が二人飛び出してきた。
手には拳銃を持っている。
じっと見つめる友紀子の目玉をねらって拳銃を構えた。
だがよく見ると二人の股間は濡れて、少し湯気が立っているようにも思えた。
「食べちゃうわよ!」
笑いをこらえながら友紀子が言う。すると二人はまた車の中に逃げ込んでしまったのだ。
思わず笑い声をたてながらも、友紀子は左手をゆっくり握り始めた。
紙屑のようにつぶれていくセダン車。さらに友紀子は左手の指で車をまあるくこね始めた。
見る見るうちにセダン車は丸め込まれた銀紙の用になってしまった。
緑色の冷却水に真っ黒なオイル、透明なガソリンが滲みだした。そして真っ赤な血も。
その鉄塊は元の大きさの十分の一ほどにまで小さく押しつぶされた。
二人のちんぴらもまた十分の一に縮まってしまっているのだろう。
少しだけかわいそうに思った友紀子。だがそのまるい鉄塊を地上に放り投げた数秒後、
そんなことを忘れた様子でまた地響きをたてながら歩き始めた。
 友紀子の中で少しずつ感情が変化していった。
色とりどりの車両群。足下一面を埋め尽くしている貨物車、乗用車、バス、トレーラー。
小さすぎる悲鳴を上げて逃げ惑うまるで昆虫のようにしか見えない人間達・・・。
だが、まだ友紀子は自分が元の生活、世界に戻れることを信じていた。
「あいつを捕まえれば・・・!」
友紀子は信二の勤め先を目指して足を早めた。


「あの、公共営業部の木村信二さんはいらっしゃいますか?」
大惨事をその両足で30分足らずのうちに巻き起こした友紀子は
とうとう目的地の信二が勤める都心の本社ビルにやってきてしまった。
彼の勤める会社名が本社ビル屋上に大きくサインされているのをみて、
友紀子は突然まだふつうサイズのOLだった頃のときめきとビジネスマナーを
思い出してしまった。
 友紀子の股下にも届かない十階建ての本社ビルは新築直後のインテリジェントビルであった。
街道沿いに立地するその本社ビルの一階受付に友紀子は信二の所在を訪ねようとしてしまったのだ。
あまりに小さいエントランスをのぞき込むため、友紀子は街道上に四つん這いになった。
顔をエントランスロビーの中をのぞき込むため地べたにすりつけんばかりに下げてみた。
長い栗毛色に光る髪が路面をたたく。左手でその髪を掻き上げる。
エントランスホールの凝った作りの造作カウンター越しにこの巨大な女性の来訪を迎えた
受付嬢は悲鳴を上げてカウンターから走り去った。
身長120メートルの体を持つ友紀子はマナーどおりに受け付けを通しての
面会をもとめようとしたのだ。悲鳴が友紀子の耳にはっきりと聞こえた。
 自分の怪物ぶりを友紀子は再度かみしめた。
「あの、どなたかごぞんじありませんか?」
雷鳴のような友紀子の声に分厚い強化ガラスが震える。
社員は男も女もみな社屋の外に走り逃げようとしていた。
「あ、まって!信二を呼んで!」
友紀子は自分の栗毛色をした髪の上を走り去り、巨大な二つの乳房に行く手を阻まれた
男性社員数人をそっと右手でつかみあげた。
「木、木村はガイシュツ中です!」
小さな男性社員の声は友紀子にそう聞こえた。
「うそ!この中に居るんでしょ!」
信二に会えばふつうの生活に戻れると信じて居る友紀子には小さな男性社員の
言葉を信じる気が毛頭なかった。
いや、信じたくなかったのだ。
「いいわ、私が自分で探します。」
そういうや友紀子は四つん這いから上半身を起こした姿勢に変えた。
さらに路上で友紀子の巨大な足に蹴り飛ばされた四トン貨物トラックを左手でつかみあげた。
友紀子は右手をそっと地上に降ろし、男性社員を道路上に投げ出した。
友紀子が小さな人間に見せた最後の優しさだった。

アスファルト道路を陥没させ、街路樹をなぎ倒し友紀子は立ち上がる。
腰よりも低い信二の勤める社屋を軽くまたぎ越し、左手に持ったトラックを
社屋裏の通用門にぶち当てた。
爆発音とともにトラックは半分につぶれ、通用口はその残骸で埋められてしまった。
友紀子はまた正面エントランスに向かい、お尻を地べたにぴたりとつける女の子座りを
してみた。
両方の太股が信二の勤める社屋を挟み込む。高さ二十メートル近い巨大な白い太股の壁が全社員の
逃げ道を奪った。
このビルからは誰一人外に脱出する事ができなくなってしまったのだ。
「信二、でてきて!」
友紀子は最上階から強化ガラスを指で突き破り、部屋の中を伺い始めた。

最上階の役員フロアから友紀子は探し始めた。女の子座りをしていてもビルは友紀子の胸と同じ高さ
にしかならない。
顔をビルにくっつけるようにしながら上半身をかがめる。ガラス面を指ではじく。すると、
強化ガラスは粉のように砕け散り、友紀子は外壁を崩しながらその巨大な手首でフロア中を
探り始めた。
幅50メートル奥行き25メートルほどの本社ビル役員フロアの中を友紀子の右手が天井を
むしり取り、床をめくりあげ右に左に何かを探るように動く。
高価な仕上げ材を使った間仕切りで構成された役員室を友紀子の
右手はいとも簡単にたたき壊す。
スチールでできた間仕切り中の会議室が目に入る。友紀子はどんな小部屋も見逃さなかった。
指で壁を押し倒し、そのままぐいっと、指を横に滑らせ間仕切りをきれいに取り払った。
中には会議中の会社員がおびえきった表情で目の前の惨事を呆然とみていた。
中の一人が悲鳴をあげ、非常口目指してかけだした。残りの社員もそれにつずいた。
友紀子は無言で左手をビルの外壁に突き立てた。
砂糖細工のようにビルの外壁は突き破られ、友紀子の左手は非常階段がある
階段室に現れた。
階段をむしり取り、最上階の人々の逃げ場を奪う。
友紀子はじっと破壊しつくされた役員フロアにおびえきって立ちつくす信二の上司達を見つめた。
どう見ても40代以上のおじさんたちだ。中に秘書室の女性であろうか、上品なブラウスを着こなす
きれいな女性も数人混じっていた。
友紀子は信二が居ないと分かると、さらに下のフロアを探し出した。

一戸建て住宅を一掴みできそうな友紀子の手はためらうことなく管理部門の入っているフロアーに
つっこまれ、また間仕切りを押し倒し、天井と床を破壊しながら右に、左にかき回した。
天井裏の空調設備がむしりとられ、スプリンクラーが作動し友紀子の手をぬらす。
電子警報機はあらゆるアラーム音をならすがなににもならなかった。
フロア内にいた人々は重たい収納庫を簡単にはじき飛ばし、フロア内をまるでブルドーザーの
ようにデスクや什器を押しのける友紀子の手からのがれるため、駆け回った。
だが、友紀子はフロアの中をのぞき込み、信二の姿がみられないのを確認すると、もはや
産業廃棄物となった、デスク、いす、収納庫を床材、天井材共々片側に押しやった。
それまで上手にフロア内を逃げ回っていた半数の社員はここでデスク、什器の山の中に
埋められてしまった。
 あらゆる悲鳴、鳴き声、友紀子を罵声する怒鳴り声、友紀子の耳にははっきりと聞こえていた。
顔をビルに押しつけて部屋の中を覗き込み、腕をつっこんでかき回しているのだから
収納庫の下敷きになる人や、山積みされ部屋の中を押しのけられるデスクや、建築材の中に埋められ
ていく人を目の前にしているのだ。
友紀子はまた泣き出してしまった。
「ごめんなさい。でも信二を見つけないとわたし困るんです。」
少しえづきながら友紀子はいった。
「なんて勝手な理屈だよ!」
すべての壁が取り払われ、右と左に什器、建材のスクラップがきれいに寄せられたフロアで
生き残った社員が吐き捨てるように言った。
この怪獣のような巨大女性の機嫌を損ねればあの大木のようなしかし女性らしい線を
持った白い指で、虫のようにツブされるかもしれない。
だが、生き残った社員は言わずには居られなかった。
もはやガラスも腰壁も完全に取り払われたビルの窓周り、
フロアをのぞき込むためビルにぴったりと顔を押しつける友紀子。
社員には巨大すぎて友紀子の顔はその窓からは目元しか見えなかった。
目を赤くし、涙をいっぱいにしている巨人の女性。
少しだけ同情したが、生き残り社員からはやはり怪獣としか見えなかった。

ほぼすべてのフロアを破壊しつくした友紀子は途方に暮れた。信二は見つからなかったのだ。
大粒の涙を流し、うつむく友紀子。
そのとき友紀子の目に数人の若い女性社員の姿がはいった。
友紀子の巨大な太股に逃げ道をふさがれた本社ビルの一階エントランスから彼女らは
不安げに友紀子のことを見つめていた。
そのとき、中の一人が下を向いて笑っているのを友紀子は見逃さなかった。
さらに、「恥ずかしいでしょうに!」
との声までもが友紀子の耳に届いてしまったのだ。
顔を真っ赤にして、友紀子は背筋を伸ばした。
その女性社員をぐっとにらみつける。
「なによ!こうなったのはわたしのせいではないんだから!」
直近に落雷でもおこったように空気をふるわせ友紀子の怒声が響く。
その女性社員は腰を抜かしてしまった。
友紀子のやり場のない怒りが爆発した。
右の手を堅くにぎりしめ、一戸建て住宅とほぼ同じ大きさのげんこつを作り、
それを音速に近い速度で振り下ろした。
その小さな女性社員めがけて。
大きな爆発音があたりをふるわせる。本社ビルが大きく揺れた。
友紀子のげんこつは石畳の歩道を5メートルほど陥没させもうもうたる埃を舞いあげた。
一瞬の差で小さな女性は友紀子のげんこつから逃れられた。
若い男性社員が彼女を引きずって一階エントランスに逃げ込んだのだ。
だが、この男性社員の勇気ある行動が彼ら二百人ほどの生き残った社員の
運命を決めた。
 友紀子はまたアスファルト道路を陥没させ、外灯をへし折り、乗り捨てられた車を
ぺしゃんこに押しつぶしながら立ち上がった。

股下にも届かない信二の勤める本社ビルを見下ろす友紀子。
友紀子の太股の巨大な壁がなくなったことで生き残った社員達は一斉にでこぼこにされた
街道上に逃げ出した。
友紀子は彼らの脱出劇を顔を真っ赤にして見つめていた。
歩きやすいまだ舗装道路が平らな所に殺到する社員達。
友紀子の足首周辺を悲鳴をあげながら 逃げまどう彼ら。
だが友紀子は右の足首を地面にすりつけながら逃げまどう彼らに向かって
動かし始めた。
友紀子の巨体に押しつぶされて平べったい鉄の板になった乗用車、やはりちょうど
友紀子がお尻を道路にぺったりと付けて座ったときに乗客ごと友紀子のお尻にぺっちゃんこに
ツブされた鮮血で染まった都営バス・・・それらが友紀子の足首に押し集められ、逃げ道を
探す彼ら社員に向かって迫ってきた。
自動車のスクラップに追い立てられるように彼らは社屋に戻った。
友紀子はさらに足で道路上の車の残骸をかき集め、社屋の前に寄せ集めた。
 機転を利かせ、友紀子の足跡で作られたクレーターに逃げ込んだ男性社員を
友紀子は見逃さなかった。
小さな男性にむき直す友紀子。
右足を大きくふりあげ、一気に小さな男性社員の隠れるクレーターに降りおろした。
振り下ろされた足の周辺百メートルが大きく揺れた。
もうもうたる埃が舞い上がり、友紀子の足は八メートル以上、地面にめり込んでいた。
ゆっくりと足をあげる。
真っ赤な滲みがクレーターのそこに小さく見えた。小さな野いちごを踏みつぶしたように
ピンク色の内蔵がはみ出し、真っ赤な血液がにじみ出す。

階段を壊され、逃げ道を失い各フロアに取り残された社員達は外壁と窓を取り払われてしまい、
吹きさらしのようになってしまったビルの中から友紀子を見つめていた。
 いま、起こった同僚社員の死に様をみていた社員は半狂乱になってしまった。
だが一方、大半の生き残り社員達は友紀子の巨大な手首により押し集められたデスク、
什器の山の中から息のある同僚を救い出すのに賢明であった。

ビルの中からは二本の足しか見えない。完全に壊された窓際に近づき、ようやく
友紀子の全身をみることができた。
真っ白な素肌が恥ずかしさのためか、ややピンク色になっている。顔が紅潮し、胸元まで
少し赤く見えた。乳房はまるくはりつめ、下から見ると巨大なドームのように張り出している。
薄いピンク色の乳輪から、一メートルほどの高さはあろう乳首がつきだしていた。
きゅうとしまった腰、まあるく引き締まったお尻は街道向こうの五階建てビルと
ほぼ同じ大きさだった。黒々としたヘアの下から生える見事な二本の白い足は巨大建築物のようにしっ
かりと地面を踏みしめていた。
友紀子は半分壊れかけた本社ビルにまたむき直した。
車の残骸により出口をふさがれた社屋の中では全社員がパニックを起こしていた。
エントランスをふさぐ車のスクラップの山を何とか押し出そうと、ほとんど無意味ながらスクラップを押し
動かそうとする彼ら。
だが、みたこともないほど平たくツブされた自動車のスクラップの中から逃げ出せず、車ごと踏みつぶさ
れてしまったドライバーの右腕が飛び出しているのをみて、パニックに拍車がかかった。

あまりにも力の差がありすぎる。あの巨大な女性の前では自分たちは蟻みたいな
ものだ・・・。
 だが、彼らは最後までいきるためにスクラップの山を押し出す努力を続けた。
友紀子はゆっくりと右足をあげ、一気にその足を本社ビルに踏みおろした。
大きな爆発音があがり、もうもうと誇りが舞い上がった。
七階部分を突き破った友紀子の右足はそのまま地上一階に突き抜けていた。
全く表情を変えない友紀子。その足で数十人が即死したというのに・・・。
埃が友紀子の股間に届かないうちに友紀子はまた右足をゆっくりと動かし始めた。
エントランスホールのあるあたりに向かってゆっくりと足首を引きずる友紀子。
一階にいる生き残り社員達は壁を崩しながら迫ってくる巨大な足首をみた。
壁を飾っていた大理石、高さ3メートルはあった大型ガラス、あらゆる建材が
瓦礫の山となり、彼らの逃げ場をさらに少なくしてゆく。
が、彼らはその足首にすりつぶされることはなかった。
社屋が一気に倒壊してしまったのだ。
一瞬にして新築10階建てのインテリジェントビルは数千トン分の瓦礫の山に
変わってしまった。

あまりにあっけなく崩れ去った本社ビルには友紀子も少し驚いた。
また、自分が巨大な怪獣になってしまったことを再確認てしまった。
「もう何人殺しちゃったのかしら」
夕暮れ時となり、日差しが赤く街を照らす中、友紀子は自分が歩いてきた街道を
ふりかえり、また足下をみた。
あちらこちらで火災が発生している。
座っていた街道は足跡と友紀子の大きなお尻のあとででこぼこに
なっていた。
色とりどりのツブされた車の平べったなスクラップ。
友紀子が座っていた街道の交差点一つ向こうから、見渡す限り、街道は車で渋滞していた。
多くは友紀子の破壊する様をみて車を乗り捨て、逃げ出した無人の車だが、交差点を五つも
離れたところでは、渋滞の中、何とか友紀子とは反対方向に向けて逃げ出そうと努力する
車の大渋滞が見える。
友紀子が歩けば十秒とかからない距離なのに、彼らはまだ車を捨てなかった。
 「あっち駅があったわね・・・。」
小さな虫のように見える人間達が殺到する場所を友紀子はうつろな目で見つめた。
夕日の残照で赤く染まるビル街、友紀子はゆっくりと街道を歩きはじめた。
駅に行けば信二にあえるかもしれない、そう考えた友紀子であったが、
彼女自身が引き起こした破壊と殺戮を冷静に受け止めていた。
今更普通サイズの人間にもどってしまって、どうするのか。
たぶん、殺してしまった人間の数は四〜五百人に上ることだろう。
もはや一般の人間としての生活は望めない。
友紀子の足の下で爆発音が響き、小さな人間達がちょこちょこと走り回っていた。
 今度は注意して足下をみてみる。

歩き出した友紀子が突然歩みをとめ、自分たちのことを見つめている、
小さな人間達はそれだけで恐怖におそわれた。
が、次の瞬間恐怖は現実の物となった。
車道を横切り、歩道に逃げ込んだ人たちめがけ、友紀子の巨大な足がゆっくりと
降りてきたのだ。今までと違い、明らかに逃げる小さな人間達をねらっている。

狭い舗道上を逃げまどう人たち。
ばきばきと音を立て、街路樹が倒れてゆく。電線を引きちぎり、巨大な足首が迫ってきた。
舗道上に将棋倒しになってしまった小さな人たち。
白い足首が迫りくる。腕をふりあげ、大声で悲鳴をあげ、小さな人たちは
友紀子の大きな足の下でその足を押し返そうとしていた。。
だが、ゆっくりと友紀子の巨大な足は小さな人々を押しつぶしていった。
メキメキと枯れ木がおれるような音、同時に悲鳴。さらに反秒後にぶちゅぶちゅといった
肉のつぶれる音。
わずか一メートル離れたところで腰を抜かして動けなくなっていた中年男性は
目の前の惨事を目の当たりにし、この巨大な足の持ち主、巨大怪獣となってしまった
友紀子を見上げた。
大きな乳房の谷間からこの無慈悲な女性の顔が見えた。
いま、十数人が踏み殺された、いや、この巨大な女性は意図的に踏み殺したと言うのに、
遙か上空に見える女性の顔は全く無表情だった。
もはや声も上げられない中年男性。
めりめり、と足は踏みつぶされた人ごと地中に沈んでゆく。
やがて、ゆっくりと足首があがって行った。
巨大な足の裏には鮮血がこびりつき、人間の形をしたピンク色の滲みがついていた。
そのとき、中年男性には巨大な女性の顔が少し笑っているように見えた。
 いや、実際巨大な女性、友紀子は無意識のうちに笑いを浮かべていたのだ。

足下をチョコチョコと動く小さな人間達。友紀子はそれが人間と思えなくなってきていた。
全裸で街のなかにたたされている自分の恥ずかしさを克服するために
小さな(友紀子からみれば)人間を虫か小動物の用に考える努力を無意識のうちに続けていたのだ。
 あまりにもろい建物、柔らかすぎるアスファルト道路、ビニールのように曲がるH型鋼材.
ミニカーの用に小さな自動車はアルミフォイルで作られたようにくしゃくしゃにつぶれる。
巨大かつ、強靱な肉体を持つ友紀子は自分が怪物になってしまったことを受け入れてしまった。
巨大化が始まってからまだ二時間足らずだと言うのに。

逃げ回る生きた人間を、虫を踏みつぶすように踏み殺す。そのとき友紀子は背筋に
電流が走るような快感を得ていた。
街道を埋め尽くす自動車をぺっしゃんこに踏みつぶし、鉄筋コンクリートの建物を蹴り壊したとき、
股間があつくなっていったのにも気がついていた。
駅のある方角に向かって友紀子はまた歩き始めた。

「うわ、いっぱいいる!」
つい友紀子は声に出してしまった。
地下鉄との連絡駅であり、三つの路線が乗り入れるその駅には
電車が全線不通となり、停車した列車からあふれ出た乗客が駅のローターリーに
まであふれ始め、タクシーなどで目的地に向かおうとしていた。
この怪物となってしまった巨大で美しい女性の情報はこの駅に集まった人々には
まだ伝わっていなかった。
地響きと振動が伝わり、爆発音、悲鳴が聞こえ、強い西日による巨大な人影が
ロータリーに届いたとき、初めて彼らはこの異常事態の原因を知った。
人でいっぱいの歩道橋を蹴り飛ばし、友紀子は駅のロータリーにその巨大な足を
踏み入れた。
ロータリーに駐車中のタクシーの車列の中にゆっくりと右足を踏みおろし、
ボッフ、という小さな破裂音を聞きながらメシメシとタクシーを踏みつぶしてゆく。
次に左足が逃げまどう人々でいっぱいの駅改札口前の中央広場に地響きとともに
おろされた。
突然現れた巨大な女性に多くの人は最初ただ凍り付いたように見つめるだけだった。
だが、遙か上空から冷たい目つきと薄笑いを浮かべた巨大な女性が明らかに
人々を踏みつぶそうと足をあげたとき、みな一斉に走り始めた。
 しかし巨大な女性の歩幅に比べれば人々の足の速さは小さな昆虫並だ。
強い西日が遮られ、頭上に15メートルはあろうか巨大な足の裏がせまってきた。
必死に走る人たち。だが、友紀子の足はゆっくりとおろされていった。
後ろから突き飛ばされるように道に倒れ込む十数人の犠牲者達。
もう友紀子の足と堅いコンクリートの歩道は数十センチに間で迫っていた。
一斉に悲鳴を上げる人々。
仰向けになり両手と両足で友紀子の足を押し返そうとする若いサラリーマン。
泣き叫びながら友紀子の岩のような足の親指を両手でたたく中年女性。
かかとの部分はもうコンクリにめり込み始めている。
悲鳴が絶叫に変わりはじめ、やがてメキメキと骨の砕ける音、ブチュブチュと肉の
つぶれる音。友紀子の重心が踏みつぶした足にかかり、そのまま一メートルほど地面に
めり込む。めりめり、とコンクリとアスファルトの割れる音。
そして静寂。
友紀子の膨大な体重を支えた足首がゆっくりとあがったとき、足形にクレーターとなった
そこには人間の形をしたままのシミができていた。

友紀子は股間にそっと手を当ててみた。あつく感じるその部分はじっとりとしめっていた。
顔を赤らめ、さらに友紀子はその巨大な体で破壊を続けた。
5階建てのショッピングモールとなっている駅本体に友紀子はその巨大な足をつっこんだ。
友紀子の膝ぐらいの高さしか無い駅ビルにズボッと足が突き刺さる。屋上から
地下2階まで友紀子の足は貫通した。
バランスを取りながらさらにもう片方の足を駅ビルにつっこむ。
駅ビルはあっという間に崩壊した。
もうもうたる粉塵があたりを覆う。
瓦礫の山から足を引き抜き、列車が停車中の駅のホームに足を踏み入れる。

プラットホームは逃げ場を失った人々でいっぱいだった。
友紀子がその信じられないほどの力で駅ビルを瞬時に破壊したのを目の当たりにし、
動きもしない列車に逃げ込む人、線路に飛び降り走り出す人でその場にへたり込む人などで
大混乱となる。

友紀子はそんな足下の様子を笑いながら見ていた。
架線を引きちぎり、停車中の列車を蹴り飛ばす。線路に逃げた人たち数十人が
ちぎれ飛んできた電車の車体におしつぶされた。
さらに友紀子は列車の中に逃げ込み、おびえきった顔で友紀子を見つめる人々に
気がついた。
ゆっくりと腰をかがめ、電車をつかみあげようとする友紀子。
11両編成の電車の先頭車を右手でつかみ、左手で後方車両をつかむ。
鉄道模型でも持ち上げるように友紀子は軽々と電車を持ち上げた。
あきっぱなしのドアから飛び降りる人がぱらぱらと友紀子の足下に落ちてゆく。
友紀子はそのまま電車を自分の顔まで持ち上げ、社内をのぞき込んだ。
ぐらぐらと揺らぎ、ある車両では直角に近い角度で傾く車両の手すりに必死に
捕まるひともいた。

友紀子はもはや人間の心を失っていた。
普通の女性でも、昆虫や小動物を平気で握りつぶし、踏みつぶせるだろうか。
だが、友紀子は電車の中の人間達を昆虫いかにあつかった。
電車を先頭車両を下に向けて降り始めたのだ。
車内にいた人たちはあちこちに体をたたきつけられながら先頭車両に転げ落ちていった。

次々に先頭車両に転げ落ち手ゆく人たち。
すでに息絶えた人も多く、先頭車両のガラス窓は血で真っ赤になっている。
持ち上げた電車をよく振ってから、友紀子は先頭車両をちぎりとった。
残りの車両を渋滞する街道に投げ飛ばし、友紀子は先頭車両を胸元に持ってきた。

ぎっしりと詰め込まれた人間達。まるで真空パックか佃煮の瓶詰めのようだ。
電車の中に押し込まれた人々をみて、友紀子は少し気持ち悪くなっていた。
小さな人間が隙間なくびっしりと押し込められ、多くは圧死し、その吹き出した血、
嘔吐物、つぶれた死体、それらを間近にみてしまったのだから。
うめき声、鳴き声がかすかに聞こえた。
おもしろ半分で電車をつかみあげ、おもちゃにしてみたが、何か汚い
汚物を手にしている気がし始め、友紀子は車両を放り投げてしまった。
 90メートル近くから地上に落とされた電車は地上に届くと同時に
鮮血と肉片を吹き出して四散した。
駅のホームを踏み壊し、友紀子はゆっくりとターミナルにむき直す。

「あら、可愛い!」声を上げた友紀子。
逃げまどう人たちの中に一人の少年をみつけたのだ。
三センチにも満たない身長の高校生ぐらいの少年。髪をセミロングにして、
少しだけ染めていた。学校の制服だろうが、パンツを少し下げてはいている。
背が高いことは逃げまどう小さな人たちの中から頭が飛び出していることから
すぐに分かった。
巨大な怪物となった友紀子の目からも少年のルックスが秀でた物であることは
よく分かった。
 が、少年にとって友紀子に見つけられたことは人生の終わりを意味する物であった。
少年の目の前に巨大な足が勢いよく降りてきた。大音響とともにバスターミナルが
揺れた。その足のしたには、ほんの数秒前まで少年とともに駅プラットホームから
逃げ延びた人たちが十数人いたのだが、今や地面の中にツブされて埋め込まれてしまった。
腰を抜かしその場にへたり込んだ少年は仰向けになり空を見上げた。
二本の巨大な足が空に伸びている。まあるく張りつめた二つの乳房の間から
少し笑ってるように見えるきれいな女性の顔が見えた。
 女性の裸を生で見るのは初めてだった少年。いま、彼の上空50メートルに生まれて初めて
見る女性の部分が現れたのだ。
生まれて初めて生で見るその部分はグロテスクな生き物のように見えた。しかも夕日に
照らされてその部分はキラキラと反射していた。
 女性が濡れるのを少年は初めてみることができた。
標準の80倍ほどの大きさで。

やがて大木のような指が少年をつまみあげ、一気に百メートル上空に持ち上げた。
友紀子の顔の前に少年は持ち上げられたのだ。
丸く愛らしい巨人女性の顔。大きな黒い瞳、小さいが鼻筋の通った鼻、きれいなピンク色を
している小さな(比率の問題だが)唇。
美しく、可愛らしい大人の女性になりかけている顔だった。
 少年は大きな指が体を解放したことに驚愕した。
このまま地上に落下する物と叫び声をあげた。
が、少年の体は巨大な女性、友紀子の左の手のひらの上に着地した。
 それでも10メートルは落下したことだろう。柔らかいはずの女性の掌は
コンクリート並に堅かった。
落下した少年は息が一瞬止まった。
動かなくなった少年を見て巨大な女性、友紀子は右手の指で少年をそっとつついた。
冷たい笑い顔は変わらない。
このまま手の上で押しつぶしてもかまわなかった。
だが、友紀子の性的欲求はこの少年をおもちゃにする事を求めていたのだ。
 少年の命など気にすることもなく、友紀子は右の腕で両方の胸を抱き寄せた。
巨大な乳房が二つ押し合わされ深い谷間が数メートル現れる。
胸元に左手をゆっくりともって行き、乳房の谷間に少年を払い落としてしまったのだ。
 息絶え絶えの少年は暖かなぬくもりのある、しかしやはり堅く押したぐらいではびくとも
しない巨大な乳房の間に挟まれ、身動きできなくなっていた。
「ね、こんなに大きな胸、見たことないでしょ。キミは幸せだよ。」
胸の谷間に挟み込まれた少年に向かい友紀子は言った。
友紀子が話すと大きな風が吹いたように感じた。乳房の谷間からかろうじて
顔だけ出している少年は若い女性の甘い吐息を初めて経験したのだ。
 友紀子は胸を両方から 押しながらゆっくりと少年をもみし抱き始めた。
友紀子の指は乳房に埋まるようにして沈み込む。巨大な乳房も柔らかく見えたが、
少年は全身を強く圧迫された。
友紀子は乳房を押し上げている手に力を入れる。そのたびに乳房の谷間はせり上がってゆき、
少年は乳房の谷間に埋もれていった。
悲鳴も友紀子の巨大な乳房に挟まれ聞こえなくなる。
 自分の乳房で美しい少年をその命ごと弄んでいる。
局部がますます熱くなり、何か暖かい物があふれ出すのを感じる友紀子。
乳房の谷間から少年を取り出し、手の上に載せる。
まだ息のある少年は涙をためた目で巨大な女性を見つめた。
信じられない事態だが、全身に感じる痛みは少年にこれが夢では無いことを
実感させた。
 掌の上の少年を友紀子は右手でつまみ上げた。そしてこの小さな美少年を
口元に運んだのだった。
きれいなピンク色をした唇は少しだけ開き、白い歯が見えていた。
巨大な女性の表情は喜びを押し殺すような半笑いの表情を作っている。
少年は残った力を振り絞り、大声で叫んだ。さらに全身に走る激痛をこらえ
友紀子の大木の様な指からの解放を試みる。
「あー、女の子がキッスをしようとしてるんだぞ。男の子はリードしなきゃ。」
 少年は全身に巨大女性の甘い息と風圧を感じ、そして耳が暫く聞こえなくなるほどの
大音声を感じ、聞いた。
巨大な唇が少年の全身をとらえる。するとピンク色をした巨大な舌が唇の中からにゅうっと、
でてきた。
少年の身長より遙かに大きい巨大女性の舌はつまみ上げられた少年の全身をなめ回す。
少年の着衣はこの舌でびりびりと引き裂かれ、丸裸にされる。
さらに友紀子はつまみ上げた少年をそっと口の中に運び入れた。
ねっとりとした、さらに暖かな口の中に入れられてしまった少年。
絶叫をあげ、巨大な女性の舌を残った力でたたきまくった。
 口の中に入れた少年を友紀子は舌でなぶり始めた。
強く上顎に舌で少年を押しつけ、さらに口の中を一回転させた。
暴れる少年の感触が友紀子の性的興奮をさらに高める。
少年を歯の下に持って行き、そっと少年を噛んでみた。
 少年は窒息寸前だった。さらにだいぶ巨大な女性の唾液を飲み込み
この女性の口の中で溺死するかも知れなかった。
真っ暗な口の中で舌で歯の間に運ばれ唾液の中でもがき、絶望した。
歯がゆっくりと降りてきて骨を砕くかと思うほど、さらに二度三度と
少年の体をかみしめた。
息がつかず女性の唾液をさらに飲み込み、肺にまで入れてしまった。
口の中、歯に挟まれて少年は口の裏を残った力でひっかく。
意識が薄れてゆく少年。
 だが、そのとき巨大な女性の口が開き、夕暮れの街の空が少年の目に飛び込んだ。
新鮮な空気がさっと舞い込む。
巨大な舌の上に載せられて唇の外に少年は出された。

また大木のような女性の指が少年をつまみ上げる。透明な唾液が全身を包み込み、
糸を引きながら少年の体は舌の上から左手の掌に載せられた。
全身を打撲し、また骨折も数カ所負ってしまった少年はこの巨大な女性を
見上げ、泣き出してしまった。
「かわいい。」
巨大な女性が笑いながらそういうのを聞いた。
そして自分を乗せた掌がゆっくりと下がっていくのが分かった。

いやな予感は的中した。

少年は目の前を覆い尽くす陰毛の壁に押しつけられたのだ。
さらに大木のような女性の指がもはや力もなくグニャグニャとする少年の体を
つまみあげた。

少年は深さ5メートルは在ろうかという女性の部分を目の当たりにする。
さらに器用に巨大な女性の指が肉のフリルを押し広げるのを気を失いながら 
見ていた。
透明で刺激臭の在る液体をわき出しているそのフリルに押し込められたとき、
少年は完全に意識を失い、一メートル近い高さのクリトリスに押しつけられた。
そのときには、彼の短い生涯は終わっていた。

巨大な女性、友紀子は少年が絶命したのを、小さな肉体の僅かな抵抗が
完全になくなったことで察知していた。

きれいな少年をなぶり殺した・・・。
友紀子にサディスティックな感情が芽生える。
秘密の部分に左手を添えたまま、友紀子は少年の体をクリトリスに押しつけた。
ぼりぼりと、骨が砕ける感触がする。
小さくてきれいな少年は友紀子の敏感な部分の中で肉片となっていった。
鮮血が友紀子の指匙を染める。

しかし友紀子は顔を赤らめぼんやりとたたずんだままだった。
数万人の人々が見つめる中、絶頂を迎えてしまったのだ。

破壊と殺戮が友紀子の性的な欲求と同調し始めていった瞬間であった。
日は沈み、街は灯りをともし始める。
友紀子があれだけ暴れたというのにまだ街の電力は供給されていたのだ。
さらに、街道を埋める車が 一斉にヘッドライトを点灯しだした。

「きれい・・・」

ミニチュアの街にともる明かりは友紀子の破壊衝動をよりかきたててしまった。
腰よりも低い建造物群を見下ろす友紀子。
破壊しつくされた駅ロータリーからゆっくりと歩き始める。
街道上に放置された自動車を踏みつぶし、道路を踏み抜きながら。

夜の闇が街を覆う。が、街は闇を跳ね返すかのごとく明るく輝いていた。
さらに破壊された建築物からの火災はいっそう街を明るく照らし出す。
破壊された街のなかを炎と煙に巻かれ逃げ惑う人々は
それらの灯りに照らし出される巨大な全裸女性を恐怖に満ちた目で見つめていた。
SF映画のなかにしか登場しないはづの巨大生物。
それによる破壊と殺戮。
恐怖はリアルとなっていった。

街道上にあふれる人々。恐怖に駆られ、体力の勝るものが弱い物を
突き飛ばし、押しのけながら逃げまどう。
そんな様子を冷たい目つきで見つめ、薄く笑いながら友紀子は無慈悲に人間を踏みつぶしていった。
特に人を押しのけながら逃げようとする屈強な男性を選んで巨大な脚を振り下ろしたのだ。
遠くから見れば女性らしい丸みを帯びた足首も、踏みつぶされる人々の頭上に
振り下ろされたとき、それは巨大な岩山の様であった。

膝にも届かない雑居ビル群を簡単に蹴り壊し、腰の高さぐらいのオフィスビル群には
そのきれいな脚を突き刺し引き裂き瞬時に粉々にしていく。
路地にあふれる小さな人間を、無慈悲に踏みつぶし続ける友紀子。
瓦礫のやま、自動車のスクラップ、埃だらけ、すすだらけになって逃げまどう人々。
友紀子には人間らしい感情が無くなっていたのだ。
小さな人間をもはや人間とは思っていなかった。
破壊、破壊、破壊。
それが快感に取って代わっていった。

街の中に、赤いランプを回しながら走る車が目立ち始めた。
警察車両だろう。それと消防か。
「私が壊しちゃったんだ・・・。」
数千人 規模の殺戮を三時間足らずで実行してしまった友紀子は
人ごとのように自分の行為を考えた。
 「信二も踏みつぶしちゃったのかな・・・」
火災の炎で照らし出され、破壊し尽くされた駅周辺を見つめながら
友紀子は思った。
信二を捕まえればまた元の生活に戻れる・・・。
ほんの3時間前にはそう思っていた友紀子だが、
自分の中からわき上がる破壊と殺戮の衝動は徐々に強くなり、
いま、その衝動が一斉に吹き出そうとしていた。
 友紀子は、自分が踏みつぶした人をじっくり見ようと腰をかがめた。
きれいな長い足を折り曲げ、ただでさえ大きなお尻が脚を曲げることで
さらに肉を押し寄せ大きくなる。
狭い裏道は友紀子の押し広げられたお尻でいっぱいになり、道の両側に
建っていた雑居ビルは友紀子の太股と大きなお尻にメリメリと外壁を
圧迫され、半壊した。
 そんなことに構わず友紀子は腰を落とし、地べたに張り付いた人間を
見つめる。
足形にへこんだ道路にピンク色の内蔵をはみ出し、着ていた服がなんだったのかも
分からないぐらい体液と血液が溜まっている、多分男性と思われる圧死体。
きれいな脚がハイヒールを履いたまま足跡の縁に残っている、上半身だけつぶれてしまった
若い女性の圧死体。
まるで漫画にでてくるみたいに人間の形をしたままぺちゃんこになったスーツ姿の男性。
オートバイに乗って友紀子の脚をすり抜けようとしていたバイク便のお兄さんは
バイクと融合してしまっていた。

 「私が歩いただけでこんなにツブされちゃうのね。」
もはや正常な、人間として当たり前な感情が友紀子から消えていた。
腰を落とし、両膝を抱えて踏みつぶされた人間を観察する友紀子。
友紀子は足跡の縁にいる小さな人影に気づく。 
 逃げ遅れた若い会社員風の男性が腰を抜かし、友紀子の足跡の脇に座り込んでいたのだった。
失禁したと見えて、彼の股間に水たまりができているのが分かった。

まるで蟻の行列を踏みつけて遊んでいる幼児のような巨大な女性。
彼は、ビルをたったの一蹴りで倒壊させたこの女性から避難するため、裏通りに飛び出したところを
巨大な脚で踏みつぶされそうになったのだった。
 目の前で一緒に逃げていた数人の人間が悲鳴もあげずにつぶれていった。
巨大な脚の指が彼の目の前に降りてきてあっという間にアスファルトにめり込んでいったのだ。
体重が脚にかかり、かかとから巨大な脚が揚がっていったとき、彼は失禁し腰を抜かしてしまっていた。
街の灯りに照らし出されて高層ビル並に大きな女性の胸元までははっきりと見えた。
重たそうな乳房がゆっくりと揺れている。なんてエロチックな光景なんだ。
自分は助かった、そう思ったとき、この巨大な女性は立ち止まり、彼の方に向き直したのだ。

彼の目の前にしゃがみ込んだ巨大な女性。
まあるくドームの様に張り出している乳房が膝に押し当てられ楕円に形を変える。さらにエロチックな曲
線を描き両方の膝からはみ出している。
巨大な女性の顔がはっきりと見える。可愛らしい、大人の女性、少し少女の面影を残す色白の美女。
こんな美女の全裸を目の前にするのは生まれて初めてだった。
だが、こんなに巨大な人間を目にするのも初めてだった。
声も上げられずに巨大女性を見上げる彼。
 やがて巨大な腕がゆっくりと動き出し、その指が彼をとらえた。
彼の身長の2倍は在りそうな人差し指が彼の上半身を押さえつけた。
両腕で巨大な指を押し返そうとする彼。
だが巨大女性は無慈悲にも一気に指を地面に押しつけたのだ。

 小さな悲鳴とブッチャ、という虫がつぶれたような音が
友紀子の耳に届いた。
自分がうすら笑いを浮かべているのに友紀子は気がついた。
指を地面にこすりつけ、小さな男性をすりつぶす。
両腕と両足が胴体から切り離され、顔から下、腰までがアスファルトにすりつけられていった。
友紀子の脚から逃れられた男性は、踏みつぶされた人たちより僅かに長生きできた。
だがその数十倍の恐怖におびえて肉体を消滅させられてしまった。
腕と脚だけを残して。
 
顔をあげ、まだ無傷の市街地を見つめる友紀子。
光の海のように見える都心。
何とか友紀子から逃げ出そうとする小さな人間達。
またゆっくりと腰をあげ、地響きをたてながら歩き始めた。

逃げまどう人々に僅か数歩で追いつき、踏みつける友紀子。
灯りを煌々と照らし、建物の中にまだ人が大勢残っているビルが友紀子の目に付いた。
その10階建てのオフィスビルに右足を突き刺す。ガラガラと大音響をたててビルが
崩れ落ちようとする、その前に左足を突きたてて腰をぐいと前に押し出す。
砂山のように崩壊してゆくオフイスビル。
残業中の数十人の人々は瓦礫の中に埋もれてしまった。
もうもうと立ち上がる粉塵の中、友紀子はわざと足踏みをする。
人々は巨大な女性が残酷な行為を他人にしている隙に少しでも遠ざかろうと
努力したのだった。

逃げる人々の流れに逆らい、黒っぽい大きな車が近づいてくるのに友紀子は気がつかなかった。
倒壊したビルの瓦礫から脚を引っぱり出す友紀子。
 粉塵が一面を覆い、路上の人々が瓦礫からハイだそうとしたとき、友紀子は顔面に軽い痛みを感た。
「なにかしら?」
今度ははっきりと聞こえた。
友紀子はテレビのニュースで聞いたことのある、機関砲の発砲音を耳にしたのだった。

ようやく到着した陸上自衛隊の装甲車による巨大生物への反撃であった。
装甲車に搭載された35ミリ機関砲は約60発ほど発射された。
仰角をいっぱいに取り、大人の女性らしい丸みを帯びた胴体、脚をねらわず
顔面を直接射撃してきたのだ。

友紀子は暫くポカーンとしたままだった。
迫力のある機関砲の発射音と自分の体にあたったときのその威力の差に
あきれていたのだった。
 あたりをよく見回すと、逃げまどう人々のなかに、暗くて真っ黒に見える
迷彩服を着込み手に自動小銃、ロケット弾を持った自衛隊員が見えた。

「あはは。おもちゃみたい!」
瓦礫の山となったビルの残骸を踏みしめ、腰に手を当て、
巨大な乳房をふるわせて笑う友紀子。

そう、事実、陸上自衛隊第一師団第一偵察連隊による一個中隊の防衛出動は
友紀子にとっておもちゃを増やし、
さらに友紀子の中の残酷性を引き出し、増幅させてしまうのだった。

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