エンパイア・シリーズ コスモポリタン

ゲイター・作
笛地静恵・訳



第3章 デリラ

16***

『銀河帝国ホテル』の屋上の執務室の窓から一望できる光景は、混沌と悪というものが秩序と正義の支配する世界に、圧倒的に侵入してきたことを証明する恐るべきものだった。

「アルマンド!わしに双眼鏡を持って来い!」
 フィリップ・リッチモンドは、尊大な口調で部下に命令を下していた。伝統と歴史のある『銀河帝国ホテル』のオーナーとして、彼はすべてを自分の宰領のもとにおかなければ、けして満足できない性格だった。

すべては、彼が定めた規則通りに、実行されなければならない。つねに、どこに行っても、それなりの識見のある人物として、評価されてきたのである。

 アルマンドは、目に明らかな恐怖の色を湛えて、双眼鏡を持ってきた。
「レストランの料理人達が、営業を中止すると申しております……」
 彼は、ボスへの反抗心は、極力心に秘めて、表情に出すようなヘマはしなかった。慇懃に事実だけを伝達していた。

  フィリップは、いかつい顎の口元を、真一文字に結んでいた。
「事態は、危機的状況ではある。しかし、もし、レストランが閉ってしまえば、いったいお客様たちは、どこで食事を取れるというのだね?」
 彼は、マネージャーを鋭い目付きで睨みつけていた。肌の浅黒い男は、両手を神経質な様子で擦りあわせていた。

「料理人たちは、命をかけてまで、仕事を続けるつもりはないと申しております……」

 彼は、白いスーツを着た白髪のボスに言葉をさえぎられていた。
「臆病者たちめ!」
アルマンドを一喝していた。

「彼らに伝えてやれ。もし、辞めるのであれば、ホテルを出た瞬間から、わしの狩猟用のライフルに狙い撃ちされるのを、覚悟しておくようにとな!」
 野獣のような唸り声に、マネージャーは奮え上がっていた。
 フィリップは、もともとオペラ観賞用の繊細な作りの双眼鏡を、その手の中で荒々しく握り締めていた。接眼部を眼窩に埋めるようにして、強く押しつけていた。高価な品物は、焦点のあった鮮明な画像を提供してくれていた。

外部の世界の二人の女どもの行動について、より多くの情報を得ようと勤めていた。しかし、今、二人がお互いにしていることは、紳士が口には出せないような、破廉恥な行為だったのである。

 ダイアルを調節していた。双眼鏡の倍率を極限まで上げていた。緑の髪の女が、赤毛の女を相手に、みだらな女色に耽っている。その様子の一部始終を、食いいるような目付きで眺めていた。

もっと小さな女の姿が、視界に入ってきた。赤毛の女の膣に挿入されようとしていた。逃げようとして、必死にもがいていた。重低音の振動が、その光景を眺めている間にも、ホテルの窓硝子から床、さらには足元から彼の頭蓋骨までを振動させて伝わっていった。

二人としては、何かをしゃべっているのだけなのだろう。だが、声とうものは、もともと空気を震わす振動である。それが、言葉としての意味をなさないのだ。重々しい重低音の響きを伴った振動としてしか、五感に感じられなかった。

たぶん、彼の耳の鼓膜が、空気の振動を言葉として認知し翻訳して理解するためには、あまりにも小さすぎるのだろう。

 フィリップは、双眼鏡から青い目を外していた。目の周りに赤い輪ができていることにも気がつかなかった。この事態の持つ意味について、しばらくの間、沈思黙考していた。

もし、あのひどい目にあっているのが、この都市の女だとする。あのサイズが、原寸のままであるならば、外部の世界のあの二人の女どもも、今、彼が考えているほどには、大きいサイズでは、ないのではないだろうか?

この都市を囲んでいる難攻不落の壁が、光を屈折させることで生み出した、錯覚であるのかもしれない。金魚鉢の中の魚にとって、外界が歪んで大きく見えるのと、同じようなものなのかもしれない。もし、そうであるならば、彼は自分の狩猟用のライフルで、彼女達を血祭にあげる可能性が生じてくる。

白髪の男は、象狩り用の特別製のライフルを、厳重に鍵のかかった強化ガラスの秘密の武器格納庫の内部から、取り出していた。愛らしいペットにするようなしぐさで、銃身を撫でさすっていた。

それを使って、最初に野生の獰猛な象を射殺した日の興奮を思い出していた。あれは、でかい奴だった。つねにオイルを塗っている。手入れは怠りない。すぐにも使用することができた。しかし、どこを狙えば、急所を打ちぬくことができるのか?慎重に狙いを定める必要があった。

ドアにノックの音がした。すばやく振り向いていた。銃口をドアに向けていた。針金のように痩せ細った女が、部屋に入ってきた。大声で喚きちらし、両腕を大きく振り回していた。

「奴らがくるわ。入ってくるわ。もう、誰にも止められない!死ぬのよ!!みんな、死ぬんだわ!!!」
熱に魘されたような表情で、フィリップに詰寄っていた。

一撃をくらわせた。それから、白髪の男は、何事もなかったように窓の外を眺めた。血のしぶきが、壁一面にべっとりと残っていた。女の頭部だったものの残骸が、部屋一面に飛び散っていた。ドアの外から、マネージャーが、おそるおそる室内を窺っていた。

「客の苦情処理ぐらいは、お前が対応しろ!」
フィリップは部下を一喝すると、部屋の窓際に片膝を立てて座りこんでいた。銃身を窓の手すりに固定していた。空が暗くなっていった。ビルディング全体が、激しく振動を始めていた。ビルディング全体だって?彼は両足を床に踏みしめていた。できるかぎり身体が揺れないようにしながら、照準器を覗き込んでいた。

17***

デリラとしては、できるかぎりデリケートに、薄いチョコレートの箱のような、ホテルのビルディングを持ち上げたつもりだった。

しかし、指の間で、一部分が潰れるのをどうすることもできなかった。





「おやおや、ずいぶんと、柔らかいもんなんだな!」

彼女はそれを机の上に、そっと置いた。1.44メガのフロッピー・ディスクと、ほとんど同じサイズである。縦横、9センチぐらいに感じられる。直方体の建物だった。厚みは、2センチもないだろう。

新たに1,4倍ぐらいに、ちょっとだけ巨大化させてみたのだ。1400分の1スケールの都市の内部にあったときよりも、1000分の1のスケール・モデルになったために、細部まで、くっきりと見ることができた。ビルの壁の強度も彼女の指の腹に、卵の殻ぐらいの強度があるように感じられていた。

舌で上下の唇を舐めていた。新しいおもちゃにキスをした。建物の東側の壁面にあった窓硝子のすべてが、その圧力で一度に、全部が破壊されていた。あとには、赤いリップ・マークが、『銀河帝国ホテル』の格式と威容を誇った壁面に、可愛らしく残っていた。

さらに注意深く観察していた。このホテルは、贅沢にも屋上にプールがついていることに気がついていた。その中には、なんとわずかではあったが、水さえ残っていた。周囲には、エアマットレスや、ビーチパラソルや寝椅子という、よくある品物の姿さえ見ることができた。

いたずらな気分になっていた。彼女は、ビルディングの屋上を、ぺろりと舐めていた。何も残っていなかった。きれいにしていた。後には、濃厚な唾液を湛えた、巨大なプールだけが残されていた。

ティファニーは、オフィスの白いカウチの方に移動していた。両足を大股開きの格好にしていた。誘っているのだった。しかし、デリラには、彼女とはまた別のプランがあった。

「うつぶせになってくれよ!」

言われた通りに、赤毛は即座にお腹を下にしていた。カウチの端に置いてある、ふかふかの枕に顎を埋めていた。仕事に使っていたいろいろな品物を脇に寄せていた。

デリラは、ティファニーの大きくて美しい尻肉のほっぺたを、左右に限界まで広げさせていた。小さなホテルを、その割れ目の間に挟んだ。完全な形をしている、ぷくんと可愛らしく突出した肛門の、すぐ上のあたりだった。

デリラの瞳は、自分がしでかした、いたずらのせいで少女のように、きらきらと光っていた。眼前の愛らしいピンク色をしたプッシーを、指先でそっと撫でてやっていた。
ティファニーの方は、自分が一日中、濡れていたことを思い出していた。顔を恥かしさのあまり、真赤にしていた。もちろん、今日、そこに来ることになった、小さなゲストたちに対してではなかったが。頬から耳たぶまで、赤毛の女にだけできる豪奢な色合いで肌を染めていった。

「もう!するなら、早くしてよ!」
不機嫌に答えていた。

しかし、すぐに、そんな気分は吹き飛んでいた。暖かい舌のぬくもりが、彼女の全身を興奮のあまり、ぞくりと震わせていた。べろり。性器から肛門までを、一度に舐め上げられていた。

生肉の味わいと重い芳香!これこそデリラが、愛してやまない最高級の肉料理だった。

18***

 マックは、ケリーの手を掴んでいた。彼らは、赤黒い鋼鉄のような毛根の幹が乱立する暗い森の間の道を、上っていた。それから、下りていた。濃密な赤毛の森林には、単に一時的に身を隠すためだけの場所ならば、無数にあった。どこにいるのか判らなくなっていた。迷路の森に迷いこんだ気分だった。

二人とも、完全にショック状態だった。呆然としていた。十五メートルの女は、レスビアンの舌で女の膣の中で溺死していた。その後で、まるで使用済みのタンポンのように、ゴミ箱に捨てられていた、その光景を目撃してしまったのだ。人の葬礼に伴う、儀式的な荘重さなど、かけら示されることはなかった。

 彼女達は、一度でこの残虐な行為に、味を占めてしまったようだった。マックとケリーは、悲鳴を上げていた。カウチの上で、ティファニーが身体を回転させて、うつ伏せ寝になろうとしていた。厚いピンク色をした唇の周囲に、密生する陰毛の方向に全力で走っていた。ギガトンを単位とする巨体の重量に、鋼鉄の森がたわんでいた。すべてが平らに押し潰されようとしていた。

彼らは、一本の毛にしがみついていた。白いカウチの表面の上空にいた。あそこまでは、すでに十二メートルほどの距離があるだろう。転落したら命がなかった。しかし、毛の先端は、カウチの表面に、かろうじて届いていた。

「なんとか、なるんじゃないかな?」
 マックは、叫んでいた。二人は濡れた一本の陰毛の鋼鉄の線を、するすると滑りながら下降していった。彼の手首ぐらいの太さがある。比較的、容易な道程だった。

しかし、ケリーは、とうに体力の限界を迎えていた。握力がなくなっていた。悲鳴を上げていた。髪の毛の先端に向かって、危険なほどの速度で滑り下りていった。

「僕が、飛べといったら……」
 マックには、最後まで注意を言い終わるチャンスが、与えられることはなかった。巨大なホテルの建築物が、上空に移動して来たのだった。建築資材や瓦礫が、次々と爆弾のように落下してきた。

ホテルは、赤毛の肛門の上の裂け目の方向に向かって移動していった。それが置かれる時の衝撃に、陰毛の森が弾むように揺れ動いていた。

「準備はいいかい?」
 彼は、再度、チャンスを捉えていた。声を嗄らしながら、頭上のケリーに絶叫していた。

あのホテルの中の人びとは、彼らよりも、大きいのではないだろうか?そんなことを考えていた。彼は、眼下の白いカウチを見ようとした。しかし、それは、すでに存在していなかった。どこかに行ってしまったのだ。

 代わりに、デリラの乳首に填められているリングが、彼らの居る方向に急速に接近してきた。乳首のリングの直径は、優に九十センチメートルを越えていた。二人が掴もうとするには、あまりにも太い物体だった。

そうするかわりに、乳首の周囲の乳輪の皮膚の深い皺の方を、手がかりにすることができていた。ピンク色の物体に、張りついている自分達を発見していた。ティファニーのプッシーからの濃厚なジュースが、接着剤の役目を果していたのだ。

 デリラは、彼女の乳首のリングの下になっている二個の点に気がつきもしなかった。もし、視線を向けたとしても、わからなかっただろう。彼女は、自分の乳首から恋人のラブ・ジュースを舐め取りたかった。けれども、残念なことに彼女の乳房は、そうするには小さすぎたのだった。ティファニーのような訳にはいかなかった。

そうするかわりに、彼女は舌を眼前の飢えて唾液を滴らす密壷の内部に入れようとしていた。そこから見える光景に面白がっていた。ティファニーの肛門地方に、最近、新規に開店したばかりのホテルの内部から、何人かの人間たちが逃げ出そうとしているのだ。プッシーの唇の周囲に生えている、陰毛の森の内部に、隠れようとしているのだった。

 デリラの舌が、口元から飛びだしていた。熱狂的に濡れたプッシーを舌先で強く舐めるようにしていった。あちらこちらで蠢いている彼らは、一口サイズの食べ物として、ちょうど適当な大きさがあった。

彼女は、小さな蚤サイズの人間たちを、次々と捜し当てていった。

口の中に、飲みこんでいった。ティファニーのジュース味の彼らを、くちゃくちゃと噛み締めていった。


これは、今までにデリラが思い出せる限りで、もっともおいしいプッシー喰いの体験だった。自分の幸運の星に感謝していた。ティファニーが、彼女がポータサイザーを持っていたことを思い出して呼んでくれなければ、この愛らしい「敵のピース」のおこぼれを、頂戴することはできなかったのである。

19***

フィリップ・リッチモンドは、すでに充分なものを見たと思っていた。彼は、なんとか身体のバランスを取ろうとしていた。部屋の窓から、外界を熱心に観察していた。

「何てことだ!」
 彼の由緒ある『銀河帝国ホテル』には、今では敵同士になってしまったが、かつては銀河帝国の大統領その人さえも、宿泊に来たことがあるのだ。貴賓室が常時、用意されていた。それが無礼にも、女の尻の割れ目に挟まれていたのだ。怒り心頭に達していた。

「あばずれどもめ!!」
 罵りの言葉を上げていた。自分自身と祖国の名誉のために徹底的に戦うという決意を固めていた。窓の外に双眼鏡を向けていた。それだけでは我慢できずに、執務室のバルコニーに出ていた。そこに見た光景に、打ちのめされていた。全身の力が抜けて、倒れそうになっていた。

そこにあったのは、想像すらしたことがない物体だった。山のように超巨大な臀部の光景だった。すぐ眼下には、肛門の穴が見えていた。屈辱感に、さらに顔面を紅潮させていた。彼のホテルに、なんという真似をするのか!!

20***

引鉄に指をあてがったままだった。象さえも一撃で撃殺す大口径のライフルの銃口を、上げたり下げたりしていた。彼が銃撃できる、もっとも近い的は、巨人の肛門の穴だった。ホテルの真下の位置にあったからだ。バルコニーから、上半身を、さらに、さらに乗りだしていた。

「彼女の顔が、苦痛に歪む光景を見たいものだ!」

象狩りのライフルの照準器を、彼のホテルの5階分上にあるプールと同じぐらいのサイズのある、ピンク色の肛門にあわせていた。大きな的だ。外れるはずがない。

ビルディング全体が、揺れ動いていた。デリラの超巨大な鼻が、ホテルの側面に触れたのだ。彼女は真下のプッシーを、舌で舐めることに熱中していた。いきなりだった。フィリップ・リッチモンドは、ライフルを身体の脇に振り回しながら、虚空をどこまでもどこまでも墜落して行った。彼にも、これが人生の終りだと分かっていた。

落下した。地面にぶつかっていた。衝撃に片脚の骨が不自然な方向に折れ曲っていた。もう一方の足は、ピンク色のアヌスのクレバスにはまり込んでいた。その上に着地したのだ。しかも、生きていた。

体の下の肉の柔らかさのせいで、生きていられたのだ。皮肉な運命に、吐きそうになっていた。ライフルに手を伸ばしていた。それも、すぐ近くの場所に落ちていた。

「来い!!」

まるで、その声でライフルが動き出すかと思っているような声だった。いきなり、空が暗くなった。

彼は振り仰いでいた。一本の指の先端部を見た。ありえないほどに巨大な物体だった。まるで彼を目指して、ボーイング747が機首から墜落してくるような光景だった。彼には、絶叫する時間だけは、たっぷりと与えられていた。四十五秒間はあった。

「あああああああああ〜ん」
 ティファニーは、喜びのあまり声を上げていた。デリラが、欲望に飢えた肛門の穴の内部まで、指を一本挿入してくれたのだった。全身を、かつてなかったほどに萌えさせていた。

デリラに舐められたあそこから、とろりと熱いものが溢れていた。言葉には出さなかったけれども、この高揚には、ホテルのすべての客たちが、この凄まじいショーの見物人になってくれているという事実も、大きく貢献していた。ティファニーは、もうこらえきれなかった。

快感を声に出して表現しなくてはおさまらない。ぎりぎりのところにまで追いこまれていた。デリラは、彼女のプッシーのジュースにまみれた顔を、ティファニーのそれに近寄せていた。

「俺のこと好きだろ?」
観客に暗示をかける手品師のような、自信に満ちた声音でいった。

ティファニーが、たっぷりとその口に仕返しをする番だった。

21***

ティファニーは、オーガズムを感じていた。デリラが選択した大好きな青いドレスのシルクの生地を、獣のように前歯で噛み締めていた。デリラが、優しく繊細な中指一本だけを使って、クリトリスと性器を愛撫してくれていたのだった。

また別の指は、彼女のぷくんとつき出た肛門に、きつく挿入されていた。内部の粘膜まで、入念に愛してくれていた。すべての動きが、ティファニー自身の意思で操られているようだった。申し分のない的確さを有していた。ちっぽけなホテルは、巨大な手の危険がさし迫った場所に、なんとか無事に建っていた。

激しい上昇感を伴うオーガズムは、汗が全身から吹き出るような、おだやかに下降していく至福の時間に、席を譲り渡そうとしていた。ティファニーは、カウチの上で、そっと身をよじるようにして、動かしていた。快感の余韻を味わっていた。

ホテルはこの試練に、だいぶ痛んで壊れていることだろう。彼女の臀部の筋肉が、緊張と弛緩を、何度も何度も繰返していたからだ。プッシーが、デリラの何個ものリングを填めた指に、蹂躙されたからだった。

 桃のようなお尻の盛りあがった肉に押されないで、無傷でいられたフロアーは、上の階のごくわずかな部分だった。デリラは、ホテルを片手で持ち上げて微妙に位置を変えていた。その下になっていたあたりで、うろちょろしている無数の人間という物体を舐めていった。

「やあ!元気?」
デリラは、巨大な不安に鳴動してやまない尻の谷間で、何とか隠れ場所を求めて逃げ出そうとしている、たくさんの人間たちを一望にしていた。何割かは、すでに半分だけ開かれた臀部の筋肉の間で、押し潰されていた。

何割かは、尻肉の山頂への登攀に成功していた。そこから、背中の荒野側に逃げるか、それとも、性器のより深い峡谷の方向に逃げるか迷っているような様子だった。

「みなさん、今日の観光は、どちらまで、お出かけの予定ですか?ティファニー地方には、皆様を楽しませる素敵な観光地が、いろいろとございます。背中の荒野の散歩。お尻山への登山。お尻谷の探索。オプショナル・ツアーとしては、プッシー峡谷への、危険な冒険ツアーも、御用意してございます!」

唇を薄くしていた。たっぷりとした皮肉をこめながら、にんまりと笑っていた。破滅をさだめられた、敵国の高級ホテルに宿泊できる上流階級の市民たちに、さらなる恐慌をもたらしてやろうと思っていた。

貧民街に生れた彼女は、金持連中には、憎悪を抱いていた。復讐の絶好の機会だった。徹底的にやるつもりだった。ティファニーの肉球は、快感の波の名残に呼応するように、絶え間ない上下動を繰返していた。左右に高く聳えている、尻山からの逃亡を図っていた。

「今日のご旅行の予定には、専門のツアー・コンダクター、デリラのご案内を、ご利用くださいませ」

デリラは、ティファニーの大柄な身体をカウチから軽々と持ち上げていた。白いハードタイルの床の上に、うつぶせに横たえていた。あまり使っていないらしい。ほとんど、汚れていなかった。

ホテルを、ティファニーの両肢の間に置いていた。赤毛は、今では青いドレスに、おそろいのハイヒール。それに洒落たバッグを下げた、お出かけの時のような格好をしていた。

「ねえ、どうしてあなた、あたしを床の上に寝かせるのよ?」
ティファニーは、肋骨の下で潰れている巨乳の位置を移動して、呼吸が楽にできる態勢になろうとしていた。

「動いちゃダメだぜ。俺は、お前の搬出口で、ちょっとしたお楽しみをするつもりなんだから」
デリラは、全裸の身体に、ポータサイザーの革のベルトをつけながら話していた。

「搬出口?」
彼女は、なんだか自分のお尻の割れ目あたりで、無数の小さな両手と両足が、蠢いているような、むずがゆさを感じていた。肉球のお尻山の傾斜は、ほとんどの市民にとっては、上ろうしても、あまりに急峻に過ぎた。なんとか背中の荒野の方向に「平安」の土地を見出そうとして、努力していた。

「くすぐったいわ!」
ティファニーは、彼ら全員がデリラから隠れようとして、逃げ惑っている光景を想像していた。

「リラ?くすぐったがって、ホテルを、お尻で潰さないでくれよ。そうすれば、まだまだ楽しめるんだから!わかったかい?」

「わかったわ。でも、いつまで我慢できるか、約束はできないわよ。あたしだって、こんなに楽しい時間、もう長いこと味わってなかったんだから!」

「俺だって、同じことさ」
デリラは、充分に今の時間を楽しんでいた。いや、楽しい何という言葉では、とても表現できない。ちっぽけな生き者たちのすべてが、美しいお尻を崇拝してやまない光景に、ほとんど魅了されてしまっていた。もちろん、このタフで荒っぽい女性警官、デリラ様への恐れもあるだろう。

「よくわかったぜ。虫けらども!!俺様に、そこに来てほしいんだろ?」
デリラは、自分の身体を五センチメートルに、少し足りないぐらいの背丈になるまで縮小していった。

縮小光線を、光のシャワーのように分散して浴びていた。自分も、ポータサイザーも、ともに縮小する。腰に革のベルトに、二挺の縮小光線銃を差していた。これがないと全裸以上に、自分が無防備に感じられて、不安になるのだった。

今の、ティファーには、指人形とちょうど同じぐらいの大きさに感じられていた。しかし、ティファニーのお尻谷のちっぽけな生き物たちにとっては、身長五十メートルの巨大女だった。


デリラは、ティファニーの脇に張り出した巨乳の肉を上っていった。背中の荒野の上を歩いていった。狭いが、充分に彼女も進入できそうな幅のある、ティファニーの尻肉の割れ目に向かっていった。

肉球のお尻山の頂上は、デリラの頭の天辺よりも、なお高い場所に達していた。ティファニーの背中に逃げだそうとして谷間から出られずに、落伍した者達を捕まえるためには、彼女自身がお尻山を登って、ティファニー谷に入り込む必要があることがわかった。

 斬新なアイデアが閃いていた。当面は、ティファニーのプッシー峡谷に、絡まりあっている密生した赤毛の陰毛の森に脱出口を見出そうとしている者達に関しては、無視することに決めた。ティファニーのお尻山の頂上に上っていた。

彼女の小柄な刺青をした肉体は、足もとの青白いほどに白い肉の山と比較すると、ずいぶんと黒々と見えていた。両手と両膝をついていた。染みひとつない柔らかい尻。皮膚の絹のような感触を、全身の肌で味わっていた。ティファニーのプッシー谷の方角に向かって、四本足の巨大な蜘蛛の怪物のように下って言った。人間狩りを開始していった。

彼らの内の何割かは、緑の髪の巨大女が、背中の荒野の方向から四つんばいになって、肉の山を越えてくる凄まじい光景を目撃していた。

その瞬間に、方向を変えていた。何割かは、彼女の左右を走り抜けるという奇策に出ていた。しかし、どちらにしても、彼らのサイズは、今のデリラには、ネズミ一匹分ぐらいにしか感じられなかった。取逃がすはずはなかった。

彼女が何もしなくても、どこかではティファニーのお尻山から転落して、命を落している無様な者たちもいるようだった。

彼女のいる場所を、あえて告知するように怪獣のような咆哮をあげながら、顔をティファニー谷の底に突っ込んでいった。一匹の筋肉質のマッチョな男を、口にくわえることに成功していた。

彼もまた、ボディビルディングをしていることは、デリラには自分の経験から、すぐにわかった。筋肉のつき方が、普通の男性とは異なっているのだ。

彼は、逞しい両足を、彼女の口元から空中にぶらさげた状態だった。なお必死に蹴ろうとしていた。彼女は、彼の上半身の筋肉を、口の中で、入念に舐めてやっていた。この光景が、他の者達を、さらに必死の逃走に駆りたてていた。

ティファニーのプッシー峡谷の方向だった。デリラは、彼の体を唇の間に挟んだままで、にっかりと白い前歯を剥き出しにして微笑していた。

口中の筋肉質の固い物体で、「ディープスロートごっこ」を思いついた。質感が、充血して勃起した状態のあれと似ていた。昨夜は乱暴な海兵隊員と、ベッドをともにしていた。そこで、無理矢理にディープスロートをさせられたのだ。その仕返しの意味もあった。彼女は、彼のガールフレンドでもあった。デリラは、バイセクシャルだった。

最初は、この男を、ディープスロートする感覚と、昨夜の一物との間に、それほどの感触の違いはなかった。しかし、喉の奥に入っても、なお彼が両手と両足で暴れてくれている感覚は、明らかに異なっていた。ペニスの手足はない。新鮮な感覚だった。

とうとう、ぐったりと動かなくなった、ちっぽけな恋人を飲みこんでいった。食道を下っていく感覚があった。その感触は、胃袋に入っても、なおしばらくは続いていた。

彼が悲鳴を上げている声を、なおしばらくは、逞しい腹筋の壁を通して耳にすることができていた。失敗したのは、思わず大きなゲップを出してしまったことだった。

それまでの、彼の悲鳴と動きがとまってしまった。おそらくは、彼が呼吸のために使用していた胃の中に残っていた、わずかな分量の空気が、それによって体外に放出されてしまったのだろう。

デリラは、くすくすと少女のような無邪気な顔で笑っていた。それから、今度はとてもおいしそうな若くて美しい女を捕まえていた。同じようにディープスローとしてやっていた。喉を下る感触を堪能しながら、彼女の瞳は油断なく、次の獲物を物色していた。

22***

マックとケリーは、しばらくの間は、疲れきって何を話すこともできなかった。両手は、コントロールできないほどに震えていた。止めることができなかった。デリラの小さな乳首のシワに、命がけでしがみついていたからである。

集中力も切れようとしていた。この貧乳の女性警察官は、今では人間狩りという殺戮行為を楽しんでいた。彼女が、自分自身の肉体を、より小さくしていったこともわかった。それによって、大柄で女らしい体型のティファニーの身体の上によじのぼって、人体探検をしようとしているのだ。そういうことも見当をつけていた。

マックは、もし今、二人が、ここで乳首から転落したとすれば、小さすぎて、仲間の誰の目にさえ、とまらない危険性があると思っていた。踏み潰されてしまうことだろう。

「指に、力が、入らなく、なって、きたわ」
ケリーの体力と握力がつきかけているようだった。マックにしても、その忍耐がいつ切れるか、時間の問題だった。

帝国の水泳大会でも、数々の新記録を樹立して来た彼女だから、この試練に耐えてきたのだ。普通の女性であれば、とうに墜落していただろう。マックの水を切り裂いてきた腕も、降参する時が迫っていた。

「僕もさ、もう少しだけ……」
 彼は、彼女を励まそうとしていた。しかし、彼は、彼女の美しい顔が、がくりとTシャツの胸元に折れるのを見た。何か、しなければならなかった。それも、今すぐに!

23***

メラニーは、疲弊しきっていた。ビジネススーツを高く盛り上げている大きな胸元が、激しく上下していた。フィットネス・クラブでエアロビクスなどの運動をして鍛えてきたが、もう体力の限界だった。

走れそうになかった。頭上に暗い影が落ちてきた。もう顔を上げる力しか残っていなかった。それはあの緑の頭髪の顔だった。カーニバルの怪物だった。巨大女だった。メラニーの少女時代からの最悪の悪夢が、現実になった瞬間だった。

腰が抜けていた。身体の下敷になったスーツのスカートから伸びたストッキングの両足に、全く力が入らなかった。緑の髪の顔は、悪意のこもった笑みうかべながら、彼女を見下ろしていた。

すんすん。鼻がなった。身体の匂いをかがれていた。それから、巨人の舌が飛び出して来た。彼女のブロンドの髪を、つばでびっしょりと濡らしていった。映画館のスクリーン・サイズの顔だった。今、男を食らったばかりの白い歯は、赤く染まっていた。

彼女は、この悪夢からなんとか逃げようとしていた。ますます顔が接近してきた。大きく口を開いていた。生臭い血の臭いがした。彼女は、失神する寸前だった。震える指先で、宝石を採り上げていた。

「さあ、これをやるから。あたしの持っているすべてよ。こいつを持って、どこかにおいき!!」
彼女は、高価な宝石を巨大女に指しだしていた。

鋭く突出した舌は、なおしばらくの間、人間の血に赤く染まった巨大な唇を、ゆっくりと嘗め回していた。それから、巨大な音量を持った声が、まるで空気が爆発したように、メラニーをせっかく上ってきた、汚らわしいお尻谷の内部に、再度、転落させていた。悲鳴を上げていた。

「ねえ、ティフ!!この敵のあばずれが、俺に宝石をくれるって、いってるんだけどなあ!?俺、食っちゃってもいいかなあ!?」

 デリラは、そういいながら悪魔のように笑っていた。彼女は鋭く長く伸びる舌をべろりと突出すと、メラニーの身体をその上に乗せて、谷底から掬い上げていた。デリケートな尻の皮膚の上に置いていた。

「宝石ですって!?」

床の上で、汲んだ両手に顎を乗せた状態で置かれていたティファニーの赤毛の頭部が、いきなり持ち上がっていた。肩越しに背後を眺めていた。彼女の女友達の緑色の頭部が、お尻の谷間の向うに、小さく見えていた。肛門のあたりは、尻肉が作る谷間に隠れて見ることはできなかった。

「それって、本物かしら?」

「わかんねえなア??俺は、宝石には詳しくないんだ!」

デリラは、女の身体の凹凸のある前半分を、べろんと舐めていた。さらに、お尻の谷から、山頂の方向に舌の力だけで、女の身体を押し上げていた。他のちっぽけな人間たちは、この光景から、できる限りの距離を置こうとして逃げ惑っていた。

「まあ、いいわ。ともかく受取っておいてちょうだい!あとで、大きくしてみましょうよ。それで、何かして遊べるかもしれないから」

ティファニーは、赤毛を振って顔を正面に戻していた。それから、床に敷いたパイルの生地の上から、コーヒーカップを取り上げていた。デミタス・サイズの小さなものだった。中身を飲干してから、背中の方に片手で回していった。

「この中に、いれてちょうだい!」
別に議論することもなく従順に、デリラは、ちっぽけな宝石を鏤めた装身具を、ちっぽけな女から取り上げていた。女が指しだしてすべては、彼女の指先の先端部分に、すべて乗ることができた。

彼女は、指紋の上できらめいている宝石を値踏みしていた。しかし、彼女には、本物も偽物も所詮は、区別がつくはずもなかった。ただ指しだされた品物のすべてを、用意された、遊園地で遊ぶ時に使う、コーヒーカップの乗物ぐらいのサイズのある、容器の中に落していた。

24***

「ああ、ああ、もうだめ!!!!」
 ケリーが叫んでいた。震える指が、デリラの乳首の肌の深い皺から滑っていた。身体が落ちていく。

「だめだ、ケリー!!!!」
 マックの生涯でも、これほどに哀しい瞬間はなかった。ケリーが落ちる光景を目撃していた。

数々の思い出が、走馬灯のように脳裏を走り抜けていった。初めて、プールサイドで、髪の水分をタオルで拭いている、競泳水着の十八歳の彼女を見た日。彼は、その日のうちに恋に落ちたのだ。ケリーとの夜。彼女は、ベッドでも元気に飛び跳ねる魚だった。彼のどんな要求でも、拒まずに受けいれてくれた。自分も燃えつきていた。愛していたのだ。

マックは、乳首のリングの影に身を潜めていた。緑の髪のモンスターが、さらに上半身を傾けていた。



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笛地静恵・訳

第3章 デリラ 了



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