おやすみなさい、おちびちゃん! 第1章
  
  ポコ作
  笛地静恵訳
  
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  1
  
   リサにリンダ、コーリーンにジャネットの四人は、
  「パジャマ・パーティ」の開催を、もう二週間も前から、心待ちにしていたのでした。
  
  
   今度の土曜日の夜こそ、何かが起こりそうでした。
  
   午後八時四十五分には、全員が夕食を済ませていました。
  リンダの家に集合していました。
  
   寝巻に着替えていました。
  
   コーリーンとジャネットのように、パジャマのものもいれば、
  リンダとリサのようにセクシーなネグリジェのものもいました。
  
   誰一人として窮屈で邪魔なブラを付けていないのです。
  リラックスするつもりでした。 乳房の形が透けて見えていました。
  
   今夜一晩は、食べたり飲んだり、おしゃべりをしたりと、
  徹夜してでも、たっぷりと楽しむつもりでした。
  
   リンダが、他のみんなを興奮させる重大発表をするまでに、
  そんなに時間はかかりませんでした。
  
  「この家に、新型のセキュリティ・システムを採用したのよ。
  でも、それは、男の子たちの侵入を、食い止めてくれるものじゃないの。
  反対に、おびき寄せるものなのよ。 でも、もし入ってきたら……、
  二度と忘れないような、恐怖の体験をすることになるでしょうね」
  
  「パンティを、脱いでおく必要があるのかしら?」 とコーリーン。
  
   リサは、ほんのちょっとの間だけ考えていました。
  それから、にっこりとしました。
  
  「そんな状況になったときに、どうするか決めることにしましょうよ。
  起こってみるまでは、何とも言えないわ。
  あのフットボール・チームの男の子たちの半数は、
  今晩、私達がここに集合していることを知っていると思うわ。
  あたしが、ばらしたんですもの」
  
   リサは、自信に満ちた口調でそう言いました。
  
  「わたしたち、その瞬間が来るまでは、じっと静かに待っていなくちゃならないのよ」 とリンダ。
  
  「もう少し、何が起きるのかを、説明してくれない?」
  
   リンダは、男の子たちが、このパーティーに乱入してくるためには、
  戸外から、そのために用意された通路を、絶対に通らなくてはならないことを説明していました。
  それは、一見、ひどく容易に見える方法だったのです。
  
  「あいつらは、その道を通って、ここにくるわよ。
  そうしたら、つかまえてやりましょうよ」
   リンダは、そう話を続けていました。
  
  
   下級生のコーリーンとジャネットは、言葉もなく顔を見合わせていました。
  
  「それって、まさかほんきじゃないでしょうね? リンダ。
  やつらが、ここに入ってきたら、楽しい泊り込みの「パジャマ・パーティ」が、
  めちゃくちゃにされちゃうわよ。 せっかく長い時間をかけて、準備もしたのに」
  
   リンダは、意味深長な沈黙を守っていました。
  
  「来させてあげましょうよ、そうすれば、何が起こるかわかるわ」 とリンダ。
  
   下級生の他の女の子たちには、上級生の彼女たちがどうしてそんなに、
  自信をもって断言できるのか、まったくわけがわからなかったのですけれども。
  
   男子フットボール部は、乱暴者ぞろいで有名でした。
  チア・リーダー部でも、何人もが被害にあって、なかされていたのです。
  
  
  2
  
  
   ちょうど、そのころ。
  トニー、チャーリー、フィルとバディは、リンダの家のすぐ外に集まっていました。
  
  
   トニーが、まず真っ先に口を開きました。
  
  「彼女たちは、この中にいるんだぜ。 みんな、すぐそこにだ。
  そして、そろそろ生まれたばかりの、かっこうをしているはずだぜ。」
  
  「だいたい、どうやって、中に入るんだい?」
   チャーリーが、疑い深そうに質問していました。
  
  「俺様は、この家をもう何日も前から、偵察していたんだぜ、
  親愛なる諸君たちが怠けている暇にね。
  そこに小さな隙間があるのが、目に入らないのかい?
  そここそが、内部にまで通じる秘密の扉さ!」
  
   その道こそが、女の子たちが、男の子たちに利用してもらいたい、秘密の通路であったのです。
  
   普通のトンネルのようでした。 しかし、外見以上の不思議な働きがあったのです。
  彼らは、内部に踏み込んで行きました。
  
  
   さらに奥へ。
  
  
   さらに奥へと。
  
  
   ずいぶん長いトンネルでした。
  
  
   トニーは、キャンプ用の大型の懐中電灯の明かりを点けました。
  広大な暗黒が、彼らの周囲を押し包んでいました。
  
   強力な光でも、闇の奥までを照らしだすことは、できなかったのです。
  壁は見えなくなっていました。
  
  「こいつはいったい、どういうこったい?」
  
   とうとうバディが口を開きました。
  
  「こんなにおかしな場所を、俺は見たことないぜ!」
  
  「ここはそういう家なのさ。 この町では、最新型の建築だったそうだ。
  「冷戦時代」のことなんだがよ、何人かの人々は、核戦争を恐れたんだ。
  そのため、地下にシェルターを作ったのさ。
  そんなことをしたって、世界が滅亡した後で、生き残ることなんて、できるはずがないのにさ。
  でも、たぶん気が休まるとかそんなものには、効果があったんだろう。
  こいつは、その中でも特別製なんだろうな。
  大事なのは、これが、家の中に直結しているっていうことだ。
  おれたちがいるのは、外への脱出用のトンネルの中だ。
  それは逆に言えば、外から家の中に、簡単に入れる通路だってことだろ?」
  
   バディは、薄気味の悪い暗やみの中で、友人の説明にも納得してはいませんでした。
  
  「おれ聞いたことあるぜ。
  もし原爆が爆発したら、その後で地球に生存できるのは、ねずみとゴキブリだけだって!
  そうさ、さいわい原爆は、アメリカには飛んでこなかった。
  でも、ここの音は何か耳ざわりだな。
  フィル、チャーリー、お前ら、ちゃんとついて来ているだろうな?」
  
   トニーは、懐中電灯の明かりをさっと背後に動かしました。
  全員の姿を照らしだしていました。
  
  「なんか変だけど、あのおっぱいを目の前にして退くことができるかよ?」
  
   今日、集まっている四人は、いずれも見事なものを胸に揺らしているチア・リーダー
  の女の子の中でも、巨乳で有名な少女たちばかりでした。
  
   彼らは、ジーンズの股間を、闇の中で膨らませていました。
  
   見えないのをさいわい、手で刺激しているものもいました。
  これから来るものを想像して、ごくりと唾を飲み込む音がしていました。
  
  
  「いこうぜ、ともかく先に進もう!」
  
   それが全員の意見でした。
  このまま、引き下がるなんて、出来ることではありませんでした。
  
   彼らは不思議なトンネルの中を歩き、さらに歩き続けたのでした。
  
   その場所には、実際のところ、こうした地下には付き物の、
  ねずみや他の生きものの姿がまったくありませんでした。
  少なくとも、彼らの脅威になるような存在は、何もいなかったのです。
  
   どうしてなのか、想像もできませんでした。
  しかし、秘められた恐怖の秘密を、すぐにも明らかにしそうな、ぞくぞくする感じがしました。
  
   それに、どうしてトンネルが、こんなに長いのかもなぞでした。
  彼らにとっては、もう長い長い距離を歩き続けて来たのです。
  
  
   明らかに長すぎました。
  
  
   五十メートルか、それ以上の距離に感じられたのです。
  家のトンネルの入り口から換算してです。
  
   それでも、いまだ彼らは、出口に辿り着けないのでした。
  
  
  3
  
  
   しかし、ついに、光を目にすることができていました。
  
   そこに向かって、光に吸い寄せられる虫のように、ちょこちょこと近づいていきました。
  ゴールまで、もうすぐでした。
  
   けれど、出口に立っている何本もの太い鉄の棒を、目にしたのです。
  途方も無く巨大な鉄の棒でした。
  
   同時に、にぎやかで耳障りな、ティーンエイジの女の子特有の、
  あの派手な笑い声を耳にすることができました。
  大きな声が反響していました。 耳が痛いぐらいでした。
  
   これもトンネルの引き起こす効果なのでしょうか?
  何度も、学校で耳にしていましたが、
  今回のそれは、とびきりの大声で恐ろしいほどの大音量であったのです。
  
   それはそれで結構なことでした。
  轟音が、彼らが出口から飛び出すときの音を、覆い隠してくれることでしょう。
  
   驚かしてやるつもりでした。
  
   トニー。チャーリー、フィルそしてバディは、とうとう、
  この核シェルターの奥の彼女たちの部屋に、たどり着いたのでした。
  
   フィルは、今まで何も自分の意見を述べるようなことは、しなかったのです。
  何事にもでしゃばらない性格の男の子でした。
  しかし、とうとうここに来て、我慢の限界に達していました。
  
  「トニー、これのどこが、核シェルターだっていうんだい?
  ここは、ただの空き部屋じゃないじゃないか?
  備蓄用の物資とかがたくさん、積み上げてあるはずだろ?
  食料とか水とか……そのたぐいのものがね……。
  それなのに、ここには何もないぜ!」
  
  「静かにしろよ」 とトニー。
  
  「冷戦時代なんか、もう遠い過去のことじゃないか。
  おれたちは、まだ学校にも入っていなかった、そうだろ?
  きっと、もう使ってしまったんだろう。 だから、残って腐ってもいない。
  ネズミの餌にもならないですんだ。 まあ、そんなところだろうさ」
  
   バディは、トニーの言葉に満足していませんでした。
  
   彼は壁の存在を、手のひらに触れて感じていました。
  懐中電灯の光が、滑らかな壁面に反射していました。
  彼らを、逆にかすかに照らしだしていました。
  
  「トニー、ぼくたちは、その頃には、生まれてもいなかった。
  そうだろ? 同じようにこんな壁全体を覆うような巨大なプラスティックが、
  1950年代にすでに存在していたんだろうか? 継目さえ見えないだろ?
  こいつは、なんだかおかしいぜ。 ぼくの妹が、ネコを外に連れ歩くときの、
  キャリアーの檻と似ている感じがするんだけどなあ」
  
   チャーリーが、口を挟みました。
  
  「それにしちゃ、大きすぎるだろ。 でも、似ているぜ。
  トニー、おまえの懐中電灯で周りの壁を、もう一度、照らして見てくれないか?
  上に向けてみてくれ。 この天井は、たぶん三メートル以上の高さがあるよな?
  こんなに高くする必要はないんじゃないか?
  リンダの家が、どんなに金持ちであってもさ。
  シェルターの本を、一度だけ読んだことがあるんだ。
  放射能を防ぐ核シェルターの鉛の壁は、ごく薄いんだ。
  だからこそ、それは、出来るかぎり地面から深いところに、埋めなければならないんだ。
  土それ自体が、放射能に対する防壁になってくれるからな。
  でも、こいつは鉛じゃないぜ」
  
  「そうだとも!」
  
   バディも、他の二人に賛成していました。
  
  「それに、ここには部屋がない。 照明もない。 電気設備もない。
  こいつは単に、プラスティックの箱だ。
  それに、俺達の目の前にある鉄の棒は、いったい全体、なんだっていうんだい?」
  
   彼は、その隙間から外をのぞこうとしていました。
  
  
  4
  
  
  「部屋が見える。 家具もある。 でも、どれもこれも恐ろしく遠くに見える。
  それに、聞いてくれ……、しっ、静かに……。
  女の子たちが、ささやいたり笑ったりしている声が、聞こえるかい?
  賭けてもいい。 こいつは、きっと何かの罠だぜ!」
  
   懐中電灯の明かりが、チャーリーの顔を照らしだしていました。
  それは、高まりゆく恐怖のせいで真っ青になっていました。
  
   緊張のあまり、唇が震えていました。
  少なくとも、フットボールのフィールド場では、彼が決して見せたことのない表情でした。
  
  「トニー、ぼくは、逃げるほうに一票を投じる。 今すぐに、すぐにだ!」
  
   フィルとバディも、チャーリーに賛成票を投じていた。
  
  「こいつは、こわいよ。 みんな、とっても、こわいことだよ。
  ぼくは、女の子たちが、どんなにかわいくても、もういいさ。
  こんな、こわい思いまでする価値なんて、ないぜ!」
  
   トニーは、自分の計画に反対されたことで、いくらか気分を害していました。
  しかし、友人たちの言葉は、どれも彼が漠然と感じた不安と同じ内容でした。
  しっくりと納得できることばかりでした。
  
   踵をくるりと回していました。
  背後を振り向いていました。
  懐中電灯の光で、後方を照らしだしました。
  
  「また、この次にしようぜ。 ここから出るんだ」
  
  「トンネルは、どこだい?」
  
  「ここにあったんだ。 おれたちは、こっちから来たんだから!」
  
  「ない、出口がないぜ!」
  
  「ただの壁だ!!」
  
  「どこにあるんだあああ!!!!」
  
  「バカ! 冷静になれよ!」
  
  「見付けろ、見付けろ!」
  
  「……ないぜ、本当に消えちまった!」
  
   プラスティックの部屋は、振動を初めていました。
  
   最初は、ほんのわずかに。
  天井が、雷鳴のような音を立てていました。
  
   それから、壁面が鳴動していました。
  床が、大地震のように揺れ初めていました。
  
   今では、冷静で皮肉な性格のトニーまでもが、完全なパニック状態に陥っていました。
  
  「何が起こったんだ!」
  
  「いったい全体、何が、どうしたっていうんだ!?」
  
   彼の手から懐中電灯が落ちて、転げていってしまいました。
  しかし、それ自体は、もうたいしたことではありませんでした。
  
   まばゆいばかりの光が、巨大な鉄の棒の隙間から差し込んで来たからです。
  床に棒の影が黒く延びていました。
  
   それは、彼らのひどくちっぽけですが、恐怖のあまり強ばった顔を、
  くっきりと照らしだしていました。
  
  
  5
  
  
   ひとつのあまりにも巨大な顔が、鉄の棒の向うから現われて来たのでした。
  
  
   興味津々とした表情で、彼らを見下ろしていました。
  
  
  
   フィルは鉄格子に手をやり、呆然と彼女の巨大な顔を見つめました。
  
   トニーとチャーリーは怯え、そして悲鳴を上げていました。
  
   バディは、恐怖のあまり失神していました。
  
  
  
  
  
  
 
  
  
  
   男子全員が、よく知っている顔でした。 金髪で青い瞳でした。
  それと同じような顔がついていたのは、コーリーンという名前の少女だったはずです。
  
  
  
   映画のスクリーンのように巨大なのです。
  
  
  
   しかも、映像ではなくて、肉体を持って実在していました。