おやすみなさい、おちびちゃん! 第2章
  
  ポコ作
  笛地静恵訳
  
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   ひとつのあまりにも巨大な顔が、鉄の棒の向うから現われて来たのでした。
  
  
   彼らを興味津々とした表情で、見下ろしていました。
  
   男子全員が、よく知っている顔でした。金髪で青い瞳でした。
  それと同じような顔がついていたのは、コーリーンという名前の少女だったはずです。
  
  
   映画のスクリーンのように巨大なのです。
  しかも、映像ではなくて、肉体を持って実在していました。
  
   花柄のパジャマに包まれた片方だけの乳房が、
  彼らの視野の全体を覆い隠していました。
  
   バディは、恐怖のあまり失神していました。
  他の男の子たちは、彼の異変に気が付いていませんでした。
  
  
   小さなペットを運ぶための、プラスティックのキャリアーの壁に退いていました。
  そこに背中を擦り付けるようにしていました。
  震えて泣きそうな顔をしていました。
  
  
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   コーリーンが、箱の把手を掴んで、そっと床に下ろしました。
  
  「彼らは、みんなここにいるわよ。 ねえ、すごく、かわいいじゃない?」
  
   リンダとリサの瞳の凝視も、コーリーンと同じように、ちっぽけな彼らを見つめていました。
  
   トニーは、途方も無く巨大な片手が、長い爪を生やしたままで、
  鉄の棒の方に接近してくるのを見つめていました。
  
   箱全体が、再度振動していました。
  なにか耳障りな響きがしました。
  
   巨大な鉄の棒を填め込んだ壁全体が、外の方向にむかって開かれていくのでした。
  リンダの声は、遠くの空からくぐもって轟いて来る、夏の遠雷の響きのようでした。
  まったく仰天するような内容でした。
  
  
  「出てらっしゃい、出てらっしゃイナ。
  小さな男の子たち。 あなたたちのことを、お待ちしていたのよ!」
  
   トニーは、あまりにも恐ろしかったのです。
  それは、チャーリーもフィルも同じことでした。
  バディは、まだ動くこともなく横たわったままでした。
  
   リサは、忍耐力の限界に来ていました。
  箱の上を、バンと片手で殴り付けていました。
  中に、激震を起こさせていました。
  
  
  「はやく出てきなさい! 出て来ないと握り潰すわよ!」
  
   まだ意識のある三人の男子生徒たちを、絶叫させていました。
  
   トニーが、箱の中から駆け出した最初のひとりでした。
  リサの開いた手の真上でした。
  
   チャーリーが、すぐ後に続いていました。
  リンダの片手が、そこにありました。
  
   フィルは、自分の身体が、いきなりジャネットの親指と人差し指の間に、
  挟まれていることに気が付いていました。
  
   バディは、周囲をきょろきょろと見回していました。
  しかし、コーリーンの手が近寄ってきて、彼を掴んで外に取り出そうとしていることには、
  まったく気が付いてもいませんでした。
  
   空気は、巨人たちの笑い声と、小人たちのちっぽけなきいきい声の悲鳴に満たされていました。
  
  
  「ねえ、彼らが必死にもがいている様子を見てよ!
  なんて、かわいいんでしょう!」
  
  
   悲鳴と抵抗も、ついに終る時が来ました。
  リンダが、おもむろに口を開いたのでした。
  
  「わたしたちの「パジャマ・パーティ」に、ようこそおいで下さいました。
  小さな男の子たちのみなさんを、歓迎したいと思います。
  自分たちに何が起こったのか、知りたくはなくて?」
  
   彼らは、本当に知りたかったのです。
  しかし、そのために頭部を上下に動かせるだけ、
  身体の震えを止められる者は、ひとりもいませんでした。
  
   フットボールのヒーローたちは、全員が泣いていました。
  しかし、涙のつぶはあまりにも小さくて、少女たちのひとりとして、気が付くこともできなかったのです。
  
   それ以外には、彼らには身体を動かす自由さえ、まるでなかったのです。
  彼女たちは、どうして男の子たちが、ここにこうしているのか、もうよく分かっていました。
  
   リンダは、箱のなかに手を入れました。
  これも、ちっぽけな懐中電灯を摘み上げました。 床に残ったままで光を発していたのです。
  
   小さなアルミ・フォイルの破片のようでした。
  彼女の指の間でさりさりと粉々に砕けてしまったのでした。
  
  
  6
  
  
   リンダが、話をはじめていました。
  
  「あなたたちが通り抜けてきた、いわゆる「トンネル」と言うのは、
  わたしの家の新しいセキュリティ・システムの一部だったのよ。
  あの通路は、実際、50メートルぐらいの距離があったように、あなたたちには、感じられたでしょ?
  でも、どうして、そんなに長く感じられていたのかしら?
  あたしの家は、外から見ればわかるように、そんなに大きくないわ。
  なぜなら、その中を歩いている間に、あなたたち自身の身体が、どんどん縮小されていたからなの。
  だから、最後の30メートル分は、実際のところ、たったの3メートル分しかなかったのよ。
  あなたたちが言うところの、「核シェルター」の部屋に入り込んで来たときには、
  あなたたち自身の身長は、約10センチメートルのサイズになっていたの。
  今と同じぐらいね。 子猫のキャリアーの15センチぐらいの天井が、
  3メートルの高さに見えたって、当然のことなのよ」
  
   リンダは、大きな声を上げて笑っていました。
  
   ちっぽけな男子生徒たち全員には、両手で耳を押さえさせるのに十分な、
  巨大な音量に感じられていました。
  フットボール競技場の大歓声よりも、何倍も巨大な哄笑だったのです。
  
   バディは、まだ啜り泣いていました。
  コーリーンが彼を持ち上げていました。
  
   ほとんど同情のあまり、泣きそうな顔をしていました。
  黙ってキッチンに連れていってあげました。 彼は、失禁していました。
  お湯で洗ってあげるつもりでした。 どんなに恐かったことでしょう。
  
   トニーを抱いているリサは、もう少し冷淡でした。
  
  「大きな大きなフットボール選手のみなさん。
  あなたたちは、自分たちが、他のどんな男の子たちよりも、
  偉大な存在であると思っていらしたでしょうね。
  でもわたしたちは、他の男の子たちとも、デートをさせてもらったわ。
  その結果、彼らが大好きになったの! とても優しくしてくれたわ!
  花をプレゼントしてくれたり、交換日記をしてくれたりした。
  庭先から、妙なトンネルを潜ってくるのじゃなくて、ちゃんと玄関から、礼儀正しく訪問してくれたわ。
  わたしたちは、彼らをとても大切に思っているのよ。
  必要な時に、すてきな友人でいてくれるんですもの」
  
  
   リサはそう言いながら、トニーの肉体の上にかける握力を、徐々に強めていきました。
  
   トニーは、彼が今まで彼女にやってきたことを、リサに謝ろうとしました。
  
  
  
   しかし、リサの超強力なマニキュアの指のせいで、呼吸することすらままならなかったのです。
  
  
  
  
