【巨人国渡航記秘録訳者後書】
笛地静恵
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「巨人国渡航記秘録」(原題「Gulliver's Travels」)は、チェルギー(Chelgi)氏の人間ディルド・テーマの小説の全訳です。
ディルドは、日本では普通バイブと言われているでしょうか。
女性の膣を喜ばすための、模造ペニスのことです。
初めて読まれた方は、その圧倒的なド迫力に、唖然とさせられたと思います。
数日間は、夢に見ることでしょう。 笛地もそうだったのです。 他の作品も、読みたくなったでしょ?
海外のネットで氏の作品は、いろいろと読めます。 サーチすることを、是非お薦めしておきます。
「巨人国渡航記秘録」は、その中でも、『ガリバー旅行記』のサイドストーリーという性格から、
比較的にまとまりの良い名作だと思い紹介しました。
内容は一読して分かる明快なものですが、この物語には、十六歳の娘のいる人妻(!)のGTSが
登場します。 その意味でも、珍品であることは、強調しておいてもよいことでしょう。
初読の際に、「あっ、やられた」と感じました。 笛地も書いてみたい設定であったからです。
ただ、ともに十六歳の王女と女官と、ガリバーの三角関係を中心に、自分流に書いてみたい希望は、
今でもあります。
チェルギー氏の長所は、人間ディルドとなって、巨大な女性の膣に飲み込まれたいという願望の強さ
にあります。 その熱烈さの前では、何もかもが押しながされていきます。
彼にとって、小説の完成度などは、枝葉末節のことでしかないのでしょう。
残念なのは、彼にその思いを充分に表現するだけの、語彙がないことです。
表現は、いつもsoftでwetでwarmなvaginaへの賛仰になっていくだけです。
語句が単調なのです。快感を高めるために、心の中で、唱える呪文のようなものです。
だから、作者にとっては、同じ文句の繰り返しで良いわけです。
チェルギー氏は、ソフトでウエットで、ウオームなヴァギナを讃える詩人なのです。
文句はいいましたが、笛地は彼の作品が大好きなのです。
彼ほどに、純粋なソウルの持ち主は、欧米のGTS/シュリンカー小説の作家にも、他には一人もいないと思うのです。
翻訳は、尊敬だけでは済みません。どのような文体で訳したら良いのか。
長い間、分かりませんでした。 しかし、ある時、ある店で、偶然にドラゴン・アッシュのラップの音楽を耳にしました。
その歌詞には、三つの種類がありました。「あっ」とか「おっ」という単純な掛け声と、韻を踏んだ言葉の連打と、
日本語の文章として意味の明瞭に聞き取れる部分です。
「これではないかな!?」と思いました。
チェルギー氏の文体は、オナニーの時にペニスを刺激する、手のリズムの再現なのだと思うのです。
1、2、1、2という単純で、原始的なリズムがあります。
つまり、おそらく幻想の中で、巨大な女性の膣の中のペニスとなって運動する、自分の身体のリズムとシンクロしています。
チェルギー氏のソウルの、類い稀な「バイブ」を、全身で感じとって頂ければ嬉しいです。
ただ、脚韻だけは使いませんでした。
膠着語である日本語は、同一の母音や子音で終わる言葉があまりにも多くて、安易だと考えました。
旨くいっても、下手なだじゃれのようなものにしかなりません。
要するに、文体にリズムを付けるという工夫だけをしました。
努力はしましたが、彼の独特な世界を、日本語の文章に再現しているのかと言えば、自信がありません。
さらに工夫していきたいと思っています。
お楽しみ頂ければ幸いです。
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