巨大美少女ミカ (19)

           (不運な泥棒 改題)

                           NEW2さん みどうれい作

第二部 不運な船員さん達(その4)

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 その島は天国と地獄が入り混じった場所だった。
が、天国だと思っているのはこの島の主、ミカただ一人、
彼女に追われる訪問者、第二こびと丸の乗組員たちはとんでもない恐怖を味わっていた。
彼らを救い出す者は居ないのか・・・。


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 実の妹ミカに麻痺術で体の自由を奪われた上、催眠術をかけられ口の中で飴玉のように
こびと久太郎を転がしたままのリィナ。

 彼女が本気を出せばその術を破れない事もなかったのだが、彼女もいつしかこびとを
もてあそぶ快感を感じていたのだ。

 だが、それを押さえ、暴走する妹を止めなければいけないという使命感もあった。
その二つの感情が天使と悪魔のようにリィナの心の中で戦っていた。
 さまざまな術を使いこなし、強大なパワーを発揮できる彼女たちだが、
逆に精神的なものでダメージを受けることもある。

 そのためであろう、リィナは体力を消耗していた。
今のリィナは、第二こびと丸の乗組員たちを、妹から助けられる状況ではなかった。


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「しばらく、休憩時間とします」
 会議場の緊張感が一気に和らいだ。
「ここに来て反対派が譲歩してくるとはね。 すばらしいわ、あなたのおかげよ。」
「そんな事ないわ。」
「ところで、娘さんたち、元気かしら。 リィナもミカも、もう一人前だわよね。」
「ええ、でもまだまだよ。」
 この母親、娘たちがこびと達に、大変な事をやっている事など知る由もなかった。
「でも合意に至るには、会期中には無理かもしれないわ。」
「そうなると、日程の延長も考えられるわね。」
「そうね。 何人かの参加者たちはスケジュールの調整に入ってるわ。」
 母親が助けに入るのも、遅くなりそうだった。


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「はあ・・・、はあ・・・。」
 巨人ミカから逃げられた、というより逃がされた譲治は、岩山の中腹でダウンしていた。
が、彼にも久太郎と同じように「結界の術」をかけられ、物理的な衝撃からは守られ、
極度の疲労もすぐに回復してしまう。
 譲治は、しだいに冷静さを取り戻しつつあった。

 ちなみにミカは、隙夫を捕獲、ポーチに入れ持ち歩いていた。
しかし、彼女は隙夫をわざと逃した
ミカが思ったより簡単に隙夫を見つけてしまったので、もう一度逃げるチャンスを与えたのだ。

 それは、ミカにとってゲーム感覚の「敗者復活戦」のようなものだった。

 そして、今、ミカは次なる獲物を求めていた。

「そうだわ、その前にお弁当にしましょう。」

 ミカは草原に行き、ぱちんと指を鳴らすと、どこからともなく彼女のサイズに合う、
椅子とテーブルとサンドイッチが出現した。 そのにおいは回りに広がっていく。

「くそう、腹減った。」
「剛、あれを……。」

 その匂いをかぎつけたのは、孝治と剛だった。
「結界の術」で食事をしなくても、平気なのだが、空腹にはなるのだった。
もちろんミカは「新たなターゲット」の出現を知っていた。

(ふふふ、こびとさんたち。 楽しい食事の時間になりそうだわ)


「いっただきまーす。」
 ミカは椅子に座り、テーブルの上のサンドイッチを食べ始めた。

 その姿を、木の陰から、じっと見つめる二人の小さな影があった。 孝治と剛である。
仲間とはぐれた彼らは、森の中を、あてもなく彷徨っていた。

 この時、すでに、剛も携帯電話で、二毛山副長と話をしていた。
副長の話では、この島には、果物がたくさん生っているそうだが、
あいにく、剛と孝治の迷い込んだ場所は、木の上にヤシの実らしいものはあったが、
高すぎて、とても登れそうになかった。

 したがって、彼らは、今、空腹に悩まされていた。

「なぁ・・・、剛、うまそうな匂いだなぁ。」
「あ、あぁ・・・。」 孝治も剛も、つばをゴクリと飲み込んだ。

 巨人ミカは、現在、森の中にある草原に、テーブルを置き、朝食をとっていた。

 孝治と剛は、草原と森の境目の、ミカから少し離れた木の陰から、彼女の姿を見ていた。
彼ら二人は、隠れているつもりだったが、超感覚を持つミカからは丸見えで、
彼女は、怯えながら覗いている彼らの姿に、笑いそうになるのを、必死にこらえていた。


 孝治と剛のいる位置からは、巨人のテーブルの上の食べ物は見えなかったが、
ものすごく美味しそうな匂いが、辺り一面にただよっていた。

 この時、剛は、正気に戻った。  「ヤバイ!!」 彼は、直感した。
恐ろしい女巨人が、すぐそこで食事をしている。

 本来なら、逃げなければならないのに、何故、自分達は、それをじっと見ているのだ?
それに、いくら腹が減っていたとはいえ、たかがサンドイッチらしい食事の匂いに、
二人そろって、引き寄せられてしまうのも、何か変だった。 

「おい、孝治、逃げるぞ!」 小声だが、はっきりとした声で、剛は相棒に話しかけた。
 だが、孝治は、剛の声に応えず、じっと巨人の方を見つめている。

「何してるんだよ。 逃げないとヤバイぜ。」 剛は、孝治の肩を掴み、揺すぶった。
 だが次の瞬間、孝治が前に歩いたので、剛も引きずられ、木の陰から大きく乗り出てしまった。

 この時、剛は、全身に「焼けつくような視線」を、感じた。
いやな予感の中に、顔を上げた剛が見たものは・・・。

「うわあ!!」 彼は悲鳴を上げた。 女巨人ミカが、楽しそうに 剛の方を見つめていた。
 ば、ばれてるぅー。 (-_-;)  彼女としっかり目線があった剛は、引きつりまくった。 

 その時、巨人が優しそうな声で、彼に話しかけた。
「こびとさぁーん、 隠れてないで、出ていらっしゃい。 たくさん走ったから、
お腹すいたんじゃない? 美味しいサンドイッチを、ごちそうしてあげるわ。」  

 誰がその手にのるか。  剛は孝治の手を引き、そこから逃げようとした。
だが、孝治は剛の手を振り払い、巨人の方に、ふらふらと歩き始めた。

「こ、孝治!!」 剛は、相棒の信じられない行動に、驚愕の声を上げた。

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 この島の自然は、とても豊かだった。
森や山の木々はうっそうと茂り、その保水力のため湧き水があり、湖まであった。

 だが何年か前に、火山の噴火による溶岩の流出で、森の一部が焼き払われたらしい。
その場所は、雨で自然鎮火し、旺盛な自然の回復力により、すぐ草が生えたが、
まだ大きな木が生えるまでの年月は、たっていないようだった。

 結果として、そこは、巨人ミカがキャンプをしやすいような草原に、なっていた。


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 孝治が森の木の陰から草原に出て、ふらふらと歩き出した時、剛は慌てた。
そこで食事をしている女巨人から、丸見えである。

 まあ、超感覚を持つミカにとっては、こびとが木の陰に隠れようが、水に潜ろうが、
簡単に見つけられるので、森にいても、草原に出ても、どっちでも同じことだったのだが、
剛は、そこまで分からない。

 剛にとって、巨人に目視される位置に出るなど、自殺行為だとしか思えなかった。

 剛は、孝治を後ろから羽交い絞めにしたが、それでも、孝治は止まらない。
孝治は、すごい力で剛を引きずって、巨人の方に、まっすぐ歩く。

 ずるずると引っ張られる剛は、焦った。 
高校時代レスリングで鍛えた彼は、第二こびと丸の中でも、力自慢の一人だった。 
それが、剛よりも頭一つ分くらい背が低く、どちらかと言えば華奢な孝治を、止められない。

 剛の知る限り、孝治にこんな力はない筈だった。
ようやく、剛も、巨人が何かの術を、孝治にかけたことを理解した。

 しかし、分かったところでどうしようもない。
剛は孝治を掴む腕を放し、その場にへたりこんだ。

 剛は後ろの森を振り返った。  一人で、逃げるか・・・。 
今なら剛一人だけ、逃げられるかもしれない。 だが彼の体は硬直したように動けなかった。

 相棒の孝治が心配で、逃げられなかったのか、
巨人に、「仲間を見捨てる臆病者だ」と、笑われたくなかったのか、
人さえを操ることができる「巨人の力」を知り、腰が抜けたのか、
それとも、この距離では、もう逃げても無駄だと諦めたのか・・・。
 色々な思いが交錯する中、とにかく、剛は、そこを一歩も動かなかった。


 やがて巨人が立ち上がり、すぐに孝治を捕まえて、剛の前にやってきた。
彼女は、おそろしい大きさだった。

 剛は、覚悟を決めた。 こんな巨人に抵抗できるわけがない。
すぐに、彼も、ミカの指に摘み上げられた。

 それから、ミカは、両手に捕らえた二人のこびとを、彼女のテーブルの上に降ろした。 
彼らは自由に歩くことはできたが、巨人のテーブルの上は高く、とても飛び降りられそうもない。
 今、剛と孝治は完全に囚われていた。

 そこには、巨大な皿に、巨人サイズの、すごく大きなサンドイッチが乗せられていた。
しかし、剛たちのサイズにあう小さなサンドイッチの皿も、彼らの前に、二つ置いてあった。
驚いたことに、孝治はそこ座りこんで、それを美味しそうに食べ始めた。

 このボケぇ! お前のせいで捕まっただろーがぁ!! 剛は心の中で、孝治にぼやいた。
孝治が巨人に操られていたことを知ってはいたが、それでも、文句を言わざるをえなかった。

 剛と孝治の乗り込んだ机を揺らしながら、巨人ミカは椅子に座った。
剛の目の前に、ミカのビキニに隠された白い胸のふくらみが突き出される。
彼は、そのあまりの迫力に、息を呑む。

「どうしたの、こびとさん、 遠慮せずに食べていいのよ。」
 椅子に座った巨人は、楽しそうに、彼らを見つめている。 
テーブルの上の剛たちは、もう完全に彼女の虜だ。 逃げることも、抵抗することもできない。

 のん気に、食事などしている場合ではない。 しかし、どうしようもない。
やけくそになった剛はそこに座り、彼のサイズのサンドイッチを食べ始めた。

 巨人が、こんなに小さなサンドイッチを、どうやって作ったのか、剛には分からなかった。

う、美味い!!」 
 サンドイッチを一切れ口に入れた剛は、そのあまりの美味しさに、驚きの声を上げた。


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 第二こびと丸では、漁が終わった後、捕まえた魚で「漁師鍋」をつくるが、恒例になっていた。
それは、味噌と醤油で味付けして、魚をぶつ切りにして野菜と煮るというシンプルなものだった。
自分たちが獲ったという満足感もあるのだろうが、新鮮な魚の鍋は、とても美味しかった。

 漁師の仕事は、かなりきつい作業だったが、それでも、それが終わった後、
海の風を感じながら、仲間達といっしょに食事をする充実感は、剛を幸せにしてくれた。
 剛にとって、それは、都会のどんな高級レストランでも、味わえない美味しさだった。


 しかし、今、剛が食べているサンドイッチは、そういったモノとは、次元が違う美味しさだった。
言葉では、とうてい言い表せない。

 使われている食材は、パン、玉子、チーズ、トマトなど、普通のものであったが、 それは、
こんなに美味しいモノを食べたら、もう2度と普通の食事などできない と思うほど美味だった。

 女巨人に囚われているという「非常識な状況」にも関わらず、剛は、それを食べ続けた。


「なぁ、剛・・・、 俺、こんなに、美味しいモノを食べたことないよ。」
 孝治が、悪びれた様子もなく、剛に話しかける。

 やかましー!! このボケェ!! これからどうするんだよぉ。
孝治のとぼけたセリフに、われに返った剛は、怒る。

 あっさり、巨人の催眠術にかかるとは・・・、
まったく、とんでもない奴といっしょに逃げてしまったものだ。 

「うん、どうかしたのか?  う、うん、美味い・・・。 美味いぞ、これは。」
 何を怒っているのだ? という表情で、孝治は、剛の顔を見つめる。
よく見れば、孝治は口いっぱいにサンドイッチを、ほお張っている。

 今度、巨人から逃げるときは、絶対、お前といっしょには逃げないからな!!
怒り狂った剛は、ぼやいたが、もう後の祭りだった。


 それから、剛は、おそるおそる、女巨人の顔を見上げた。
彼女は、俺達を、いったいどうするつもりなのだろうか?  

「う、美しい・・・。」  剛は、思わず声を上げた。
 考えてみれば、剛が落ち着いてミカの顔を、見るのはこれが初めてだった。

 おそろしい大きさだったが、巨人ミカは、彼が今まで、見たこともないような美少女だった。
彼女は、楽しそうに、彼らを見つめていた。

 この巨人は、そんなに悪い奴じゃないのでは・・・。 剛は、そんな気がしてきた。

 巨人は、彼らを食べるとか言っていたが、彼女は、こんなに美味しいものを作れるのだ。
よく見れば、森には、巨人が食べられるくらい「大きな実」が生っている大木もあった。
なにも、泣き叫ぶ人間を無理に食べる必要などないように思う。 

 それに、巨人の行動を見ていると、人を傷つけないように、注意しているようにも見える。
彼女が、ただ遊んでいるだけなら・・・、もしかしたら、助かるかもしれない。

 意を決した剛が、ミカに話しかけようとした時、巨人の声が響いた。
「こびとさん、お食事は、美味しかったかしら?」

「は、はい・・・、とても、美味かった・・・です。」
 それは本当だった。 剛は、素直にうなずいた。

「そう、それはよかったわ。」 巨人は微笑んだ。
 それは、悪意の全く感じられない「少女の笑顔」だった。

 いける! この巨人と話をすることができる。 話し合えば、互いに理解できるかもしれない。
剛は、一筋の光明を見出したように感じた。

 しかし、ミカの次の言葉は、彼の希望的観測を打ち砕くものだった。

「あなたが喜んでくれたら、私も嬉しいわ。 だって・・・、
これから、私に食べられるこびとさんが、お腹を空かせたままだったら、とっても、可哀想だから。」

 ええ!??  剛には、今、巨人が言った言葉の意味が、よく理解できなかった。



「ふふふふ、今日の私の朝ご飯のメニューは・・・、『こびとさんサンドイッチ』なの。」
 ミカの無慈悲な声が、響いた。




(その20に続く)


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