《 真夜中の体育倉庫 》 第25話 ---------------------------------- (健一の視点で) ずごおおおん! 俺の背後から迫る黒い影!2階建てのバスより大きい。 なんという事だ! 愛花は巨人になっている。そして凄まじいスピード。逃げる暇もない。 衝撃と共に倒れそうになる。 だが俺の体は、巨人となった愛花の口に咥えられ、宙に運ばれる。 巨人愛花の姿は、まるで小さな獲物を捕えた肉食獣だった。 俺は人間サイズに戻ったのだが、愛花が大きくなったので抵抗できない状況に変わりない。 これはダメだ、絶対に俺では勝てない、逃げられない。ついに諦める俺。 この女は俺を元の大きさに戻して、「家に帰れる」という希望を俺にもたせてから、 自分が巨人になってまた捕えて遊びを続ける。もう俺にはどうする事もできない。 そして状況は悪化している。 俺が予想した最悪の結果だ。この女は巨人になる力をついに手に入れた。 もっと、もっと大きくなったら、都市を踏み潰してしまうかもしれない。 いったい、どうすればいいのか。 頭に愛花の声が響く。 テレパシーだ。 「あははは、逃げられるとでも思っていたのですか、健一さん」 |
(愛花の視点で) 私が「弱肉強食の世界」に興味を持ったのは、 小さいころにテレビで見た「野生の世界」という自然番組だったかもしれない。 サバンナの平原でライオンに、草食動物のシマウマが襲われて捕食される映像。 食物連鎖という野生世界の姿を番組は伝えたかったのだろう。 しかし幼い私は別の視点から見て興奮してしまった。 番組を見続ける。 トムソンガゼルという鹿に似た動物が、大きなライオンの牙で体を引き裂かれている姿。 まだ超能力者として目覚めていなかった私にとって、 生きた獲物を襲って生きるという自然の摂理は衝撃だった。 そして今、私は無力な草食動物と、健一さんを重ねて見ていた。 自分が強い肉食獣になった事も理解していた。健一さんは私にとって獲物でしかない。 百獣の王であるライオンでさえ、大きな相手とは戦いたくないので、なるべく小柄な獲物を選ぶらしい。 しかし、今の私はライオンでさえ敵わない無敵の肉体を手に入れた。恐れるモノなど何もない。 そして健一さんは、私から見て小リスのサイズ。 健一さんがライオンに襲われて引き裂かれるシーンを想像してみる。 健一さんを猛獣の潜むサバンナの平原に放り込んだら・・・、 人間の脚のスピードでは肉食獣から逃げられるわけがない。 それでも健一さんは助かるために必死で逃るのでしょう。 走る健一さんの背後から野獣の牙が襲い首に噛みつき、その場に押し倒す。 衣服は爪で引き裂かれ、柔らかい肉体は喰いちぎられる。 そして、私はサバンナに行かなくても、この場所で健一さんを引き裂いてしまえる。 妄想世界の野獣と自分が一つになる。 あはは、 あはははは、 楽しい、楽しいじゃない! 私は自分の口に咥えた健一さんの顔を見る。 すでに抵抗を諦めている。 全身が衝撃と恐怖に震え、慈悲を求める目が微かに動いて私を見つめる。 この「鬼ごっこ」が始まって2分もたっていないのに、勝負はついてしまった。 私の大勝利、健一さんの負け。 あははは、健一さん、元の大きさに戻って喜んだのでしょうね。 このまま家に帰れると思ったのですか!? 甘い、甘い、甘い〜!! 甘々(あまあま)の大甘ちゃんですわ。 あなたは私のモノになるのです。永遠に・・・。 |
だが、健一さんの顔には、まだ余裕がある。
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