《 お日さまと、競争した女の子 》
----------------------------------
むかし、むかし、ある町に大きな女の子が住んでいました。
どのくらい大きいかと言うと、ビルよりも大きいのです。
彼女はお散歩が大好きでした。
今日も雨の中、彼女は散歩に行きます。
やがて、空は晴れ、輝く太陽が雲の間から見えました。
「こんにちは、お日さま!」
元気な彼女は、太陽に挨拶をします。
雨上がりの太陽は、とても綺麗に見えました。
その時、彼女は考えました。
「私と お日さまと、どちらが速いのかしら?」
普通の女の子なら、そんなコトを考えもしないでしょう。
でも、彼女は普通の女の子ではありません。 巨大な女の子なのです。
彼女はとても大きくて、強いのです。
大型のトラックでも、彼女は指一本で、ひねり潰せるのです。
彼女がそのお尻で座ったら、どんなビルでも潰れてしまいます。
自衛隊だって、彼女には勝てないでしょう。
彼女に逆らう者は、誰もいません。
遊び相手がいないので、彼女は、ちょっと退屈していました。
それで、今日は、太陽と競争をすることにしたのです。
「お日さま、お日さま、私と競争しましょう!」
彼女はそう言うと、傘を捨て、太陽の進行方向に向かって走り出しました。
巨大な彼女は、歩幅も大きいので、とても速いのでした。
すぐに町を出て、村を走ります。
山脈の前に来ました。
普通の人が苦労して登る山も、彼女は楽々と飛び越えてゆきます。
しかし、お日さまには追いつけません。
今まで誰にも負けたことのない彼女は、驚きました。
巨人である自分が、敗北するなど、信じられないことでした。
なおも、太陽を追いかけて、西へ、西へと走って行きます。
やがて、海岸に着きました。太陽はまだ向こうです。
ここでやめるわけには、いきません。
服を脱ぎ、美しい裸身をさらし、海へ飛び込みます。
広い海を楽々と泳ぎ、中国大陸に上陸します。
人々が驚くのを気にもせず、彼女は街を、草原を、そして、砂漠を走ります。
やがて太陽が沈み、夜になりました。
「まぁ、なんてことなの! お日さまも、なかなかやるわね」
夜の闇の中、彼女は、どんどん走って行きます。
さすがに大陸は広いらしく、彼女の前に、もう海岸は見えませんでした。
朝になりました。 太陽が東から昇ってきます。
西に向かって走っていた彼女は、後ろをふり返ります。
彼女の後ろには、朝の太陽が輝いていました。
「あらら、いつのまにか、お日さまを追い越していたわ!」
巨大な彼女は微笑みます。
「やっぱり、私の方が、お日さまよりも速いのね!」
太陽との競争に勝利した彼女は、満足して、日本に帰りましたとさ。
(おしまい)
(江戸笑話の一説を引用させていただきました。)