《 おれ、おれ、俺だよ! 》
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昨日、私が留守番をしていると、家の電話が鳴ったの。
受話器をとると、男の声。
「おれ、おれ、俺だよ!」
「弘一なの!?」 私は思わず叫ぶ。
早口なのでよく分からないけど、その声は弟の弘一に似ていた。
受話器から泣きそうな声が聞こえる。
「そうだよ、コーイチだよ、 あぁ、たいへんな事になったぁ!!」
え?? ちょっと待ってよ。 弘一が電話をしてくる筈がない。
受話器を置き上着を脱いで、ブラウスをめくってみる。
そこに弘一がいた。
弘一は三ヶ月前に縮小病にかかり、身長6センチの小人になった。
もちろん、小さな弟は一人じゃ生きていけない。
それで、私はブラジャーの中に入れて弘一を保護してあげているの。
あれ以来、弟はずっと私と暮らしている。
それじゃ、弘一と名乗る電話の相手は誰??
受話器を手に取る。
電話の向こうで若い男が叫んでいる。
「事故で女の人に怪我をさせてしまった! どうしても治療費50万円がいるんだ」
今から言う銀行口座にお金を振り込んでほしいとの話だ。
私は相手に言う。
「弘一なら小人になって、私のブラの中にいますけど、あなたは誰ですか?」
電話はすぐにきれた。私は受話器を置く。
こんな電話をかけてくる人がいるとは、困った時代になったものね。
「姉さん、どうしたの、誰から電話?」
胸元の小さな弘一が、私を見上げながら聞く。
「なんでもないわ、それより弘一、あんた、女の人に怪我させちゃダメよ」
「何言ってるのさ、俺、そんな事しないよー」
私は笑ってしまう。 弟は小さくて弱い。
私の胸元でどんなに暴れても、くすぐったいぐらいにしか感じない。
巨人の女性に傷一つ、つけることなどできはしない。
私は小さな弟が無性に愛しくなり、優しく私の大きな胸で挟んであげる。
弘一はいつものように、快感と喜びの悲鳴を上げる。
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翌日、私が家にいると電話が鳴ったの。
受話器をとると、昨日とは違う男が叫ぶ。
「おれ、おれ、俺だよ! たいへんな事になったああ! 事故で・・・」
そして私は、今日もブラの中に弘一がいるか確認をするのだった。
(終わり)