状況を正確に把握した私は満足する。私はやみくもに走ってきたわけではない。ちゃんと敵のいる中枢を見つけ、そこに向かって進んでいたの。やっぱり私って優れた戦士ね。
後はこのビルの妖魔を倒せば、戦いは終わる。 私は妖魔のいるビルを見下ろす。
30階建てくらいの高層マンション。高さとしては130mくらいかな。かなりハイグレードな造りである。もちろん高層ビルといっても、身長500mの巨人になった私から見れば、それは室内を暖める石油ストーブくらいの大きさ。全く問題にならない。その最上階の一室に妖魔の気配がする。
心が痛む。マンションの住民を避難させる時間はない。その隙に妖魔も逃げてしまうだろうから。今は行動しかない。私はこの高級マンションを破壊し、敵を倒さねばならない。それが戦士としての私の使命なの。
できるだけ被害を少なくしないと・・・私は屈んで手を伸ばしそっとビルの最上階の一室に触れる。それから一気に力を込める。その感触は砂糖菓子でできた薄い壁を砕いているようなもの。
わずかに抵抗を感じさせてくれた鉄筋部分も、すぐに折れ曲がる。私の指は楽々と鉄筋コンクリートの頑丈なビルの最上階に進入する。
本当は敵のいる一室のみを潰したかったのだけど、そんなコト無理。だって私の指は大きすぎるんだもん。最上階の一区画が潰される。
指先で、部屋の存在とそこにあるベッドらしきモノを感じる。
家の備品はあまりに小さく、普通ならそれが何であるかなど分からないだろう。 しかし、超鋭敏な感覚を持つ私は、そのあまりに小さな机や椅子まで、指先ではっきりと識別できる。私って凄いなー。ちょっと感動する。しかし自分の素晴らしい力に驚いている場合ではない。
妖魔は!? 何処に行ったの? あいつを逃がしたら、また何処で大きな災いが起こるかもしれない。再び意識を集中する。
妖魔の気配を感じる。その(悪の気配)は急速にビルの低層部に移動している。偉大なる私に気が付いたようね。部屋に潜んでいた妖魔はそこから逃げ出し、エレベーターに乗って1階に逃げるつもりらしい。
「逃がさないわ!」 私はビルのより深い部分に手を突っ込む。私の指は、ビルの最上階の床を突き抜け、多くの部屋を貫いてエレベーターを追う! すぐにエレベータシャフトとエレベータの箱だと思う小さなものを指先に感じ取ることができた。
私の腕を高級マンションビルにめり込ませるように押し当て、私の巨大な指で、妖魔のいる小さな正方形の箱を握り潰す。断末魔の悲鳴!
それは、まるでアルミホイルで作られていたかのようにあっけなく潰れる。エレベーターの小箱の中にいた妖魔は滅び去った。私の偉大なる指に潰されて!
セーラージュピター大勝利ね! 私は嬉しさに興奮する。
私は、石油ストーブサイズの高層ビルから手を引き抜く。私が腕を強く押し込んだ時に、このビルの10階部分くらいが衝撃で崩れていたらしい。かろじて建っていたそのビルは、左右に割れた上層階の重さを支えきれず、あっさりと崩れ落ちる。
ちょっと何よ、このビルもろ過ぎるわよ。本当に建築基準法を守って作ってるの? 出来るだけビルを壊さないように努力した私の苦労が無駄になったじゃない。 ・・・まぁ、仕方ないかな、ビルが弱いと言うより、この私が大きくて強すぎるのね。
私は木星のパワーを身につけ、巨大セーラージュピターの力を手に入れた。もう誰も私には叶わない。世界の平和は私が守るの!
私の心は満足感に包まれる。そして私はゆっくりと歩き出すのだった。
(第一部 終わり)
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