《 クリスマス 》 


                                 作  Pz



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冷たい山の冬の風はかさかさと枯れた樹の枝を
揺らし強く彼のほほを打つ。
水銀のように光る夜空の星。
月は青く地上を照らしだしていた。

防寒アノラックのフードを被り、四輪駆動式二トントラックの横で
暖めていた缶コーヒーを口にする。
 
都心近郊の山中、林道の車返し。
山の峰に少し作られたその広場からは、遠く光の海となった街が見渡せた。
「まるで宝石みたいだ・・・・。」
彼はつぶやいた。
そう、今日はこの風景も重要な演出だ。
クリスマスイブ・・・。
「たまには格好つけるのもいいか・・・な。」
一人つぶやく彼。
時計を見る。
約束の時間。
と、その時だった。
聞きなれた地響き。規則的な振動が彼に向かって近づいてきたのだ。
「ああ、きたな・・・。」
缶コーヒーを地面に置き、トラックの前に立った。
地響きは徐々に大きくなる。そして、とうとう彼の目の前に地響きの主が
現れたのだ。

そこには信じられないほど巨大な女性が、枯れた冬樹のこずえを
膝下にして彼を見下ろしていたのだ。

「ごめんね、待った?寒かったでしょう。あなた・・・。」

アノラックのフードを取って、彼はその巨大な女性を見上げた。
驚いて暫く声を立てられない。
その原因は目の前に巨人が現れた、ということではなかった。
その巨大な女性の服装に彼は驚いていたのだ。
 赤いロングブーツを履き、脚は白い素肌がそのままだ。
短い赤いスカートには、白い毛の縁取りがついていた。
そして大きく盛り上がった胸をつつむ、赤い短ジャケット。
長く伸ばした黒髪の上には赤い帽子がのっている。
サンタクローススタイルの巨人女性・・・。
声が出ないのも無理はない。

「あは。驚いた?委員会の人にお願いして作ってもらったの。
一年に一回しか着れないけど。赤い生地が余ってる、て、聞いたから。」
照れたように笑い、その巨大女性は下を向いた。

「あ、ああ、びっくりしたよ。でも可愛いよ・・・。」
彼はそれだけ言うと、巨大な女性を見上げた。
女性らしい曲線を描く二本の脚。五階建てのビルよりも高い
その美しい脚のラインを彼は見つめる。
ズシン、ズシンとブーツを地面にめり込ませ、巨大女性はトラックの前に
歩み寄った。
「綺麗・・・。素敵な夜景ね・・・。」
巨大女性はつぶやく。
ゆっくりとその巨大な体を折り曲げ、腰をおろす巨大女性。
大きなお尻が、ずしりと地面に沈み込んだ。
短いスカートからは白い下着がみえてしまっていたが、ここには彼女と
彼の二人しかいない。

「メリークリスマス、僕の奥さん・・・。」
彼はトラックのコクピットからシャンパンを持ち出しながら
そういった。

身長50メートルはある巨人。
それが彼の妻であった。
突然、巨大化をはじめた平凡な主婦。
あらゆる物理法則を無視する存在となった妻。
全裸で街の中に立たされた彼女は、半狂乱になり市街地の半分を
その住人ごと踏み壊してしまった。
夫の名前を叫び続け、群がる人間を踏み潰し、蹴散らしてしまった彼女。
彼女の排除を試みた政府は、それに失敗する。
警察、自衛隊の砲撃は彼女を巨大な女性から、
巨大な怪獣にと変えていきかけた。

その寸前に、夫である彼が巨大女性の前に現れた。
彼女は次第に落ち着きを取り戻して行ったのだ。
工事用のシートに身体をくるみ、泣きながら山に向かって歩き出した巨大女性。

その強靭な肉体は、国家が管理研究する対象となってしまった。
プライバシーを守るために国有山林中に作られた施設に収容された妻。
そんな彼女との初めてのクリスマスイブ。
彼はこの日を特別な日にするために、一ヶ月前から準備をしていたのだった。
「ねえ、トラックの幌を取って!」
シャンパンをビンごと巨大な妻に渡しながら、彼は言う。
期待一杯の目をして、大きな手をトラックの荷台にかける巨大な妻。
幌をめくり上げる。
「わあ!素敵!ティファニーのクリスマスモデルね!」
まるで船の錨の鎖みたいにごっついネックレス。
重さが一トンもあるそれを、巨大な妻は軽々と持ち上げる。
「磨いた真鋳だけどね・・・。」

「ありがとう・・・。私もプレゼントあるの。」
そう言うと巨大な女性は大きく開いたジャケットの胸の谷間に
彼女の手をいれ、大きな包みを引き出した。
そっとトラックの荷台に置く。
「えーと、あけてみるわけには行かないから説明しマース。」
少し笑いながら彼女は言う。
「これは、防水生地から私が作った二十人用大型テントです。
前に欲しがってたでしょ・・・。大きいテント。支柱も作ったの。」
自衛隊の業務用天幕よりも大きなテントだ。
六人いないと立てられない厄介者。
が、彼は満面の笑みを浮かべる。
妻が彼のために、普通サイズのころよく行っていたキャンプを思いながら
作ってくれたものだ。
「ありがとう。これでダートアタックも楽しくなるよ・・・。」
シャンパンを飲みながら彼は言った。

暫く見詰め合う二人。
「メリークリスマス・・・。」
彼がつぶやく。
巨大な女性は彼をそっとつかみ、持ち上げた。
凄まじい重力に耐える彼。
大きな、透き通るような眼が、彼を見つめる。
ピンク色の唇が彼の全身に強く押し付けられた。
熱い巨大な妻の吐息。
そしてそっと、彼を大きく開いたジャケットの胸の谷間に押し込んだ。
柔らかな乳房の山に挟まれる彼。
「うわ、すごくいい景色だよ・・・。」
ハーフカップブラのカップに足を掛け、胸から顔だけ出し、夜景を見て彼は言う。
「うん、二人だけのクリスマスだね・・・。」
胸元を見下ろし、妻が言った。

巨大な妻は、山のような乳房を少しだけよせ、夫をきつく挟み込む。
ぬくもりを感じ合う二人だけの聖夜。

二人は宝石のような街の明かりをいつまでもぼんやりと
見つめ互いの感触を確かめあったのだった。


                              終 





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