《 ファンタジー 》


                                 作  Pz



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新緑の季節を迎えたこの地方。
澄み渡った空には白い雲が悠々として浮かび、
遥か遠方に見える高山には、雪がいまだにその頂を銀色に輝かせている。

初夏の風は、新緑の森の木々をざわざわと揺るがせ、
彼女の金色に輝く髪をさわさわと、なびかせる。
頭に付けた白いヘッドギアがその風に翻り
音をたてて靡く髪を、手でそっとかき上げながら彼女は微笑む。

「夏が来ちゃったわね!」

若く美しい女性ローザ。
彼女の透き通った声は、
森の木々を震わせるように轟いた。

「ローザ!そんなに大きな声で言わなくてもいいよ!」
大槍を肩に、甲冑を身に着けた騎兵が大声で答えた。
「耳が遠くなっちゃうよ!」

いたずらっぽく笑う少女。
騎兵は、城塞から、山の麓を見下ろし、そして彼女を見上げた。
山の斜面に作られた城塞。
その城塞を見下ろすようにして、斜面に腰を下ろす少女。

そう、その少女の身長は、軽く50メートルを超えているのだ!

「巨人族」の少女。
彼女は、この人間と異世界空間の境界線に頻繁に現れる。
そして毎日、この城塞の守備隊員、バイエルラインとおしゃべりをしているのだ。

「辺境守備隊騎士が、巨人族の女の子と友達なんて・・・!」
金髪をなびかせ、まだ少年の面影を残す若い騎士は
その巨大な少女、ローザの上半身を見上げ、自問する。
「自分はドラゴンを討ち取って、故郷に帰らなきゃいけないのに・・・。」

「へへ!もうお昼よ。今日は私が作ったベーコンを持ってきたの!」
周囲を揺るがす轟音!
轟きわたる巨人族の少女の声は、やはり透き通るように美しい。

まるで、豪農農家の納屋一軒が丸ごと入りそうなバスケットを
取り出す。

騎兵、バイエルライン見習い士官は、ローザのドレスの
大きく盛り上がった胸を見上げ、
取り出した駕籠からカーペットよりも大きなパンが、小作人小屋一軒を
掴み挙げられそうな少女ローザの手でつまみあげられるのを
ぼんやりと見ていた。

刻んだベーコンをパンの間に挟み、牛の油と塩をまぶすローザ。
見たこともないほどの大きさの葉野菜をそれにつけ、
どん、と、バイエルラインの前に置いた。

「何度も言うけど、ローザの食べる量だと、僕たちの兵舎全員の三日分の量が
あるのだけど・・・。」
目の前にそびえるベーコンを挟んだパンを見上げ、バイエルラインがいった。

ローザは顔を赤らめた。
「また私が大食いだって、言うの!」
あわてて、パンの端を切り取り、ベーコンのかけらをちぎりとる。
そっと、彼の前にそれを差し出す。
自分の身長ほどのローザの指からそれを受け取るバイエルライン見習い士官。

「ありがとう。ローザ!」
パンにかじりつく。
実は、巨人族の少女が作るお弁当は、彼の楽しみの一つだったのだ。
しかしながら、家ほどの大きさのパンや、牛一頭分の干し肉は「巨人」の
秘められた力を
見せ付けるばかりだったのだ。

「今日は、ぶどう酒まで持ってきちゃった!」
更に、ローザはバスケットから巨大な瓶を取り出した。
「だって、こんなに気持ちのいい晴れた日なんですもの!」
明るく笑うローザ。
バイエルラインは、少し警戒する。
「お酒飲んで、村に行って暴れたりしないでね・・・。」
ローザは、少しさめた顔になりバイエルラインを見返した。
「そんなことしません!したこともないでしょ!・・・ここ数年・・・。」

ローザは、数年前の自分の失態を思い返し、顔を真っ赤にしていた。
境界線の近くの巨人の村で、祭りの祝い酒を飲みすぎてしまったこと。
そのまま境界線を越えて、人間の村に現れぶどう酒で村を酒浸しにしてしまったこと。
既に伝説となって、人間達に語り継がれているのだ。

「凄いね!美味しいぶどう酒だ!ローザの村はどんな人達がこんなに美味しいぶどう酒や
干し肉を作っているんだろう!」
バイエルラインは心底驚き、声に出す。

ローザは、そんなバイエルラインを見るのが好きだった。

人間界と、神がまだ地上に居た時代の世界との境界線。
そこを守る守備隊の兵士達。

神との約束により、巨人族は小人たち、人間の世界に現れることは
きつく禁じられていた。
この境界線の土地に関してだけは、最後の人間界の接点として
許されているようであった。
バイエルライン達、守備隊はたまに現れる巨人族や、神の統治が行われる以前の
怪物たちを目の前にし、ただすくみ上がるだけではあったが。

しかし、数人の若い人間達は驚くほどの力を持っていた。
神への反乱分子を、力で打ち倒す小さな人間。
その中の一人は、神への抵抗を一番にしていたドラゴンを
討ち取っていたのだ!
巨人族の間にも、その人間の名前は広まった。


「衰えるばかりの巨人種族に、人間の血は入れられまいか?」
巨人族はそう考えた。


「境界線」の土地に、いまや数少ない若い少女ローザを
住まわせているのも、そんな腹積もりがあるからに
違いなかった。

しかし、ローザはそんなことを気にもしない。
この少年のような騎士、バイエルラインと毎日会えることが
嬉しくて仕方なかったのだ。

「ドラゴン、どこにいるか知らない?」
バイエルラインは、鉄かぶとに注がれたぶどう酒を飲み干し、
顔を真っ赤にさせてローザに聞く。
聞かれたローザも、顔をほんのり赤らめていた。
「うーん、知り合いに一人いるけど・・・。」
バイエルラインが体を乗り出す。
「本当かい!ボクもドラゴンを殺して名を挙げて国に帰るんだ!」

ローザは、城塞の上で立ち上がり、彼女を見上げる
この小人騎士を、驚いた目で見ていた。
そして・・・、
食べかけのパンをそっと、バイエルラインの上に翳し、
ぱっと、手を離す。
ズシン、と、パンが地鳴りをあげて城塞の床に落ちる。
間一髪、バイエルライン見習い士官はパンに押し潰されるのを
跳びよけて逃れた。

「なにするんだよ!殺すつもりかい?ローザも、魑魅魍魎の仲間なんだな!」
怒鳴るバイエルライン。

「もう。私たちの世界、住んでいられる人は少ないんだから。
殺すなんていわないで!」
ぶどう酒で顔を少し赤くしたローザ。
舌がちょっともつれているのに気がつき、更に顔を赤くする。

「俺には夢があるんだ!ここでドラゴンを討ち取り、
皇帝陛下の側近に取り入られ、領主になるんだ!」

ローザは、じっとバイエルラインを見つめる。

「そうなの。小さな人間の小さな土地の王様になりたいの。
いいわ。私が貴方の国に行って、あなたの好きなように土地を
人々から取り上げてあげる!」
更に、バイエルラインに顔をぐっと近づける。
「軍隊だって、みんな私が蹴散らしてあげるわ!
あなたの奴隷になる人間以外、私がみんな踏み潰してあげる!」

ローザの大きな声に、バイエルラインは腰を抜かす。
「ローザ・・・、ごめん、耳が聞こえなくなった。」
彼は両耳を押さえていた。
しかし、ローザの言葉は、全身を震わせ彼に伝わっていたのだ。

「小さな人間!あなたは違うと思ったのに!」
ローザはすっくと立ち上がると、地響きを上げ森に向かって
走り出した。

涙を流していたのか。
バイエルラインは、呆然と巨大な少女の後姿を見送っていた。
耳鳴りに耐えながら。



「な、ローザ、勘弁してくれよー。」
ズシンズシンと、深い森の中に重たい足音が響く。
「境界線の外に出るなんて、馬鹿げているよー。
もう、俺たちの世界にかえろうぜ・・・。」

両手両足、尻尾を縛り上げられ、巨大な少女ローザに担ぎ上げられた
ドラゴン、フリージー。
「ちょっとだけ協力してよ。喧嘩して、負けたふりすれば
小さな人間なんて、ご機嫌なんだから!」
この巨人族少女の体力は凄いものだ。
龍のフリージーはあきれ返る。
「友達をこんな風に扱ってもいいのかよー。」
巨人族の力には、逆らえない。
ドラゴンといえども、昔からこの巨人の強大な力には
一目置いていた。
しかし、神の裁定後、数少ない生き残りがこんな目に合わされるとは
思いもしなかった。
「お願い!私の小さなお友達のたっての願いなのよ!」
担がれたままのドラゴンはちょっと考えた。
(ドラゴンを殺した人間は国に帰って英雄になる・・・。
ローザはそのときどうするつもりだ?
小さな人間の英雄は、その後多くの人間達を殺して国を作っていったのに・・・。)
「ローザ・・・、惚れたんだろ、小さな騎士に?」
フリージーがローザの耳元でそっと囁く。
「ぐげ!」
胴体をへし折られる寸前のフリージー。
「余計なこと言わないの!」
ズシン、ズシンと、地響きを立て境界線にやってきたローザ。
呼吸すら乱すことなく、彼女は小さな人間達の世界を見下ろしていた。


「バイエルライン候補生!」
守備隊長ゼップ騎士長がバイエルラインの名を叫んだ。
「はっ!」
駆け足で兵営を走るバイエルライン。
守備隊の日課をこなす隊員たちの間を駆け抜ける。

笑いながらゼップが彼の前に立つ。
左の頬に大きな切り傷。
若いころの「決闘」の跡。
分厚い胸板に、丸太のような腕。
二メートル近い大男は、しかしその深いブルーの瞳から
深い知性と、気品を醸し出す。

「私の部屋に来い。」
それだけ言うとシルクのマントを翻し、
「親父」ゼップは兵舎に大またで歩いて帰る。

「候補生バイエルライン、入ります!」
大声で怒鳴り重たい騎士隊長室の扉を開ける。
室内着に着替えたゼップが、デスクに座っていた。
「楽にしろ、バイエルライン。」
穏やかに笑う。
「あの大きな女の子は、今日は来ないのか?」
煙草に火をつけ、バイエルラインを見つめる。
「自分にはわかりません!」
ゼップは、煙を吹きながら立ち上がる。

「武芸には秀でているが、女心はわからないか?」
食器棚に歩いてゆき、ゼップはグラスを取り出した。
ぶどう酒をグラスに注ぐゼップ。
「あれほど美しい巨人なんて、私は見たことも聞いたこともない。」
グラスをバイエルラインに渡す。
「凶暴で醜悪な巨人しか、私は知らないのだ。」
グラスを傾けるゼップ。
「我々人間の力なんて、巨人族にはかなわない。
それに、彼らは農作物を作る技術にも秀でている・・・。」
煙草をもみ消す。
「伝説の世界に消えてしまう巨人族や、怪物たち。
彼等との接点を保ち続けることが我々守備隊の任務だ・・・。
と、私は思っている・・・。」

パパ・ゼップ。
騎士たちから「親父」と呼ばれる初老の騎士。
彼は、皇帝が帝位についたとき、12歳の従卒として使えていた。
皇帝のドラゴン退治のその現場にも彼は居たのだ。
全騎士たちの尊敬の的であるゼップ。
「判るか?」
「はい!ゼップ騎士長どの!」
両腕を体側に当て、胸を張り大声を出すバイエルライン。

「・・・・・・ところで、君は女を知っているか?」
突然の質問に一瞬固まるバイエルライン。

彼は13歳のころのことを思い出していた。
代々続く騎士の家。
多くのメイドを使う彼の家では、13歳の次男に
いたずらをするメイドが後を絶たなかった。
裾の短いメイド服で、下着をつけず、わざと彼の前でかがんで股間を見せるメイド。
彼が湯につかるとき、全裸で湯殿の掃除に入ってくるメイド。
彼の初体験は、13歳のそのときだった。
三人のメイドにいたずらされるように、童貞をなくしたバイエルライン。

「はい!騎士長どの!」
「あの巨人の少女は、君の事をどう思っていると思う?」
「・・・・・・彼女から見れば、自分は愛玩動物に見えるのではないでしょうか!」
やれやれ、といった表情のゼップ。
「判っていないな。彼女は体があんなに大きくても、女なんだぞ。」
二本目の煙草に火をつける。
「守備隊騎士としての、男としての面目を潰すなよ。」
「はい!騎士長どの!」
「・・・下がってよし!」
一礼し、部屋を辞すバイエルライン。
「・・・・・・ローザと結婚しろって、言うのかな・・・?」
要塞の廊下を歩き、バイエルラインは考えた。

自分だって、女の体は知っている・・・。
ローザだって、股の間には・・・。
バイエルラインは思わず首を振った。
彼が知っている女の子の秘密の部分、
ローザの体の大きさでそれを目の前にしたとき・・・。
生きた洞窟に飲み込まれるような気分になるに違いない。
(だから、女はそこを秘密にしたがるのだ。)
バイエルラインはそう考える。

兵舎に戻り、午後の課業を始めようとしたとき。
ラッパのけたたましい音が鳴り響いた。
「敵、来襲!」
「総員、配置につけ!」
ラッパの旋律の終わりに「これは演習である」を示す
「たーん!」という音がない。

バイエルラインも、大慌てで甲冑を着込み、槍を持って営庭に走った。

城塞の壁面から、ドラゴンが城塞を見下ろしていたのだ!


「あー、やれやれ。昔は派手にやったもんだが。」
フリージーは、防御姿勢をとる騎士たちを見下ろしてつぶやく。
「神にばれないように、控えめに暴れるか。ローザが見ているし・・・。」
ズズン、と、城塞を乗り越え、一声叫ぶ。

騎士たちは大慌てで弓を射掛ける。
「いてて!毒矢は無かろうな!」
フリージーが尻尾を一振りすると騎士たちが吹き飛ばされる。
「ごめんよ、怪我ないかい?」
更に、兵営の中を歩き回るフリージー。

バイエルラインも、槍を携え、このドラゴンの前に立ちはだかった。
「・・・お前がバイエルラインか?」
フリージーが、長い首を彼の前に突き出し、聞いてくる。
ぐうっと、体を伸ばしバイエルラインを見下ろす。
「いかにも!何故私の名前を知っている!」
フリージーは、そっと足を上げ、バイエルラインの上に翳した。
ズシーン、と地響きを上げ、足が地面にめり込む。
間一髪、バイエルラインはそれをよけた。
「えい!」
槍がフリージーの股間をついた!

「いてー!!」
フリージーは大声を出す。
更にバイエルラインの鋭い突きが、二度三度と決まってしまう。

「このー!殺す気だな!」
口から炎を上げるフリージー。
バッシ、と、尻尾がバイエルラインを打ちのめす。
数メートル弾き飛ばされる彼。
更に、ドシン、ドシンと地鳴りをあげて、バイエルラインに近づく。
機敏に動き回り、ドラゴンを槍でついて廻る他の騎士たち。
「やりやがったなー!本気出すぞー!」
フィージーは、あまりの痛みに我を忘れてしまった。
ぐんぐんと、その体が大きくなっていく。
ざっと40メートルほどの大きさにまで巨大化していったドラゴン。
騎士たちは、思わず後ずさりする。
しかし、バイエルラインは逃げなかった。
声を上げて、ドラゴンに向かってゆく。
「蛮勇だぞ、小僧!」
ドラゴンの尻尾がまたバイエルラインを地面にたたきつけた。

と、そのとき、ものすごい地響きがあたりに轟いた。
地面を揺るがしローザが森の中から走り出してきたのだ。
ローザの体も、むくむくと大きくなってゆく。
着ているドレスがビリビリと裂け、白い素肌が露出して行き、
城塞にやってきたときは、全裸であった。
普段の三倍の大きさか?
沼に足をたたきつけ、瞬時に沼は干上がってしまう。
巨大な足首は森の大木を次々に蹴り飛ばす。
道端の大岩を踏みつけ、地面の中にめり込ませ、
野原に深い足跡を付けて走る。

とうとうローザは身長150メートルの体の大きさとなり、ドラゴンの
フリージーをわしづかみした。
「乱暴はダメよ!」
右手だけで、ドラゴンを軽々と掴みあげる巨人族の女。

営庭の騎士たちは、その荘厳とも言える
ローザの巨大な全裸姿に圧倒されていた。

天まで届きそうに聳え立つ二本の肌色のタワー。
見事な曲線を描くそれは、巨人少女の脚である。
その脚の上にどっしりと乗っかる大きなお尻。
白く柔らかさと張りを持つそれは、日の光に照らされ
新鮮な果実のように見えた。
この城塞など、あのお尻がのしかかってきたのならば、
ひとたまりも無く押し潰されてしまうことだろう。
きゅうと締まったウエスト、腹筋の上に、女性らしい脂肪を
乗せている巨人少女のお腹。
そのお腹の上には聖都の大寺院ドームにすら納まりきるか判らぬ
丸く膨らんだ巨大な二つの乳房が、柔らかな、
しかしその膨大な重量を物語るように
ローザが体を動かすたびにゆさゆさと揺らいでいた。
背中まで届く金色の髪は風になびき、さらさらと音を立てている。

「森にお帰り!」
掴みあげたドラゴンを頭上でぐるぐると廻すローザ。
凄まじい力だ。
彼女の足首は、城壁を一撃で壊してしまい、
深い穴を掘り続ける。

「人間になんかに惚れるなよー!」
フイージはそう叫びながら、数百メートル投げ飛ばされ、
後の千メートルは自力で飛んだ。
「イーだ!」
しかめっ面を作り、舌を出し
腰に手を当て、仁王立ちのローザ。
ハッとして、城塞を振り返った。
大勢の騎士たちが、ローザを見上げ
口元をほころばしているのだ。
「きゃ!」慌てて足を閉じ、右手で大きな乳房を抱えるようにかくし、
左手を股間に当てる。

顔を真っ赤にしているローザ。
しかし、自分の自慢のプロポーションを小さな人間達に
見せ付けることに、心の中では充足感が満ちていたのだ。

(バイエルライン・・・、私の裸、どうかしら?)
声に出したかったローザ。
だが、彼女は微笑んだまま無言で城塞を見下ろしているのであった。
そんなはしたない台詞を、彼女が口に出せるわけも無かったのだ。

小さな騎士たちの中に、バイエルラインを見つけるローザ。
「へへ・・・」
股をぴったりとくっつけ、こぼれ落ちそうな大きな乳房を右腕で
持ち上げ、ローザはバイエルラインに笑いかけた。

バイエルラインを掴みあげようと、ローザは腰をかがめ、
股間を隠していた左手を、乳房を抱えていた右手と
入れ替えた。
ぶるん、と、音を立て、二つの巨大な球体が踊るように揺れる。
ピンク色の乳頭が、硬く隆起してしまっていることに、ローザは
また顔を赤くする。

足を慎重に踏み出すローザ。
城塞を跨ぎこし、営庭に足首をゆっくりと下ろす。
白い足が、ズズン、と音を立てメリメリと硬い地面に深くめり込んでゆく。

「バイエルライン・・・!」
嬉しさを隠し切れない、ローザのはりつめた声が
あたりに轟いた。

だが。
バイエルラインは、一人グラウンドに倒れこみローザを見上げていた。
巨人族の少女ローザ。
これがその本来の体の大きさであり、力なのか?
騎士としてのプライド。
バイエルラインの心の中には、屈辱感が満ちていった。
城塞を跨ぎこし、その巨大な体を目の前に現したローザ。
彼女の美しい容姿と、すっかり大人の女になっている体が、
バイエルラインの屈辱感を更に高める。

城塞の中に入ってきたローザは、ゆっくりと、膝を折り曲げ
バイエルラインの前に跪こうとしたのである。
兵舎よりも大きな足首が、爪先立たされ、
グワッと、空気を押しのけるように二本の脚が折り曲げられる。
白いエロチックな曲線を誇るふくらはぎが、ローザの膨大な体重を
支えようと、横にはりつめる。
白く柔らかな太ももは、いつもの倍の横幅に広がる。
果物のようなお尻が踵の上にズシン、と乗っかる。

身長160メートルの少女は、窮屈そうに城塞の中に
跪いた。
「バイエルライン・・・・・・。」
ローザは、倒れている彼を起き上がらせようと、右手を伸ばす。

バイエルラインの屈辱感と、恐怖感は一杯になった。

自分の体の4倍はありそうなローザの指が目の前に迫る。
白く、しっとりとしたその指は健康的なピンク色の爪が日の光を反射している。
サラッ、と髪がローザの顔の両脇に垂れ下がる。
腕から大きくはみ出る乳房が、上半身を傾けることにより
その大きさをさらに増してゆく。
完璧な美しさを誇る、巨人族の少女ローザ。
だが、バイエルラインは、彼女の股間を凝視した。

卑屈な根性が、彼女の弱点を探し回っていたのだ。
そして、ローザがわざと隠すことをしなかった
女性の秘密の部分を見つけ出す。

「触るな!この怪物!」
ローザの指を手で払いのける。
彼女の顔が凍りつく。
「その恐ろしい生きた洞窟をさっさとしまえよ!」

八つ当たりだ。
ドラゴンに殺されかかった自分と、
そのドラゴンを苦もなく投げ飛ばしてしまったローザ。
力の違いにいらだっている。

巨人とはいえ、ローザは若い女性だ。
慌てて股間に手をやり・・・、
・・・暫くすると泣き出してしまったのである!
そして、ごうっと、大気を押しのけるようにし
彼女は立ち上がった。

「・・・ひどい!」
足元にうずくまるバイエルラインを見つめ、
大粒の涙を流した。

城塞を跨ぎこし地鳴りをあげて森の中にローザは消えてゆく。

彼女の啜り泣きがいつまでもバイエルラインに聞こえてきた。
「馬鹿なやつだな、お前も。」
同期の候補生が彼の傍らに立つ。
「ローザ、お前のこと好きなんだよ。わからないのか?」
バイエルラインは同期候補生のメルダースを睨みつける。
「ドラゴンをトカゲみたいに投げ飛ばす女か!
俺は彼女から見たら、小さな虫けらだろうよ!」

メルダースは怒ったように兵舎に向かい歩き出すバイエルラインを
やれやれ、といった顔で見送った。
「あれほど綺麗で、でっかいオッパイの女なんて、
そうそういやしないぞ!」
メルダースが声を大きくして言った。
「大きすぎる!おっぱいに押し潰されちまうさ!」
バイエルラインが怒鳴り返す。


夜。
稼業を終えた守備隊員たちは各自思い思いに時間を過ごす。
湯を浴び終えたバイエルラインもまた、
食事を済ませ、広間に集まりくつろいでいた。

と、見張りから「巨人少女接近中!」の報が入った。
騎士仲間が一斉に、ニヤニヤしながらバイエルラインを見つめる。
「あんな大全裸を晒してくれた彼女だから、今度はキッスをしてくれるかもよ。」
メルダースがバイエルラインを小突いていった。
むすっと、した顔のバイエルライン。

ズシン、ズシン、と地響きが聞こえてきた。
が、今日は何かおかしい。
リズミカルないつものローザの足音ではなく、
時々何かにつまずくように地鳴りが轟いているのだ。
「大変だ!巨人族の女は酔っ払っているぞ!」
見張り兵が叫んだ。

城塞に駆け上がる騎士たち。
月に照らされた森からの一本道に、ローザの姿が
浮かび上がっていた。
その巨大な体をふらふらとさせ、手には酒瓶を持っている。

その格好ときたら!
豊満な体を覆うのは、薄いシルクのスリップ一枚なのだ。
歩くたびにゆさゆさと揺れる大きな乳房が、その布キレを押しあげ
月の光を反射する白い太ももを露出させている。
白いパンツがちらちらと見えた。
交互に繰り出される白い脚は、ふらふらとおぼつかない。
ショートブーツを履いた足首は、道の両脇にある木々を簡単に
折り飛ばしていた。
「危ないぞ!また村を酒浸しにするかも・・・!」
ゼップ騎士長が、非常呼集をかけた。

ズシン、ズシン、と城塞の前にやってきたローザ。
「れてこーい!バイエルライーンン!」
もつれる舌で叫ぶローザ。
ズズーン!
ローザは酒瓶を地面に放り出し、城塞を跨ぎ、四つん這いになった。
「れてこないとー!このお城を壊しちゃうぞー。」
手を城塞に掛け揺るがすローザ。
ぐらぐらと揺れる城の中では、騎士たちが大急ぎで武装していた。

バイエルラインは、武装をしないで兵営から飛び出した。
守備隊騎士たちも続いて飛び出した。

「れたなーーー!バイエルライン!」
いつものローザの甘い吐息もどこへやら。
アルコールの強いにおいが彼等を覆う。

あまりに見事なプロポーションの巨人族女性。
そのはちきれそうな肉体を、薄い布切れ一枚に包んでいるローザ。
重たそうに揺れる乳房は、下着のストラップを
ちぎりそうにしている。
その膨大な体重を支える脚は、四つん這いになることにより
膝を地面にうずめこみ、白い太ももが聳え立っていた。

血気盛んな騎士たちは、ローザを取り囲む。
・・・だが。
その多くは何とも平和な笑いを浮かべ、ローザの体の下に
集まってきたのだ。

「若い女性が恥ずかしいですぞ!」
ゼップ騎士長が叫んだ。
「ウム。はしたない格好です!」
メルダース候補生が続けた。

ローザはカックンと首を傾け、またの下にいる騎士たちを見下ろした。
「なんらよー。私のパンツみてるんらろー?」
もつれる舌で喋るローザ。
髪の毛が巨大なカーテンのようにローザの顔の周りに垂れ下がる。
胸板から突き出すような巨大な乳房に
押し上げられたスリップは、ローザの大きなお尻にはちきれそうに
張り付く白いパンツをむき出しにしてしまう。
まるでピンク色の滑らかな曲線で作られた巨大なタワーとでも
言うしかないローザの脚。その巨人族の少女の太ももは、
上空20メートルほどの高さで大きなお尻と交差している。
そのお尻に張り付く白いパンツ。
丁寧なつくりのレースの刺繍に縁取られたそれは
荘厳な寺院のレリーフのように見えた。

「そんなにパンツ見たいのならー。」
ローザが焦点の定まらぬ目で股の下の騎士たちを見下ろす。
「よーくみせてやるー!」
ズズーン、と地響きを上げ、お尻を地面につけるローザ。

しかし、名だたる辺境守備隊騎士たちは、
酔っ払った巨人族女性の動き方なんてお見通しだった。
さっと、身をかわしローザを遠巻きにする。
大またを開き、お尻をついて座り込むローザ。
呆れて立ち尽くすバイエルラインをにらみつけた。

バイエルラインは、ローザが投げ出した巨大な酒瓶を見た。
半分なくなっている!
一体どのくらい飲んだのか?

「そんな格好で酔っ払って城に来るとは!無礼だぞ!」
叫ぶバイエルライン。
「にゃにおーーー!ぶれいだとーーー!」
ローザは顔をぐっとバイエルラインに近づける。
巨大な乳房の深い谷間に目が釘付けになる騎士たち。
白い素肌はまるで練り上げられた小麦粉のように
きめが細かい。
「女の子の裸をみて怪物なんていう男のほうが・・・
百倍無礼らぞーーー!」
巨大な酒瓶を取り上げ、またそれを飲み始めるローザ。

酒で勇気をつけているのか。
三十分の一サイズである小さな騎士を前にして!
ドスーンと、酒瓶が地面を揺らしそれにめり込む。

「大食いの大酒のみの大女なんて、きらいなんらろー!」
脚をM字に曲げ、両腕を地面に着きバイエルラインを見下ろすローザ。
「私らって、こんなに大きな体になりたくってなったわけじゃないんらぞー!」
顔をバイエルラインに近づける。
アルコールの息に巻かれ、長い彼女の髪の毛が起こす風圧に
ひるむ彼。

「バイエルライン候補生!」
面白そうに見物していたゼップ騎士長が鋭い声で
彼を呼ぶ。
「はい!」
直立不動のバイエルライン。
「君はローザさんの事をどう思っている!」

はっ、として、上半身を立て凍りつくようなローザ。
恐る恐るゼップを見る。
「ほらほら、ローザちゃん、動きが止まったぞ。
お前の答しだいでは、この城が壊滅するかもよ!」
メルダースがバイエルラインの後ろからお面白そうに茶化す。
アルコールで真っ赤な顔が、更に赤くなるローザ。
耳まで真っ赤だ。
両手を胸の前で組み付かせ、小さな人間バイエルラインを
見下ろしている。

バイエルラインもまた、負けじと赤くなってしまった。
巨人とはいえ、あまりにも美しいローザ。
力も知性も数百倍もありながら、小さな人間世界にあこがれる
巨大な少女。
しかし、彼女は少女ではなく、「女」になりつつあるのだ。
バイエルラインも「男」になる勇気はあるのか?

「自分は巨人族のローザさんを・・・愛しています!」
直立不動のままバイエルラインは叫んだ。
「おお!よく言った!」
メルダースが声を上げるのと同時に
ゼップ騎士長が怒鳴った!
「危ない!ローザが!逃げろ!」

この巨大な美しい女性は、愛する小人の愛の告白を聞き
失神してしまったのだ!

・・・いや、酔いつぶれたのかも・・・。

ドドドド!
ずずーん!
城塞を半壊させ、巨大な体を横たえるローザ。
騎士たちは、スースーと寝息を立てる巨人女性を遠巻きにして
バイエルラインをからかう。
「息を止める練習をしておけ!初夜は血の海に潜ることになるぞ!」
「そもそも壁を破れるのかな?」
「大槌を持ってゆけ!ローザちゃんの壁を破るのにはな!」

「バイエルライン候補生!」
ゼップの鋭い声が響いた。
一同静まり返る。
「騎士としての誇りと礼節を忘れるな。
巨人族女性の夫としても、騎士の、我々の誇りを持ち続けろ。」

それは候補生の終了を意味する言葉であった。

バイエルラインは硬直してしまう。
とうとう、「騎士」に任官してしまったのだ。
巨人の女を妻として・・・。
営庭に顔を横にして眠るローザの唇にそっとキスをする
バイエルライン。
(巨人族の世界に婿入りか?)
少し複雑な気分になる。

夜の冷気がローザの体を包んだ。
夜中に目を覚ます。
外套を羽織ったバイエルラインが、ローザの目の前に
横たわっている。
仮眠しているのだ。
半身を起こしあたりを見回した彼女は
死ぬほど驚いた。
そして、自分の格好に顔を真っ赤にしてしまう。
なんてはしたない格好何だろう。
スリップ一枚の下着姿で、パンツは丸出しだ。
こぼれるようにはみ出した乳房からは、乳頭が半分見えてしまっている。
下着を直し、ゆっくりと立ち上がるローザ。
城塞まで壊してしまったことにやっと気がつく。
「ご、ごめんなさい!」
ローザはそういうや、酒瓶を掴みあげると、小走りで
森に帰っていった。
地鳴りを上げ、走り行くローザを見上げるバイエルライン。
「本当にローザの亭主が務まるのかなー」
彼は不安げにつぶやいた。

昼近くなって。
森の中からドレス姿のローザが現れるのを見張りが見つける。
手には大きな荷物とバケツとシャベル。
俯きながら、大きな足跡だらけの道を歩いてきたのだ。
城塞にやってくる。
荷物を降ろすローザ。

「あの・・・ごめんなさい。皆さん・・・。」
大きな荷物の梱包を解く。
干し肉に乾しプラム、パンとチーズが山のように出てきた。
更にぶどう酒の瓶・・・。
「・・・お詫びです・・・。里で売ってください・・・。」
ずしんと、膝を突く。
バケツとシャベルを取り出す。
「お城を壊してしまったので、直します・・・。」
泣き出しそうなローザ。

彼女の前に、守備隊騎士たちが整列を始めた。
皆、正装をしている。
ローザはあっけにとられ、それを見下ろしていた。

整列を終えた騎士の列中央にバイエルラインの姿があった。
バケツとシャベルを取り落とすローザ。
ゼップ騎士長が号令を上げた。
「騎士バイエルラインは巨人族ローザ・ルーデルへの・・・!」
一斉に騎士が跪き、ローザを見上げた。
「結婚をお願いします!」
バイエルラインが叫ぶ。
「お願いします!」
騎士の声がそれに続いた。

ドスン、と、お尻を突いてしまうローザ。
涙が溢れ出す。
「私・・・私・・・。」
声にならない。
「嬉しいです・・・。」
涙をぬぐうローザ。
そっとバイエルラインに手を差し出す。
巨大なローザの手のひらに飛び乗るバイエルライン。
スーッと、数十メートル上昇する。
赤いローザの唇の前に、ぴたりと止まる。
その唇にそっとキスするバイエルライン。

騎士たちからどっと歓声が上がった。
「羨ましいぞ!このヤロー!」
メルダースの声が聞こえた。
騎士任官の証、大刀を抜き、それを翳すバイエルライン。

すっくと、立ち上がるローザ。
「はい、旦那様!」
はちきれそうな大きな声。
手のひらの上の小さな旦那様をいとしげに見つめる。
「私があなたの最初の家来です!」
ぐっと顔を近づけ、更にバイエルラインにキッスをする。

「ローザ、正装が・・・べとべとだよ・・・。」
バイエルラインが困ったようにローザを見上げ言った。
赤面するローザ。

荷物を放り出し、森に帰ろうとするローザ。
ゼップの声が聞こえた。

「ローザさん、城の修理も忘れんでください!」
少し決まり悪そうにするローザ。

それから後も、ローザはたびたびその姿を辺境に現した。
ぶどう酒に干し肉、チーズにパンを里に売りにきていたのだ。
ローザの肩の上には、バイエルラインの姿があった。

神が地上にいた時代・・・。
その時代の終わりに近いその世界で。
バイエルラインはやがて伝説の世界に消えていったのであった。


                                   完




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