注意！
本作品中には、過激な暴力描写が含まれています。
未成年の方、そのような表現を好まれない方は
お読みにならないで下さい。
作者より
《 リラクゼーション 》
作 Ｐｚ
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OD戦闘服姿の男が、何かを必死に訴えている。
手には拳銃を持って。
この男はだれだろう？
会ったことも無い・・・・。
自衛隊員か？
知り合いにはいやしない・・・・。
物凄い形相だ。
拳銃を投げ捨て、いよいよ掴みかかってきた・・・・！
いやな夢だ。
どんな夢を見ていたのか。
神田亮一は寝汗が布団のシーツをじっとりと
湿らせているのにうんざりとしていた。
午前６時丁度。
畳敷き四畳半の彼の部屋。
CDステレオのリモコンスイッチを入れた。
聞きなれたDJの張りのある声が部屋に響く。
郊外の戸建住宅の二階。
明るい秋の朝日が障子越に部屋の中を白く照らし出す。
いやな夢を見た。
しかし思い出せないのだ。
もう三日も続いている・・・。
「亮ちゃん、おきたの？」
明るい声が襖越しに届いた。
「うーん、おきた！おはよう・・・。紗代ネエ。」
答える亮一。
高校二年生の彼より四つ年上の姉。
神田紗代の元気な声は
いやな夢の疲れを吹き飛ばすようだ。
「ご飯、今から作るから！顔洗ってなさい！」
亮一はのそのそと布団から出てきた。
グレーのスエット上下、肩まで伸ばした艶やかな黒髪をゴムでくくり、
台所に向かっている姉、紗代。
食堂に下りてきた亮一はきびきびと働く姉の後姿を
ぼんやりと見ていた。
「お皿出して。何時もながらのハムエッグとスープ。野菜サラダは昨日の残り！」
テキパキと指図する。
身長１７０センチと、女性としては大柄な姉。
小さいころから、この姉にはなにをしても敵わなかった。
勉強でもスポーツでも、喧嘩でも。
並べたお皿にハムエッグを配膳し、フレンチトーストを
オーブンから取り出す姉、紗代。
大手IT開発会社に勤める彼の姉。
四年前に不慮の事故で両親を亡くしてからは、
彼女は一人で彼、亮一を育ててきたのだ。
泣き止まない中学一年生の亮一を励まし続け、
目を真っ赤にしながら親戚のおばさんに二人だけで
生きてゆくことを告げた紗代。
高校二年生であった紗代にとっては、苦難の選択であったろう。
彼女の強固な意志の表れか。
突如失ってしまった平和な家庭。
生き残ってしまった自分と弟の二人。
親類とはいえ、以前の生活をこれ以上変えられることを
嫌った紗代。
「学校のほうはどうなの？」
新聞を読みながら、紗代が聞いてくる。
「うん・・・。」
コーヒーをすすりながら生返事する亮一。
「国立以外なら、大学なんていけないからね！」
フレンチトーストをかじりながら紗代がそういった。
家計が苦しいのは良く分かっている。
今は紗代の給与と、亮一のアルバイトが収入源だ。
両親の遺族補償金は、裁判継続中という理由で支払いが
止まっている。
「この世の中は理不尽なことばかりなのよ。」
紗代の口癖だ。
近所でも評判になる姉の美しさはどこか近寄りがたい
雰囲気を作っているのか。
中年男が振り返り、いやらしい視線を釘付けにするほどの
見事なプロポーションを持った姉。
大きな胸は彼女が歩くたびにゆさゆさと揺れ、
細くくびれた腰の下には大きな果物のように
きゅっと引き締まったお尻が長い足の上に載っている。
そんな姉が、男性情報誌のグラビアに
巨乳素人アイドルとして写真掲載されていたことに
亮一は薄々気がついていた。
「男の人って、何で私の横ばかり通り過ぎるのかしら。」
夜に水割りを少しだけ飲みながら、ほんのりと頬を染め紗代が言った。
姉の勝気な性格を良く知っている亮一は
大柄で美人の紗代が並みの男を相手にしていない
のではないか、と思っている。
手早く化粧を終えベージュのストッキングに黒のタイトスカート、
グレーのブラウスに着替えた紗代は、コットン製のジャケットをはおり
玄関に歩く。
「今日はエステのモニターに行ってくるから。掃除お願いね。」
「俺、バイトが夜９時までのシフトだよ。」
ブーツを履きながら、亮一を見返して紗代は答える。
「じゃ、明日でいい。」
エステ？
不思議な顔をする亮一。
姉がそんなものに興味があったとは、思いもしなかった。
素のままで充分美しい、自慢になる姉。
生活に追われる中でも、やはり女の欲求を忘れていないのか。
少しだけ、嬉しくなった。
姉の世俗を知ることが出来たからであろうか？
こつこつと、ブーツの音を響かせ、姉は家を後にする。
スカートのスリットから白い足がチラチラと見えた。
朝７時。
亮一も、登校の準備にかかった。
ここはどこだろうか？
どこか外国の・・・イラク？
瓦礫の山となった街・・・その残骸。
亮一はコンクリートの破片と焼かれて歪んだ金属と
粉々になったガラスの山の中に立っていた。
テレビでよく見る外国の戦場にボクは居るんだ。
ふと足元を見る。
「笹が丘？二丁目３４・・・」
青い番地標識が亮一の足元に転がっていた。
見慣れない書体の漢字がプレスされている。
改めて周囲を見渡す。
全て破壊しつくされた市街地。
しかし、そこいらに、日本語のような文字が読んで取れた。
コンクリートの瓦礫の山に埋められ、押し潰された自動車。
そのかすかに読み取れるナンバープレートも日本の特徴を持っている。
道のあちこちに、深く大きな穴が開いていた。
コンクリの舗装路面を大きく陥没させているそれは、
規則性を持って明けられている。
「爆弾の跡？」
大穴の周囲は５０センチ近く地面が盛り上がっていた。
亮一は穴の中を覗き込んだ。
「うわ！」
思わず叫んでしまった。
隆起したアスファルトの路面に上り、
三メートルほどの深さに達する巨大な穴を覗き込んだ彼。
その底には、茶色く変色した何かの死体が張り付いていたのだ。
黒く路面に染み付いているのは血液か？
カラフルな布地は、それが女性の洋服だったように思え、
グレー色の布地は男物のスーツの布地に見えた。
メタリックカラーの金属の板は、それがセダンタイプの乗用車だったように
思われた・・・・。
まるで、巨大な怪獣に踏み潰されたような惨状。
亮一は気分が悪くなり、穴から離れた。
「何だろう。この街は？」
何もかもが、物凄い重量で押し潰されたように破壊されているのだ。
道路にかかっている歩道橋は真ん中から二つに折られ、地面にめり込んでいる。
それを跨ぐ鉄塔は、やはりちぎり飛ばされ瓦礫の中に突き刺さっていた。
グニャグニャに曲がった信号機。
鉄筋コンクリート製の店舗兼マンションは、まるで積み上げられた
お菓子のウエハースが踏みつけられたように中央からぐしゃりと、潰れていた。
銀色のステンレス製の電車が、なぜか道路の真ん中に突き刺さっている。
赤黒い窓ガラス・・・。
それは中に乗っていた乗客の血液か？
銀色のぐしゃぐしゃに丸められた金属塊。
無造作に瓦礫だらけの道路に数個が投げ出されている。
残りの電車の残骸であろうか。
道路には無傷の自動車が一台もなかった。
皆、平べったく潰れているのだ。
深く穴の底にペシャンコになって張り付くようにしている
金属の平べったい残骸。
路面で、何とか車と分かる原型をとどめた残骸からは
やはり押し潰され、半分の厚みしか持たない人間の遺骸が
はみ出している。
風の音しか聞こえない。
自動車の騒音や、人々のざわめきも何も聞こえてこないのだ。
そんな瓦礫の街中を歩く亮一に、女の声が突然、聞こえた。
「リョウイチ！ リョウイチなの！」
驚き振り返る亮一。
血まみれの女の姿が目に飛び込んできた。
埃で真っ白であるが、婦人警官の服装をしているようだ。
しかし、手には自動小銃を持っている。
「地獄の見物でもしているの？」
スライドを引き、弾丸を装填する女。
「ナ、ナに？待ってください！俺が何かしたのですか！」
亮一は驚いて叫んだ。
「怪物をつれてきたくせに！あの怪物のおかげで
この国はめちゃくちゃよ！」
銃口が亮一を向いた。
と、ズシンズシンと地響きが聞こえ、何か巨大なものが近づいてくるように
地面が揺れ始めた。
「イヤー！」
婦人警官は亮一の肩越しにその音の正体を認め、
悲鳴をあげる。
黒い影が亮一を覆う。
ハットして振り向いた。
彼の目に、巨大な高層タワーのようにそびえる
二本の白い脚が飛び込んできた。
ズズーン、と瓦礫の山を地面にめり込ませ巨大な地鳴りがやんだ。
巨大な女性の足・・・。
白く輝くようなその足は、エロチックな曲線を誇るかのように聳え立つ。
ワックスのかかった大型乗用車のボンネットのような足の指の爪。
そのピンク色のペディキュアが鮮やかに光る。
足の甲は軽く１０メートルの
高さに達していた。
その脚の持ち主を見上げる亮一・・・。
思わず顔を赤くする。
その巨人は、若い女性。
何も纏わぬ全裸であった。
真っ白な雪のような肌。
巨大な腰は鋭角的にくびれている。
ふっくらとした下腹部は、黒々としたヘアーに覆われ、
色素の沈着したやや褐色の女性性器をはっきりと見ることが出来た。
むっちりとした太ももは、下から見上げるせいでやや円筒形に見えた。
丸くどっしりとしたお尻が脚の上に乗っかるようにしている。
くびれた腰と膨らんだ下腹部が女性らしい曲線を強調する。
胸板から丸く飛び出す巨大な乳房はその膨大な重量を予感させる。
その乳房の間から長い髪をたらし、巨人女性の顔が彼を見下ろしていた。
「この化け物たち！」
タタタタ！
火薬の破裂音！
婦人警官は自動小銃を連発で発射したのだ。
亮一は戦争映画でよく見るように慌てて瓦礫の中に倒れこんだ。
バシ、バシ、とコンクリートの破片に弾があたる。
背中を弾がかすめた。
「撃たないで！助けてください！」
半泣きで亮一は叫んだ。
と、辺りが暗くなる。
「キャー！」
婦人警官の叫び声が聞こえた。
顔を上げ、瓦礫から半身起こした亮一。
彼を跨ぐようにしている巨人女の
足首が婦人警官を踏みつけているのだった。
「イヤー！助けてー！」
仰向けに押し倒され、巨大な足の裏を両腕で押し返そうとする婦人警官。
しかし、白い巨大な足は徐々に彼女を押し潰していった。
「お願い、殺さないで！」
顔を横に向け、涙を流し、亮一に助けを請う婦人警官。
地面との隙間はもう三十センチほどになっている。
必死に巨人女の足裏を叩く彼女。
ボキボキボキ、と骨の砕ける音が聞こえた。
「ぎゃー！」
女の悲鳴。
一瞬後に・・・。
グちゃり、と、肉の潰れる音。
真っ赤な血液が巨大な足の下から流れ出す。
更に、巨人女は体重を足にかけたのかボコボコ、と足首がアスファルトを
めくりあげるように踏み抜き、地面にめり込んでいったのだ。
亮一は仰向けになりこの巨大な女性を見上げた。
腰に手を当て、大きな乳房で顔が半分隠れている巨人女。
ゆっくりと婦人警官を踏み潰した足を上げる。
ピンク色の肉片が張り付いていた。
ズズン、と、亮一の脇にその巨大な足が下ろされた。
亮一は巨人の顔をはっきりと見た。
巨人もまた、足元を良く見ようと顔を前に出した。
「紗代ネエ・・・？」
亮一がつぶやく。
「やだ。亮ちゃん・・・？」
大気を震わせるように巨人の声が轟いた。
それは姉、紗代の聞きなれた声であった。
グワッ、と、大気を押しのけるようにかがみこむ
巨大な姉、紗代。
風圧で吹き飛ばされそうになるのを亮一は必死にこらえた。
素っ裸の彼女の股間は大開になる。
普通の女性の百倍サイズの性器が、亮一の前に現れた。
姉のいつも付けているコロンの香りが、亮一の座り込んだ
一帯を覆う。
剥きだしの股間を巨人の姉、紗代は気にも留めない。
「夢の中にまで出てこないでよ。生活感じちゃうじゃない！」
亮一は近づいてくる巨大な紗代の指に摘み上げられ
呼吸も出来なくなっていったのだった。
「離してよ！紗代ネエ！」
ハット、目が覚めた。
亮一の目に石膏ボードの天井と露出式の蛍光灯が飛び込んできた。
学校の保健室。
「おはよう、貧血君！」
次に亮一の目に入ったのは、彼の顔を覗き込む
同級生の長澤美沙の笑顔であった。
「授業中にあなた失神しちゃたのよ。
覚えて・・・いる訳ないよね。」
まるで年下の子どもをあやすような言葉使いに少し亮一はむっとした。
しかし、授業中に自分の付き添いで保健室にまで来てくれた美沙に
文句は言えない。
ベッドの脇の丸いすに腰掛ける長澤美沙。
短い制服のスカートからにょっきりと伸びた白い脚をきちんと揃え、
スカートの中が見えないように座っている。
丸いすからはみ出てしまう大きな丸いお尻。
紺色のハイソックスを履いた長い脚を
もてあましているようだ。
彼女を見上げる。
襟元にリボンを付けた制服の白シャツ。
紺色のブレザーベスト。
そのベストは、彼女の大きな胸に押し上げられ、左右にぱっくりと
口を広げてしまっている。ボタンが千切れ跳びそうだ。
黒い長い髪をポニーテールにまとめたその白いうなじには、数本の
髪が垂れていた。
「無防備な男の子を前にしている女の子・・・。」
美沙がくすくすと笑いながらそういった。
「冗談言うなよ。ほんとにやっちゃうぞ！」
不機嫌そうに言う亮一。
「やれる勇気があったら、やってごらんなさい。」
笑う長澤美沙。
顔を赤くして亮一はベッドの反対側を向いてしまう。
「貧血の童貞君。お礼はなにをしてくれるのかしら？」
美沙は亮一の背中に話しかけた。
「バイトいそがしいから・・・。」
「私もよ・・・。」
同じ境遇の同級生。
母子家庭は珍しくもないが、彼女は何かと亮一を気にかける。
彼もまた、美沙を気にしていた。
彼女もまた、弟一人と母親一人の三人家族だ。
それはどことなく、紗代の面影が見えていたからか。
バイト先まで一緒の二人。
クラスで冷やかされても、動じることのない美沙。
その堂々とした振る舞いが、姉にそっくりであった。
亮一を子ども扱いしようとするところも。
「誕生日はおうちに行ってもいいのかしら？」
身を乗り出す美沙。
「うん・・・。」
生返事をする。
「ビンボーだから、大した事出来ないけど！」
明るく張りのある声が保健室に響いた。
放課後。
まだ夏の日差しが残る秋の午後四時。
夕焼けが空を赤く染め出す。
バス停まで一人歩く亮一。
今度は夢をはっきり覚えている。
ビルディングを跨ぎこすほどの
大きさの姉が、廃墟となった街の中に
聳え立っていたのだ。
踏み潰された婦人警官の悲鳴が耳に残っている。
あの廃墟は紗代が作り出してしまったのか？
制服のポケットに、何か硬い軽いものが入っているのに
亮一は気がついた。
「何だろう？」
それは、真ちゅう製の小さな筒であった。
亮一は始めてみるのであろうが、自動小銃の空薬きょうである。
「何でこんなものが？」
ポケットからそれを取り出し、道路に投げ捨てる。
空薬きょうはキーン、と軽い音を立てて地面にはねた。
授業を終え、バイト先のコンビニに行く。
いつもどおりの仕事を終える亮一。
時給７００円で四時間のシフトを終える。
バックヤードで大学生の先輩と雑談をし、週間漫画誌を読んでから
帰宅をする。
家に着くと、紗代が先に帰っていた。
家事をてきぱきとこなす姉。
紗代の顔をまじまじと見つめる亮一。
「何よ？私、何かへん？」
「・・・いいや。ただ・・・変な夢みたから・・・。」
続ける亮一。
「紗代ネエ、最近どんな夢見ている？」
「覚えていないわよ。仕事忙しいから、熟睡していると思うわ。」
着替えを終わり、風呂場に向かう。
亮一の目の前でズエットを脱ぐ。
トップレスのショーツ姿になる。
いつものことだが、今度ばかりは亮一は下を向く。
「なに？実の姉に欲情するんじゃないでしょうね？」
笑う紗代。
亮一は自分の見た夢のことを忘れようと必死であった。
それから暫く夢を見なかった亮一。
巨大な怪物となった実の姉が居るその世界に再び入ってしまったのは、
長澤美沙を家に招いてからだ。
誕生日のプレゼントを持ってきてくれた美沙。
亮一も、お返しのプレゼントを用意していた。
姉の紗代が帰宅し、初めて弟の彼女と顔をあわせた。
「うわー。可愛い子！」
美沙を見た紗代のこれが第一声。
「姉貴、おっさんか？」
亮一がぼやいた。
ポニーテールを解き、黒い髪を肩まで下ろした美沙。
制服姿のままで自宅に来た彼女。
日本人形のようなふっくらとした丸顔に、鮮やかな赤い唇。
小さな鼻。パッチリとした黒い瞳。
紗代がその可愛らしさにほれてしまったようだ。
「デカした！弟！ いい娘を釣ったな！」
「よせよ、おっさん臭いなー。」
亮一は本気で嫌がる。
美沙はそんな二人を笑ってみていた。
これほど楽しい夜はこの数年在ったであろうか。
三人はこの晩、本当に幸せな夜を過ごしたのだった。
しかし、亮一がまたあの悪夢の世界に入っていったのは
それから直ぐのことであった。
都内の繁華街だろう。
何度かここには来たことがあるような気がした。
交差点には車が溢れ、立体交差の鉄道橋は地上に出てきた地下鉄車両が
走っていた。
物凄い数の人々が信号が変わるのを待っている。
どこかの政治団体が旭日旗を掲げ、誰も聞かない演説をしていた。
腰を見せ、大きなお尻を振りながら女の子が繁華街を歩いてゆく。
だらしない格好の大柄の若い男は、数人で町を徘徊している。
必死でティシュペーパーを配る制服姿のOL。
あくせく歩くスーツ姿のサラリーマン。
亮一はぼんやりと、その街の真ん中に立っていた。
悲鳴が上がった。
「リョウイチが来たぞー！」
どこからか誰かが叫んだ。
悲鳴と怒号と。
警察官が彼に向かって走ってきた。
亮一は腕をつかまれ、二人の警官に引きずられるように
地下街に連行されようとしていた。
「何でこんなことに？」
亮一が叫んだ。
「どうしてここに来た！お前は！」
若い警官が彼に向かっていった。
「来たぞ。もうだめかも。」
少し歳の行った警官が空を見上げてつぶやいた。
亮一もそれを見た。
白い四本の巨大な柱・・・・。
巨大な女性の脚が、空から降るように現れた瞬間を。
大地を揺るがし、巨人女性の脚が轟音を上げ地面に突き刺さる。
四本の巨大な柱は、丘を踏み潰し、地面に大きな穴を開けながら
進んできた。
大気を押しのけるような音を、その女性らしい白く湾曲した
脚を動かすたびに轟かせながら。
亮一はその足の持ち主を見上げ、驚愕した。
姉の紗代は、心の準備が出来ていたが、もう一人の巨大な女性。
彼女は・・・。
長澤美沙だったのだ！
淡いピンク色の巨大なビルディングのような巨人女。
二人の警官は、亮一を突き飛ばすと、地下街に逃げ込んでいった。
二人の女巨人は、地上を見下ろしながら街の中にその巨大な体を現したのだ。
「うわー。小さな街！蟻みたいに動いているのが人間なんですか？」
大気を揺るがすような長沢美沙の声。
嬉々とした顔で姉の紗代に語りかけていた。
「そう。小さけど、みんな本物なのよ。」
少し背の低い美沙を見下ろして、紗代が答えた。
紗代がぐっと、腰を下ろし一台のバスを掴みあげようとした。
紗代の大きなお尻が、１０階建て大型百貨店の外壁にぶつかり、
簡単にそれを突き崩してしまう。
轟音を上げ、崩れ落ちる百貨店舗。
紗代の足元は逃げ惑う人々で一杯となっていた。
気にもしないで、バスを掴み、立ち上がる紗代。
「ほうら。よく見て。人がのっているでしょ？ミニカーじゃないのよ。」
美沙は、紗代の手に摘み上げられたバスに顔を寄せた。
彼女の大きな瞳が、バスの中を覗き込む。
「ホンとだ！人が一杯！」
車内で前後に体を吹き飛ばされた乗客たちは、
皆うずくまって動かなかった。
紗代の巨大な指がバスのフロントガラスに突き立てられ、
バリバリ、と、屋根を剥ぎ取ってしまう。
バスの乗客から悲鳴が上がった。
「あはは！声までちいちゃい！」
美沙が笑った。
乗客たちは、巨人女の起こすその轟音に耳を塞いだ。
「あ！」
小さく叫ぶ美沙。
紗代が突然、バスを美沙の胸元に突き出し、それを逆さまにしたのだ！
絶叫を上げ、バスから転落する老若男女の乗客たち。
白く柔らかな、美沙の乳房に次々と彼らは激突していった。
胸板から大きく突き出すようなロケット型の美沙の乳房。
小さな乗客たちから見れば、それは高さ１６メートルもある
「小山」であった。
柔らかな乳房にバウンドして１５０メートル近い美沙の
胸高から落下してゆく乗客たち。
若い男達数人が、美沙の乳房にしがみつき生き残る。
そのうちの一人は、なんと一メートルほどの大きさの美沙の乳首に
またがっていた。
「ちょっと！なにするんですか？」
美沙があわてて紗代に言った。
と、小さな悲鳴が美沙の耳に届く。
彼女が少し、体を動かしたとき大きな彼女の乳房が少しだけ揺れたのだ。
数人の男達が乳房からずり落ちそうになったのであった。
「へへ。おかしいでしょ、女の子のおっぱいに、必死につかまっているのよ、
この子達・・・。」
意地悪そうな笑みを浮べる紗代。
美沙は乳房を見下ろしながら、また少し、胸をゆすってみた。
ロケット型の美沙の乳房がゆさゆさと揺れる。
今度は乳房の脇のほうに掴まっていた男が一人、墜落して行った。
更に激しく乳房をゆする美沙。
空中に放り出される小人たち。
乳首にしがみつく男一人がそれでも生き残った。
「うーん、よく頑張ったわねー。でもそこはダメ！」
美沙は乳首を指で軽くはじいた。
３０メートルほど飛び上がり、地上に落下してゆく男。
美沙は、トチャ！という、小さなものが地上に落ちる音を聞いた。
地響きがあがり、紗代の巨大な足が道路を踏み抜く。
乗り捨てられた４ドアセダン乗用車が、グシャリ、と踏み潰された。
大きな桃のような（実際は雑居ビルを簡単に押し潰せるほどの巨大な・・・。）
お尻が歩くたびにぷるんぷるんと揺れる。
歩道橋が足首に絡まるようにしてちぎり飛ばされる。
無言で足元を見下ろす巨大な紗代。
逃げ惑う人々で一杯の歩道。
絶叫を上げ、彼らは間近に迫った巨人女性を見上げた。
巨人の巨大な足の裏が、日の光を遮る。
紗代は一気にそれを踏み降ろす。
人々の断末魔の叫びの後に肉の潰れる音・・・・。
不気味な静寂・・・・。
メリメリ、ボコボコ、という巨大な足首が路面を踏み抜き、
地面に埋もれる音。
紗代は、足の間に逃げ遅れた数十人の人々を閉じこめた。
少しだけ腰をかがめ、地上に手を伸ばす紗代。
股の下に捉えた小さな人間達。
その小さな人間を数十人、彼女はつまみあげた。
手のひらに彼らを無造作にばら撒き、
わざと雑居ビルを一踏みで粉々に壊しながら美沙の前に歩み寄った。
無言で手のひらの小人たちを美沙の顔の前に突き出す。
「面白いでしょ？この人達の命は、私の自由になるの・・・。」
一人の若いＯＬを摘み上げる紗代。
紗代の白くしっとりとした指が
髪を茶色く染め、黒いストッキングをはいた彼女を掴みあげた。
黒いスカートに白いブラウスが鮮やかだ。
ばたばたと、苦しげに両手両足を振り回す小さな若いＯＬ。
「女の子って、柔らかいのよね・・・・。」
若いOLの体を指でこねくり回す紗代。
ブチュリ。
「あれ・・・・。」
少しだけ慌てる紗代。
美沙は紗代の顔を見つめる。
「つぶれちゃった・・・。」
指に張り付いた平たい肉塊。
血でそまったＯＬの制服。
美沙は、無言でそれを見つめる。
指についたそれを、振り払う紗代。
ビチャ、と、ピンク色の肉塊と化したOLの遺骸は
路上に落ちると小さく音を立てた。
足元を逃げ惑う人々を見下ろし、紗代はその巨大な足首を彼らの上に翳す。
ズズーン、と、地響きが起こった。
白い巨大なビルディングタワーのような巨人女の脚は
日の光を受け、艶やかに輝く。
巨大な乳房を誇る上半身を支える脚。それは、見事な流線型を見せつつ
その発達した筋肉の上にたっぷりと女性らしい脂肪をつけ
歩くたびにエロチックに波打つ。
くびれた腰のよく発達した腹筋が、うっすらと女性らしい柔らかな
脂肪を通して浮き上がる。
ピンク色の繊細なグラデーションが巨大な女性の肉体を彩る。
小さな人間達は真っ赤な血飛沫を上げ、そのあまりに美しく巨大な脚に次々に
踏み潰されてしまった。
「楽しいでしょ、人の命をおもちゃにするのって・・・。」
手のひらを、ゆっくりと横にする。
小さな人間達の悲鳴が聞こえる。
ぱらぱらと、巨人女の手のひらから落下する小さな人々。
１００メートルの高さから次々に地面に激突する。
美沙は無言でそれを見つめていた。
そして、少しだけ口元を緩ませ地面にたたきつけられた
小さな人間達を見下ろしていた。
まだ太ももをぴったりと閉じている美沙。
１７歳の女の子は、身長１６５メートルに巨大化しても
恥じらいを忘れることが出来ないのか。
小人たちが自分の性器を覗いていると思うと恥ずかしいのだ。
一方、肌色の巨大建築物のような二人の巨人女性を
なす術もなく見上げていた亮一。
地獄の意味が始めて分かった。
巨人となった二人の女性が、まるで幼児がありを踏み潰して遊ぶように
この街の住人を踏み殺している。
それも、実の姉と、自分の彼女が、だ。
しかし、彼は何も出来なかった。
出来るはずもない。
ビルディングを簡単に踏み壊すほどの巨人になった
二人の女性に、なにが出来るというのか。
腰を抜かして、彼は路上にへたり込んでいた。
美沙の巨大な脚が目の前のビルを踏み壊すまで、
逃げることすら考えられなかった。
腰に手を当て、膝の高さもない１０階建てのテナントビルに
ゆっくりと右足を乗せる美沙。
メリメリと、屋上設備が踏み潰され、
１０階の壁面に皹が入り始める。
やがて、ガラガラ、ドドーン、と大音響をたててなんとビルは
倒壊してしまった。
更に、美沙は道路と瓦礫を踏みしめ、歩き出す。
そっと、右足を道路上にまた翳した。
今度は、地上スレスレに。
そして、右に左に、足首を動かしてみたのだ。
乗り捨てられた自動車が、巨大な足首に突き動かされ
路上を飛んでゆくようにすべる。
更に、１７歳の少女の巨大な脚は次々に電線を引きちぎり、
街路樹をなぎ倒し、避難中の人々に追いついてしまう。
ズシン、メリメリボコッ。
美沙の足がアスファルトを踏み抜いた。
巨大な少女から見れば、薄っぺらなウエハースのような
アスファルト。
大きなロケット型の乳房は歩くたびにブルンブルンと揺れた。
さらに歩みを続ける美沙の足の下からは、真っ赤な血が滲み出る。
美沙の巨大な足首は、逃げる人々に簡単に追いつき、
無慈悲にも彼らを踏み潰す。
数秒で、平べったい肉塊に変えられてしまった人々。
美沙の脚は、轟音を立て更に進む。
「小さな人間を踏み潰すのって、なんだか気持ちいい・・・。」
美沙は顔を赤らめそうつぶやいた。
一方、紗代は、ビルを粉々に蹴り壊しながら、街の周囲を同心円状に
歩いていた。
美沙の巨大な体による殺戮から逃げ惑う人々の逃げ道を
塞ぐようにして。
粉々になったビルディング群は、文字どおり瓦礫の山となって
街の幹線道路を塞いでいった。
亮一は、人々が次第に、街の中心部に追い立てられてゆくさまを、
地べたに座り込んで見つめていた。
更に、恐ろしい怪物となった姉と恋人の巨体を見上げ
彼の周りを悲鳴をあげながら逃げさってゆく街の人々を
呆然としてみていたのだ。
美沙はビル街の中にゆっくりと膝をつく。
長い脚が折り曲げられ、エロチックに太ももの白い肌が波打つ。
凄まじい大きさのお尻が、グワット横に押し広げられる。
しゃがみこんだ美沙のお尻と脚はその大きさを倍加させるように見えた。
ズズン、と、膝が６階建てのビルを一気に押し潰した。
ドシン、と道路上の自動車と逃げ遅れた人々を押し潰し、両腕を地面に着く。
長い髪を掻き揚げ、美沙は丁度自分の肩の高さに来たビルディングを覗き込む。
強化ガラスの向こう側、オフィスの中は人が誰もいないように見えた。
「ふふ！」
いたずらっぽく笑う美沙。
「いたずらしちゃおうかなー！」
と、言うや否や美沙はそのロケット型の巨大乳房をゆらゆらと揺らし始めたのだ。
ずずーん！
衝突音が轟きわたった。
反動をつけて美沙の巨大な乳房がビルに衝突したのだ！
直撃を受けたビルの半分は粉々に砕け散った。
「あははは！おっぱいでビルが壊れちゃった！」
美沙の笑い声が街を振るわせた。
それを見ていた紗代も、ズズン、と膝をつき四つん這いになる。
その地上に激突する肉体の衝撃は物凄いものであった。
雑居ビルが数棟倒壊してしまう。
路上を埋め尽くす放棄された自動車がひっくり返る。
逃げ惑う人々は数メートルも宙に投げ出される。
長い髪をばさりとたらし、大きなお尻を突き上げるようにしている紗代。
巨大な二つの乳房は、ゆらゆらと、更にその大きさを増していた。
丸く胸から突き出すような紗代の乳房は、重力により胸からぶらさがる
巨大なドームのようであったのだ。
そして、その巨大な乳房は膨大なその重量により衝突した雑居ビルを瞬時に押し潰す。
ぶるん、と振るえビルを粉砕する巨大な乳房。
紗代はその巨大な乳房をまるでブルドーザーのようにして
ビル街を押し崩し始めていったのだ！
肌色の山津波。
そう表現するしかない巨人女性の巨大乳房。
幅２０メートル、高さ３０メートルほどの二つの巨大球体が
次々にビルディングを押し崩してゆく。
高さ２メートルほどのピンク色の乳頭は硬く隆起し、ビルの躯体に突き刺さる。
狭い路地に殺到した人々は、巨大な四本の柱に支えられた
肌色の天井が空を覆うように見える巨大な女性の体の下を
必死になって走りだす。
甘い女性用コロンの香りが、街を、人々を包む。
汗の混じった若い女の匂い。
あまりに美しい巨人女。
残酷な運命から、少しでも逃れる努力を続ける人々。
しかし、その多くは瓦礫となったビルごと
この乳房の下敷きになっていったのだ。
胸元を見下ろしながら紗代が笑い声を上げる。
「うふふ！おっぱいでビルごと押し潰されるなんて、どんな気持ちかしら！」
ビルが倒壊する轟音。
それよりも大きな紗代の声。
紗代の掌が次々に路上を逃げ惑う人々を押し潰す。
悲鳴と絶叫。
ぶるんぶるんと揺れる巨大乳房はビルディングにぶつかると
それを瞬時に破壊する。
白く輝くような太ももは、崩れたビルの瓦礫を粉々に押し砕き、
紗代の両脇にある生き残ったビルディングを触れただけで次々に押し倒す。
巨人女の膝は、深く地面にめり込んでいった。
この世の地獄が現出したのだ。
そして、ピンク色の巨大な山のように見える
二人の巨大な女性が、バスターミナル前の広大な交差点に姿を現したとき。
亮一は実の姉と、恋人の凄まじい残虐性を目の当たりにする。
数千人の人々がこの交差点に逃げ延びてきた。
この巨大な女性達が意図的に追い立てていたのは明らかだった。
少しだけ笑みを浮かべた巨大な女性は四つん這いのまま
その交差点に巨体を現した。
あまりに冷酷な目つきが、この街の人々を「人間」と思っていない
証拠だろう。
美沙が、ズズーン、とビルを押し崩し巨大な乳房を路上に押し付ける。
砲弾型の巨大な乳房は地面に接すると、その形を楕円形に変えて行き、
道路一杯に広がり街道を塞ぐ。
下半身も地面に押し付け、長い脚を大きく広げた。
轟音と共に、美沙の脚は生き残ったビルディングを粉々に蹴り壊した。
両腕を顎の下に持ってゆき、顔をちょこんとそれに乗せる。
髪の毛をばさり、と掻き揚げる。
人々は巨大な美少女の顔面が自分たちを冷たく見下ろす光景に驚愕する。
逃げ場所がなくなったのだ。
若い会社員、ＯＬ、学生、買い物に来ていた主婦、警察官・・・。
あらゆる年齢、職業を持った人々。
彼らは美沙の前から反対方向に逃げ出そうと走り始めた。
しかし、彼らは自分達の周りに影が出来たことに気がつく。
ビルを押し潰し、そびえるような二本の腕、
膝を地面に埋め込むようにしている巨大な太股。
四本の巨大なタワーに支えられている若い女性の胴体。
見上げる人々は、巨大な女性が四つん這いとなって、
彼らの真上に覆いかぶさるようにしていることに気がついたのだ。
もう一人の女巨人紗代であった。
巨大な女性の肉体、それは大自然の造形物のように荘厳であった。
しかし次の瞬間！
巨大な肌色の天井が彼らに向かって落ちてきたのだ！
絶叫！
ドズーン！
ガスタンクのような巨大女性の二つの乳房は群集の中心付近に落下した。
更に柔らかな白いお腹が半分の人々を押し潰し、逃げ延びるかと
思えた人々は、黒い茂みが草原のように見える下腹部の下敷きになる。
この巨大女性も両足を広げ、ビルディングをその長い脚で押し崩していったのだ。
「気持ちいいー！」
人々の悲鳴や鳴き声、あらゆる怒声をものともせず、紗代の快楽に満ちた
声が廃墟となった街の中に轟く。
さらに紗代は、上半身を持ち上げ、生き残った人々を巨大な乳房で押し潰し始めたのだ。
「美沙ちゃんもやってみて！人間がオッパイの下でもがくの、気持ちいいよ！」
押し潰した人間の体液で真っ赤になった乳房を震わし、紗代が言った。
ズシン、と両手を突き美沙が上半身を起こす。
ぶるん、と砲弾型の巨大乳房が揺れる。
ピンク色の隆起した乳首を地面スレスレに動かす。
逃げ場を失い、肌色の断崖に挟まれた人々。
美沙の巨大な乳房が彼らを次々にその膨大な質量で突き飛ばし始める。
乳房の先を地面にすりつけ、水平に動かす。
地面を押し転がされるように一箇所に生き残った人々は
美沙の乳房で押し集められた。
一箇所に集めた人々を見下ろし、
上半身をゆっくりと下ろし始めた。
このときは若い男性ばかりが犠牲になった。
彼らは直径１８メートル、高さ２０メートルに達する
巨大化した女子高生の巨大な乳房に押し潰されようとしているのだ！
片方だけで数百トンの重さがあろう。
彼らは必死になって迫り来る巨大な女性の乳首を叩き、
無駄とは判っても、のしかかる肌色の巨岩のような
乳房を持ち上げようとしていた。
数十人の男達が両腕を翳し、乳房を押し返そうとしている。
両腕が柔らかそうな美沙の巨乳に食い込むようにしている。
肌色の巨大な岩山のような乳房を、男達は一瞬、支えたかに見えた。
美沙はゆっくりと、さらに自慢の巨乳を地面に押し付ける。
文字どおり、「山を持ち上げる」試みは、数秒後に惨劇となってしまう。
力尽きたのか、数人が膝を付いた。
「うわー！」という絶叫が聞こえる。
バランスが崩れ、一瞬で彼らは美沙の巨大乳房の下敷きになってしまったのだ。
美沙は胸元を見下ろしながら、自分の砲弾型の乳房が
地面に押し付けられ、横に楕円形に広がってゆくのを眺めていた。
小さな男達が、乳房を持ち上げようとしている小さな抵抗を感じていた。
上半身を完全に寝そべらせる美沙。
ぐしゃ、と何かが潰れる音が胸の下から聞こえた。
紗代が地面に寝そべり、美沙の胸元を見ていた。
「オッパイの重みだけで潰れていたわ。」
紗代は目の前で放心状態の小人警官を指で突付きながら解説する。
ふう、と、吐息を噴きかけ小人警官を数メートルも吹き飛ばす紗代。
美沙は胸元を見下ろしながら微笑んだ。
「私の胸、気持ちよかった？」
胸の谷間で、奇跡的に生き残った小さな男性に向かって美沙が囁いた。
「あーん、いい！街の中で大暴れするのって最高！」
美沙が喚起に満ちた声を上げる。
美沙の上半身の重量を受け、横に広がっていた乳房が、
彼女が上体を起こすにつれ、波打ちながら形を砲弾型に変えてゆく。
数秒前まで「人間」の形をしていたピンク色の肉塊が
ぽたぽたと乳房から落ちる。
腰を抜かし、路上に這い蹲る亮一を美沙が見つけたのは
そのときだった。
乳房でまた人間をかき集め、一気に押し潰したそのとき、
美沙の大きな瞳が亮一を捕らえたのだ。
「いやだ！亮ちゃん？」
美沙の可愛らしい声が轟いた。
「え！また来てるの？うちの子？」
巨大なお尻で、残ったビルを次々に押し潰していた
紗代の声が続いた。
慌てて胸を隠し、両足をぴったりと閉じて正座する美沙。
「何でここに居るの？」
顔面蒼白。
恥ずかしいところを覗かれたみたいに泣きそうな顔をしている美沙。
ズズン、と地響きを上げ、紗代が立ち上がる。
瓦礫の中を這いながら逃げようとする人々をブチャリ、と踏み潰し
路上に乗り捨てられた１０トントラックをぐしゃ、と、その巨大な足首で
平べったい金属の板に変えて地中に埋め込んでしまう。
歩道橋を蹴り壊しながら唖然とする亮一をまたぎ、
腰に手を当て見下ろした。
亮一は聳え立つ姉の脚を見上げた。
日の光を浴び、白く輝くような肌は、脚の若い筋肉と
女性の美しい足を形作る脂肪をピン、とはりつめるようだ。
良く手入れされた脚はつるつるとした、高層タワーのようだ。
ずっしりとした大人の女のお尻がそのうえにのっかり、
秘密の部分が黒い茂みの中に、巨大な海洋生物のように
口を広げている。
胸板からはみ出すガスタンクほどもある乳房の谷間から
姉の顔が覗いている。
「もう。また来ちゃったのね。しょうがないなー。」
怒ったように言う紗代。
「ごめんね、美沙ちゃん。今日はこれで終わりよ・・・。」
紗代の大木のような指が亮一をつまみ上げる。
「小さな亮ちゃん、せっかくだから触ってみる？」
しかし、顔を真っ赤にして下を向く美沙は腕で乳房を隠し
顔を上げようとしなかった。
手のひらの上に亮一を投げ出す紗代。
「どうしてあなたは、この世界に入ってこられるのかしら。
せっかくのストレス解消も台無しよ。」
姉の大声で耳が聞こえなくなる亮一。
「紗代ネエ・・・、何千人も殺しているんだぞ・・・！」
両耳を塞ぎ、それだけ言った亮一はまたしても意識を失う。
今度は間違いない。
姉の紗代も、覚えているに違いない。
亮一は寝床を飛び出す。
朝６時。
姉が朝の支度を始めている。
ふと、枕元を見る。
「？」
一丁の自動拳銃が枕もとの畳上に置いてあった。
手帳の切れ端と思える紙切れが一枚、それに添えてある。
そこには「殺せ！」とだけ殴り書きしてあったのだ。
亮一は大声で姉を呼んだ。
「どうしたの？亮ちゃん！」
慌てて階段を駆け上がってくる紗代。
亮一は拳銃を指差した。
「いやだ、どこから持ってきたの？これ？」
モデルガンと思った紗代が、拳銃を持った。
ずしりと重たい金属の塊。
つや消しの黒染めで仕上げられた金属機械の感触。
機械油と鋼鉄と火薬の匂いがほんのり漂う。
おもちゃではない。
「本物？・・・どうしたの？これ？」
紗代がたたみ掛ける様に聞く。
「朝起きたら、枕元に・・・。」
「物騒なサンタさんでも来たのかしら！」
注意深く、拳銃を机の上に載せる紗代。
「紗代ネエ、いつも同じ夢を・・・みるのだけど・・・。」
亮一は紗代に夢の話をする。
「精神科に行ったほうがいいかもね。」
紗代は冷たく言い放つ。
「何で私がゴジラみたいに街の中で暴れまわるのよ？
失礼しちゃうわねー。」
朝食をとりながら紗代が続けた。
「でも、美沙ちゃんと、昨日リフレクソロジーに行って来たのは
確かよ。・・・リラクゼーションを受けているときは意識がなくなっている
見たいなのも本当だけど・・・。」
コーヒーをすすり、紗代がつぶやいた。
「私の知らないときに夢でもみて・・・。」
亮一が顔を青くしているのに紗代は気がつく。
「ピストルは警察に届けましょう。」
そう明るく話す紗代。
しかし、紗代はその決断を後悔してしまう。
本物の拳銃が家から出てきたことにより、１２人の警察官が
家宅捜査にやってきたのだから。
形式上は「脅迫事件」となった。
亮一が寝ている間に「殺せ」のメモと拳銃が
彼の枕元に置かれていたのだから。
事情聴取と、指紋の採取、家の中を隅々まで探される。
婦人警官が、紗代の衣装ダンスまで捜索したのだ。
「失礼ねー。何か他のものでも出てくると思っているのかしら！」
紗代は大声で怒鳴った。
無言の婦人警官たち。
若い刑事が笑いながら紗代に言った。
「ホントに申し訳ないです。ただ、あのピストル、どこの国のものか
判らないものですから。旧共産圏のものと思ったのですが、構造は
イタリア製そのものですし。」
すらりと、背が高く筋肉質の若い刑事は続ける。
「刻印が漢字なんですよ。ただ、見たこともない省略の仕方です。
終戦直後の文部省が考えた略字のような・・・。」
続けようとした若い刑事は、紗代の顔を見つめた。
目が合った二人。
互いに顔を赤くする。
大柄な紗代を、軽く見下ろす背の高い若い刑事。
「あの、ごめんなさい。ちょっと、私始めてのことだったものですから・・・。」
紗代が下を向いて小声になる。
亮一はそんな姉の姿を始めて見たのだ。
若い刑事と、姉が付き合い始めたのは直ぐにわかった。
しかし、亮一は何か引っ掛かっていた。
「亮ちゃんの家、強盗が入ったんですってー！」
長澤美沙が学校で驚いたように声を出す。
「ピストルで脅されたって、本当？」
どこから話が漏れたのか。
教室でも、亮一は注目の的だ。
亮一は、見つけた拳銃の話や、警察官の家宅捜査の話を
同級生の前で半ば得意にして話した。
しかし、美沙には夢の話を聞くことが出来なかった。
バイトに行く帰り道。
ようやく美沙に切り出した。
「リフレクソロジーって、知ってる？」
「ええ、紗代さんと一緒に行ったわよ？」
なんて事もなく返事する美沙。
歩きながら不思議そうに亮一を見る。
「姉さんに聞いたの？」
「うん。」
信号で止まる二人。
美沙の手が、亮一の手を握る。
「なんだかね、紙製の水着に着替えて、カプセルに入るのよ。
中で寝ちゃってもいいのよ。凄く気持ちよかったわ！
お肌がすべすべになるんだって。」
楽しそうに話す美沙。
「デ、何か夢を見た？」
「夢？うーん、覚えていないなー。」
美沙は繋いだ手を軽くふって嬉しそうに答える。
亮一は彼の見た夢の話を美沙に話す勇気はなかった。
コンビニのバイトが終わる。
自転車に乗り、家路につく亮一。
シャーと、発電機の音がする。
夜道に自転車の豆電球が明るい。
自宅に戻る路地を走る。
と。
亮一は静かに自転車のブレーキを絞った。
防犯灯の影に、二人の男女の姿を認めたのだ。
いつもなら気にも留めないのだが・・・。
それが姉の紗代と、あの若い刑事だと、一目でわかったのだから。
紗代の大きく盛り上がった胸を押し潰すように強く抱きしめる刑事。
頭二つも背の高い若い警察官。
姉の紗代が、まるで小娘のように扱われている。
何かいけないものを見てしまったような亮一。
まだ警察は，「神田紗代の銃刀法違反」の線を捨てていない。
被疑者である紗代と夜中に密会する刑事は
かなりの危険を冒しているのではないだろうか？
亮一はその若い刑事を暗闇から眺め続けた。
「リョウイチ・・・。」
突然、亮一の背後から彼の名を呼ぶ声が聞こえた。
驚いて振り返る。
しかし、そこには誰も居ない。
背筋が寒くなった。
亮一は道を変えて大急ぎで家に帰っていった。
「口径は９，９２ミリ。装弾数は１３発。遅延吹き戻しタイプの
自動拳銃。構造はブローニング１９３５軍用モデルと酷似している。」
県警鑑識課巡査長が続ける。
「世界中のどこの国のものでもない。９．９２なんて口径は
存在しない。刻印の文字も、漢字の変形であると思われるが
採用している国はない。」
「工作精度は？」
若い刑事、志賀敏雄巡査長が質問する。
「一級品だ。部品の精度、金属の表面処理、銃身内のメッキ技術も我が国と変わりない。」
ビニール袋に包まれた拳銃を片手にする志賀巡査長。
「張り込みを続けてみるか？」
「如何するかは捜査課で決めてくれ。この拳銃は警察庁に届ける。
外国の工作機関が持ち込んだかもしれないし・・・。」
土曜日の昼下がり。
所轄警察署の鑑識課の部屋を出る志賀巡査長。
外国の情報機関との接触。
この疑いが神田姉弟に掛けられている。
紗代と個人的な、男女の関係になってしまった事実。
上司に知られれば、捜査からはずされる。
志賀巡査長は、それでもかまわないつもりで居た。
容疑者ではないし、現時点では被害者。
何も疚しいことはない。
亮一のアルバイト先に向かう志賀。
大柄なスーツ姿の彼は、どこに居ても目立ってしまう。
尾行は苦手だ。
「被疑者は、外国情報機関に拉致される可能性あり。」
捜査課は、その可能性を考え、志賀に亮一の尾行を命じた。
駅前の繁華街を、バイト明けの亮一が歩いていったのは
午後三時。
志賀はその後をつける。
彼が入っていった先は「コスモ精神科学研究所」と看板を掲げる
雑居ビルの一室だった。
三十分ほど、彼はこのビルの向かい側のコーヒースタンドで
様子を伺っていた。
「護衛」ではなく、「尾行」
彼もまた、神田亮一の身辺に疑いを持っていた。
しかし、志賀はここで奇妙な光景を目撃してしまう。
ビルとビルの８０センチほどの隙間から鋭い目つきの作業服姿の男が
出てきたのだ。
一部始終を見ていたのだが、まるで「空間」から飛び出したように見えた。
黒い安全靴にカーキの作業着。
どことなく軍人風に見える。
工具箱を片手に持っているが、それらが新品なのが引っ掛かった。
無線で「不審者発見」を連絡する。
コーヒースタンドを出て
道路を横切り、作業着の男に近づく志賀。
男は亮一の後を追うように、雑居ビルの中に入って行ったのだ。
「ちょっと失礼します！」
志賀が笑顔で男に近づく。
ビルのエレベーターホール。
エレベーターを待っている男が振り返った。
「私、警邏中の警察官ですが、少々お伺いしたいことがあります。」
警察手帳を取り出し、男に翳した。
と、そのとき。
物凄い速さの蹴りが、志賀の股間に決まってしまった。
「ぐ！」
うめき声を上げ、地面に崩れ落ちる志賀巡査長。
さらに、うずくまる志賀の頭を蹴りが襲う。
ボックと、鈍い音がした。
気を失う志賀。
作業着の男は志賀を引きずり、共用便所に押し込んでしまう。
この間、僅かに１５秒。
何事もなかったかのように、工具箱を持ち作業着の男は
エレベーターホールに戻った。
「ここはエステサロンじゃないのよ。」
白衣を身に纏った「所長」と呼ばれる中年の女性が
亮一に向かっていった。
「精神科学研究所」と看板が掲げられた部屋の中。
亮一は間仕切りで囲われた部屋の中で、「所長」の話を聞く。
「あなたが夢を見る、その中にお姉さんと、彼女が出てくる。
あながちここでの実験と関係ないことはないわね・・・。」
「どういうことです？」
亮一はテーブル越しに彼女を見つめた。
「私たちは、深い眠り、精神の浮揚状態にまで人間をリラックスさせて
脳の活動を活性化させることを研究しているの。
紗代さんと、美沙さんは深い眠りの中で夢を見ていると思うけど。」
所長は続ける。
「無意識が現実化するなんて事、考えられないのだけど・・・。
紗代さん、始めにここに来たときに、別の人間として現れたわ。
体がポットの中にあるというのに。裸で研究所の中に出てきちゃったのよ！」
あっけに獲られる亮一。
「あなたが見る夢、それはお姉さんがここで見ていた夢。
けれども、そこはお姉さんが作り出した現実世界かもしれないのよ。」
「僕の夢の中に姉が現れるって、どういうことです？」
女は笑って答える。
「あなたも未知の素質がある、って、ことよ。
おそらくは、紗代さんの作った精神世界が現実化することの証明に
なるのじゃないかしら。だから、お呼びたてさせてもらったの。」
「姉はどこです？」
「長澤美沙さんと一緒に、実験中よ。
亮一君もこの機械に入ってもらいたいわ。」
部屋の奥に通される亮一。
シャワールームに通され、全身を洗う。
紙製の浴衣のような服を着せられ、四台並んでいる
大型のカプセルのような機械の前に立った。
「あの、やっぱり姉は物凄いストレスを持っていたんでしょうか？」
亮一はバックと、開かれたハッチを前に、カプセルの中を覗き込み
所長に聞く。
亮一は彼の見た夢の内容を話さなかったのだ。
「うーん、精神状態にもよるけど・・・。亮一君が詳しく夢の内容を
話してくれたらもっといいんだけど。」
笑いながら所長は応えた。
エレベーターの扉が開く。
作業着姿の男が「精神科学研究所」のテンパーライトドアを開けた。
受付の白衣を着た若い女性が笑顔で迎える。
「何か御用ですか？」
「警察のものだ。カンダ・リョウイチを探している。ここに居るんだろう？」
男は警察手帳を彼女に翳した。
志賀から奪い取ったものだ。
「少しお待ちください。」
所長が小走りで現れる。
「あの、警察の方が何か？」
男は工具箱から機関短銃を取り出す。
スライドを引き、安全装置を解除する。
「異次元からのお客は始めてか？」
鋭い目つきの男が叫ぶように話した。
「女の体に世界が押し潰される前に、お前達の世界に通じるトンネルを見つけた！」
アメリカ製Ｍ−１０によく似た外観の機関短銃の銃口を所長に突きつけた。
「リョウイチはどこだ？二匹の怪物も、ここに居るのだろう！」
所長は凍りついたように動けなかった。
突然、短機関銃を持った男が押しかけてきて、
理解できない話を叫び始めたのだから。
「何のことです？ここは精神医療の研究所です！」
タタタン！
機関短銃を天井に向けて短連射する。
天井からぱらぱらと、石膏の粉が降る。
キンキンと、空薬莢が床に落ちて金属的な音を立てる。
「ここで作った怪物が、我々の世界を壊滅させようとしている！
我が国の科学者から霊能力者まで動員して、ここを突き止めた。
カンダ・リョウイチが、触媒になっていることもわかっている。」
と、男は受付の女性に銃口を向けた。
パン！
乾いた破裂音。
額から血を吹き上げ、後頭部が髪の毛ごと吹き飛ぶ。
受付の女性は白衣を血に染めカウンターにうつぶせになる。
「お前は実験で、我々の宇宙と繋がるトンネルを見つけたのだ！
それが現実の世界とは思わなかったのか？女の見ている夢だと思ったのか！」
所長の額に熱い銃口をつきつけ、男は引き金を引いた。
頭から血飛沫を上げ、
ドサ、と床に倒れこむ所長。
真っ赤な血溜まりが、タイルカーペットの上に広がってゆく。
男は大またで部屋の奥に歩いていった。
四つ並んだカプセルの前に立つ。
ハッチの開け方が判らない。
こんこんと、ハッチを叩き、カプセルがＦＲＰ性であることを確認すると、
機関短銃の切り替え鉄を連発の位置にする。
バブウウウー！
モーターのような発射音。毎分１２００発の発射能力を持つ
機関短銃の短連射が繰り返された。
カプセルは瞬時に穴だらけになる。
さらに次のカプセル、その次のカプセル。
長い４０発用弾倉を交換し、工具箱を取りにエントランスに戻ろうとしたとき。
「止まれ！撃つぞ！」
階段を這うように上ってきた志賀。
銃声を聞き、足首に巻きつけるように携帯していたリボルバーの
安全ゴムを撃鉄からはずし、眩暈に堪えながらそれを構え
部屋に突入したのだ。
応援を待たずに。
頭から血を流した志賀巡査長は３８口径のリボルバーの照準を男の額に合わせた。
撃鉄はあがっている。
無表情の男。
「中国か北朝鮮の工作員か？」
「日本国陸軍近衛戦闘連隊特殊作戦群タカダ大尉！」
男が応えると同時に
機関短銃の発砲。
志賀のリボルバーも発射される。
タカダ大尉と名乗った男の額は、その一発で打ち抜かれる。
ドさり、と、彼の体が床に崩れる。
志賀巡査長もまた、９ミリルガー弾相当の拳銃弾を
胸に三発受けてしまう。
血飛沫を上げその場に倒れこむ志賀。
血溜まりの中、志賀は這ってカプセルににじり寄った。
カプセルの解除方法がわからなかったが、弾痕を見て
中の人間が即死状態であることを悟った。
「紗代さん、守れなくてごめんね・・・。」
志賀巡査長は力尽き、意識を失う。
応援の制服警官四名が、部屋に入ってきたのはそれから５分後だ。
凄惨な現場に慄然とする。
さらに、工具箱の中にプラスチック爆弾が入っているのを見つけ
慌てて信管をはずしたのだ。
志賀巡査長が救急病院に搬送され、手術を受けたのがさらに２５分後。
昏睡状態の彼は、手術台に乗せられたときに息を引き取った。
マスメディアに大きく報道された、白昼の銃撃戦。
その結果は、六人の日本人と、身元不明の犯人と合わせて七名の
死亡で、幕を閉じた。
それ以上捜査は進まなかったのだ。
犯人が何物で、どこから来たのか、その国籍すら判らなかった。
拳銃、短機関銃、プラスティック爆薬、その雷管。
どれも、外国で生産されているものと似かよっていたが、
微妙に差異があるものであった。
日本の安全保障を脅かすかと思われた事件であった。
しかしながら、多くのメディアはこの事件のオカルト的な
側面を強調した。
さらに、警察の発表も消極的であったため
二週間足らずで新聞の紙面から消えていったのだ。
二人の姉弟を失った家は、ひっそりと親類による葬儀が行われ
やがて世間から忘れられていった。
「世の中はね、理不尽なことばかりなのよ。」
紗代の声が響く。
「そうですね。でも、考え方を変えれば、何でも自分の思い通りにできる
世界に来られたのだから、悪くないかも・・・・。」
美沙の明るい声がそれに応える。
「ごめんね・・・・。私が美沙ちゃんを誘ったばっかりに。
私たち、四人揃って死んじゃったの・・・・かな？」
美沙はじっと紗代を見つめた。
二人の若い女性が、見渡す限りの荒野の中に座り込んでいた。
揃って、脚を前に揃えて「体育」座りをしながら、
紗代は空を見上げ、美沙は地面を見下ろしていた。
二人とも、申し訳程度のセパレーツの下着をつけ、腰に簡単な布キレを巻いている。
豊満な肉体を窮屈に締め付けるようなそれは、
かえって彼女達のエロチックな女性の曲線を強調する。
灰色の砂利と思った地面。
それはコンクリートと金属とガラスの残骸が踏み固められて出来上がった
「瓦礫の舗装」であった。
元は高層ビルが林立するオフィス街であったその場所・・・・。
身長２００メートル近い女巨人の美沙と紗代が、その街を踏み壊し
平たく地ならしするのに、僅かに三十分しか掛からなかった。
荒地となった街の中心に立つ、一棟のホテルを残して。
逃げ惑う住民ごと、二人の女巨人はビルディングをその巨大な脚で蹴り壊し
粉々に崩れ落ちたビルディングを、その膨大な体重をかけて踏み均していったのだった。
数万人のこの街の住人達が、瓦礫と共に巨大女性の足の下敷きになり
地面に埋め込まれて行った。
二人の女巨人は、同心円状に街を踏み固め、その境に土手を作っていった。
まるで巨大なブルドーザーのように、踏み壊したビルディングの残骸を
足で寄せあげてゆく。
それは小さなこの世界の住人と、女巨人達の世界を拒絶する壁であった。
二人の女巨人がこの破壊を巻き起こしている間、大切そうにそっと肩の上に
載せていたものがあった。
小さな、この世界の標準サイズの人間・・・・。
亮一と志賀の二人であった。
「私たちを殺しちゃった罰は、この小さな世界の人達に充分与えたから。
あとは、楽しく生きてゆくことを考えないと。仕方のないことですから・・・・。」
美沙の声が轟く。
亮一は志賀とともに、この二人の女巨人の太ももの真下で
あきれ返って彼女達を見上げていたのだ。
志賀の驚きは亮一の比ではなかった。
弾傷の痛みが嘘のように消えたとき、
彼もまたこの街の歩道に一人横たわっていたのだ。
そして聳え立つ二人の女巨人を認め、腰を抜かす。
彼の恋人、神田紗代と、被疑者の恋人、長澤紗代の二人であると
直ぐにわかった。
巨大な指でつまみあげられる志賀。
その直後、まるで怪獣映画のように陸軍機械化部隊による
攻撃が始まったのだ。
戦車砲弾、ロケット弾、機関砲弾、重榴弾・・・・。
あらゆる火力がこの二人の女巨人に向けられ、炸裂した。
巨人女の手の平で優しく保護されていた志賀が、
手のひらから再び周囲を見渡したとき。
高層ビル群があった辺りは瓦礫の山となり、攻撃を加えていた機械化部隊は
影も形もなくなっていた。
瓦礫の中に埋め込まれてしまったのであろう。
志賀は数人の制服姿の男達と話をしていた。
「彼女達のやったことは謝るよ。けど、私にも止められないんだ。」
志賀は制服の男にむかって言った。
「貴方たちの話はわかった。デモね、私たちも貴方達に殺されたんだよ？」
志賀は続ける。
「この世界に、巨人を恒久的に存在させるのは貴方達の責任だと思いますよ。」
ポンと、手を壁のようにそびえる紗代の太ももに添える志賀。
巨大な女性の指が、志賀の目の前に現れた。
ズシ！
地面に着きたてられる、女性の人差し指。
紗代が、小さなこの世界の軍人達の前に、指を突き出したのだ。
「ひねり潰しちゃおうかしら！」
紗代の攻撃的な声が轟いた。
「私たちを夢の中から出られなくした責任、取ってよね！」
紗代の声は続く。
「うーん、せっかくだから、この状況を楽しまないと・・・・！」
美沙の明るい声が轟いた。
ぴったりと閉じていた太ももを少し開き、股間の直前にそっと下ろした
亮一を見下ろす美沙。
「私たちの思いどおりにならないものなんて、この世界に存在しないもの。
もしも・・・・そんなものがあったら・・・・。
めちゃめちゃに壊してぺっちゃんこに踏み潰しちゃうんだから！」
美沙は笑い声を轟かせた。
女性の局所だけを隠すような下着。
亮一は、高さ５０メートルにも達する巨大な太ももの間で、
大気を振動させるような笑い声を上げ、彼を見つめる美沙を見上げた。
凄まじいこの大破壊を、数十分で成し遂げてしまった彼の恋人。
元は片側四車線の国道であったのであろう。
亮一は、足元の平べったい金属の板と化した自動車の残骸を見下ろした。
カチカチに踏み固められたそれは、アスファルトの中に埋め込まれている。
元は装甲車であったのだろうダークグリーンの鉄塊が、まるで平面図面の
ように道路に埋め込まれていた。
二人の巨人女に戦いを挑んだ小人の機械化部隊の末路であった。
美沙の巨大なお尻が、地面を数メートルも陥没させている。
オフィスビルがその下敷きになっていることを
亮一は知っていた。
無慈悲にビルを踏み壊し、残骸を踏み固める四本の巨大な
タワーから、逃れようとした人達が逃げ込んだ最期の建物だ。
ホテルを壊さずに残していたので、多くの人達は
このビルも安全だと思ったのであろう。
ピンク色の巨大なタワーが地響きを上げ、彼等の逃げ込んだビルに向かって
移動してきた。
そして、その足首がくるり、と向きをかえた瞬間。
ビルは大きくきしみ始め、数秒の後に倒壊してしまったのだ。
直径４０メートルもある、巨人少女美沙のお尻は、
ビルの屋上設備を瞬時に押し潰し、ズシン、とビルの屋上に
のしかかった。
一瞬、ビルに腰をかけたように見えたが、すぐさま
ビルは倒壊してしまったのだ。
ズズーン、と轟音を立て、尻餅をつく美沙。
「あははは！」
笑い声。
「お尻でビルを潰しちゃった！」
なんと残酷な。
数百人の人間が、その中に閉じ込められ、押し潰されていったというのに。
明るく、可愛らしい声を轟かせる巨人少女。
彼の姉と、彼の恋人が全てを引き起こしたのであった。
「全ては、あの巨人の夢から始まったのだ。責任なんて我々にあるものか！」
肩に星を乗せた将官が、巨大な紗代の指を、見上げながら言う。
「この巨人が眠るとき、この世界とこの巨人の世界が繋がった。
リラクゼーションとか言う、精神の解放状態でな。」
もう一人の将校が付け足す。
「拳銃を少年に送りつけた理由は？」
「実験の失敗だ。特別任務の兵士を送ろうとしたのだが。
成功したのは一回だけだ。」
志賀は自分を撃ち殺したタカダ大尉を思い浮かべた。
失敗した兵士たちはどうなったのだろうか。
どこか異次元の中を彷徨っているのか。
「とにかく、私たち四人の安全を保証してくれ。
そうでないと、また紗代さんと美沙ちゃんが暴れだすぞ。」
ほとんど脅迫である。
警察官である志賀は、しかしそれが正当な取引であると思い込んだ。
他に解決策を見出せない。
この「死後の世界」では、紗代と美沙の神がかり的な暴力のみが
彼らの生きる手段なのだ。
「判ったかしら？おちびちゃんたち？」
紗代の怒声が轟いた。
ゴゴー、と、地響きをあげ、脚を動かす。
足首が、瓦礫の舗装に深く溝をつくり
ゆっくりと動き出す。
志賀は慌てて紗代を見上げた。
巨大なお尻が空に上がってゆく。
紗代はそっと志賀を片手でつまみ上げる。
お尻に張り付いていた廃墟の残骸がぱらぱらと地面に落ちる。
コンクリートの破片が、ドスン、と
亮一の目の前に落ちてきた。
「気をつけてよ！紗代ネエ！」
あまりに小さな亮一の声は紗代には届かない。
志賀を肩に乗せた紗代。
紗代の髪の毛にしがみつく志賀。
美沙は、慌てて両手でそっと亮一を覆い隠し、
紗代のお尻から剥がれ落ちる都市の残骸から
彼の体を守っていたのだ。
「紗代さん、動くときは言ってくださいよー！亮ちゃん、死んじゃったら
どうするんですか？」
少しだけ口を尖らせる美沙。
「ごめんなさい！ 亮ちゃん怪我なかった？」
少し慌てて紗代は足元を見下ろした。
美沙の手のひらから、亮一が自分を見上げているのを確認する紗代。
ほっと、安堵する。
自分の巨大な体がどれほどの力を持っているか。
紗代はその強大な自分の力を再認識する。
そして、巨体を見上げるこの世界の高級軍人達を
つまみ上げ、紗代は手のひらに彼らを載せた。
彼らが乗ってきた大型の四輪駆動車を、「グシャ！」と
左足でぺちゃんこに踏み潰して。
紗代は一瞬足元を見下ろすと、
地響きを上げ、同心円の外側に向かって歩き出した。
激しい上下動に必死に耐える志賀。
黒いつややかな紗代の髪の毛に必死につかまる。
白いうなじが、冬山の雪渓のように滑らかに輝くようだ。
黒い髪の毛がつややかに艶かしく彼女の肌に張り付く。
窮屈そうに布キレで包まれた巨大な乳房は、歩くたびに
ゆさゆさと揺れる。
美しい恋人。
しかし、その体のサイズは彼の百倍もある。
志賀は、二人の女巨人が踏み固めてしまった市街地の跡を見渡し、
途方にくれる。
「紗代さん、やりすぎだよ・・・・。」
１０メートル近い高さにある耳に向かってつぶやいた。
紗代はほんの数十歩で、外環にたどり着いた。
彼女と美沙、二人の巨体で押し潰し、巨大な囲いのようにかき寄せたビルの残骸の
向こう側を見下ろす。
志賀は目を見張った。
角ばった装甲の大型戦車。
キャタピラ式の歩兵戦闘車両。
旋回砲塔式自走榴弾砲が列線を敷いている。
迷彩服姿の兵士達が、ビルの陰から様子を伺っていた。
「貴方たちの武器が、役に立たないこと、わかっているんでしょ？」
紗代の声が包囲軍の上に轟く。
ぐっと、腰をかがめ、手のひらに載せた将官たちを、地面に転げ落とした。
白く、細い紗代の指
・・・・実際、彼らにしてみれば直径二メートル、長さ８メートルに達する
「大木」のような指なのだが・・・・
その指からばらばらと落ちてゆく。
「踏み潰される前に、この土地から離れなさい！」
すっくと立ち上がる紗代。
右足を上げ、それを一気に地面にたたきつけた。
ズズーン！！
大音響とともに、地面が大きく揺れた。
ガラガラと、雑居ビルが振動で崩壊する。
訓練された兵士達は、照準をこの巨大な女性に合わせたまま
ピクリとも動かない。
志賀は、彼等の士気と戦闘力を見抜いていた。
しかし、神田紗代の、神がかり的な力を目の当たりにした今。
結果は目に見えている。
紗代の手が、そっと志賀に向かって伸びてきた。
彼の体をつまむと、簡素なショーツの中に、彼を押し込む。
女性の丘を、なれた手つきで大きく開き、志賀を秘密の洞窟に閉じ込めたのだ。
「苦しくなったら、お豆を突っついてね。」
真顔で紗代がパンツの中の志賀に向かって言った。
安全な場所に愛する男を閉じ込めた巨人女。
これから、この小さな軍隊を踏み潰してしまうつもりなのか。
戦車、装甲車、自走砲が、次々にエンジンをかけ、後退してゆく。
紗代は、その小さな昆虫のような戦闘車両が、皆、砲身を下げていることに気がついた。
ハッチから半身乗り出す戦車の乗員達。
皆、この巨大な女性を見上げながら、車両を走らせる。
両腕を腰に当て、それを見下ろす紗代。
「戦争するつもりないのは判ったわ。私たちの要求を呑んだのかしら？」
地面に転げ落とした将官たちを見下ろし、紗代が声をとどろかす。
両腕を上げる四人の将官。
「約束よ。この土地には誰も入ってこないでね。」
地鳴りを上げ、紗代は同心円の中心地に戻っていった。
志賀が、彼女のお豆を引っかきだしたので、慌ててパンツから引っ張り出した。
顔を赤くする紗代。
じっとりと湿った志賀を手のひらに載せる。
「ごめんね・・・・。苦しかった？大砲の弾があたっても安全なところって、
あそこしか思いつかなくて・・・・。」
顔の前に志賀を持ってあげ、謝る。
「紗代さん・・・・。耳の後ろでもよかっただろ？」
志賀は息も絶え絶えに言う。
「交渉成立ですね！」
美沙が、胸の谷間に亮一を挟み込みながら戻ってきた紗代に向かって
声を弾ませる。
「もう、ここからだしてよ！美沙！」
亮一の小さな声が、美沙の耳に届いた。
「ごめん！苦しかった？」
美沙もまた、慌てて亮一を胸の谷間から取り出した。
「また、自衛隊に攻撃されるかもしれなかったから・・・・。
ごめんね・・・・。」
亮一は、美沙にそっと地面に降ろされた。
志賀もまた、地面に降ろされ亮一の隣に駆け寄る。
「大変な世界にきちゃったね。」
「結局、僕たちはどうなっちゃたのでしょうか？」
顔の周りにべっとりと着いた巨人女の粘液を拭い取りながら
志賀が答える。
「紗代さんと、美沙ちゃんの作り出した妄想世界が、現実化した・・・・。
そうとしか考えられないよ。」
地面に降ろした二人の恋人をそれぞれ覗き込む女巨人。
二人は、四つん這いになり、長い髪の毛を彼らの周りにそっとたらし始めた。
髪の毛のカーテンの中に閉じ込める。
「つまりは、この世界の創造主が紗代姉さん、って言うことですか？」
「そういうことなのかしら？」
ハット、志賀と亮一が後ろを振り返った。
そこには紗代が、お気に入りのミニスカートにブーツ、デニムジャケット姿で
たっていた。
男二人はあっけにとられる。
「紗代さん、順番ですからねー。」
美沙の声が轟いた。
「ウッわー！ 美沙ちゃん、まるで山みたい！ 大きいわー!」
紗代は本気で驚いていた。
胸から砲弾型にぶら下がるようにしている乳房を眺め、
「落っこちてきそう・・・・。」と、つぶやいた。
「やだー。恥ずかしいですよ。」
上半身を立て、慌てて胸を両腕で隠す。
大きな胸が、腕からムニュリ、とはみ出た。
「体の大きさと、お洋服は念じれば何とかなるみたい・・・・。」
志賀を見つめ、少し顔を赤らめ紗代が言う。
グワッ！
空気を押しのけるようにして美沙の手のひらが彼らの前に現れた。
笑みを浮かべ、三人を見下ろす美沙。
紗代が、志賀の手を引き美沙の白く、しっとりとした指をよじ登った。
「紗代ネエ、パンツ見えてるよ・・・・。」
亮一は力なく言った。
彼には実の姉が最早、妖怪のように思えてきたのだ。
ぐん、と、一気に持ち上げられる美沙の手のひら。
行き先は、ホテルの最上階。
スイートルームだ。
二人がいそいそと、大型のテラスに降り立つ。
「へへ。ジャ、楽しんでね。」
いたずらっぽく笑う美沙。
紗代は、振り返り笑みを返すと志賀の手を握り、部屋の中に消えていった。
「次は私たちの番だからね。」
両足を句の字に折り曲げ、女の子座りをしながら美沙は
太ももの間に佇む亮一に向かってその可愛らしい声を轟かせた。
「えへへ。亮ちゃん、女神様の彼氏になった気分はどう？」
亮一は、巨大な彼女を見上げ怒鳴るように言った。
「何故、こんなことに成ったんだろう！」
美沙はクスクスと笑い、亮一をそっとつまみあげた。
「夢の世界で永遠に生きられるなんて。それこそ夢みたいでしょ？
・ ・・・究極のリラクゼーションよ。」
そっと、亮一を巨大な乳房の谷間に滑り込ませる。
柔らかな美沙の乳房に挟まれながら、亮一は美沙を見上げた。
「この世界で、王様みたいに暮らして生きましょう！ 私たちの力で！」
嬉しそうに、声を轟かせる美沙。
胸の谷間で、亮一は息も絶え絶えだ。
「これもまた、俺の夢かも・・・・。」
亮一は、この世界もまた彼の見ている夢と思いたかった。
この夢は永遠に覚めることがないのだろうか。
「四人揃って、向こうの世界の肉体は滅んじゃったんだから。
気にすることないわ。ここが、新しい現実なんだから！」
胸元を見下ろし美沙が言った。
全ての現実からの拘束を解き放った、女性二人。
彼女達の夢の世界に、生きてゆかねばならない人々。
自分もまた、夢の世界の出演者となったのだろうか。
「まあ、夢もみんな一緒に見れば、現実だよな・・・・。」
白く、暖かな美沙の巨大な乳房をそっとなでながら、亮一はつぶやく。
可愛らしい美沙の顔は、笑みを絶やさなかった。
亮一は、巨人女となった美沙の大きな心臓の鼓動を聞きながら
暖かく柔らかな乳房の谷間で、やがて眠りに付いた。
この眠りから、覚めたときに何が現実なのか知ることが出来やしないかと
少しの不安と、期待を持ちながら。
そんな亮一を、胸の谷間に閉じ込めて美沙は彼を見つめ続けた。
「おやすみなさい。私の王子様。」
両腕で、胸を持ち上げる美沙。
市街地を見回し、また視線を胸の深い谷間に落とす。
そして、美沙は亮一が眠りから覚めるまで、じっと待ち続けたのであった。
完