『夢』 試運転(第八・九・十章)

                     作 だんごろう

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第九章:黒部の目覚め

「ムッムム・・・」
黒部が目覚める。
地の底に埋められた身体を、被っている土を掻き分け、ひたすらもがいて地表に出てきた。そんな目覚めだった。

酷い耳鳴りがし、頭の中で蜂が飛び回って記憶をかき混ぜたかのように、記憶が混沌として何も考えられなかった。
だが、それでも、自己保存の本能が働き、仰向けに寝たまま、辺りを警戒する。
真白な壁と、真白な硬い床。天井が半透明になっていて、そこから淡い光が漏れている。
部屋の広さは、四畳半ぐらい。天井までの高さは、3メートルはあるように見える。
何もない部屋で、ドアも見当たらない。

頭を上げると、後頭部がズキンと痛んだ。
手を回して触ってみると、そこの髪の毛が剃られ、直接触れた皮膚が線状にでこぼこしている。
まるで、何かの手術で、縫われた跡のようだった。

“手術”と言う言葉で、少し記憶が蘇る。今までの自分とは分からないように、整形手術を受けたはずだった。でも、何で後頭部に、手術の跡があるのか分からなかった。
顔を触ってみても、どこと言って、違和感もなかった。
部屋に鏡はない。整形手術でどう変わったのかも分からない。

“彩?・・・彩?・・・・そうだ・・・彩だ”
蘇り始めた記憶が、衝撃的な勢いで流れてきた。彩のことを思い出したのだ。
“彩、良い女だったよなぁ”
グラマラスなボディで、美人だけど、男に媚びることのない凛とした風情のある女だった。

“そうだ、俺は、あの女の部屋に運び込まれているはずだ。もうすぐ、あいつとやれる!”
黒部は、それを想像する。あの大きな胸を舐めまわせる。あの形の良い尻に歯を立てられる。
勃起をしても7センチしかない男根がそそり立ってくる。

その股間に手を伸ばして、素っ裸でいることに改めて気付いた。彼女に会う時に裸では、“如何にも”って感じで、やはり照れる。
辺りに着るものがないか見渡す。薄暗い部屋の隅に、鈍く光を放つ物が見える。
身体を横に転がして、それを手に取る。刃渡りが25センチ近くある、特大のサバイバルナイフだ。女、子供の身体ならば、骨まで切れそうな頑丈そうな刃をしている。
さらにその横には、先端を尖らせた、太さ7センチ、長さが1メートルぐらいの木の杭がある。いつか、夜の暗闇の中で、女の身体に突き刺した杭と同じ物だ。

その二つの物が、黒部の心を凶暴な闇に引き込む。
ナイフの刃を見ている黒部の口が醜く歪み、噛み殺した笑いが出る。ナイフを女の身体に刺す瞬間のイメージが頭に浮かんできたのだ。

だが、彩を刺し殺すことはできない。あんな良い女とは一生めぐり会うことはないと思われたからだ。それでも、ハイヒールで踏まれた舌の痛みを思い出し、どっちが主人だかを、あの女に思い知らせる必要を感じていた。
ナイフを彩の目の前でチラつかせ、涙を流して許しを請うまで脅し、二度と生意気な口をきかないようにさせてやる。
その思いが、大声で言葉に出る。
「お前は生意気なんだ! ちっきしょぉ、俺が思い知らせてやる!」

その黒部の耳に、転がる様な女性の笑い声がした。
「ウッフフ、武さん、目が覚めたの? でも、だれが生意気なのかしら」
甘くセクシーな声だった。

急に耳元で女性の声が聞こえたので、心臓が止まる程びっくりし、思わず声が出る。
「だ、だれだ?」

また、甘い吐息を感じさせる様な声が耳元でする。
「フフ、私・・・よ・・・」

「あ、彩さん? 彩さんなのか」
彩と知った瞬間、黒部の心臓が高鳴り、身体は逆に力が入らなくなる。
つい今し方の凶暴な思いに変わり、彼女を愛おしむ気持ちでいっぱいになる。


彩がいる場所は、マンションの自分の部屋。
既に、縮小が終わった黒部をマンションに持ち帰っている。
そして、先ほどから、ベッドに腰掛けて、足元の小箱を見下ろしていた。
切れ長の目に大きな茶色の瞳。どこか西欧の血筋が垣間見える整った鼻筋。少し厚めのセクシーな口元。
化粧はきつめで、セクシーな感じをより強く出している。
上着を脱いで、ベッドに腰掛けているが、胸元を大きく開けた白いブラウス、水色の短めのスカート、黒い網目のストッキングも着けたままだった。
軽くウェーブがかかっている髪の上には、オープンタイプのマイク付ヘッドファンを掛けている。
マイクは短めで、ヘッドファンの片側から少し出っ張る程度。

スリッパも履かずに、カーペットを踏みつけている両足の間に、縦、横、高さとも精々5センチしかない、小さな白いプラスチックの小箱が無造作に置かれ、その中に、3センチに縮んだ黒部がいる。

彩は、身を乗り出し、両足の間にある小箱を見下ろして可笑しそうに話す。
「そうよ。彩よ。でも、ウッフフ、ねぇ、武さん、生意気なのって・・・私のこと?」

黒部の頭には、手術によって、マイクと小型のスピーカーが埋め込まれていた。それが、彩のマイク付きヘッドフォンと無線で繋がり、お互いの会話が自然にできるようになっていた。

彩のヘッドフォンに、すぐさま、返事が返ってくる。
「と、とんでもねぇ。け、刑務所の看守の野郎のことだ。今、やつのことを思い出したんだ。頭に来る野郎でよぉ。なっ、な、俺が彩さんのことを悪く言う訳ねぇだろう」

黒部の耳元に、また、彩のセクシーな声がする。
「本当に私じゃないのね。良かった。武さんに嫌われたかと思っちゃったわ」

彩の言葉で、黒部の心が躍る。
彩の姿を求めて、周りをキョロキョロと見渡すが、どこにもその姿が見えない。それなのに、彼女の声が耳元でする。それが不思議だった。
「なぁ、耳元で、彩さんの声がするんだけど、今、どこにいるんだ?」

彩は、小箱を見下ろし、両足の指先でそっと小箱に触れ、笑みを口元に浮かべながら声を出す。
「私は、武さんのすぐ近くにいるわ。でも、どうしてかしらね。私の耳元にも武さんの声がするのよ。きっと、お互いの心が通じ合っているのかもね」

黒部はそんなことはないだろうと思いながらも、彩からそう言われて悪い気はしなかった。
つい柄にもなく、「やっぱな、俺もそう思ったんだ。きっと、神様がそうしてくれたんだろうなぁ」とロマンチックな言葉を発した。

彩は、その黒部の言葉で噴出しそうになった。
“神様ねぇ・・・、違うのよ。私がそうしたのよ“
と思いながらも、笑いを抑えて、話を続けた。
「武さんって、素敵なこと言うのね。でも、武さん、そうしてくれた神様を良く拝んだ方が良いわよ」

黒部は楽しくなる。女性とこんな会話をしたのは初めてだった。
顔を撫でながら、“きっと、整形手術がうまくいって、彼女好みの顔になったんだろうなぁ”と思えてくる。だが、部屋には鏡がないので、その出来具合は分からない。
「なぁ、俺の整形はうまくいったのか?彩さんの好みの男になったのか?」

彩は、一瞬、黒部が言っていることが分からなかった。
“整形? ああそうかぁ、そう言えば、そんなことを言ったかなぁ”
彩は、チャンバーから出てきた時の黒部の姿を思い出した。その気になれば、指先で簡単に潰せるような、虫の様にとても小さな身体だった。
それを思い出しながら、言葉にする。
「そうよ。食べてしまいたいくらい、かわいい武さんになったのよ」

黒部はその言葉で有頂天になる。
“やっぱ、この女は、俺のことが満更でもねぇって思ってんだ”
そして、この女を“彩”と呼び捨てにした方が良いような気がしてきた。
“きっと、呼び捨てにされると、もっと、男らしい俺に、惚れてくるだろうな”と思いながら、できるだけ渋く声を出した。
「彩、お前は最高な女だ。お前を抱きてぇ!」

彩は、黒部のセリフで笑い出してしまった。
“抱くって、私のどこを抱くつもり? その身体は小さすぎて、私の小指にだって手が廻しきれないのよ”
小指に必死にしがみつく、虫のように小さなもののイメージが笑いを誘う。

笑い続ける彩のヘッドファンに、ちょっと僻んでいる様な黒部の声が聞こえてきた。
「おい、何が可笑しいんだよ」
彩は、笑いを抑えながら、返事をする。
「ウッフフ、ごめんね。武さんに抱かれることを想像したら、楽しくなっちゃったの。でも、私の身体は大きいのよ。大丈夫なのかしら?」

黒部は、この会話は、この前の夜と同じだと思った。
確かに彩は大きい。黒部から見ても見上げる身長があった。
だが、黒部は体力に自身がある。彩を満足させるつもりでいた。

「彩、俺をだれだと思っているんだ。必ず、お前を満足させてやるから心配するな!」
黒部は、自分ながら格好良いセリフで決めたと思いながら、立ち上がる。

その黒部の耳元に、甘える様な言葉が聞こえてくる。
「ねぇ、小さな武さん、私の大きな身体を、ちゃんと満足させてね。ウフッ、お・ね・が・い・」

黒部は、彼女が自分の恋人になったことを実感する。そして、「なぁ、彩、約束する。必ず、お前を満足させてやる!」と強い調子で言い放った。

黒部は壁際に立ち、その壁を見る。その向こう側に彩はいると確信をする。
だが、そこに行けるドアはない。
拳骨でその壁を叩き、感触から、厚めのプラスチックでできている壁と分かった。

「彩、待ってろ、今、そっちに行くから」
手に持っているナイフを思いっきり壁に突き立ててみる。だが、壁は少し傷が付いただけでビクともしない。
さらにナイフを何度も突き立てる。壁の浅い傷が増えていくが、壁自体が破れる素振りもなかった。

彩のヘッドファンに、黒部の頭部に仕掛けたマイクを通して、ガツガツという音が聞こえていた。
「ねぇ、武さん、何をしているの?」

「彩に会うために壁を壊しているんだ。だがよ、丈夫な壁だ。ビクともしねぇ」

彩は、それを聞き、口元に笑みを浮かべ、黒いストッキングに包まれた片足を上げ、小箱の上に翳す。

“そう・・・丈夫な壁・・・ねぇ・・・”
薄いプラスチックの小箱。体重をかけなくても、足を置いただけでパキンと割れて、中の黒部ごとペシャンコになりそうだった。

その小箱の上に足を浮かしたまま、笑いながら言葉を出す。
「ウッフフ、やだ、武さん、乱暴なことは止めてね。もうすぐ会えるから待っていてよ」


黒部がいる部屋の中が急に暗くなった。見上げると、半透明の天井全体が一面、黒色に変わっていた。
天井の向こう側で、何か大きな黒い物が光を遮っているみたいだった。
「彩、暗くなった。一体、ここはどうなっているんだ?」

彩は、小箱の上に浮かせている、黒いストッキングに包まれた足を見下ろし、黒部に聞こえない様に小さくクスッと笑う。
“私の足が、光を遮っているのよ”
茶目っ気が沸き、黒部に、少し真実を伝えたくなる。
「あ、ごめんね。私の足が邪魔だったわね。今、退かせてあげる」
と、口元で笑いながら、足をカーペットの上に戻す。

再び、部屋に明るさが戻った。
だが、黒部は、彩の言ったことが理解できなかった。
“足が邪魔って、何のことだ? どうして、彩が足を退かせると、部屋が明るくなるんだ?”
おまけに厚いプラスチックでできているドアのない部屋。不思議なことだらけ。
“一体全体・・・何がどうなっているんだ・・・”

彩のヘッドフォンから黒部の言葉が途絶えた。
“きっと不安な気持ちで悩んでいるのよねぇ”
可笑しかった。その笑いを抑えていると、ヘッドフォンから、怖ず怖ずとした黒部の声が聞こえてきた。
「あ、彩、足を退かせるって・・」
案の定、彩の言っていたことについて聞いてきた。
それが、余計に可笑しくなる。笑いが噴出しそうになってくる。
“だめ、堪えられない”
咄嗟に、足のつま先で黒部が入っている小箱を小突き、笑いを「プッ」と噴出す。
直後、ヘッドフォンから「あっわわわ!」と黒部の驚きの声がする。
一旦、噴出した後は、笑いを堪えられると思っていたが、今の黒部の声がさらに笑いを誘ってしまった。
“可笑しすぎる。もうだめ”
大笑いしてしまいそうだった。それを我慢して「武さん!地震よ!」と声をかけ、急いでマイク付きのヘッドフォンを外し、堪えていた笑いをドッと出した。でも、マイクからでもなくても、笑い声は黒部に伝わってしまう。笑い出したのと同時に、その笑いを黒部が感じ取れない様に、左右のつま先で代わる代わる小箱を小突始めた。

突然、壁からドンと大きな衝撃音がして、部屋が横に飛ばされる様に揺れた。
黒部は何が起きているのか分からいまま、「あっわわわ!」と言葉にならない驚きの声を発し、壁に激突する。
すぐさま、彩の「武さん!地震よ!」との声が聞こえたが、返事をする間も、痛みを感じる暇もなく、次の衝撃によって、反対側の壁に弾かれる。
音を立てて左右に揺れる部屋の中で、次々に襲い掛かる衝撃に、黒部はなす術もなく壁への激突を繰り返していた。

彩の笑いは収まらなかった。両足のつま先で小突いている小箱の中で、黒部がジタバタしていると思うと、余計に笑いが込み上げてしまう。
どうせ、黒部は、彩が笑っていることを感じ取れる状態ではない。この際だから、スッキリとするまで笑ってしまおうと思った。

永遠に続くかと思った揺れが、唐突に収まった。
黒部は、床に転がったまま、次の揺れに備えて、まだ身体を強張らせている。
口の中に違和感があった。ペッと唾液ごと吐くと、折れた歯と血の塊が出てきた。

彩は、“お蔭で、スッキリできたわ”と思いながら、ヘッドフォンを頭につける。
でも、まだ、黒部とアソビは始まったばかり、黒部に大きな怪我をしてもらいたくはなかった。

床に蹲る、黒部の耳元に、彩の心配そうな声がした。
「大きな地震だったわよねぇ。武さん、大丈夫だった?武さんに何かあると・・・私・・・」

黒部の身体は、あちこちが痛かった。でも、彩の声で奮い立ち、痛む身体で無理に立ち上がる。
「ばかやろう、彩に心配はかけないぜ。俺は大丈夫に決まってんだろう。それより彩はどうなんだ。怪我をしてねぇか?」
黒部は、彩には、そう強がりを言ったが、実際には身体中に痛みがあり、それに骨折が心配だった。
痛みを我慢し、手足を屈伸して様子をみる。
“大丈夫だ。捻挫も骨折もねぇな”

だが、黒部は、この揺れは、彩の言った様な地震の揺れとは思えなかった。壁の向こう側から何か大きなものがぶつかって来たことを感じていた。だが、それを言っても、彩に笑われるだけと思って口にはできなかった。

彩は、小箱を見下ろし、
“良かった。ここで怪我をされると、後の楽しみが減っちゃうものね”と口元で笑いながら、
「ううん、いいの。武さん、私のことは心配しないで。私は身体が大きいから大丈夫よ。それよりも、武さんに怪我がなかったことが嬉しいわ」
と、優しい声で話しかけた。

黒部の気持ちが明るくなる。身体の痛みはどうでも良くなる。
自分をそこまで心配してくれる彩が、愛おしくて堪らなかった。
“彩に会いてぇ。俺のことを心配してくれる彩を、思いっきり抱き締めてやりてぇ”
その思いでいっぱいになる。
黒部の男根は、目一杯の勃起をし、先端から我慢汁が滴り始めた。
早く、彩の身体に触れたかった。

「なぁ、彩、早く会おうぜ。どうやったら、彩の所に行けるんだ?もう、待てねぇよ」

「もうすぐよ、武さん、女には準備が必要なのよ。分かって」

「何だ、準備って?」

「武さんに会う前に、お風呂だって入りたいし・・・」

「じゃあ、一緒に入ろうぜ」

「だめよ、恥ずかしいでしょ。ちょっと待っていてよ」

「だめだ。もう待てねぇ」

「じゃあ、シャワーだけ。ねぇ、それなら良いでしょ」

「シャワーもだめだ」

「だって、今日は、武さんを迎えに外にも出たし、身体が汚いのよ。武さんに会う前にキレイにしたいの」

黒部の声が興奮で震える。
「えへへ、お、俺が、彩の汚れ、ぜ、全部舐め取ってやるよ」

彩は、笑い出してしまう。
「ウッフフ、そうなの? 私の汚い所を全部舐めてくれるの? そう言えば、この前もそんなことを言っていたわよねぇ」

「そうだ。オマンコだって、尻の穴だって、奥のさらにずっと奥の方まで舐め回してやるって約束をしただろう」

「そうねぇ・・・、武さんが汚くて良いと言うのなら、この身体をこのまま舐めてもらおうかしら」
彩は、話しながら、思った通りのことを黒部が言うので、可笑しかった。
初めから、黒部を相手に身体をキレイにするつもりもなかったが、全てのことを黒部の因果応報にしてしまいたかった。

黒部は、彩との会話に興奮し、男根を擦り始めていた。もうすぐ、彩の身体を味わえると思うと、我慢ができなかった。
「彩、なっ、全部舐めてやるから、早く頼むよ」

「でも・・・」

「何だ?他にもあんのかよ」

「トイレだって行きたいし・・・」

「小便か?彩の小便だったら、俺が全部飲んでやる! だから、なっ、トイレなんて行くな!」

彩は、SMクラブで女王様として君臨していた過去を持つ。当時、“聖水”を求める奴隷達に自分の排出物を与えていたので、黒部にそれを飲ませることには抵抗はない。
だが、黒部が入っている小箱を見下ろす顔に冷笑が浮かんでしまう。

“ねぇ、その身体で全部を飲めるのかしら。今いる箱だって、簡単に満たしてしまうのよ”
「ウッフフ、武さん、無理だと思うわ。量が多そうだもの」

「構わねぇ、ぜってぇ全部飲むから、俺の口の中に出してくれ。彩の小便を飲みてぇんだ」

彩は、数ミリしかない黒部の口を思い浮かべ、「プッ」と噴出してしまう。
“無理よ。その小さな口にどうやって出せば良いのよ”
笑いが収まらない。

黒部はムッとして、その笑いを遮るように、「惚れた女の小便を飲みてぇのが、そんなに可笑しいのか!」と怒鳴る。

彩は、笑いを抑えながら話す。
「フフッ、ごめんね。そう言う意味で笑ったんじゃないのよ。じゃあ、武さんに飲んでもらうことにするから、その時は全部飲めるようにがんばってね」

彩は、さらに、続けて話す。
「でも、武さん、本当にもうちょっとだけ待って、これから服を脱ぐから」

彩のその言葉で、黒部は“俺が、服を脱がしてやりてぇ”と思う。
一枚一枚、彩の服を脱がしてやることを思い浮かべ、それに興奮し、男根を擦る手の動きが早くなってしまう。
「ヘッヘ、彩、俺が服を脱がせてやる。なっ、やってやるから」

彩は、黒部の言ったことを少し考え、3センチしかない男に脱がすのを手伝わせるのは、流石に無理だと思ったが、黒部に見せつけながら服を脱ぐ、それは悪くない気になってきた。
「私の身体はすごく大きいのよ。小さな武さんには手が届かないと思うわ。でも、脱ぐところは見せて、あ・げ・る・」と、悪戯っぽく話す。

黒部は、その彩の喋り方に女の可愛さを感じ、堪らなくなった。
“やっぱ、早く会いてぇ、早くやりてぇ”
彩が言っている言葉の中身はどうでも良かった。人に服を脱がしてもらうのが嫌なんで、そんなことを言っている程度にしか思わなかった。そんなことより、早く会いたくて堪らなくなっていた。
「彩、見せてくれるだけでオッケーだ。それより、早く会いてぇ!」

彩はちょっと笑い、「ウッフフ、武さん、もう会えるわよ」と足元の小箱に話しかけ、ベッドに下ろしていた腰を持ち上げ、すっと立ち上がる。
足元を見下ろすと、両足の間にある小箱が服を脱ぐのに邪魔な感じがした。
そこで、箱から黒部を出すと、服を脱ぐ途中で、踏み潰してしまいそうだった。
でも、そんな一瞬のことで黒部を殺すことを望んでいない。
時間をかけて黒部を翻弄し、泣き叫ぶ苦しみの中でその命を絶っていきたかった。
彩は、小箱をカーペットから拾い上げて、横にあるドレッサーテーブルの上に置くことにした。

黒部は、もうすぐ彩に会える、もうすぐ彼女とセックスができると、その嬉しさのあまり、「グッフフ」と笑い出してしまう。
だが、黒部は短小で、しかも早漏であり、それを自覚している。
男根の小ささはしょうがないとしても、早漏に関しては、ここで一回抜いておけば、彩とのセックスでは少しは長持ちすると思えた。

彩の裸を思い浮かべながら、立ったまま、左手にナイフを持ち、右手で勃起しても7センチの男根を擦り続ける。
黒部は、うっとりとナイフの鋭い刃を見る。薄暗い中で光るナイフの刃が、黒部本来の性癖を浮かび上がらせる。
“でかいオッパイをしゃぶって、オマンコを舐めて、尻の穴に舌をねじ入れて、でっよぉ、ナイフで彩を脅してやる。脅しながら、あの女の気持ち良いことをしてやる。あいつをよがり狂わせてやる。俺から離れられなくしてやる”
そう思いながら、黒部は、時々「グッフフ」と笑い声をあげ、男根を擦り続ける。

彩は、身を屈めて、小箱をカーペットからそっと持ち上げ、顔の近くに持ってくる。
“小さな箱に入っている、小さな男。何をしても構わない、私のおもちゃ・・・”
彩は、口元に笑みを浮かべる。

箱の上蓋は、半透明のプラスチックでできていて、そこから、中にいる小さな黒部の姿がうっすらと見える。
目を細めて、黒部の様子を伺うと、思わず噴出しそうになった。
“えっ、オナニーしてる! もうすぐ会えるのに、我慢できないの?”
その笑いを抑えながら、横にあるテーブルの上に小箱を静かに置いた。

彩が小箱を持ち上げた時、黒部がいる部屋全体に、上方向に動くような加速度がかかった。
その動きで、黒部は、自分のいる部屋がエレベータだったと合点し、彩に会うために、そのエレベータが動き出したと思えた。
次にエレベータが止まった時が彩との対面になる。それまでに一回抜いておかなければと、集中するために目をつぶり、男根を擦る手の動きを早くした。

だが、それが済む前に、床に軽いショックがあって、部屋の動きが止まってしまった。
黒部は焦る。
“いつもは、すぐ出るのによぉ、やべぇ、まだ、出てねぇ”
早く出そう、早く出そうとの思いが逆にブレーキになり、まだ終わらなかった。
黒部は、ナイフで脅され、涙を流しながらチンコをしゃぶる彩の姿を思い浮かべ、ひたすら男根を擦り続けた。

彩はテーブルの前にしゃがみ、さらに、テーブルの上に顎を乗せる。その顔のすぐ前に、黒部が入っている小箱がある。
“さぁ、オナニー好きの武さん、お待ち遠様。ご対面の時間よ”
込み上げる笑いを抑えて、小箱の上に片手を持っていく。
半透明の上蓋を持ち上げれば、四方の壁が外側に倒れる構造になっていて、黒部との対面となる。
その上蓋を掴みながら、その瞬間の黒部の驚きを想像し、気持ちがワクワクしてくる。

黒部は、必死に男根を擦り続けている。
“もうすぐ出る! もう出る!”
その時、部屋が揺れ、天井がミシミシと音を立て始めた。
黒部の耳にもその音は当然入る。だが、今は、このまま出すのが先だ。
目をつぶったまま、辱めを受けていく彩の裸体を思い描き、さらに男根を擦り続ける。

「はい!ご対面!」
彩は上蓋を持ち上げる。小箱の壁が四方に倒れる。
その真中に、男根を擦り続ける3センチの黒部が立っていた。
“可笑しい!可笑しすぎる!”
目の前の間抜けな姿を見て、止めようもない笑いが込み上げる。
小さな黒部を吹き飛ばさないようにすぐさま横を向き、彩は思いっきり噴出してしまった。

黒部のいる部屋の四方の壁が外側に向かって、大きな音を立てて倒れた。
黒部はハッとする。だが、射精寸前の手の動きは止まらない。
慌てて開けた目に、周囲の明るい光が飛び込んでくる。その瞬間、黒部は、彩に会うために、エレベータが開いたと思った。
“彩に会える!”
黒部は、慌てて男根を擦る手の動きを止め、光でショボショボした目で、彩の姿を探す。
“彩! 彩! 彩!”
だが、彼女の姿は見当たらない。代わりに、目に入ったものは、異様な広がりをみせている周りの風景と、目の前にある得体の知れない巨大なものだった。
その巨大なものが、いきなり、黒部の見ている前で、風を巻き起こしながら動いた。同時に、耳元から彩の笑い声が聞こえてくる。
黒部は、目の前の大きなものの動きに驚いたが、それよりも、彩の笑い声が気になった。
「 彩! どこにいるんだ?」
彩の姿を追い求める。

横を向き笑っている彩の耳に、彩を捜し求める黒部の声が聞こえた。
彩は笑いを抑えながら、黒部の方に顔を戻し、話す息で黒部を吹き飛ばさない様に、若干顔を上に向けて黒部に声をかけた。
「ウッフフ、武さん、お待ち遠様、やっと会えたわね」

黒部の前にある巨大なものが再び動いた。そして、正面の見上げた位置に、大きく濡れたように赤いものが現れた。それを見た瞬間、黒部には禍々しいものに思えた。
さらに、黒部の前で、その赤いものが艶めかしく動く。その中に黒部が楽に入っていけそうな洞窟と、透き通るように白く大きなブロックを覗かせ、直後、空気と“音”の急激な排出を行った。

黒部の周りに気流が巻き起こり、さらに“音”の振動で身体がビリビリと震える。
思わず首をすくませる黒部の耳元に、同時に彩の声がしていた。
そして、その声と、目の前の大きく赤いものの動きが致していたことに気がついた。だが、考えが乱れたままで、その意味まで認識できなかった。

黒部は、辺りの気流に声が飲まれないように大声を出す。
「彩! どこ、どこにいるんだ!?」

彩は、笑ってしまいそうだった。
“だから、ここにいるわよ”と思いながら、顔のすぐ前にいる黒部を見下ろし、また、先ほどと同じように声をかける。
「フッフフ、小さな武さん。私はここにいるわよ」

黒部の耳に彩の声が聞こえた。
“ここにいる?”
それに、今の声と、大きな赤いものの動きが、また一致していた。
黒部の呆然としている頭の中に、不思議な認識が生まれる。
“・・大きな・・赤いものは・・・彩の口・・?”
驚きのあまり、視線がそこに釘付けになる。
それは、桁違いに大きいが、赤いルージュで染まっている女性の口だった。

彩は、顎の前にいる黒部が、自分の口を見上げているのに気付いた。その小さな目に入るように、セクシーに上唇を舐めてから声を出す。
「ウフッ、食べてしまいたいくらい可愛い武さん、私はここよ」

彩の唇を見詰める黒部は、はっきり理解した。瞬間的に、身体の血の気が引いていく。
「彩・・・」
見上げる位置にある赤いものは、彼女の唇だった。
黒部は、さらに、その上に続くものを想像する。そこには、同じスケールで、少し高めで形の良い鼻があり、その上に魅惑的な瞳が自分を見下ろしている光景が頭の中に浮かんでくる。
だが、そこを見上げ、それを確認することができなかった。顔は下を向き、視線は床をさ迷っていた。
黒部は、目の前にある現実、彩の巨大さを、心の中で認めることを拒否していた。

さらに、床を漠然と見ていた黒部は、自分の周りが影になっていることに気付く。
“うっ?”と思い、目の前にある“彩の巨大な顔”を見ないようにして、真直ぐに上を見上げる。
頭上に、今まで黒部がいた部屋の天井が浮かび、それが影を落としていた。
だが、天井だけが浮く訳はない。その周りを取り囲んでいるものがあった。

黒部の頭の中は錯乱していた。
数回の瞬きの後、それが何かを理解した。
天井が、巨大な掌の中にすっぽりと収まっていた。

目の前には“彩の顔”、頭上には“天井を掴む彩の手”。
彩の巨大さを思い知らされる。その巨大な存在が心を占めていく。

黒部が見上げる中、黒いマニキュアをした指が天井部分を弾いた。
すぐ後ろにそれが落ち、大きな衝撃と音が黒部の身体を揺さぶった。
次々に沸き起こる出来事に驚愕し、黒部の膝がガタガタと震えてくる。

赤い唇が艶かしく動き、彩の笑い声が、気流とともに響き渡ってくる。

突然、目の前の“彩の顔”が、空気をかき混ぜながら、上昇を始めた。
同時に、黒部が立つ床の向こう側から、彩の巨大な身体が迫り上がる。

黒部は、天に向かって急速に聳えていく“彩”に、なす術もなかった。
左手で持つナイフ、その柄を手が真白になるまで強く握り締めていた。

彩は、些細なことでビクつく黒部が可笑しかった。
箱の蓋を持つ手を、黒部が見上げているのに気付き、態とぞんざいにそれを黒部の後ろに落とした。その瞬間の黒部のビクつき様は、やはり可笑しい。笑いが出てしまう。
もっと、黒部をビクつかせたくなった。“そうねぇ、私の大きさを見せてあげようかなぁ”
ゆっくりと、自分の身体の大きさを誇示するように立ち上がった。

膝よりも少し上ぐらいにある、低いテーブルに乗る黒部。
それを、立ち上がった位置から見下ろす。
“どう、小さな武さん、私の大きさを分かってくれたかしら”

膝の震えが全身に移り、黒部は、立っていることさえやっとの状態だった。
その黒部の耳に、彩の囁き声が聞こえる。
「フフッ、私のことが分かったんでしょ?どうなの?武さん、返事してよ」

黒部は、彼女の声に導かれたように、目の前に聳えるものに視線を沿わせていく。
遥かに高い所で、彼女が着ているブラウスが、豊かな胸を誇示するように前方に膨らんでいた。

その膨らみの向こう側に、彩の顔が見える。
あの夜、鉄格子越しに見た顔と同じだった。
見下ろしている、魅惑的な瞳が笑っている。

だが、目の前の彩は絶望的な巨大さだった。
黒部は息もできずに、彼女を見上げ続ける。

「あ、あ、あ、や、彩、彩さん・・彩さん」
既に萎えてしまった男根を握り締め、呆然としながらも、彼女の名前が口から出てくる。
巨大な女神の様な彼女への畏れで、黒部は彼女の名前を呼び捨てにできなくなっていた。



第十章:黒部の恐怖

彩は、テーブルの上の黒部を見下ろす。
3センチしかない身体は本当に小さい。特に上から見下ろすと、見える部分が小さい分、より小さく見える。
“本当、小さな虫みたいだわ”
少し腰を屈めて身体を前に乗り出すと、顔の真下に黒部がくる。さらに、目を細めると、ようやく小さな顔の判別がつく。どうやら、その小さな顔が、彩の顔を見上げているようだった。

ヘッドフォンからは、彩の名前を繰り返えす黒部の声がしていた。
「・・・あ、彩さん、彩さん、ど、どうして、そ、そんなに・・・」

彩は、テーブルの黒部を真直ぐに見下ろしながら話す。
「あら、武さん、どうして私がそんなに大きいのかって聞きたいのかしら。
 でも、残念ね、武さん。私が大きいんじゃないのよ。武さんがおちびさんなのよ。
武さんが前に“3センチが良いんだ”って言ったでしょ。だからそうしてあげたの。
 どう?そのサイズ、気に入って頂けたかしら。お・ち・び・な・武さん。ウッフフフ」

黒部は、真上から見下ろす彩の顔から目を離せないまま、その話に呆然とし、痴呆けた様にボソボソと言葉を出した。
「俺が小さい・・・?3センチ・・・? 何で、何でなんだ」

彩はクスッと笑うと、黒部に話しかける。
「武さんをねぇ、刑務所からもらって、私のおもちゃにするために縮めたのよ」

彩は、黒部を縮めた本当の理由、舞のことは話さなかった。それを話すと、今やっていることが、舞の嫌がる復讐になってしまいそうな気がしていた。

黒部は、彩の顔から目が話せないまま、後ろに後ずさり始める。
「お、俺を、ど、どうしようって言うんだ。た、頼む。彩さん、助けてくれ。元に戻してくれ!」

小さな黒部は怯え始めていた。また、怯える仕草が面白かった。彩は、その黒部をもっと怯えさせたくなってくる。
「おちびな武さんは、私のおもちゃって言ったでしょ。だ・か・ら、ウフ、厭きたら壊すわ。それにもう元には戻せないの。死ぬまで3センチのままなのよ」

後ずさっていた黒部は、後ろにある、以前は部屋の天井だったプラスチックの板に躓き、しりもちを着く。だが、その尻の痛みよりも、彩の言ったことがショックだった。
「お、俺は、縮んだままなのか? そ、それに、壊すって? お、お、俺を、こ、殺すのか?」

彩は、しりもちを着いた黒部に微笑みかける。
「ウッフフ、つまらないおもちゃだったら要らないでしょ。こうやって、壊してあげるわ」
話しながら、黒部の頭上に両手を持っていき、小さなものを引き裂く仕草をする。
さらに、黒部を見下ろしながら、両手をテーブルの両サイドに着き、上体を曲げて顔を下げる。
彩の顔のすぐ下、話す息がかかるところに、黒部がいる。
彩は、その小さな顔を見る。怯える表情が笑いを誘ってくる。
「フッフフ、それとも、踏み潰してもらいたい?」

彩は、話しながら、黒部を見詰める。小さな生き物は、怯えた表情のまま固まってしまったように、顔を上げている。
“怖いのよね、私のことが、怖いんでしょ”
笑いが高まりそうになってくる。その笑いを抑え、さらに顔を下げる。

黒部は、どんどん近づいてくる彩の顔に怯え、思わず下を向く。

彩の赤いルージュで染まる唇、それが黒部に触れそうになる。
彩は、そのまま口を開け、熱い吐息を黒部にかけながら、セクシーに話す。
「ねぇ、武さん、どんな最後が良いのかしら? それとも・・・このまま食べちゃおうかなぁ」

彩は、怯える黒部の気持ちを想像し、堪えきれない笑いが溢れてくる。
それに耐え切れず、顔を黒部から離し、上体を上げて大きく笑う。

黒部の耳に、その笑い声が響く。
さらに彩のテーブルに着いている両手から、その笑い声が振動としてテーブル面に伝わり、黒部の身体を震わせる。
黒部の心を占拠し始めた恐怖は、徐々に深まっていく。

笑いが収まった彩は、黒部を見下ろし、話を続ける。
「ねぇ、武さん、どうせ死刑で死ぬ運命だったんでしょ。それより、ほら、目の前に武さんの憧れの“女”がいるのよ。壊されたくなかったら、おもちゃとしてがんばってみたら」

彩は、左手でスカートをめくり、白い肌をセクシーに包んでいる黒のレース模様のパンティと、ストッキングのガーター部分を、黒部の目の前にさらけ出す。
さらに、足を広き、低いテーブル面に太ももの付け根を押し付け、恥骨をテーブルの上に押し出す様に乗せる。テーブルの若干丸みを帯びた縁に、クリトリスが擦れる。

黒部がいるテーブル面に、彩のパンティが乗ってくる。テーブルが揺れ、軋む音が響く。
しりもちを着いたままの黒部は、驚愕の表情で、黒いレース部分で覆われた恥骨の膨らみが、床を揺らしながら迫ってくるのを見る。
慌てて逃げようとするが、身体が固まったまま動かない。
言葉にならない声が出る。「あっ、あっ、あっ、あっ」
咄嗟に、自分がそこで潰される姿が頭に浮かび、目を固く閉じる。

唐突にその揺れが収まる。
目を閉じ、息を止めたままの黒部の耳元に、彩のセクシーな声が囁きかける。
「ウッフフ、どう、武さん、ここにキスをしてオナニーをしたいんじゃないの?」

彩の言葉に誘われるように、黒部は、そっと目を開ける。
10メートルも離れていないところに、レース越しに陰毛の翳りを覗かせる恥骨のふくらみが、迫るように留まっていた。

あの夜、鉄格子越しに見た、彩のパンティの恥骨部分のふくらみ。そこは、舐めまわしたくて堪らない場所だった。それが、今、黒部の前にさらけ出されている。
だが、黒部は、見上げるようなそのふくらみ部分の大きさに圧倒され、近づくことはおろか、そこを正視することもできなかった。

“彩の身体で潰される・・・”
今や、彼女の身体は、自分を簡単に押し潰す存在に変わっていたのだった。

黒部は、相変わらず、縮こまった男根を右手で抑え、左手でナイフを握っている。
黒部の泳いでいる視線が、左手のナイフに向く。20センチ以上ある頑丈な刃が鈍く光っている。
それは、彩を自分の思い通りの女にするために、彼女を脅す物だった。だが、ずっしりと重いそのナイフも、今の彼女にしてみれば爪の先程の大きさもなかった。
黒部の目に映るそのナイフが滲んで見えてくる。

黒部が嗚咽を漏らし始める。
子供の頃から、喧嘩が強いだけで良い事がなかった。
強がりだけで生きてきた。それ以外は何もなかった。
大人になって、夢もなくなり、人も殺してしまった。
そして、死刑。刑務所で刑の執行を待つだけだった。

彩に会えた。人生が変われるかも知れないと思えた。
彩を自分の思い通りの女にすると、悪ぶっていたが、
心の一番奥では、違っていた。温かみを求めていた。
だが、彩は、温かみを求めるには余にも美し過ぎた。
だから、無理だと思った。でも、心の底では・・・・
大工でもして金を稼いで、彩と所帯を持って・・・・最後の夢・・・だった。

彩は、嗚咽を漏らす黒部を冷たく見下ろす。
“そうやって、舞ちゃんも泣いていたんでしょ・・・痛くて、怖くて泣いていたはずよ”
その時の舞のことが頭に浮かび、感情が高ぶってくる。その感情のまま、テーブルの上で座り込んでいる黒部を叩き潰したくなり、拳を固め、その手を持ち上げる。

だが、その瞬間、舞の声が頭の片隅から聞こえてくる。
「彩先輩、復讐はだめ。舞は、彩先輩に楽しんで欲しいの・・・」
彩の振り上げた手の動きが止まる。そして、握っていた拳を開く。
だが、彩の感情の高ぶりは消しきれない。その手の平で、黒部の近くのテーブル面を“バン!”と叩き、黒部に強い調子で言い放った。
「ほら、グズグズしない!おもちゃの役目は私を楽しませることでしょ!できないんだったら、直ぐに叩き潰すわよ!」

彩がテーブルを叩いたことで、テーブル面に衝撃が奔り、同時に突風が巻き起こる。
黒部の身体は、その衝撃に弾き飛ばされ横倒しになる。慌てて身体を丸めて蹲る。まだ残る振動で身体が震える。
だが、それにも増して黒部に衝撃を与えたのは、彩の怒りを含んだ言葉だった。
そこにはほんの少しの温かみもなかった。
“俺はおもちゃでしかない・・”
全ての希望は絶たれ、全ての出来事が恐怖に変わる。

黒部は、蹲ったまま、顔を下に向け、目を固く閉じて自分の殻に閉じこもってしまう。
だが、黒部に自分の世界に留まることを、彩は許さなかった。

黒部の意識が、わき腹の鈍痛で引き戻される。そこに硬いものが押し付けられていた。
心の中に恐怖が膨らんでいる。そこを押し付けているものを見ることができない。

彩のクスクス笑いが耳元で聞こえる。
さらに、その硬いものがわき腹に食い込んでくる。
黒部は、あまりの痛さに「ヒッ!」と悲鳴をあげ、思わず目を開け、顔をそこに向けてしまった。直後、目に、艶のある黒いものが映る。でも、それが何なのか咄嗟には分からなかった。

黒部は、その先に視線を移す。その顔が驚きの表情に変わる。
それは、彩の右手の人差し指だった。指だけで、黒部にとっては見上げる大きさがあり、それが斜め上から、黒部の身体に伸び、黒くマニキュアされた爪がわき腹を押していたのだ。

黒部は、「うっわわ!」と言葉にならない声を漏らし、彩の指から逃げる様に、蹲った状態から横飛びする。

その黒部の慌てる様が可笑しく、彩は大声で笑い出す。
「あっははは・・・ほら、おちびちゃん、こっちに来たいんでしょ」
彩は、笑いを続けながら、指で黒部を、黒いパンティに向けて押し出していく。

黒部は立ち上がり、迫ってくる彩の爪に、奇声を発しながらナイフを繰り出す。
だが、爪に弾かれ、黒部から少し離れた位置にナイフが転がってしまう。

黒部の心の拠り所のナイフ。巨大な彩に敵わないまでも、彼女から身を守る唯一のもの。
すぐさま、それを拾い上げようとした。だが、その動きは彩の指に阻止され、否応なく背中を押され、彩のパンティに身体を向けられる。
黒部の視界は直前にある、パンティの色、黒一色になる。
レースに包まれた恥骨の膨らみ。そこに、陰毛の翳りがはっきりと見えてくる。

黒部があんなに憧れていた場所は、今や、恐怖を呼び起こす場所でしかなかった。
黒部は怯えた表情をし、嫌々をするように、頭を繰り返し横に振り始める。だが、その意思を無視するように背中が押され、そこに少しずつ近づけられていく。
「む、無理だ・・・あ、彩さん・・・俺には、む、む、無理!無理!無理!・・・」

黒部の様子を上から見下ろす彩は、可笑しくてしょうがない。
わざとゆっくりと、黒部を逃がさない様に注意して、パンティに近づけていく。

「無理!無理!無・・・」
黒部は、パンティに押し付けられる。咽るような香水と女の肌の匂いに包まれた直後、後頭部から腰にかけて、彩の一本の指でぐりぐりと押され、身動きできなくなり、さらに、か細い気管は空気を通すことができなくなる。

彩の耳に、黒部のぜいぜいとした息遣いが聞こえる。
黒部の苦しみが感じられる。それが、彩の口元に笑みを生む。その笑いを浮かべたまま、さらに黒部を迎える様に腰を前に迫り出す。テーブルの縁でクリトリスが擦れ、身体の中心に向かって快感が奔る。痺れるような感情と感覚。その一致で吐息が漏れそうになる。

でも、このまま快感を求めると、黒部をすぐに恥骨で押し潰してしまいそうだった。
まだまだ、この小さな身体で遊びたい。
もっともっと黒部を苦しめて、もっともっと快感を得たい。

彩は、何かを思い出した表情をして、視線を、ベッドのサイドボードに乗っているハンドバッグに移す。その中には、とても楽しい物が入っている。彩は、それを使う気になった。

腰を艶かしくゆっくりと動かし、パンティに覆われているクリトリスをテーブルの縁に擦りつける。そのクリトリスのすぐ上で、恥骨に押し付けられてもがく黒部。それを見下ろしてから、視線をもう一度ハンドバッグに移し、彩は、口元に妖しい笑みを浮かべる。

そして、股間に押し付けている小さな生き物に声をかける。
「もっともっと楽しませてもらうわね。そう、武さんは・・・ウッフフ、本当のおもちゃになるのよ」


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