《 ユイさん 》 第4話

             文 だんごろう
             イメージ画像 June Jukes


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ユイは、その姿勢のまま、鏡を見つめる。

彼女の口が微笑む。そこには、淫乱な娼婦の様な自分の姿が映っている。

 

ユイは、乳房を揉みながら鏡の中の自分に話しかける。

「そうよ。あなたはとてもステキ・・・そして・・・

うふ・・・とっても残酷・・・・

良いのよ・・・何をしても・・・綺麗なあなたがすることは何でも許されるの」

その自分の言葉に、快感が湧き上がってくる。

もう、既に研究と称して1万人以上の命を奪っている。さらに、今も1500人の命を奪おうとしている。

そして、これからも、何十万、何百万、何千万と人々の命を奪っていくと思える。

 

自分自身が、人々の上に君臨する魔性の女になった気がしてくる。

それが、彼女の優越感を高め、身体の芯をより熱くする。

 

押し殺した笑い声に、快感の喘ぎが漏れてしまう。

その気持ちのままに、股間の下の者たちに話しかける。

「どう、私の匂い・・・たっぷり嗅いでくれた?

ウッフフ、じゃあ・・・・あなた達を・・私のパンティの染みにしてあげる」

 

抑えようもない歓喜で笑みが浮かぶ。彼らの恐怖を心の中で思い描きながら、その彼らを股間で押し潰すために、また腰を降ろし始める。

下半身がさらに熱くなる。膨れ上がる快感を予期して、両手を腰に回し、その快感に耐えようとする。


でも、腰をそれ以上に下げないまま、ユイは、ふっと息を吐く。

“もったいない・・・

まだ遊び始めたばかり、このまま押し潰してしまうのは早い気がした。

 

ユイは快感を抑えるために一回深呼吸してから、股間の下にいるものたちに声をかけた。

「良いのよ、逃げても。このまま待っていてあげるから、早く逃げたら、どう?」

 

***

 

1500人の島民達。

巨大な彼女が身体を動かす度に、その動きで床が振動し、動くこともできなかった。

だが、たった今、上空から、逃げることを許可する言葉が降ろされた。

彼らは、彼女の陰部を覆っている黒い布地を一瞬見上げ、その巨体の下から逃げ出すべく、彼女の背面側に向かって遮二無二駆け出した。だが、1/2000の縮小率である彼らに取って、頭上の彼女は大きすぎた。走っても走っても、黒い布地に覆われた股間が、彼らの小ささを嘲笑うかの様に頭上に存在し続けていた。

 

神話の中でしかありえない恐怖だった。覚めることがない悪夢だった。

それでも、島民はひたすら走り続けるしかなかった。

 

***

 

貧しくても幸せに暮らしていた人々。それが、軍隊が部落にやって来て、一人残らず船に乗せられ、天を突く巨大な二人の女性がいる場所に連れて来られた。

 

大勢の仲間が死んだ。

それが女性のつま先だとも知らず、迫ってくる巨大なものに為す術もなく潰された。

山の様に大きな水槽の中に落とされ、巨大な赤い魚の餌にさせられた。

さらに、軍隊の銃に脅され、白く家の様に大きな箱に次々に追いやられた。

当初いた、万を越える島民たち。それが、二千名だけになり、草木一本生えていない巨大な岩が、残った島民の生きる場所になった。

 

島の様に大きな岩は水に囲まれ、そこには、彼らを餌としか思っていない巨大な赤い魚が泳いでいた。到底逃げることが叶わない場所だった。

 

生活の糧は、巨大な女性が、その指先から、頭上に撒き入れてくれた。それを食べ、生き続けた。

やがて、島民は、巨大な二人の女性を、人間を超越した存在、神だと思い始め、女神の慈悲の中で生き残ろうとした。そして、女神に祈りを捧げ、今日も生かしてもらえることを感謝する様になった。

 

彼らがここに来てしばらく経った頃だった。

ある時、女神の巨大な手が、島民がいる岩に向かって降りてきた。

島民は、頭上を巨大な手が覆っていくのを恐怖の眼差しで見上げるしかなかった。

その指先が岩に触れた。岩全体がその衝撃で揺れた。そして、裸の男がその指先から降ろされた。

巨人だった。女神の指先よりも遥かに小さな男だったが、島民に取っては巨人だった。

 

巨人は、『神の言葉』を教え始めた。

島民は、生き残るため、巨人から真剣に『神の言葉』を習っていった。やがて彼らは、簡単な『神の言葉』ならば理解できる様になり、女神の名前を知った。

「リエ様」と「ユイ様」。

 

巨人は、“ユイ様”のことがとても好きな様に見受けられた。

彼女のことを見上げ、「ユイさん・・」と声を出し、勃起したものを隠すように岩陰に入っていくことがあった。だが、岩陰に入った所で、至る所に島民がいる。彼の行為は誰かが見ることになる。

巨人は、男根を握り、それを擦り、クライマックスの瞬間、「ユイさん!ユイさん!」と声を上げ、白濁した液を放出する。そして、しばらく、そのまま動かなかった。

島民は見てはならないと思い、巨人が岩陰に入った時は、そこに近づかない様になった。でも、巨人の声は岩陰から聞こえてしまう。クライマックスの時に彼女の名前を叫んだ後、時には、すすり泣く声が漏れてくることもあった。

島民は、巨人も自分達と同じ立場だと思うようになった。

 

巨人は元来が優しい性格らしく、島民に何かを命令することはなかった。

彼の仕事、『神の言葉』を教えることと、生まれてくる赤ん坊と死んでいく人の数を調べること以外は何もしないで、岩肌にポツリとしていることが多かった。

 

赤ん坊は、ここに来た時に妊娠していた女が生んだ以降、生まれることはなかった。島民達の間で性交渉はあるのだが、新たに妊娠することもなく、ここ、女神の国では子作りが厭われていると、島民達は思う様になった。

 

当初、島民達は、南の島に帰ることを切望し、彼らの中で歌が作られ、物悲しい旋律で歌われていた。

 

君、知るや南の島

大きな海、広がる青空

たくさん、泳ぐ魚、飛ぶ鳥

いつの日か、生まれし島に帰らん

 

だが、老人はさらに歳を取って天国に召され、まだ這うこともできなかった赤ん坊は辺りを駆け回るまでになっていき、やがて、誰もその歌を歌わなくなった。

島民は、女神から糧を授けられて生き続け、そして、その歳月は、希望を薄れさせ、生まれ故郷への想いを心の底に沈めていった。

 

島民達は変わっていった。巨大な二人の女性を畏怖し、女神として崇め奉る様になった。

長い夜が明け、朝になれば、また、天を突く巨大な女性が現れる。島民は、その姿を見上げ、膝を着き、「リエサマ!」、「ユイサマ!」と声を上げる様になった。

 

二人の女神は、島民達の新たな宗教、心の支えに変わっていた。

自分達は女神に見守られている。女神のご加護の元、この世界で生き続けると信じ始めていた。

だが、彼らの心の中には、過って、その女神が島民を無残に扱った光景が残っていた。それは、恐怖で震える出来事だった。

 

島民達は、いつ、女神がその残忍さを現すか、とても不安だった。だから、その不安を払拭するために、女神の慈悲が永遠に続くように、心の底から、その巨大な姿に祈りの言葉を捧げ続けた。

 

***

 

1500人の島民達が駆けている。

子は親に抱かれ、夫は妻の手を引き、老いたる者は若者が寄り添って走っていた。

 

巨大な女神が残忍さを現していた。

長い間、恐れていたことがおきた。

 

時々、頭上を覆う、巨大な身体から声が発せられる。

その声で、天が震える、地が振動をする。

それに恐怖を感じる。でも、止まることはできない。ひたすら走り続けしかない。

 

目の前を男の巨人が走り去っていく。彼の足は早い。

 

走り続ける彼らの頭上が明るくなる。後ろを見上げると、女神の巨大なお尻と、めくられたスカートと、その上に聳える背中が見えた。ようやく巨大な身体の下から逃げおおせたのだ。

だが、休むことは許されない。彼らは荒い息のまま、さらに走っていく。

 

***

 

島民達から巨人と見なされている男の名前は、橋本一馬。22歳。

地方出身で、二流私立大学を卒業して、今年から小さな商事会社で働いている。

見た目は小柄で可愛らしい感じ。未成年に間違えられることも多かった。

 

一馬は、思春期になってから、女の子と、一対一で話したことがなかった。気持ちが動転してしまい、うまく話せないのだ。当然、今まで、女の子と付き合ったこともない。

その彼が新しいパソコンを買いに出た時に街角でユイに声をかけられたのだ。

 

「ねぇ、今、ヒマ?」

 

一馬は振り向いた。声をかけてきた彼女は、18歳か、19歳のはち切れんばかりの若い女性だった。今までの人生でこんな綺麗な子を見たことがなかった。話しかけられただけで、ドギマギしてしまった。

 

彼女は、一馬の目を見て、ニッコリと笑った。

「どう?ヒマなの?ひまだったら、付き合ってくれない?」

 

その笑顔に気持ちが吸い込まれた。

心臓が早鐘を打ち、返事をしようとしても、口がうまく動かなかった。

「うっうっあっっ」

自分でも、何を言っているのか分からなかった。

 

一馬は、笑顔を浮かべたままの彼女に腕を取られ、「ウッフフ、ヒマなんでしょ。じゃあ、付き合って」と、彼女の腕に引かれるままに横にある洒落た感じのレストランに一緒に入った。

その店の中で、小さなテーブルにある椅子に座らされた。彼女はその真向かいの席に座った。

 

女の子と二人でレストランに入る、こんなこと初めての経験だった。一馬は、どうしたら良いか分からなかった。

その一馬に向かって、彼女は、色々なことを話し始めた。名前は沢田ユイ。友達と研究所に勤めていること。その研究に男手が必要になっていること等々であった。

一馬も、たどたどしく、自分の名前と年齢を話した。

 

「ふ〜ん、一馬クンて言うのね」

一馬は、“クン”付けで呼ばれたことに疑問を持った。それが顔に出たらしく、彼女は、さらに言葉を続けてきた。

「あっ、ごめん。私の方が年上だし、一馬クンて可愛いから、つい、“クン”付けで呼んじゃったのよ」

 

一馬は驚いた、絶対に十代だと思っていたのに、自分よりも年上だと言ったのだ。

「えっ、き、キミって、何歳なの?」

 

「だめよ、女性に歳を聞いちゃあ。それに、キミ“じゃなくて、ユイと呼んで」

そう話し、彼女は微笑む。だが、その顔はどうみても二十歳を越えている様には見えなかった。

だが、確かに話し方は、“お姉さん”風だった。

お姉さんの雰囲気を持つ、可愛らしく、はちきれんばかりの若々しい存在。それに、一馬は惹かれてしまった。

 

一馬は、彼女の名前を呼んでみようとした。テーブルに置かれたコップを見つめて恥ずかしさを堪え、「ゆ、ユイさん」と声を出してみた。

「な・あ・に・?」

彼女の声が聞こえた。目を上げると、彼女と目が合った。引き込まれそうな瞳だった。

もう、だめだった。彼女が自分の中で、とても大きな存在になっていた。

思わず目を伏せてしまった。頬が熱くなっていくのが分かった。きっと、顔が真っ赤になっていると思った。

 

また、彼女の声が聞こえた。

「どうしたの?一馬クン」

 

一馬は、意を決し、自分の想いを話した。

「ゆ、ユイさんが、お、俺の中で、とても、とても大きな存在になっているんだ。会ったばかりなのに、変だよね」

 

途端に、彼女が声を出して笑った。

「あっは!ははは・・・・・あっ、ごめんね、笑っちゃって。そうなの?一馬クンにとって、私がとっても大きいの? 」

 

一馬は、顔の火照りを感じながら、頷く。また、彼女が笑い出した。

一馬は、身の程知らずに余計なことを言ったと思い、恥ずかしくて、テーブルのコップを見続けていた。

その一馬の耳に、笑い終わった彼女の言葉が聞こえる。

「うふふ・・・ねぇ、一馬クン、とっても大きい私の研究に参加しない? 研究に男の人が必要なのよ」

 

一馬は、このまま彼女と別れたくなかった。少しでも彼女の傍にいたくなっていた。

それに、こんな可愛らしい女性の研究である。たいした研究ではなく、それに手助けするのはどうせ力仕事の類だと思い、「うん」と言葉をした。

 

そのまま二人で軽い食事をして、レストランを出た。

その扉の外、道路脇に、政府高官が使うような高級車が止まっていて、運転手が後部ドアを開けて立っていた。

 

彼女は運転手に、「ご苦労様」と声をかけ、そのまま車の中に入ってしまった。

一馬は一瞬、ポカンとしてしまった。たまたま、そこに止まり、要人を待っている車だと思っていたら、その車に彼女が平然と乗り込んだのだ。

 

彼女が、車の中から、「おいで、一馬クン」と手招きをした。

一馬は、この時初めて不安な気持ちがしてきた。だが、車の中で微笑む彼女に吸い寄せられ、車に乗り込んでしまった。

 

乗って直ぐに、彼女は備え付けのクーラーボックスを開けて、飲み物を差し出してきた。

少し緊張し、咽の渇きを感じた一馬はそれを一気に飲んだ。やがて、眠気が襲ってきた。彼女が手を握ってくれた。その手の暖かさが、一馬をとても幸せな気分にした。

眠りに落ちる瞬間、無意識に、一馬の口が「ユイさん・・・」と動いた。

 

***

 

「一馬クン、おきて」

その声で、一馬は、目を覚ました。冷たく、硬い石の上にいる様な気がした。その冷たさで、自分が裸だと言うことに気づいた。

 

一馬は思い出した。“俺は、ユイさんの研究に参加するために来たんだ”

それに、今、聞こえた声が、彼女のものだった様に思えた。

“ユイさんはどこ?”

まだ意識が半覚醒で目の焦点が合わなかった。上空には肌色が広がっていた。

 

女性の声がした。

「一馬クン、目が覚めているでしょ。お返事して」

ユイさんの声だった。だが、声の質が異様だった。大型のスピーカーを通して拡声されている様な感じで、その声の振動で身体が震えた。

 

「ユイさん」

一馬は、どこにいるか分からない彼女に向かって、返事を出した。

 

「だめ、聞こえない。もっと大きな声で」

また、彼女の声が聞こえた。

それに、少し目の焦点が合ってきて、上空を覆う肌色の中央に、洞窟があるのが分かった。その洞窟に向かって、一馬は大きな声を出した。

 

「ユイさん! 俺、ここにいるよ! ユイさん、どこにいるの?」

 

「あっ!聞こえる。小さいけど、一馬クンの声が聞こえる。

ねぇ、一馬クン、質問しても良い?」

 

「どうぞ!」

 

「うっふふ、一馬クンにとって、まだ、私って、とっても大きな存在なの?」

 

一馬は、仰向けになったまま、大声で返事をする。

「も、もちろんだよ!」

 

ユイは、テーブルの上に、1/200への縮小が済んだ一馬を乗せていた。

さらに、彼の言葉を聞くために、片方の耳をテーブルに近づけ、その耳で、彼の小さな身体を覆うようにしていた。

テーブルの向こう側にいるリエは笑いを堪え、そのユイを見ている。

 

ユイは笑い出しそうになるのを抑え、リエにウインクし、また、一馬に話しかけた。

「ねぇ、私って、一馬クンにとって、どのくらい大きいの?」

 

一馬は、仰向けのまま、両手を一杯に広げる。

「これくらい!」

 

「ちゃんと口で言って」

 

一馬は、広げた自分の両手を見る。長さとしては、2メートルもない。

口で言うのならば、もっと大きくしようと思い、

「10メートル!」

と大きな声で答えた。

 

ユイは、横にいるリエに分かる様に、彼の答えを口にした。

「10メートルなの?私の大きさって、たったの10メートルしかないの?小さすぎない?」

1/200サイズから見れば、ユイ達は、楽に300メートルを越える。10メートルでは、指先の幅にもならない。

 

一馬は、慌てて言い直した。

「じゃあ、30メートル!」

 

「30メートル?だめ、まだまだ小さいわよ」

ユイがそう話した時、リエは、笑いが堪えなくなって、噴出してしまった。

 

その笑い声が響き渡る。

一馬は、別の女性がいることに気づいて、それを問いかける。

「だれかいるの?」

 

「共同研究者のリエよ。ところでこれが最後、私の大きさを言ってみて、ちゃんと大きく言ってよ」

 

一馬は考える。

“怪獣映画のゴジラが、確か80メートル”

その考えで、ちょっと冗談風に最後の答えを出した。

「よし!ユイさんは、俺の中ではゴジラ並みだ!身長80メートル!どうだ、これで!」

 

ユイは、リエに、「私って、ゴジラ並みの80メートルだって!」と言葉を出し、「もう、だめ・・ぷっ!」と噴出し、顔を持ち上げた。

テーブルの上には、今まで、ユイの耳に隠れていた一センチもない小さな男が現れる。

 

ユイとリエの笑い混じりの声が響く。

 

あははは!もう!可笑しすぎ!あはははは!だめ!死んじゃう!

もぉう、一馬クン!くっくく苦しい!

ねぇ、リエ!聞いた?あっははは!たったの80メートル!あっはは!

 

そうそう、あっははは、それにゴジラ!あはは、ユイは、ゴジラ! あははは、ユイはゴジラ!あははは、ほんと!あはは、この人面白過ぎ!あはははは!

 

あはは、そうなの、あっは、あっははは、一馬クン!私ってゴジラなの?ぷっ!・・・あっははは!やだ、涙、出ちゃう!あはっ、あはっ、あははは!

 

二人は、その小さな男を見下ろし、涙を流しながら笑い続ける。

それまで抑えていた分、笑いが溢れてしまったユイに代わって、リエが笑いを堪え、一馬に声をかけた。

「一馬さんにしたら、私達、300メートルを楽に越えちゃうのよ」

直後、リエも込み上げる笑いのまま笑い出した。

 

一馬は、呆然と頭上を見上げた。二人の巨大な女性の顔が、天を隠すように浮かんでいた。そして、彼女達の笑い声が、一馬の身体を大きく揺さぶった。

驚きのあまり息を飲み込んだ一馬は、今、言われたことを思い出す。

“300メートルを楽に越える・・・”

頭上に広がる、笑い続けるユイの顔を見上げ、言葉がポツリと出た。

「ユイさん・・・そんなぁ・・・」

 

***

 

一馬は、足を止め、後ろを振り返った。

小さな島民達が、彼の後ろ、だいぶ遅れて走っている。

 

一馬は、ユイの姿を見上げる。

視界がセクシーで巨大な姿で埋まる。

「ゆ、ユイさん・・・」

走っていた苦しげな息で、思わず彼女の名前を言葉に出す。

 

初めて巨大な彼女達を見せられた時、“何でそんなに大きいんだ”と思った。だが、直ぐに、自分自身が研究のため1/200に縮小されていると説明を受けた。

そして、彼女の指先に乗せられて自分よりもさらに小さな人々がいる場所に降ろされ、それからの半年、彼女の巨大な姿を見上げ続けて生きてきた。

 

元に戻して欲しかった。

でも、元に戻されたら、もう彼女の元には置いてもらえなくなると思えた。

“ユイさんとずっと一種にいたい・・”

それも一馬の気持ちでもあった。

 

だが、彼女に憧れ、彼女の姿を見上げ、こっそりとオナニーをしている自分が惨めでもあった。

一馬は、結果がどうであれ、彼女に、元に戻すように言うべきだと思った。

そして、その思いで、彼女に近づくために早足で歩き始めた。

 

一馬の足元を、彼の十分の一しかない小さな人々が、彼女から離れる方向に駆けている。

その小さな人々を踏まない様に、一馬は、ユイの巨大な身体に向かっていく。

 

彼女の直ぐ背後に、まだ小さな人々が残っていた。一馬は、その集団に近づく。

年寄りや、身体が不自由な者が20名近く、そこで膝を着き、彼女のお尻を見上げ、一心不乱に祈りの言葉を捧げていた。

「ユイサマ、ワタシタチヲオユルシクダサイ!ユイサマ、ワタシタチヲオユルシクダサイ!ユイサマ、ワタシタチヲオユルシクダサイ!」

 

一馬が教えた日本語だった。それを彼らは『神の言葉』として習った。

そして、今、足が遅い者や走れない者が、仲間のためにそこに残り、『神の言葉』を使って女神の慈悲を願っていた。

 

彼女に取っては塵の大きさの人々である。いくら大声を出したところで聞こえるはずもなかった。

だが、彼らと半年間一緒にいた一馬には、彼らに対する情が芽生えている。その祈りの言葉が無性に虚しいものに思え、彼らに言葉をかけようとした。

だが、何を言葉にすれば良いのか分からなかった。言葉が出ないまま、その後ろを進むだけだった。

 

一馬は、彼女の姿を見上げる。そして、彼女の目線に入るべく、その巨大な身体にさらに近づいて行った。

 

***

 

ユイは、先ほどの深呼吸で、気持ちの高揚が少し収まっていた。

だが、一旦そうなると、もう一度セクシャルな気分になるには、一ミリにも満たない彼らでは物足りない気持ちになっていた。

“後は、鬼ごっこかなぁ”

どちらにしても、床に撒いたものは処分しなければならない。鬼ごっこでもして戯れに潰し去る気で、彼らに逃げる猶予を与えていた。

 

その彼女の視線が、小さなものを捉えた。

“一馬クン?”

一センチにも満たない裸の男。ユイに誘われるままに研究所に来た男だった。

ユイは気がつかなかったが、リエは、彼が、ユイを見上げてオナニーをしているところを見たことがあり、それをユイに話してもいた。

 

“そうよ。一馬クンがいたんだ・・・”

ユイは、彼女自身を見てオナニーをする彼を使って、もう一度セクシーな気分になろうと思った。

 

***

 

「俺は元に戻してもらう・・・俺は元に戻してもらう・・・俺は・・・」

一馬は、そう呪文の様に言葉を出しながら、彼女のヒップを周り、彼女の側面に出てくる。

そして、そこから彼女を見上げた。

 

一馬の身体は、一瞬で、固まってしまった。




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