「そ、そんな・・・・!?」 ヘリコプターの操縦席に座る俺は、絶句した。
「未確認巨大生命体出現」の連絡を受け、俺は教授と、強行偵察ヘリ「残月」で現場に向かった。
御堂山湾上空に到着した俺は、そこで信じられないものを見た。
巨大な女の子だ!!
赤いビキニを着たスタイルのいい女性が、御堂山湾に、寝そべっているのだ。
彼女は、俺たちが乗るヘリが接近しても気にもせずに、水遊びをしていた。
対比物がないのでよく分からないが、彼女は身長4〜500mはあるに違いない。
寝そべっている彼女の巨大な胸が海面から、盛り上っていた。
信じられない大きさだ。
もしこの巨体で、彼女が都心部に上陸したら、たいへんなことになる。
「うむ、間違いない。 巨大娘だ。」 助手席で鏑木教授が、俺に言う。
「な、何なんですか・・・それは・・・?」
ヘリをホバリングさせながら、俺は、隣に座っている教授に尋ねた。
鏑木教授は、司令部により、急遽、今回の事件の責任者に任命されていた。
教授は、「巨大生命体」の世界的権威なのだそうだ。
俺たちは、教授の指示に無条件で従うように、命令を受けていた。
「敵だよ。 ・・・人類のな。 我々は全戦力を投入して、あやつを殲滅せねばらぬ。」
教授は平然と言う。
いきなり戦闘とは、おだやかでない。
俺は直感で、彼女がものすごく強いことを感じとっていた。
彼女が街で暴れたら、たいへんな被害がでるだろう。 俺はためらった。
「な・・・、なんとか話し合いはできないのでしょうか・・・。」
大きさはともかく、彼女はとても知性的な顔をしている。
闘わずにすむのなら、それにこしたことはない。
「無駄じゃよ。 巨大娘と人は共存できない。 海の様子を見るがよい」
教授に指差され、俺はもう一度、御堂山湾を見た。
さっきは巨大な彼女に驚いて気がつかなかったが、たしかに海の様子が変だ。
なんと、都市の排水で汚れていた海水が綺麗に澄んでいる。
透けて見える海底は、まるでタイルでも張ったかのように、固められていた。
そして何よりも不可思議なのは、巨大な彼女が戯れているのに、大波が起こっていないのだ。
「あやつは、異世界から、この地球にやってきたのだ。
ところが海に出現したとたん、あまりに海が汚いのに呆れかえったのだろう。
それで、自分の力で、海を自分が泳ぎやすいように浄化したのだろう。」
教授は荒唐無稽な話を、平然と言う。
確かにヘドロで汚れた海で泳ぐのは、巨大娘とはいえ、楽しくないだろう。
あの巨人なら、魔法のような力で、海を綺麗にするくらい、簡単にできるのかもしれない。
しかし、その言葉が本当なら、彼女はその力で大波を起こすのを防いでいるみたいだ。
身長4〜500mもある彼女が海に出現すれば、大波で、沿岸部に被害がでている筈だ。
彼女は、人が傷つかないように気を使っているのではないのだろうか。
ならば、あの巨人女と「話し合い」ができるのでは・・・?
「人間の世界に来て、自分のきまぐれで海を浄化する・・・。
これが人類に対する挑戦でなくて、いったい何なのだ。
あやつは今、のん気に海で遊んでいるが、いずれ都市に上陸し、
その超能力で、この世界を「自分が住みやすい世界」に改造するだろう。
そうなれば、人類は生き延びることはできん。
ならば、我らは、手遅れになる前に、あやつを殲滅するしかないのだ!!」
教授は、固い意志を示すような強い口調で言う。
俺は焦った。 すでに教授の命令で、厚木山基地より、ナパーム弾を装備した戦闘機編隊が、
こちらに向かっているのを知っていたからだ。
教授は、彼女に先制攻撃をかけるつもりだ。
このままでは、戦闘はさけられない。
しかし、彼女は美しく、力に満ち溢れていた。
人間の力で抵抗できる相手ではない。 俺はそう直感していた。
俺は、彼女に勝てないのではないかと、率直に教授に言った。
「心配するな。 あやつには、致命的な弱点があるのだ。」 教授は笑う。
「弱点・・・?」 俺はいぶかしげに尋ねる。
「そうじゃ。 なんと、巨大娘は空が飛べないのじゃ。
したがって、戦闘機で空爆を敢行すれば、あやつには抵抗する術がない!
そして、ヘリコプターに乗って上空にいる限り、我らが捕まることはない!!
この状況では、もはや、我らが勝ったも同然じゃ。」
「巨大生命体」の世界的権威、鏑木教授は、ふぉっ、ふぉっ、ふぉっと笑う。
教授の不気味な笑いは、俺をますます不安にする。
俺は、もう一度、攻撃を止めるように言ったが、教授は聞いてはいなかった。
戦闘機編隊は、そこまで来ていた。 もう間に合わない。
「しかし、空が飛べないとはいえ、相手は巨大娘じゃ。
空爆に怒った巨大娘が、とんでもない方法で反撃してくるかもしれぬ。
桐生くん。 念のためこのヘリの高度を上げておきたまえ。 そして、状況がこちらに不利に
なった場合は、ただちに逃げるように、準備をしておくのがよいだろう。」
教授はえらそーに、俺に言う。
教授は、やばくなったら自分だけ逃げる気なのか・・・?
俺は呆れたが、現在、教授が俺の上官だ。 俺は命令されたように、ヘリの高度を上げた。
ついに、戦闘機編隊がやってきた。
教授は民間の船が周囲にいないのを確認した後、攻撃命令を伝えた。
いきなり巨大娘殲滅の命令をされ、パイロットたちも面食らっているようだった。
「これより、人類史上、初の巨大娘との戦いが始まる。
しかし、我ら人類は必ず勝利するのじゃ。」
教授はやや興奮した口調で叫ぶ。
編隊は、領空侵犯機との空中戦を想定して造られているので、空爆には不向きだったが、
轟音とともに、巨大な彼女に向かった。 誤爆をさけるために、ぎりぎりの低空飛行だ。
いったい、どうなるのだ? 俺は固唾を呑んで見守った。