《 巨大婦警エル 》 エル登場編1

               CG画像 June Jukes
               文 みどうれい

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 劉国寺警部と警官隊は、緊張した表情で銀行を見つめていた。
強盗団がこの銀行の中で人質をとり、立てこもっているのだ。

 銃で武装した4人の男達は、白昼堂々と銀行に押し入り、支店長と銀行員10名を縛り上げ、金庫にあった現金10億円を手にした。

 普通、強盗団が金を奪えば、警察が来る前に逃げようとする筈なのに、何故か彼らはそのまま銀行に籠城する。


 すぐに銀行は警官隊に包囲された。もう誰も逃げられない。しかし、人質がいるので警察も手が出せない。銀行内に強行突入すれば死傷者が出るだろう。

 犯人達に投降を呼びかけたが、それは無視され、彼らは逃走用のヘリコプターを要求してきた。要求が聞かれない場合は人質を殺すという。

 どうすればいいのだ! 劉国寺警部は焦る。

とにかく人質にされている銀行員が心配だ、
なんとかしなければならない。

 そして何よりも心配なのは・・・
あの女に知られることだ。
こんな事件が起こっている事を、あいつが知ったら、ただではすまない。

 頼む・・・頼むから、あの巨大婦警エルだけは来ないでくれええ。

 しかし、劉国寺
警部の心の願いがきかれることはなかった。

とんでもない災厄は目前に迫っていた。

 ずううん、
ずううんずううううん。

 地面を揺るがす震動が響く、足音だ!

 うわああ!! 来た、来た、キタ、来てしまったあああ・・・

 あいつが・・・
エル婦警が来たあああ!!
警部は心の中で悲鳴を上げる。


 凄まじい大きさの巨人女性!!

 呆然とする。 何度も彼女を見ているのに慣れる事はない、
あまりの巨大さに身がすくむ。
 ・・・本当にコワイ。
野次馬達も慌てて逃げ出すか、その場に凍りつく。

 
彼女の名前はエル、この帝愛市の巨大婦人警官なのだ。

 何という大きさなのか、身長は70mを超えているだろう、強盗達のたてこもる5階建ての銀行ビルでさえ、彼女の膝にさえ届かない。

 そして彼女はただ大きいだけではなかった。 全身に力が漲っているのを感じとれる。 彼女ならこの銀行でさえ、瞬時に押し潰せると容易に想像できた。


 人々は彼女の大きさと力に驚くが、冷静に彼女を見れば、エル婦警は女性としての美しさをも、兼ね備えていた。

 きりっと引き締まった口元、見る者の心を惑わす神秘的な紫色の瞳、知性的な顔立ち、モデルになれそうな抜群のスタイル。 ブルーの警官服はボディにぴったりとフィットし、彼女の美しさを引き立てている。

 抜群に盛り上がった胸は凄まじい迫力だ。 女性らしい腹部はきゅっとくびれていて、丸っこい腰ではミニのスカートが風に揺れている。 アスファルトの地面にめり込んだ長い脚は黒いストッキングが印象的だ。

 何かの冗談なのだろうが、つややかな黒髪から悪魔のツノが生えている。そしてお尻にはしっぽ・・・、コスプレだと思うのだが、カラダから直接生えているように見える。噂では制服を脱げば背中に翼もあるらしい。

 いつ、どうやって彼女が警官になったかを知る者はいない。
気がついたら、エルは帝愛署にいた。
「婦人警官になるのが夢だったの」 彼女は無邪気に笑っていた。


 その言葉通り、エルはやる気まんまんで、その凄まじいパワーで数々の難事件を解決していた・・・しかし、その解決方法といえば・・・。
 帝愛署にとってエルはとんでもないトラブルメーカーでもあるのだ。

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「ヤッホー、警部、何やってるのー?」
 エルの声が周囲に響く。空気がビリビリと震動する。
劉国寺警部は彼女の上司なのだから、もう少し丁寧な言葉使いをしてもいいのだが、そんな事をエルは全然気にしていない。

「あ・・・あぁ、エル君・・・」
 警部は焦る。 こら、このボケ、大きな声をだすな!
民間人が人質にとられているのだ、静かにしろ!

強盗団が驚いて、人質に危害をくわえたら、どうすんだよー!
 もちろんエルが恐ろしいので、心の中でそう思っただけなのだが。

 しかし・・・銀行内部で何の反応もない。いつものコトだ。エルに襲われる犯罪者達は、巨人のエルが近づいても直前までそれに気がつかない。 それで、エルは「お仕置き」と称して、犯罪者を簡単に捕まえ玩具にする事ができる。

 この女は自分の楽しみのために、何かの魔法まで使えるらしい。
警部はエルの悪魔のツノを見る。 やはり人外の存在か・・・。

「銀行強盗だって聞いたけどおー」 エルの声が響く。

「あ・・・あぁ、でもここはいい、我々で何とかするよ」
 警部はしどろもどろで言う。 頼む、頼むから帰ってクレ〜。

「私にまかせてよ、事件を解決してあげるから!」

 うわー、やっぱり、この女はヤル気かい!! どうすんだよ。
これはもうただではすまない。 

 警部は知っていた。 エルの最初の配属先は交通課だったが、多くの車で渋滞する道路を見た彼女は「交通整理しますね」とか言いながら、その巨大な手で、車やトラックを掴み、持ち運び、文字通り道路を整理してしまったのだ。

 駐車違反している車は「お仕置きです」とか言って
巨大な足で踏み潰すし、そこにいた暴走族はまとめて捕らえられ、彼女のオモチャにされるし・・・あの時はえらい騒ぎになった。

 行方不明になった車も20台程ある。どうも彼女が運転手ごと家に持って帰ったらしい。 その車がどうなったか誰も知らない。

 しかし、エルに文句を言える者はいない。みんな彼女が恐ろしかった。
帝愛署の生ける災厄」と呼ばれていた。

 その後も数々の騒動を起こした彼女に、頭をかかえた本庁の上司達は、エルを劉国寺警部の部下に配属した。 「お前がめんどうを見ろ」というコトらしい。 そんなの無理だ! 絶対にムリ!

 そして、今日、エルはこの銀行強盗事件を解決する気らしい。 確かに彼女の巨体なら強盗4人くらい簡単に制圧できるだろう、男どもを指でピンと弾いて終わりだ。 しかし人質の命がかかっている。
 やめろ、無理は許さん! 警部は心の中で叫ぶ。

 その時、部下の警官から報告がある。 本庁より連絡があり、人命救助を優先させるため、犯人逃走用のヘリコプターを派遣することが決定された。 「現場の警官隊は突入を控えるように」と命令された。

 天の助けだ、警部はほっとする。犯人を逃がすのは残念だが、今は仕方が無い、逮捕するチャンスはきっとある。

 だがエルは納得しなかった。
「ダメよ、そんなの! 悪いコトした人はお仕置きなんだからね」

 エルはすくっと立ち上がり、銀行を見下ろす。

その視線は明らかに獲物を見つけた女獣で、これから始まる楽しみにわくわくしている表情だった。



 おい、コラ、やめろ何をする。
警部は焦る。

「それでは、上司である劉国寺警部の許可をいただきましたので、
これよりエル婦警は、悪い強盗団をやっつけます!」

 待たんかい、コラ、誰も許可していないぞ!
それに今、何を言うた? 「強盗団をやっつけます」 って・・・

 「逮捕します」ではなく、「やっつけます」かい・・・
という事は、強盗達の運命は・・・。

 しかし、警部は恐ろしくて、それ以上のことは言えなかった。
エルを止める事などできない。 彼女を怒らせたら、彼までも巨大な指でプチッとされる。

 警部は、これから起こる惨劇をただ見ているしかなかった。

(続く)

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