考えがまとまったようだ。 彼女は目を閉じ、何かの呪文を唱える。
「な、何だとぉ!!」 劉国寺警部と、部下の警官隊は驚く。
ビルよりも大きかったエルの体が小さくなっていく。
不思議なことに彼女の婦人警官服もそのまま小さくなる。
30m・・・20m・・・10m・・・5m、 どんどん縮小していく。
すぐに警部の目の前に、身長170センチのエル婦警が立っていた。
この女は体を人間サイズに縮小することもできるのか・・・。
まさに魔法の婦警だ。 警部は唖然とする。
それにしても・・・警部は巨大なエルが歩いてきた道路を見つめる。
アスファルトの道路は彼女の重さに耐えきれず、踏み砕かれ、ボコボコにめり込んでいる。 凄まじい被害だ。
警部は心の中でぼやく。 あのな〜、小さくなれるなら、最初から人間サイズで来いや。 この穴だらけの道路、どうするんだよ。
また当分の間、ここは道路の補修工事をするしかない。
だが仕方が無い。 巨人の姿こそがエルの本質なのだろう。
エルは微笑む。彼女は警官としての使命を果たさなければならない。
「それじゃ、行ってきまーす!」
彼女はそのまま銀行に歩いて行く。 中に入るつもりらしい。
「エル君、人質を傷つけてはならんぞ!」
勇気を振り絞り、警部が叫ぶ。
「分かってます、任せてください。警部」 エルは手を振る。
劉国寺警部はいやな予感を胸にかかえたままだった。
身長170センチになったとはいえ、エルが望めば、
彼女はすぐに巨大化できることを知っていたからだ。
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そして、ここは警官隊に包囲されている「銀行」の中。
一階の大きなフロアに支店長と銀行員10人が両手を縛られ、床に座らされている。4人の強盗達がそこにいた。銀行の外で巨人エルが現れ大騒ぎになっているのに、彼らは何故かその事実を全く知らなかった。
強盗達は余裕の表情だった。彼らには切り札があった。この銀行の貸金庫に「秘密の書類」が保管されていたのだ。 政府の役人が天下りした企業、そこだけに金融局が優先的に政府補助金を支給していた。この事実が国民に知れたら、政権がひっくり返るような大スキャンダルだ。
その事実を知った彼らは、銃で武装し銀行に進入。書類を探すのに時間がかかるため、銀行員10名を人質にした。その場にいた他の顧客は逃がしてやる。人質が多いと反抗されるかもしれないからだ。
そして、警官隊に銀行を包囲されたものの、30分後に彼らは政府書類を手に入れた。
リーダーが金融局の役人に連絡し、脅迫に成功していた。 この書類を銀行のパソコンで世間に公表しない代償として、そこにあった現金10億円を持って逃げる要求が認められていた。
現場の警官隊に「銀行への突入を控えるように」 と本庁が命令したのは、実は金融局からの警察上層部への圧力だった。
すぐにヘリコプターが来る。 金を持って安全な場所に逃げられる。
4人の強盗達は安心していた。
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「こんにちはー」
その時、銀行内に呆れるほど元気な声が響く。
女性の声だ。 強盗団が驚いてその方向を見ると、1人の婦人警官が立っている。男達は慌てて銃をかまえるが、そこで動きが止まる。
思わず息をのむ。 婦人警官は驚くほどの美人だった。
身長は170センチくらいか、女性にしては大きい方だった。
奇妙なことに彼女には、言葉にはできない神秘的な威厳があった。
「な、な、何だお前は、何処から入った?」
強盗の一人が聞く。銃で武装している筈なのに、何か不安を感じる。
「私は帝愛署の婦警、エルちゃんでーす。 そこの扉から入りました!」
にこやかに微笑みながら言う。少しも男達の銃を恐れていない。
強盗達は非常口の扉を見る。わずかに開いている。おかしい? 銀行に籠城する時、確かに内側から鍵をかけたのに。 男の一人が机を置いて、すぐにそこを封鎖する。 これで、もう誰も侵入できない。
この時、その鉄製の扉をよく見た者がいればきっと驚愕しただろう。
頑丈な鍵が引き千切られていた。 銀行に入る時、エルが片手でねじ切ったのだ。 人間サイズになっても彼女のパワーは凄まじかった。
「今日は強盗さん達に自首を勧めに来ました! 悪いコトをしたらいけません、素直に自首したら、刑期(おつとめ)を半分にしてくれるように、このエルちゃんが警部に頼んであげます」
「な、なんだとおお?!」
エルのふざけた態度に強盗団は絶句する。
一方、エルは冗談みたいな会話をしながらも4人の強盗団を観察していた。 リーダーらしき男はパソコンの前に座っている。何かの書類を大事そうに持っている。
二人目は現金10億円を乗せた机の前に立っている。さっきまで金に顔を突っ込んでいた。 大金を手にしたのが嬉しいのだろう。
実際、その男は金だけを信じていた。
三人目は散弾銃をかまえ油断なく外の警官隊をみはっている。 メンバーの中で一番逞しい。 タンクトップ姿の男の腕に、いくつもの傷跡が見える。どうやら数々の修羅場をくぐってきたらしい。
最後の1人は銃を持ち人質の横にいる。人質を救出するには、この男を他の場所に動かさないといけない・・・。
だがエルは他の奇妙な事にも気がついていた。 手を縛られ床に座らされている銀行員達の中で1人だけ、落ち着いている男がいるのだ。
人質の銀行員達は全員、銃を持った強盗達に怯えるか、突然入って来た奇妙な女性(エル)が傷つけられないか心配して見ていた。
そして彼らは緊張し、心臓の鼓動が速くなっていた。 超人であるエルには全員の心臓音が正確に聞こえる。
しかし、人質の中で支店長らしい男だけは心臓の鼓動がごく普通に脈打っている。 呼吸も冷静だ。 彼だけは自分が殺されない自信があるらしい。
わずか数十秒でエルは本質を理解していた。 強盗達の手際がよすぎる。 銀行内部の図面を知っていたと考えるのが妥当だろう。
それに電子決済が進んだ現在、銀行に大金はあまり置いていない。 それなのに、彼らはこの銀行に侵入した。
「今日、現金10億円がここにある」 と誰かが教えたに違いない。
(黒幕は、この銀行の支店長さんか・・・)
お仕置きをする相手が一人増えたことを、エルは喜ぶ。
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強盗団は冷静さを取り戻していた。 婦人警官が突然現れたから驚いたが、よく見ればこの女は頭に悪魔のツノと、ヒップに尻尾をつけている、コスプレのつもりなのだろうか、本物の婦警とは思えない。いずれにしても頭がおかしいに違いない。
この大事な時だ、すぐに射殺してもいい。 だが女は殺すには惜しい程の美人だった。
「おい、ねーちゃん、あんまり舐めるんじゃないぜ」
一人の強盗がエルに近寄る。 エルにとって有難い事に、そいつは人質を監視していた男だった。 これで人質を助けやすくなる。
「おい、ヤス、女の体を調べろ、武器を持ってるかもしれない!」
強盗団のリーダーが言う。 ヘリコプターが来るのはしばらく先だ、それまで遊んでいてもかまわないと考えていた。
「合点だ!」 ヤスと呼ばれた男が嬉しそうに返事をする、エルの美貌に心を奪われていた。女をいたぶる口実をリーダーにもらい喜んでいた。
ヤスは無類の女好きだった。金があれば女が買えると、この強盗計画に参加した。 それが、こんな場所で、見たこともない美しい女のカラダに触れるとは思わなかった。何の警戒もしていない、油断しきっていた。
「悪く思うなよ、こんな所に来るお前が悪いんだからな」
男は銃を腰のベルトにさすと、無造作にエルに手を伸ばす。
知性のかけらも無い男の顔に、エルは呆れていた。
「やれやれ、せっかく自首するチャンスをあげたのに・・・」
すぐに男達は報いを受けることになるのだが。
(次回、エルさん銀行内で巨大化!?
強盗達の運命は・・・)
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