《 真夜中の体育倉庫 》 第8話

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 人間とは本当の危機に陥った時は現実逃避をするらしい。 あるいは小さくされて気を失ったせいで、まだ頭がぼんやりしていたのかもしれない。 正常な判断ができなかった。

 この俺の結論。 これは夢なのだ!

 そうとも、夢としか考えられない。 よく考えてみてほしい。 コンビニに買い物に出かけて、気がついたら身長20センチになって、巨大な女の子に囚われていたなどありえない。

 何もかも悪い夢なのだ。 きっと俺は夕食を食べた後、そのまま部屋で寝ているのだ。 ほっぺたをつねってみる。普通に肌の感触がある。 やけにリアルな夢だ。

 大女の太ももは間違いなく俺を捕らえている。

 女の匂いも、視線も、息遣いも、その圧倒的肉体の迫力も間違いなく本物だ。 



 悪夢から覚める方法はあるのか? 
とにかく大暴れしてみるか・・・。 そうするしかない。

 そんなコトしても無駄だと体全身で感じていたが、俺は彼女の太ももの間から何とかして脱出しようともがいてみる。こうして暴れていれば、目が覚めたらベッドにいたとかいうオチに違いない。

 身体をゆすって、とりあえず自由な両腕で巨大な肉の太ももを広げようと力を込める。

 その時、俺のポケットの中でメキュッというかすかな音がする。 どうやらポケットの携帯が完全に折れ曲がってしまったようだ。 まずい、スマホが壊れたか? だが、これが夢ならどうせ携帯も使えないだろう。

 俺は再び渾身の力をこめて彼女の太ももの間でもがく。 そんな俺の姿を愛花という巨人は楽しそうに眺めている。

「あら、健一さん、私と力比べをしたいのですか? 
いいですわ、でも今の貴方じゃ私に抵抗できません」


 俺は全身の力を込めて両腕を左右に広げ、愛花の両太ももを押す。
柔らかい巨肉の壁がほんの少し開いた。だがそこまでだった。

「あは、健一さんは、けっこう力があるんですね」

 巨女はくすくす笑いながら再び太ももに力を込めた。
必死の思いでようやく少し開いたと思った太ももは、元通りに閉じて俺を捕らえる。 そして今度はもういくら力を込めてもびくともしない。 完全に囚われた。

 彼女の柔らかい肉の柱は、柔軟で滑らかな肌に包まれているが、その下には鋼鉄のように強靭な筋肉が息づいている。

 もはや自力による脱出は不可能だ。 彼女の途方もない巨体に比べて俺はあまりにも非力すぎる。 彼女は約10倍の大きさ、体重やパワーはおそらく1000倍、これではとても抵抗できない!!

 というか、全然、夢から覚めないぞ、おい、この夢どうなっているんだ! 

 彼女は遊び感覚で俺を捕らえている。 手加減してくれているのは間違いない、俺が全力を出してもとうてい敵わない。 そして・・・これは夢ではないのだ。 この事実は俺の抵抗心を奪い去るに十分だった。

 そう、俺が敗北した理由はたった1つ・・・たった1つのシンプルな答えだ。 俺が小さすぎて、彼女が巨大すぎるからだ! 勝負にならない!

「もうおしまいなのですか?」

 怒らせたかな・・・弱気になった俺の背中に恐怖が走る。 彼女がギュッと太ももを本気の力で締めたら、俺は即座に潰される。 そしてその時に俺ができる事は何もない。 これはヤバイ。 彼女の心が緩んでほしいと願いながら話しかける。

「まいった、もう降参します。 僕がどんなに頑張っても君に抵抗できないのがよく分かった。 だから・・・その、力比べではなく他の方法で僕と勝負しないか?」

「他の方法・・・?」

「そ、そうだ、ジャンケンだ。ジャンケンで勝った方の言う事を、負けた方がなんでも聞くことにしよう。 それなら公平だろ」
 苦しまぎれに俺は言う。 とにかくこの状況を好転させなければいけない。

「ジャンケン勝負? いいですわ」

 驚いたコトにこの巨女は承知してくれた。 しめた! 腕力勝負ではこの巨体に200%勝てないが、ジャンケンなら勝率50%、絶対絶命の危機から、これで一気に有利になった。 巨女は俺が好きらしいから、勝ちさえずれば本当に家に返してくれるかも・・・そんな淡い期待が頭に浮かぶ。

 巨女は太ももを緩める。 俺は少し体を後ろにそらし互いにジャンケンしやすいようにする。

 俺を簡単に握り潰せる巨大な手が恐ろしい。

「それじゃ、いきますね。ジャンケンポン」




 結果は・・・

 一発で俺が負けてしまった。

 そ、そんなアホな。 こんな人生の分岐点とも言える時に、敗北するとは・・・。

 よく考えてみれば、巨大な女の子に捕まるという「百億分の一くらいの不幸」に陥った俺が「二分の一勝負」に勝てる訳が無かった。 そう、一度不幸になった者は坂道を転がり落ちるように、はるか奈落へと落ちるのだ。

 そしてポケットのスマホは不自然な形に折れ曲がっている。 衝撃に強い新型スマホだったのに、俺が無理にもがいたので、どうやら完全に壊れてしまったようだ。 外部との唯一の連絡手段もこれで失われた。

 俺の頭の中でガーン、ガーンというショック音が何度も響いていた。

「ふふふ、ジャンケン勝負は私の勝ちです。 約束通り、私の言う事は何でも聞いてくださいね、健一さん」

 勝ち誇ったような女の声が響く。 どうやら彼女が俺に好きなようにできる口実を与えただけのようだった。 それに、この女はジャンケンに勝とうが負けようがどうせ好きなようにしたに違いない。

 あぁ、これから俺はどうなるのか・・・。





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