《 愛が失われた時 》
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「ねぇ、タックン、私たちの関係、もう終わりにしたいの」
タックンとあだ名で呼ばれている彼は、
彼女に蟻よりも小さく縮められて、彼女の指先に乗せられていた。
彼には、何が何だか、訳が分からなかった。
先ほど、彼女の部屋で二人でビールを飲んだ後、急に眠くなり、気付いたら、
目の前に巨大な彼女の顔があり、彼女の指先に乗せられていたのだった。
だが、その自分の状況よりも、今、彼女が言った言葉の方が、遥かに彼には衝撃的だった。
ーえっ!、別れたいって、言うのか!?−
彼は、慌てて、彼女に向かって言葉を発した。
「おい!ふざけんな!何、言ってんだ!本気なのか!冗談だろ?おい!おい!」
指先に乗せている小さなものを見下ろしている、
彼女の瞳には、彼を愛していたころの情熱の、その片鱗さえも窺えなくなっていた。
彼女の目にも、それが小さな口を精一杯動かしている様子が映り、
耳を澄ませると、微かにキィキィとした音が聞こえてきていた。
だが、今の彼女には、それを言葉として感じてあげる優しさも残っていなかった。
彼女にとっては、それは、小さな虫が発する、小さ過ぎる音でしかなかった。
「私ねぇ、好きな人ができたの。タックンの知らない人よ。
だから、タックンとの間を終わりにしたいの」
彼女は、ちょっと眉をひそめ、考え深げな表情でさらに言葉を続けた。
「でもねぇ、タックンって、私と別れることができない人だと思うの。
きっと、私が別れようと言ったら、私に文句を言ったり、暴力を振るったりしてくると思うの。
だから、タックンと別れることは・・・やめたの」
言葉を切った彼女の顔に、冷たい笑みが浮かんでくる。
「タックン、私たちは別れないわよ・・・おしまいにするだけ」
彼女は、指先の小さなものを、笑みを浮かべたまま、乳首に乗せた。
「タックン、私の胸が好きだったでしょ。
だから、そこをタックンの最後の場所にしてあげる。ウッフフ、嬉しいでしょ。ねっ、タックン」
丁度その時、彼女のケータイが鳴った。新しいカレからの電話だった。
(つづく・・・かな?)
* だんごろうさんの掲示板への書き込みを掲載させていただきました。