《 ユイさん 》 第6話 島民たちは庇い合い、必死に走っていた。 前方には、巨大な建造物、四角い物入れがあった。その下に逃げ込めれば、助かるかも知れないと儚い希望を持っていた。 もう少しだ。もう少し頑張れば、あの下に入っていける。 だが、ヘトヘトだった。息が苦しかった。肺が焼けそうだった。 交互に繰り出す足は、もつれそうになっていた。 ユイサマ、ワタシタチヲオユルシクダサイ 彼らは心の中で巨大な女神に許しを請い、奇跡を信じて走り続けるしかなかった。 その時だった。突然、床が大きく揺れた。 そのまま転ぶ者がいる。あちこちで悲鳴が上がる。 それでも、走り続けようとする者もいた。だが、大きく波打つ床の上では、それは無理なことだった。 さらに、揺れ動く振動の中で、辺りが暗くなる。 彼らは、光を遮るものに視線を向けるべく上を見上げる。 息を呑んだ。 微細な彼らから見れば、3400メートルの身長を持つ身体が、四つん這いになって上空を覆っていた。 そして、女神の顔が降り、床を震わせて自分たちの進路を塞いだ。 奇跡は起きないことを悟った。 いくら走っても、女神の巨体から逃げることは不可能なことを思い知らされた。 島民たちは、女神の慈悲に縋るしかなかった。 走り続けた苦しい息の中で、祈りの言葉を捧げた。 「ユイ・・サマ・・・ワタシタチヲ・・オユルシクダサイ・・」 *** ユイは顔を床に着けたまま、身体の下の床に広がっている島民を見つめる。 一ミリもない彼らは、これだけの近さで見ても点でしかなかった。 せいぜい点の色で、ティシャツぐらいは着ていることが分かる程度だった。 ユイは、人々をそこまで小さくしてしまった自分たちの罪を感じ、彼らに小さく言葉をかけた。 「ごめんね、そんなに小さくしちゃって・・・」 そう言いながら、その罪の意識がサディスティックな気持ちに覆われてくる。快感が疼き、口元に笑みが現れてくる。 さらに、ユイは、その笑みを浮かべたまま、目の焦点を向こう側にいる一馬に合わせる。 “オナニーしているのかな?” だが、少し離れている小さな彼が、オナニーをしているのかどうかは分からない。 「一馬クン、ちゃんとオナニーしてるの? 一馬クンて小さいでしょ、だから離れちゃうと、お姉さんには一馬クンが何をしているのか分からないのよ。 ねぇ、一馬クン、もっと、こっちに来てよ」 一馬は弾かれた様に動き出した。ただ、巨大な彼女の膝の間を通って行くのが嫌なのか、膝の外側を大きく回りこむルートを取ってきた。 ユイは、身体の横に向かってくる一馬を見るために顔を上げた。 そして、顔の前に、物入れのボックスがあることに気が付き、ぷっと吹き出してしまった。点の様に小さな人々がその下に逃げ込むつもりなのが分かったのだ。 |
ぷっ!・・・あはっ!あははは!ねぇ、あんた達!可笑しい! あはは!この下に逃げようとしたの? この下に逃げれば、助かると思った訳?あははは! ほんと!楽しい人たち!あははは・・・ *** 女神の笑い声で床が震える。 笑い声に伴って、遥か上空から女神の吐く息が吹き降ろされる。 そして、それが、渦を巻く強風となって彼らの間を駆け抜けていく。 島民たちは、女神の身体の下で怯える。だが、それでも一分の望みをかけ、頭上を覆う女神に許しを請うていた。 「ユイサマ!ワタシタチヲオユルシクダサイ!」 *** 笑いが収まったユイは、床に散在する点の前方に両手を着いて、四つん這いの姿勢になった。逃げる先に巨大な手を下ろされ、チョコマカとした慌てぶりをする彼らを見て、また笑ってしまいそうになる。 |
小さな一馬の姿が、身体の横に見える。その一馬に声をかける。 「一馬クン、お姉さん、この人たち・・・・」 視線を身体の下に存在するものに向けてから、言葉を続かせる。 「うっふふ、全滅させちゃうからね・・・・ だから、ちっちゃい一馬クンは傍に来ちゃだめよ ふふ、間違って、潰しちゃうからね」 さらに、一馬に悪戯っぽくウインクする。 「お姉さん、とってもセクシーにこの人たちを押し潰すから・・ だから・・・うふふ、一馬クン、お姉さんの姿を見て、オナニーしてもいいのよ」 ユイは、視線を身体の下の集団に向ける。気持ちが高ぶってくる。 「うふ・・・半年間、ごくろうさん。最後も、私を楽しませてくれてありがとね」 その言葉の後に、押し殺した笑いが続いてしまう。 「うっふふふ・・・」 彼らの前に着いていた手の平を左右に広げ、彼らに逃げ道を作ってやり、片膝をほんの少し上げ、その膝を床に軽く打ちつける。 その震動で点がざわつくのを見て、もう一度、彼らに声をかける。 「大きなお姉さんと、ちっちゃなあなた達で鬼ごっこをしましょうよ。 もちろん、ハンディをあげる。大きなお姉さんは、この膝しか動かさないからね。 だから、あなた達は、一所懸命逃げるのよ」 片膝を彼らに向けて床を滑らせる。 慌てた様子で、点の集団は前方に逃げようとする。 だが、どんなにがんばって走っても、一分間に十数センチがいいところ。 ゆっくりと膝を動かしているのに、集団に膝が乗りあがってしまう。 ユイの心の中にサディスティックな想いが湧き上がり、喉の奥で、笑いがクックと出てくる。 |