《 ユイとリエさん 》 第2話

               文 だんごろう
               イメージ画像 June Jukes

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トップシークレットの研究を進めている彼女達には、他の研究員から情報が漏れない様に、高度なセキュリティが施された研究棟をまるまるひとつあてがわれています。
その中には用途別の研究室がいくつかあり、今、彼女達が入っていった部屋は、キッチンとリビングがセットになっている場所でした。休息や考え事をするために、ユイが作らせた部屋で、彼女達のプライベートルームのなっています。
その床の一角に小さな人々が置かれていました。

部屋に入った二人は、テーブルに置かれているリエのケータイが呼び出し音を発しているのに気づきました。達也からの電話です。リエは、そのケータイを取り上げ、ユイの後に続きます。

ユイは、床に目をやり、小さな人々が逃げることなく、先ほどの位置に点々といるのが分かりました。
そこに足を向けながら、1センチの彼らに取っては、自分たちは、300メートル近い巨人になることを思い、今、小さく響いている足音だって、彼らの身体を震わせる振動になっていることを想像します。そして、彼らが見上げる、床を震わせて近づいてくる自分達の巨大な姿を頭の中で思い描き、身体の中の血が騒ぎ始めました。

ユイは、点々と存在する人々の手前で足を止め、彼らを見下ろし、
「ちゃんと待っていてくれて、ありがとね」と声を降ろします。


リエは、「どうかしたの?」と、ケータイで電話を始めながら、彼らを挟む様に、ユイと向かい合わせになります。
その二人のサンダルが、点在している彼らを囲んでいます。
二人は、彼らの様子を見下ろします。リエは電話を続けながら見下ろしています。
立った位置から見た彼らは、『点』でしかありません。その点が、囲むサンダルに怯え、そこから離れていく様に、中央に集まってきます。

リエは電話で話をしています。
「これから、出張なの?・・・そう、晩御飯はいらないのね」
そして、ユイに、「達也さん、今日、本社に行くから、晩御飯をユイと食べてくれって」と話しかけてきます。

ユイは、電話に直接聞こえる様に、大きな声で答えます。
「オッケー。でも、お兄ちゃんの可愛い奥さん、今から、人減らしをするから忙しいのよ。早く電話、切って」

リエは苦笑します。
「聞こえたの?うっふふ、そう、人減らし。人がいなくなっちゃうの。・・・・・・・そうよ、リストラみたいなものね」

二人は、口元に笑みを浮かべ、足元を見下ろします。
足元の人々は、中央に集まり固まっています。

まだ、リエの電話は続いています。他の用事についての会話を達也としています。
そのリエに、ユイが話しかけてきます。
「ねぇ、リエ、向こうを向いてくれる?」

電話を続けるリエは、“何をするの?”と思いながらも、身体を後ろ向きにします。
ユイがクスクス笑います。そして、リエが完全に向こうを向いた時に、彼女のスカートをめくり上げて笑い声をあげ、足元に、「ほら、リエって、良いお尻だと思わない?」と声をかけます。
リエは、「もう、ユイったら」と笑いながら声を出し、身体を戻します。

電話の達也は、今のユイの声が自分に向けられたと思ったらしく、リエに何かを言った様でした。
リエは、「えっ、達也さんもそう思うって?そんなに私のおしりって良いの?」と笑い声を上げます。
そして、「じゃあね」と電話を切り、ケータイをテーブルの上に置きに行きます。

ユイは、リエがいなくなったので、人々が逃げられない様に、彼らの両側に足を移しました。

足元の人々。
悔しさに身を振るわせる人がいます。
彼らの中からすすり泣きも聞こえます。
理不尽に連れてこられ、蟻の大きさに縮められ、そして、自分たちの命を『人減らし』と冗談に語られている。人々は、その悔しさと、恐怖の中で身もだえをしていました。

その彼らの両側に、
ズン!ズン!と衝撃を持って音が伝わり、
彼らは、その音で思わず上を見上げてしまいます。
そして、息を呑みます。



彼らの両側、離れた場所から、空に駆け上がって行く巨大な塔の様な彼女の脚があり、さらに黒い布地に覆われたその交わり部分が、彼らの小ささをあざ笑うかの様に存在し、そして、さらなる遥かな上空には、彼女の豊かな胸と、まるで虫を見下ろしている様な彼女の顔が覗いていました。

彼女のあまりの巨大な姿に、
ある者は絶望の表情で見上げたまま体が固まり、ある者は見上げる恐怖に耐えられずに、視線をさ迷わせていました。


リエは、ユイの所に戻りながら、笑いを堪えた声でユイに話しかけます。
「達也さんがね、『二人とも人減らし、がんばって』だって」
直後、二人は噴出した様に笑い声をあげます。

床の上の人々に、その笑い声が轟いてきます。
空気が振るえ、床が揺れます。彼らは、上空に見えるものに益々怯え、下を向き震えていきます。

ユイは、リエが定位置に戻ると、片足を上げて、つま先で人々を指し示し、笑いながら言葉を出します。
「なんか、すぐ終わっちゃいそう。うっふふ、これじゃ、がんばってって言われたって、がんばり様がないよね」

リエも笑いながら頷きます。集まり固まっている人々は、彼らの頭上に浮かんでるユイのサンダルがそのまま降りただけで、全て、この世からいなくなってしまいそうに見えました。

「50人じゃ、少なかった?」とユイは呟いた後、「まあ、今回はいいよね」とリエに笑いかけ、言葉を続けます。
「すぐ終わっちゃいそうでしょ。だから、その前に少し遊ばないとね」

ユイは、そう話して見下ろします。サンダルのつま先部分で、彼ら全員が隠れてしまいます。
彼らの様子を見るために、そのサンダルを浮かせたまま、ゆっくりと円を描いていきます。動くサンダルの下で、脅えている様子の彼らが、見え隠れしていきます。

ユイは、そうしながら、足元に声を掛けます。
「リエは、お胸とお尻が自慢。私は脚が自慢。どう?きれいな脚でしょ」
さらに、彼らに向かってウインクをして、「興奮しちゃったかなぁ?どうなの?私の脚を見て興奮しちゃった人は手を挙げて」と笑いを堪えた言葉を降ろします。

ですが、脅え、身体が固まった様な人々からは何の反応もありません。
「じゃあ、もっと良く見せてあげなきゃね」と声を出し、彼らの頭上に浮かせたサンダルを少し持ち上げます。

人々の間に動揺が奔ります。
頭上にある巨大なサンダルが、次の瞬間、彼らを襲ってくることを直感したのです。
慌てて人々は散らばろうとしました。でも、そんな時間もなく、集団になっている彼らの真ん中辺りに、サンダルのヒール部分が、衝撃を持って突き刺さりました。
人々は弾かれます。転がります。這い蹲ります。

ユイは、ヒールを少し持ち上げ、その接地した部分を見下ろします。

集団になっていた人々は、辺りに弾かれたように広がり、そこに転がっていましたが、運よく、直接にヒールで踏み潰された者はいませんでした。

ユイは、もう一度、声を出します。
「ふふ、どう、興奮しちゃった?しちゃたんなら、手を挙げてよ」

小さな人々は、慌てて起き上がり、両手を必死に挙げ始めました。
ユイは、その様子を見て笑い声を上げ、満足し、リエの顔に視線を移します。

リエは、口元に笑いを浮かべ、瞳を金色に輝かせながら、足元で必死に両手を挙げている人々を見下ろしていました。

ユイは、リエに大げさに声をかけます。「さあ、リエ、どうぞ」

リエは、足元を見下ろしたまま頷きます。
次は、リエの番です。


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