《 ユイとリエさん 》 第3話

               文 だんごろう
               イメージ画像 June Jukes

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リエは、ユイのミュールを見つめます。たった今、そのミュールのヒールが小さな人々の間に振り下ろされていました。結果的には、運よく、その下で潰された人はいなかったのですが、それは、あくまで運の世界だったと思えていました。
確かに、細いヒール部分ならば彼ら全員を一度に踏みつけることはないでしょうが、少しぐらいなら踏み潰しても構わないという、その時のユイの気持ちを感じたのです。
そして、リエも、ユイに引きずられる様に、罪のない人々を使って、楽しもうとしている自分の気持ちを感じ始めていました。

リエは、足元で、まだ両手を挙げ続けている人々に、優しげな声をかけます。
「もう、手を降ろして良いわよ。ねぇ、あなた達、宇宙法ってあるのよ。・・・・でも、そうよね。この星の人は知らないものね。それはね、宇宙全体で決められている法律・・・」

彼らは、その声に誘われるままに、声の主を見上げます。瞳に金色の光沢がある顔が、遥か上空に見えました。その顔は、その巨大さに不釣合いなぐらい、とても可愛らしい顔立ちをしていました。

彼らは戸惑いながらも、言われた通り、挙げている手を降ろします。そして、彼女の可愛らしさと同様に、彼女に優しさがあることを期待し始めます。

リエは、さらに優しげな声で、言葉を続けています。
「私はこの星の人間じゃないの。あなた達の言う宇宙人。だから、宇宙法をキチンと守っている・・・宇宙法では罪のない人に危害を加えてはいけないことになっているのよ」

ユイがクスクス笑い始めます。
「そうよね。リエは、絶対、無実の人を潰したりしないものね」

リエは、横で皮肉っぽく言うユイから避けるために、彼らの傍らにしゃがみます。
そして、さらに話を続けます。
「あなた達は、何の罪もない人でしょう?・・・だから、宇宙法では危害を加えてはいけない人達なのよ」

彼らは、彼女の言葉に希望を持ちます。それに、彼女がしゃがんだことで、その巨大感が少しは薄れ、彼女の可愛らしさと優しさを強く感じ始めます。



“彼女が俺たちを助けてくれる!”
彼らはそう思い始めていました。そして、彼女に向かって、大声を張り上げます。
「お、俺たちを助けてくれ!」「元に戻してくれ!」「た、助けてくれ!」

リエは、彼らの言葉に聞き耳を立て、しばらくその様子を眺めてから話し出します。
「でも、宇宙法にも例外規定があって、その星の政府が求めるんだったら、その星の人たちの命を奪うことも許されるのよ」

彼らは、彼女の言葉で、自分たちを捕らえたのが、自国の軍隊だったことを思い出します。
彼らは、言葉がなくなります。

リエにも、彼らの落胆の様子がわかります。
「でも、あなた達の存在価値はあるのよ。あなた達は、この星の人類が生き残るために、とっても大事な実験材料になったの。だから・・・・」

リエがそう話していると、ユイが急に身体を下げてきます。
人々の立つ床が大きく振動をします。
そして、四つん這いになったユイは、彼らを見下ろして話し始めます。
「いつもだったら、そう。でも、今回は違う・・・あなた達は、人類が生き残る実験とはまったく無関係なのよ。・・・ねぇ、あなた達が集められた理由を知りたい?」

ユイは、さらに、床にいる人々に息がかかるぐらい顔を近づけ、言葉を続けます。
「それはね、うっふふ、私たちが無実の人達をまとめて踏み潰したかったから。だから、政府に人を集めさせたのよ・・・それが、あなた達がここにいる理由。・・・うふふ・・・あなた達の存在価値は、その命で私達を楽しませること。分かった?」

ユイを見上げ、話しを聞いた人々に、絶望の動揺が広がります。ユイは、彼らにウインクし、その落胆振りを楽しそうに見下ろします。

「もう、ユイ!一番おいしいセリフを言って!私が言おうとしていたのに!」と、リエがユイに向かって怒った様な口調で話します。ただ、その目は笑っています。
リエとユイは目を合わせます。直後、二人で噴出して笑い声を上げます。


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