彼女が、顔を彼らの方に向け、話しかけてきます。
「うっふふ、ほら、こっち。ここにこないと助からないのよ」
人々は絶望的な表情を浮かべ、山脈の様に長く伸びる彼女から目を逸らし、ゴールを目指して駆け出しました。
ユイは、身体の傍らを必死に走る人々を見やります。
人々の足の早さに違いがあり、縦にばらけ始め、一番後ろは、怪我をしているらしく、びっこを引きながら懸命に走っていました。
ユイは、その様子を見ながら、彼らを、自分の身体の下で走りさせてみたくなりました。
そして、彼らに、「ほら、早く走って」と声をかけ、片膝を上げて、一番遅いものをその膝で押し潰し、そのまま身体を横にずらし、彼らの上で四つん這いになります。
ユイは、その姿勢で、身体の下を覗き込みます。床に着けている両膝から、ヘソの下辺りにかけて、20人近いちいさな人々が、ゴールを目指して走っています。
彼女の身体の下で走る、そのけな気さに笑いが誘われます。
ユイは、その笑いを口に含み、床に着けている片方の膝を、ゆっくりと前に滑らせます。その膝の下で、小さなものがプツリ、プツリと潰れていく、微かな感触をユイは感じます。
膝で押し潰されて数が減り、残っている10人あまりの人々は、四つん這いになった彼女のヘソから乳房の下に点在し、さらに走り続けています。
彼女は、膝を戻して、片手を浮かせて彼らに伸ばし、後ろを走る者から順に、指先で潰していきます。
ユイの身体の下で、先頭を走っている者がいました。頭上を覆っている巨大な身体を見ない様に、真直ぐに前を向き、駆け続けていました。
後ろから、悲鳴と、ズン!とした衝撃が何回も聞こえました。それが、仲間が潰された瞬間だと直感しました。でも、振り向くことはできません。ただ、恐怖の中、前だけを見て、走るしかなかったのです。
その彼の目にフロアーのつなぎ目が見えました。そこがゴールです。もうすぐです。
その時、彼は頭上から迫るものに気づきました。さらに、彼女の声が聞こえます。
「もうすぐゴールなのに、残念よね」
彼は、ゴールを目前にして、迫るものを見上げてしまいました。
|